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口座を作る

「お待たせっと」

 これまた大きな革袋を片手で持ったディアマントさんが奥から出て来てクーヘンの前に座った。

 おお、またしてもすごい音がしたぞ。

「とても良い状態のジェムだったよ。感謝する。こちらのジェムだが、一つ、銀貨6枚を付けさせてもらった。って事で、金貨294枚だよ」

 クーヘンは、目の前に置かれた革袋を凝視して固まっちゃったみたいだ。

「あ、あの……」

「どうぞ。これはお前さんの取り分だよ」

 思いの外優しいディアマントさんの笑顔に、俺とクーヘンは見惚れてしまった。


 クーヘンは、一つ深呼吸をして、受け取った革袋から金貨を4枚抜き出した。

 それを自分が持っていた巾着に入れて、残りをそのまま差し出して頭を下げた。

「あの、口座を作ってください。これはそこへ」

 目を瞬いたディアマントさんは笑って頷いた。

「了解だ。ギルドカードを出しておくれ」

 クーヘンがベルトの小物入れからギルドカードを取り出すのを見て、俺も自分のギルドカードを取り出した。

「あの、俺も口座を作ってください。それで、今回の買い取り金は口座に入れてください」

 揃って差し出されたギルドカードを見て、ディアマントさんは呆れたように俺を見た。

「何だい。お前さんはレスタムでそれも聞かなかったのかい」

「今初めて、口座ってものの存在を知りました」

 小さく吹き出したディアマントさんは、俺のギルドカードも一緒に受け取ってくれた。

「ちょっと待ってな。手続きを頼んでくるから」

 そう言って、さっきと同じように優しく笑って出て行く後ろ姿を呆然と見送りながら、俺とクーヘンは思わず顔を見合わせた。


「……あんな風に笑うんだ」

「ですよね! ちょっと本気で見惚れてしまいまいしたよ」

 俺の呟きに、まだ扉の方を見たままのクーヘンが全力で同意してくれた。

「ちょっと惚れちゃいそうでしたね。でもなんと言うか……同時に、自分では到底隣に立てそうもないとも思っちゃいましたよ」

 情けなさそうに小さな声でそう言うクーヘンに、今度は俺が全力で同意したね。

「確かに、あの人の隣に立って見劣りしないって……あれぐらいだよな」

 机の上に移動したシャムエル様と、何やら相談している風なハスフェルを俺達は揃って振り返った。

「ですね。確かに彼女と釣り合うとしたら……」

 体格的にも、そして実力も申し分無い彼なら、ディアマントさんの隣に立っても見劣りしないだろう。

 なんとも言えない沈黙が落ち、俺達は揃って大きなため息を吐いた。

「彼女は、良い子だぞ。だけどあの見かけのお陰で、お前らみたいに大抵まず気後れされるんだよな。だけど言っておくが彼女は旦那がいるから絶対に口説くなよ。旦那に知られたら、もう明日の朝日は拝めないと思え」

「ええ、ハスフェル結婚していたのか?」

 思わず叫んだ俺の言葉に、ハスフェルは吹き出した。

「何でそうなるんだよ。違う!彼女の旦那は別にいるよ。これまた豪華なのがな」

 ハスフェルの言葉に、俺達は揃って身を乗り出した。


「何、私の旦那がどうかしたか?」

 その時、開けたままだった扉から、ギルドカードを持ったディアマントさんが戻って来た。

「はい、先にカードを返しておくよ。口座はカードと一緒にしておいたから、ギルドで金を引き出す際にはこのカードとお前さん達の右手で確認するからな。これが現在の残高だよ」

 小さな紙を一緒にくれたので見てみると、金額を書く欄があって、俺のところはゼロ、クーヘンのを見ると2,900,000、と書かれていた。

「一応説明しておくと、口座の残高の見方は、金貨一枚が10,000だよ」

 うん、そのまま円換算だね。


 頷く俺達を見てディアマントさんはハスフェルを横目で見た。

「で、私がいない間に何を言っていたんだ?」

「いや、こいつらがお前さんに見惚れていたから、旦那がいるから口説くなよ、って言い聞かせていたところだよ」

 大真面目なハスフェルの説明に、ディアマントさんは堪える間も無く吹き出した。

「確かに、私としても優秀な冒険者を失うのは忍びないからな。それなら、お前さんの買い取り明細を渡すから、明日にでも顔を出しておくれ。その時に旦那を紹介するよ」

「さっきはいなかったが、何処かに出ていたのか?」

「前回、お前さん達が来た時は、新人連中を連れて実地訓練に行っていたんだよ。今日もそれで出ていた。で、さっき帰って来た」

「日が暮れてこんなに時間が経ってから? また、ずいぶんと遅かったんだな」

「夜間訓練を兼ねていたからね。今年の新人はどうもイマイチらしくてね。碌に戦う事も出来ない癖にブツブツ文句だけは一人前に言うような奴ばかりらしい」

「まあ、このところ新人は少なかったからな。新人教育は重要だぞ、まあしっかり頑張るように言ってやれ」

 苦笑いしたディアマントさんは、肩を竦めて首を振っていた。

「だけど、最近急にジェムモンスターの数が増えて、冒険者登録する奴や、休業していたのにまた復活した奴らが大勢いるよ。そいつらのおかげで、ジェムはやっと必要な所に行き渡ってきたってところだな。お前さんには感謝してるよ、今まで相当ジェムを融通してもらったからな」

 苦笑いして拳をぶつけ合うハスフェルとディアマントさんを見て、俺は密かに納得していた。

 成る程。各地で異常発生して、密かに倒したジェムモンスターのジェムを彼が大量に集めて持っていたのには、そう言う意味もあったのか。

 世界崩壊の危機の裏で、彼の持っていた大量のジェムが、最低限の燃料としてギリギリで裏で支えていたんだ。


「それじゃあ、もう遅いんで俺達は宿泊所に戻ります。お手間かけました」

 立ち上がった俺に、ディアマントさんが笑って奥を指差した。

「今夜のうちに鑑定は終わるからね。あいつらもこんな仕事なら、幾らでも喜んでやるよ。まあ、手が空いた時に、いくらになったか説明するからギルドへ顔出しておくれ」

「了解です。急ぎませんので夜は休んでくださいね」

 奥に声を掛けると、ジェムを手にしていた爺さん達が、嬉しそうに振り返って手を振ってくれた。

 なんでも、ジェムの鑑定士は皆引退した元冒険者だそうだ。それであんなに皆、無駄に体格が良いのか。



 それぞれの部屋に戻る。俺は、防具を全部脱いでサクラに綺麗にしてもらって、ベッドに転がるニニの腹に潜り込んだ。

 ここの宿泊所のベッドも大きいのでニニとマックスが一緒に寝ても大丈夫だ。

 俺の背中にデカくなったラパンが潜り込み、胸元にはタロンが潜り込む。モモンガのアヴィは潰す危険があるのでマックスの首輪に捕まってもらい、プティラは椅子の背に並んで留まってファルコとくっ付いている。

「それじゃあおやすみ。また明日もよろしくな……」

 大きな欠伸を一つした俺は、そう呟いてニニの腹毛に顔を埋めた。


 ああ、このもふもふ……やっぱり最高だよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『笑う』ことに関する語彙が少なすぎる気がする。 ほぼ全て「吹き出す」と使ってるので、目立ってしまって場面を想像すると物凄く汚い印象を受けてしまいます。 普通に「笑う」を使ったほうが良さ…
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