29 私は、尊敬しました(後編)
29 私は、尊敬しました(前編)の続きです。
――すっと立ち上がったラウレンツが窓辺に向かう。
そして開け放たれた窓からは、場の空気を変えるように、新しい風が花の香りを纏って入り込んだ。
「ごめんなさい……。ラウレンツ」
「ティアナは謝らないのでしょう?」
目がしかめられるまま謝ると、また隣に戻ってきた彼は笑いながら茶化すように言う。
その普段と変わらない態度に、心の傷はどれほど深いのかを想像して思わず泣きそうな気持ちになる。だけど、泣くのは私じゃないとそこは何とかこらえた。
「……うん。でも、何ていうか。こんなふうになった原因は私にあると思うから。ごめんなさい」
「それならば、尚更ティアナのせいではありません」
そうきっぱり言い切るラウレンツを不思議に思い、じっと見た。
「ティアナを第一婚約者候補にしたのは私ですから。そのことで起こる事態の責任は、すべて自身にあります。今回の件も関連があったとすれば、私が未然に防がなくてはいけなかったのです」
当たり前に主張する姿を目にして、なぜ招待されたのが今日だったかを思い出す。
そう――、私が候補になってから立つ波風を鎮めるため、ラウレンツは今までずっと一人で対処してきたのだから。はじめから、何もかもを心得てる。
「私が至らなかったばかりに……ティアナとヒルダにまで嫌な思いをさせてしまいすみません」
そうして謝罪を口にしながら、何とも切なそうに笑ったのだ。
……ああ、つらいのはラウレンツなのに。
いつだって先に相手を思いやれる王子様は、私よりよっぽど大人だ。
きっと彼が責めているのは、犯人でも誰でもない自分自身で。エトガーが言ってたクルトが解雇された時も、自分を責めたんだろう、と感じた。
そして、また同じように責めさせている……そう思うと余計に悔しくなった。
「ガラス細工は……ラウレンツの、大切なものだったのにっ」
「……ティアナ? 誰かから、何かを聞きましたか?」
思わず絞るようにこぼした瞬間、彼はふっと目を細めた。何かを感じ取ったらしく、それから探るように私の顔を覗き込んで問う。
「これは、ラウレンツが前任の執事と作ったものだって。エトガーに教えてもらった……」
私は少し焦りつつ、それだけを答えたのだけど。ちらりとうかがう表情は、どこか寂しげに見えた。
そんなラウレンツに隠し通すのはためらわれて、私はとくに口止めもされていなかったことから、知ってる話を全部明かしていった。
エトガーから聞いた二年前の事件の概容、アベルを庇って毒を口にしたこと……そしてクルトが解雇されたこと――。
「それがティアナの知るすべて?」
「うん」
「そうですか……」
短く返事をした彼は、やや考える様子を見せたあと、ふうと一つ息を吐いた。
「少しだけ、補足しておきたいことがあります。話してもいいですか?」
心なしか改まる様子に、緊張しながらも頷く。
するとラウレンツは軽く微笑んでから、また前を見て淡々と語り出した。
***
「あの日は王宮内で、王族を中心とした小規模のお茶会が開かれることになっていたのです」と、ラウレンツの話は始まった――。
ちょうどその頃、アベル暗殺計画があることに気づくクルトたちは、お茶会においても使用する調理器具や食器類、飲食物などすべてに細心の注意をはらっていたそうだ。
そして当日、準備が行われる中でラウレンツが駄々をこねていたところ、クルトがなだめるために菓子を与えてくれたという。
受け取ったラウレンツは、初めて見る菓子に喜び、さっそくアベルと一緒に食べようと思ったらしい。だからすぐにアベルのいる庭へと向かい、途中ですれ違う人々には「クルトから貰った」と自慢していた、と言った。
……その後に、庭で事件が起こったんだ。話を聞きながら私は思った。
すると、そこでラウレンツが付け加える。
