デザートのミスと今夜のメニュー!
「ふう、ご馳走様〜〜〜! もう最高に美味しかったよ」
生クリームまみれの真っ白になった顔のシャムエル様は、ご機嫌でそう言うと座ってせっせと身繕いを始めた。
「あはは、そしてこれをまた入れ忘れたし。じゃあ今夜のデザートには、これよりさらにパワーアップしたのを出すからお楽しみにな」
「ふえ、何を入れ忘れたの?」
身繕いの途中で、驚いたように手を止めてそう言って振り返る。
お手入れ途中だったもんだから、耳の横の少し長めの毛が生クリームまみれのまま角みたいになって尖ってるし。
笑ってその角の先を突っついてやりながら、収納していたパウンドケーキの並んだお皿を見せる。
「ほら、これだよ。ブラウニーと一緒に庭の部分に飾ろうと思ってたんだ。栗の方はアッカー城壁の城門にする予定だったの!」
そう言って、試食のために両端を切り落とした刻んだ栗の甘露煮を入れたパウンドケーキと、鬼柚子ピールを刻んだのを入れて作ったパウンドケーキを並べて見せる。
「こっちの鬼柚子ピールの入ってる方は、お城の庭にある小さな塀に見立てて、ブラウニーの周りに切ったのを交互に立てて並べる予定だったのに。なんかすっかり存在を忘れててブラウニーを並べただけで終わっちゃったんだよな」
一応、考えていた飾り付けの説明をしながら謝っておく。
「えっとじゃあもう一回……」
「いやいや、何言ってるんだよ。試作を二回も作ってどうするって! 第一そんなに作ったら、皆の分が無くなるだろうが!」
顔の前でばつ印を作りながらそう言うと、シャムエル様は分かりやすく残念そうに肩を落とした。
「まあいいや。じゃあそれは今夜のデザートに期待するね!」
案外早く切り替えてくれたみたいなので、苦笑いした俺はもう一度謝ってからパウンドケーキを一旦収納した。
「ところで、今夜は何を作るのかな?」
身繕いを再開したシャムエル様が、また手を止めて俺を見上げる。
「ええ、何にしようかなあ」
何やら期待を込めた目で見つめられてしまい、笑った俺は腕を組んで考える。デザートの心配はしなくていいし、もう作り置きで済ませようかと思っていたんだけど、あるメニューが俺の頭に浮かぶ。
「やっぱりクリスマスといえばこれだよなあ。よし、今夜は唐揚げ祭りだ。シャムエル様も好きだろう? 唐揚げ」
「大好き〜〜! お祭りって事は、いろんな味があるとか?」
いきなり飛び跳ね出したシャムエル様に、思わず吹き出す俺。
「現金だなあ。もう。もちろん色々あるぞ。買い置きの唐揚げも一通り出すし、今から色々作るからさ。こいつでな」
笑ってハイランドチキンとグラスランドチキンの胸肉ともも肉を取り出す。
「かっら揚げ! かっら揚げ! 美味しい美味しいかっら揚げ〜〜〜〜!」
即席唐揚げの歌を歌いながら、華麗なステップを踏み始めるシャムエル様。
目にも止まらぬ素早い仕草で、短い両足を前後左右に動かして複雑なステップを踏む。その間上半身は全くと言ってもいいくらいに動いていない。時折腕を左右に広げたり交互に上げる程度で、今日のステップは見事なまでの下半身のみの動きだ。
当然のようにカリディアがすっ飛んできて、シャムエル様の隣でこれまた見事なまでのシンクロしたステップを踏む。
途中からカリディアとシャムエル様は手を繋いでまるでフォークダンスみたいに時折手を振りながらご機嫌でステップを踏み続けている。もちろん俺が知ってるフォークダンスなんかとは比べ物にならないくらいの高速ステップだよ。
「いやあ、相変わらず見事なもんだねえ。まあ、頑張ってしっかり踊ってカロリー消費してくれよな」
笑ってそう言った俺は、まずはハイランドチキンとグラスランドチキンの胸肉を、それぞれちょうど鶏の胸肉ぐらいの大きさに切り分けていった。
分厚すぎる部分には平らになるように切り込みを入れて広げて、それから包丁の背で叩いて伸ばしてさらに大きくする。
「ドドーンと一枚唐揚げだ。これはいかにもパーティー用って感じだもんな、絶対皆喜ぶぞ」
一枚見本を作っておけば、後はスライム達がやってくれたので肉の下拵えは任せてベースになる調味料を合わせていく。
「ええと、まずはシンプルに定番の味からだな」
そう呟き大きなボウルに、たっぷりの醤油とお酒とすりおろした生姜を混ぜ合わせる。
大きなバットに種類別に胸肉を並べてから、作った調味料を回しかけてしっかりと肉全体に調味液を馴染ませていく。
「ええと、誰かこれ一時間くらいおいてくれるか」
メタルスライム達が先を争うようにやってきて、ハイランドチキンとグラスランドチキンの胸肉が並んだバットを次々に飲み込んでくれる。
もう、皆お手伝いは完璧に出来るようになってるから時間経過もお手のものだ。
それから、今度はニンニクベースの調味料と、ハーブとたっぷりの岩塩を使った調味料も混ぜ合わせておく。
こっちは、ハイランドチキンとグラスランドチキンの胸肉ともも肉の両方用意して、普通サイズの唐揚げ用のぶつ切りを大量に作っておく。
せっせとバットにチキンを並べては混ぜた調味液を回しかけていく。
他には和風出汁を効かせた和風唐揚げや、普通の鶏の手羽先を使った手羽先の唐揚げも作った。
これはもちろん、某名古屋のお店風にがっつりスパイスを効かせたのや、甘辛味のものなど、これもバリエーションを作っておく。
もう、シャムエル様の高速ステップが止まらない止まらない。
味付け時間が経過した巨大な一枚唐揚げは、フライパンを大量に並べて一気に揚げていく。もちろんフライパン一枚に、唐揚げ一枚だよ。完全には沈まないくらいの油でじっくりと揚げていくんだ。
油跳ねから避難してるスライム達には、キャベツの千切りを大量に作っておいてもらう。
それから、タルタルソースもかなり在庫が減っていたので、これも材料だけ俺が計って渡しておき大量に作っておいてもらう。
まあ、これは刻んで混ぜ合わせるだけだからスライム達でも作れるんだよな。
一枚唐揚げがどんどん量産された後は、次々に味ごとに揚げていく。
しばらくの間、俺はシャムエル様のダンスを眺めながら延々と唐揚げを揚げ続けていたのだった。
「はい、これが本当の試食だな」
途中でシャムエル様に、出来上がってる普通サイズの唐揚げを一個ずつ盛り合わせたお皿を渡してやる。
「ふわあ、試食最高〜〜〜〜!」
突然ステップを踏むのをやめたシャムエル様は、その場に座って唐揚げを両手で持ってものすごい勢いで齧り始めた。呆気に取られたカリディアが、苦笑いして一礼してから少し離れた机の上に戻って普通のステップを踏み始める。
「ダンス放棄して肉食リス再びだな」
苦笑いした俺は、少し冷ました唐揚げを口に放り込んでから、興奮のあまりいつもの三倍サイズになったシャムエル様のもふもふ尻尾をこっそりともふらせて頂いたのだった。