従魔登録完了!
「おや、こんな時間にお揃いでどうした?」
丁度ギルドに入ったら、ディアマントさんがカウンターの女性と話をしてカウンターから出てきたところだったので、俺は思わず縋るような目で彼女を見た。
俺達がギルドの建物に入ってきた途端、中にいた冒険者全員がイグアノドンのチョコに注目して半分は剣を抜いていたのだが、その時の俺は、全く周りを見る余裕が無くて、その事に全然気付いてなかったのだった。
「何だい何だい、今度は何をやらかした?」
呆れたようなその声に、俺はそっとギルドカードを差し出した。
「あの……従魔登録をお願いします。すみません! その、知らなかったので!」
ディアマントさんは、俺の差し出したギルドカードを無言で見つめ。それから後ろに大人しく座るマックス達を見た。
「お前、まさかとは思うけど……全部か?」
おう、声が低くなった。
「ええと、初めてレスタムの街で冒険者登録した時は、マックスとニニ、それからファルコとスライム達がいました。このセルパンは多分……気付かれて無かったんじゃないかとおもいます」
首輪の下側に巻きついているセルパンを突っついてやると、ディアマントさんは少し屈んで、俺が指差した場所にいる緑色の細い蛇、ニニの首輪に巻きついたセルパンを見つめた。
……沈黙。
「……それから後に、また増えてるよな?」
「はい、いろいろ増えてます」
ディアマントさんは、俺達の目の前で、これ以上無いだろうってくらいに大きなため息を吐いた。
いや、見事な肺活量ですね。
「分かった。この件に関しては、後で、レスタムの街のギルドマスターに文句言っておいてやるよ。初心者への説明責任は、一番最初に登録したギルドが責任を持つ事になってるんだけどね」
「うう、なんかすみません。えっと、どうしたら良いんでしょうか? 何か試験とか検査とかあったりするんですか?」
オロオロとする俺を見て、彼女は吹き出した。
「大丈夫だよ。何か従魔達が問題を起こした時に未登録だと色々と困るんだけど、自分から申告してくれたんだし、登録料を払って登録すれば良いよ。そもそも知らなかったら、出来る筈が無いよね」
そう言って笑って、大きな手で俺の背中を力一杯叩く。
「げふう! ああ、でも登録料を払って登録出来るんなら、喜んで払います! あの、登録をお願いします!」
もう一度、俺の腕を軽く叩いたディアマントさんは、カウンターを振り返って椅子を指差した。
「ほら座りな。登録の仕方を教えてやるからね」
「はい! よろしくお願いします!」
俺は急いでその椅子に座って前を向いた。
「あ、あの、私も一緒にお願いします!」
俺達のやり取りを呆然と聞いていたクーヘンが、慌てたようにそう叫んで隣の椅子に座った。
クーヘン、そこは買い取りカウンターの場所だよ。
「だったら、お前さんはこっちに座りな」
笑ったディアマントさんに、反対側の席を示されて、慌てたクーヘンが席を移動した。
「こちらが登録の用紙になります。何枚ご入用ですか?」
受付に座っていたやや年配の女性にそう言われて、俺はディアマントさんを振り返った。
「ええと、改めて全員登録しておいた方が良いですか?」
すると、彼女はさっき差し出した俺のギルドカードを返してくれながら、笑って首を振った。
「今こっちで登録を確認してもらったが、その大きいの二匹と、左の肩にいるオオタカ、それからスライム二匹は登録されているね。だから、登録はそれ以外だよ」
思わず指を折って今いる子達を点呼しながら、俯いて小さな声でシャムエル様に聞いた。
「なあ、タロンは?」
「あれは普通の猫って事にしておいてくれるかい。ケット・シーを連れているだなんて言ったら、もうはっきり言って収拾つかなくなるからね」
「だな、了解。じゃあ、タロンは猫って事で!」
こっそり頷いた俺は、顔を上げた。
「ええと、従魔じゃ無くてペットは?」
「はあ? ペットだと?」