「あの時、庭に出る直前……私は誰かとぶつかったのです」
彼は、きっとその一瞬ですり替えられたはずとも話す。
それは私にとって新たな情報で、さらに続けられる話へ食い入るように耳を傾けた。
――それから、庭でアベルに菓子を見せたラウレンツは、なぜかただ「違う」とだけ思ったらしい。
あわせてその瞬間ふと、クルトたちが前日していた会話の中に『毒』という言葉があったことを思い出したことで……。
気づくより先に、全ての菓子を自分の口へ押し込めていたと続ける。
その先は……、事件の核心へと進んでいった。
ラウレンツが毒に侵されたということの他にも、苦しむうちに魔力の火を灯してしまい、駆けつけたクルトの身を焦がしたと教えられた。
あとはエトガーから聞いた通り、ラウレンツが毒に倒れたことで、――クルトは解雇されたという話だった。
「鈍感だった私がすり替えられたあげく、自ら口に入れてしまいました。本当に……正しい選択も出来ない愚かな子供だったのです」
そうして、すべてが自分のせいでクルトが犯人ではないと言う彼は、選択まで誤ったのだと自嘲するような笑顔を見せた。
だけどそれを目にして、つい思ったことを口にする。
「でも、私は……。全部が間違ってないような気もするけど」
その言葉で怪訝な表情を見せる彼に、続けて私は思い浮かんだことを話していった。
「もし、毒を口にしたのがアベル王子だったなら、尚更クルトは犯人と決められてもおかしくなかったんじゃない? だから、ラウレンツはアベル王子を守って、そしてクルトも守ったんじゃないかなあ」
「私が、クルトを守った……?」
「うん。だってラウレンツが全部食べなければ、そのお菓子がアベル暗殺を企てただろうっていう証拠にされたかも知れないし」
確かに、他の選択もあるとは思うけど、そんなのはどれも後付けにしかすぎない。
あの瞬間のラウレンツの行動は、それはそれで間違いじゃないと私は感じたのだ。
「……そのように言われるとは、思っていませんでした」
ラウレンツは少し放心するように呟いた。けれど、すぐに気を取り直した様子を見せて言う。
「ですが、容易にすり替えられた間抜けな私に非があります」
「間抜けじゃないし非もないよ。悪いのはすり替える人で、すり替えられたラウレンツじゃないもん」
いやいや。それは違うよと思い、至極当たり前のことを言ったつもりだ。ラウレンツにも悪いところがあったなんておかしな話だから。
だってそれは例えるならば、店で万引きする人だけが悪いんじゃなくて、盗られる店にも落ち度があるって言うようなもの。悪いのは全部、盗る人だからね。
「それでも……私がクルトから貰った菓子だと自慢した行動が、彼を解雇に追いやったのです」
「貰ったのは本当でしょ?」
「彼は……っ!」
「うん。クルトは犯人じゃないよ」
そう告げると、ラウレンツは見開いた目を瞬かせた。
「なぜ……、そのように断言できるのです?」
「だってラウレンツが、クルトと作ったガラス細工をずっと大切に飾っていたから」
私には、あれはラウレンツがクルトを犯人じゃないと訴えるために飾られていたように思えたのだ。そしてずっと飾り続けたのは、今もクルトが犯人ではないとラウレンツが信じている証拠だろう。
ラウレンツがそれほどまでに信じる人が、犯人であるはずがないと、私はそう感じるままを伝えた。
「フッ……、クハハハハッ!」
途端に彼は眉をしかめると、久々の魔王フェイスで高らかに笑った。
……私、ラウレンツを爆笑させるようなことを言ったつもりはなかったんだけど。
「本当に、あなたという人は……」
何でだろうと眺めていれば、ラウレンツは少し俯いて苦笑するようにしたと思ったら、私に向けた顔を柔らかくほころばせる。
「どんなに訴えても誰も取り合いはしなかったのに……。こんなにも簡単に、私が欲しかった言葉をくれる」
言いながら、ラウレンツはまたいつもの綺麗な笑顔を見せてくれた。
――話によれば、クルトが去ったあとに目覚めたラウレンツは、ずっと犯人じゃないことを訴えていたけれど。庇っているだけに違いないとして、誰も取り合ってくれなかったらしい。
そんなこともあり、自分の執事はクルトだけだと、新しい執事が付くことを拒み続けたそうだ。
その抵抗も公務を始めるようになれば、支障が出るとして一年しかもたなかったそうだけど。
でも、彼にとってどれほど大切な人だったのかということは、今の話ですごく伝わった。
「実は、ティアナに話すつもりはなかったのです。情けない自分をさらすことになりますから」
小さい男でしょうと言いながらラウレンツは笑う。
「何で話してくれたの?」
「クルトのことを勘違いして欲しくはなかったからです」
――そう答えるラウレンツを、私は情けないとはまったく思わなかった。
むしろ、誰かを大切にする姿というのはとても強いんだな、と知った気がする。
「二年前に、この社会は利害で動いていることを知りました。あの日、私が大切なものを真に守れなかったのは事実。だから私も、同じように生きることを選んだのです」
「利害優先に考える生き方?」
「ティアナにもそう見えていましたか、というよりも……。以前、私自身が話しましたね」
私の問いかけに、ラウレンツは少し間が悪そうに微笑んだ。
うん。見えるより先に、設定的に知っていたのだけどねと思いつつも、この出来事がきっかけだったということがわかった。
そして、――これがラウレンツの物語なんだ。
「ですが、ティアナは私を汚いとは言わず、誰でも得なほうがいいと言ってくれましたよね?」
「うん、そういえば言ったね。だってその通りだもん」
利害で動いていても、ラウレンツを汚いとは思わなかったのは本当。腹黒でも、卑劣ではないから、私が思う汚いには当てはまらなかったからだ。
「ええ。それでも、私は自身を汚いと思い始めていました。そのことに目を背け、更に利害で物事を進めるほどに汚れていると感じたのです。だからこそあの日のティアナの言葉には、とても救われました」
そう話すと、ラウレンツは私の手を取った。
「これからはこの生き方に誇りを持って公務を行うと決めたのです。大切なものを守れるように、ティアナのことも守りたかった……」
真っ直ぐに言われてようやく私は、ヒルダが道中で話していた『私を危険に晒したくない』の意味がわかる。
王子だからではなく、自身の経験があるからこそ、宰相の娘であろうが心配症なほどに念を入れていたのだ。
ラウレンツは、本当に守ろうとしてくれてたんだ――私はそう、思った。
***
今まで気づかなかった見えない優しさに「ありがとう」と心の中で伝える、……その時。
「――失礼致します」
入り口から聞こえたエトガーの声に振り返ると、彼がヒルダと二人で迎えに来たのがわかる。
「お嬢様。馬車のご用意は出来ましたが、いかがなさいますか?」
「あ、うん。すぐ行く……けど、ちょっと待ってて」
「申し訳ないですが、もう少しだけ。ヒルダもこちらに座ってお待ちいただけませんか。ティアナ、それでいいですね?」
「うん」
「かしこまりました」
準備が出来たことをヒルダは知らせてくれたのだけど。帰邸前に一つだけ言い忘れたことがある私は、少しの時間をもらった。
ラウレンツもすぐに察して、同じく猶予を願い出てくれただけでなく、二人がいても問題はないかまで気づかってくれるのはさすがだ。
勿論、構わないのでこのまま続けようとラウレンツに向き直る。
そして、私の手を取っていた彼の右手を両手でぎゅっと握り返した。
「あのね、ラウレンツ」
「はい」
真剣な態度で口を開くと、彼も笑顔から少し表情を引き締めて応える。
「そもそも……、私が婚約者候補にならなければ、こんなことにはならなかったと思うの!」
「……ティアナ?」