ハスフェルと何か顔を寄せて話をしていたディアマントさんが俺の言葉に不思議そうな顔をする。
「ええ、この子なんですけど、普通の……猫です」
状況が分かるタロンは、平然とニニの背中から飛び降りて俺の膝の上に飛び乗ってきた。
「うにゃん」
聞いた事がないくらいの甘えたような鳴き声で、タロンはディアマントさんに向かって鳴いたのだ。
「おやおや、綺麗な猫ちゃんだな。首輪もしているから、この子は別に登録する必要は無いよ」
笑ったディアマントさんが手を伸ばしてタロンをそっと撫でる。
喉を鳴らして甘えているけど、あれって絶対、私は良い子だぞアピールだよな。
若干呆れて見ていたが、肩を竦めて俺はカウンターにいる女性にお願いした。
「ええと、登録するのは四匹ですね」
「ではこちらに、登録内容を記入してください」
差し出された書類には、五匹まで書く欄があり、それぞれ、従魔の種類と連れ歩く際の通常の大きさ。それから名前を書く欄があった。
「あの、この横にある移動ってのはどう言う意味ですか?」
最後の項目の意味がわからなくて質問すると、ディアマントさんがマックス達を見ながら教えてくれた。
「騎獣や魔獣使いが抱いて歩けない大きさの従魔と、あんたの肩や、他の従魔に乗って移動する従魔では、登録料が違うんだよ。つまり、その大きな従魔達なら、移動は丸。スライムやオオタカはバツになる。分かったか?」
「あ、成る程。そう言えば最初のレスタムの街へ入る際にも、そんな事を言われて入る時にお金を払ったな。あれも確か、俺から離れて歩く子と、俺が連れて歩ける子で値段が違ったな。それなら全部ばつ印っと」
俺がばつ印をつける横で、クーヘンはチョコには丸印を付け、ドロップとフラール、ピノの横にはばつ印を付けた。
「どちらも一匹につき、丸印が銀貨一枚、ばつ印は銅貨五枚になります」
「金はあるか?」
ハスフェルがクーヘンの背後から小さな声で聞いている。彼は背中に背負ったリュックから袋を取り出して頷いた。
「それくらいなら、まだ大丈夫ですね」
俺が銀貨二枚、クーヘンは銀貨二枚と銅貨を五枚それぞれ取り出して書類と一緒に返した。
「よろしくお願いします」
頭を下げる俺達を見て、カウンターの女性はにっこり笑ってお金をお皿に乗せて書類と一緒に背後の席にいた人に渡した。
それを見ながら、俺はふと思いついてマックスの横に大人しく座っているシリウスを見た。
「なあ、ハスフェル。ちょっと良いか?」
「ん? 何だよ」
こっちを向いた彼を見て、俺はニンマリと笑った。
「ハスフェルはテイマーじゃ無いけど、シリウスとミストは登録した方が良いんじゃないかと思うな」
無言で見つめ合った俺達は、同時にディアマントさんを振り返った。
「なあ、ディアマント。この場合ってどっちが登録するんだ?」
ハスフェルの質問に目を瞬かせたディアマントさんは、一瞬何を言ってるんだ、みたいな顔をした後、吹き出した彼女は思い切りハスフェルの背中を叩いたのだ。
うわあ、すげえ音がしたぞ、今。
無言で悶絶する彼を横目で見て、ディアマントさんは、受付から従魔登録の書類を取り出して彼の前に置いた。
「そう言えば確かに、あの大きなのは借り物じゃなくて譲り受けたって言ってたな。だったら登録の責任者はお前さんだよ。ほら、とっとと自分で書きな」
涙目で頷いたハスフェルが大人しく書類を受け取って記入するのを、俺とクーヘンは吹き出すのを必死で堪えて見ていた。
どうやら、ディアマントさんとハスフェルでは、力関係では彼女の方が上みたいだ。
「ああ、それからジェムの買い取りを頼むよ」
書類とお金を渡したハスフェルの言葉に、ディアマントさんは満面の笑みになった。
「何でも買い取るよ。それじゃああっちへ行こうか」
もう一度ハスフェルの背中を思い切り叩いて、振り返った彼女は俺たちを手招きした。
カウンターに突っ伏して悶絶しているハスフェルを横目に見て、俺達は大急ぎでディアマントさんの後を追ったのだった。