そうなんだよ。元はと言えばこれ、私が第一婚約者候補でさえなければ、ラウレンツは嫌な思いをしなくて済んだはずなのだ。
私は先ほどラウレンツの気持ちを知った際、もう彼にこんな思いはさせたくない、と考えていた。
そうして、今回のガラス細工の一件を振り返ったところで「あ、そうだ」と今朝考えていたことを思い出したのだった。
「だからこれを機会に、私を候補から外し……」
「外しません」
「じゃあ、第一じゃなくて一番最後とか……」
「しません」
「せめて……」
「すべて却下します」
意気揚々と思いつくままに提案してみたけど、即行で断られてしまった。
最後なんて、話す前に拒否されたよ。くそう。
ちょちょいと外せば私もラウレンツも平穏に過ごせる一石二鳥のはずなのに。この王子様は何気に頑固で、なかなか思うようにはいかせてくれなかった。
「そうでなくても……彼女たちとの関係は、ティアナを婚約者候補にする前と何も変わらないのですけどね」
ラウレンツは不満気な私を取り成すつもりか、ぽつりと洩らす。
だけど候補でいる気持ちを楽にしようとする言葉なら、彼らしからぬ上っ面なセリフだなと、じと目を向けた。
「元より今までは順位など、あってないようなものだったのですよ?」
「そんなことないでしょ。婚約者に近い人から順番に並んでいたわけだし……」
「いいえ、違います。私の候補の方々は、ただの名前順です」
「……はい?」
さらっと告げられた内容は、ちっとも頭に入らなかった。
うん。何だか空耳が聞こえた気はするけども、と私が再度聞き返すまもなくラウレンツは説明を始めた。
「ですから。たまたまA、Bで始まる方がいらっしゃらなかったので、Cのクラーラ嬢が第一候補だっただけですよ」
「な……っ、ちょっと待って。意味がわからないんだけど?! なんで?」
「それは、私の意志とは関係なく決められた候補でしたから、考えるのが面倒だったのです。いっそ公平かとも思っていましたけど」
…………そ、そんなくだらない決め方でいいのかラウレンツ――っ!
私は脳内で盛大にツッコミながら、がくっとうなだれた。大雑把にもほどがある。
「いけませんでしたか?」
「いける、いけないとかもう……ツッコミどころがありすぎてわからない。でも、私はTだから余計に第一候補なのはおかしいよね?」
どこが公平なのかわからないけど、その定義からすると私が一番なのは不公平で、なおさら揉めるとわかった気がした。
賢い王子様のはずなのに何を考えてるのかと思う。
「ティアナは私から申し込んだのですから、第一候補になって当然でしょう? それこそ失礼になります」
その答えは最もだけれど、やっぱり私が外れたら――……と言いかけて口をつぐんだ。
名前順と知った今となっては、ガラス細工を壊してないとは言い切れないクラーラを一番にしたくないかも、と思ってしまったから。
なので、ヒロインが登場したらどうにかなるんだろうと考えて、とりあえず今日のところは一旦寝かせることにした。
「今回のことでティアナを外せば犯人の思うツボですよ。それに形あるものはいつか壊れる、諸行無常でしょう?」
色々と思惑が外れたことでむくれているうちに、またラウレンツから最もなことを言われたけれど……後半のセリフには同意できなかった。
そのことも聞かれてたんだ、という言葉は私が口にしたものではあるけど。
今のラウレンツの気持ちを思うとそうだね、とは言えない。クルトとの話を聞いたら尚更だ。
「うん。でも思い出は大事だから。心を壊すような、形がなくなるのは……ダメだよ」
大事なものが壊れるということは、何だかその大切な思い出までをも壊すみたいに思えた。
心の傷は見えないし、治し方もわからないし、いつ癒えるかも、本当に癒えたかもわからないから。
「思い出?」
ラウレンツは聞き返してから、ふっと遠くを見つめるようにする。
「……そうですね。一番綺麗な思い出かも知れません」
まだ、守られていただけだったあの頃の――、と呟くようにこぼす。
その言葉と、思い浮べる記憶を愛しげに懐かしむ様子に……――やっぱりラウレンツにとっては、とても大事なもので、とても大切な思い出だったんだと感じる。
そう思えば、あらためて壊れたことが悲しくなってしまい、顔中を重力に従わせた。
「そのような顔はしないでください」
振り向く彼は微笑み、私の頬を撫で上げるように指の背を滑らせながら、普段通りに話すけれど。すぐに元へ戻すのは難しかった。
「だって……」
「大丈夫ですよ。物は壊れても大切な思い出ならここに」
そのまま言葉が紡がれてゆくのを見守ると、ラウレンツは自分の胸にゆっくりと手を当てる。
「――私の心の中にあるものは、誰にも壊すことはできませんから」
そして、とても優しく笑ったんだ――。
***
私はラウレンツの笑顔にひどく安心したのと、その綺麗なことに目が離せなかった。
ただ、利害優先で行動すると描かれていた腹黒王子。小説を読んでいただけなら、それしか知ることができない。
だけど、この世界の王子様ってのは本当にもう、どれだけ……。
そうして私が、じっと見つめていると「どうしたのです?」と不思議そうに尋ねられた。
「うん。ラウレンツがはじめて……すっごくかっこよく見えた」
器の大きさと芯の通った思いに、私は不覚にも男前だなあと思っていたのだ。
すごいなあ、この国の王子様だけはある。第二王子の座は伊達じゃないよね。
するとなぜかラウレンツは一瞬目を見開き、次に眉を寄せたかと思えば、ふいっと顔を背けた。
どうしたのかなとよく見たら、またしても目元が赤い気がする。
――もしかして、怒らせた? かっこいいって褒め言葉だよね? と思考してたどり着く。
あれか。はじめてかっこいいと思った、って言ったせいか!
だったら今までは何だという話になるもんね。
「その……なんか、ごめんね?」
「何を謝るのです?」
「いや、ラウレンツはいつもかっこいいよ! でも今日は外見とかじゃなくて、心意気とかそういう全体的なものを含めてすごくかっこいいなあって意味で……」
「っ、もうそれ以上はいいですからっ」
そっぽを向いたままの彼から、めずらしく強めの語気で遮られた。
どうやら更に気分を悪くさせたようで、やはり言葉は難しいと仕出かした私は下を向く。
……けれど次の瞬間、顔にかかる髪がふわりと梳かれた。
不意の行動に気抜けして見返せば、ラウレンツは私の頬に手を添えて先程の優しい笑顔で迎える。
「ありがとうございます、ティアナ。また大切な思い出が出来ました」
その意味はよくわからなかったけど、機嫌が直ってることにほっとした。
何より温かかった彼の手と嬉しそうな姿が、私の心も温かくさせてくれた。
こうして用件を済ませた私は、強い彼の思い出が壊れていないこともわかったおかげで、安心して邸に戻れると思うのだった。
***
その後、帰路に着くことにした私たちは馬車へと向かう。
見送ってくれるという、ラウレンツとエトガーも一緒だ。
「お坊っちゃまのおっしゃる通りですね。お嬢様はやはり小悪魔です」
「小悪魔?」
廊下を歩く途中、突然ヒルダに言われた。
一瞬はてなが浮かんだものの、そういえば今日、私は父の権力をかさにきてミアを悪魔的に脅してたと気づく。
ちっこい悪魔だから小悪魔っていうのも合ってるね。
「にししっ」
なるほどと思いながら笑って返せば、ヒルダはなぜか申し訳なさそうにラウレンツへ頭を下げていた。その行動は不思議に思えたけど、すぐさま納得する。
なんせ結局、こんな小悪魔を婚約者候補のままにしてるんだもん。
体裁や利害に縛られる王子様とはいえ、本当に気の毒だと思う。
だからラウレンツに『大変だけど頑張ってね!』と内心でエールをおくりつつ、私は王宮を後にするのだった――。
 




