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14 私は、レベルアップしました

 黄緑色の新芽をあちこちにつける木々が、いつもより森を明るく感じさせる。


 風が若葉を揺らすたび、広がる緑の匂いが爽やかに辺りを包んだ。

 どこからともなく聞こえる鳥の鳴き声も、すうっと響くほど澄みきる透明な空気がとても気持ち良かった。



 そんな自然をめいっぱい満喫する私は今、森を散策していた。


 めずらしくロマンよりも早くレッスンが終わって暇を持てあます時。料理人たちがデザートに使う木の実を取りに行くというので、またしても無理矢理ついてきたのだ。

 そして「森深くには入らないでくださいね」との言いつけは勿論聞かずに、奥へと進んでる。そこにある川を目指して。

 ついでに川へも近づかないようにと言われたけど、自分の気持ちを尊重してみた。


 だって悪役令嬢だもん!



 清々しい開放感で満たされると、次は流れる水が見たくなったのだ。

 前世(むかし)から川はよく眺めていた。陽射しにきらめいてさざなむ様子を見るのが好きだったから。


 ティアナになっても趣向は変わらない……というより、家系的に私の魔力はどうやら父と同じ水属性らしく、だからか更に惹かれている気もする。

 そんなことを考えながら歩いた。



***



 そうやって私は、川を望める場所まで来ると足を止めた。

 辿り着く先で大きく息を吸い込めば、暖かい陽射しと水のきらめきまで取り込んだように心の中へ光が広がる。



「やっぱりいいなあ」


 木々の合間から川を覗きつつ、その流れに沿うようにして足を運ぶ。


 それからしばらくすると、草の陰に何かが見えた気がした。

「落とし物……? うーん。何かなあ」

 なぜか気になり目を凝らせば、それは生き物のように見える。小さいからねずみかと思ったが、少し耳が長い。ひょっとしてあれは……。



「うさぎだ!」


 私の心はときめいた。

 ほんのり桜色した薄いグレーの短い毛を纏い、手の平ほどに小さいが、耳の形やその容姿は確かにうさぎだった。


 一所(ひとところ)から動かずにいる姿は、弱っているのか震えても見えた。

 私は、怪我をしてるかも! とすぐに側へ行きかけた――途端に、迷いを生じる。



 父がはる結界は森の木々と川の間にある。私が見つけたうさぎは、結界の外側にいたのだった。


 結界に魔力を加担している私ならその先にも容易に手を伸ばせる。父に気づかれることなく、結界の流れ自体を変えずにあの子を内側へ引き込むことも出来る、というのが感覚的にわかった。

「……だけど、もし、その時に他の魔物が現れたらどうする?」


 私は自問した。魔物に会って気絶しました事件の時、ふんだんに心配させた父の顔を思い浮かべると我が儘はためらわれた。

 そして踏み出せず、見つめるうち……ふと違和感に気づく。


「あれ? よく見たら、二匹いる?」

 呟きながら視認する。いや、違う。

 顔が……()()ある――。


 よく見ればその背に小さな翼のようなものも確認できた。

「もしかして、あの子って……」


 弱々しく薄っすらと開く目が金色に光る。それはまさしく――『魔物』のものだった。



 私は一気に落胆した。せっかく出会えたうさぎが、まさか魔物だったとは。

 これは諦めるしかない……そうは思っても目が離せなくなる。今にもこと切れそうに目を閉じゆく姿は、胸をしめつけた。


「うう……。でもダメ! 放っておくしかないの。どうにもできないんだよ……」

 あの子は魔物で、人に危害を加える存在。

 自分に言い聞かせると、もうこれ以上は見ないように振り切るつもりで背中を向けた。

 けれど……――今は、まだ何もしてないよね?


 そんな考えがよぎり、また葛藤してしまう。悩みすぎて、本当に魔物は悪いものなのかな? とまで思ってくる。



 確かに、『常から害を成す、相容れない存在』というものはある。もし魔物が事実それなんだとしても、全部同じとは限らないかもしれない。

 だって、人間の中にも色んな心を持つ人がいて、すべてが良識ある人だと言いきれないから。


 それに、万が一、危害を加えようとしたら、この子を結界で閉じ込めたら何とかなるかも? などと対策を練りはじめたところで不意に思う。

 色々と考えまくるこれは、前世から引き継ぐ私の悪い癖――。なんだけど、それよりもっと大事なことを忘れてた。


 今の私は、なんでも出来る悪役令嬢だったよ!



「そうだよ。『もし』も、『そうなったら』もまだ起こってないし起こるかわからないんだから。そもそも考えても無駄に決まってる! うん。もしものことはもしもが起こった時に考えよう、そうしよう!」

 吹っきれてわかるのは、魔物だろうがうさぎだろうが、変わりないのは同じ命を持つということ。


 そして、その命が途切れるのを私は黙って見ていられるか?

 ――答えは(いな)。ならばすべきことは一つだ。



「悪役令嬢と魔物が一緒にいるなんて、案外、絵になるかもねー」

 なんだか仲良くなれる自信も湧いてきた。迷いを越えれば行動は早い。


 私は怖がらせないように、そっと結界の向こうへ手を伸ばし、伏せる頭を優しく撫でた。ぴくりと反応して動いたその子はおとなしく、危害を加える様子もない。

 それより良かった。まだ生きてる。


 小さな体をゆっくり持ち上げた私は、結界の内側にいる自分の胸へ抱き寄せようとした。

 ――もう大丈夫だよ。きっと助けるから……心の中で囁きかける、その瞬時。



「――離れろっ!」


 背後から突然現れた人物が、叫び声と共に手中の魔物へ剣を振り下ろした。

「っ……!?」

 私は驚くより、咄嗟に庇おうと素早く抱き締め、回避する。そしてすぐ、身を隠すように木の陰へとまわり込んだ。


「いきなり何するのよ!」

 剣の主を覗き見ながら吠えた。

「危険だからすぐに手離せっ! それは魔物だ!」

 馬を走らせて来た様子の彼は現在、地面に降り立ち、こちらに向き直って剣を構えていた。


 先ほどまで、後ろに気配さえ感じなかったことからも、彼が俊敏で手練れの人物だというのは間違いなくわかる。



「知ってるけど嫌っ! 弱っているから助けてあげたいの!」

 少し距離はあるが、一応、声の届く範囲にいるその人へ私は懸命な気持ちを伝えた。

「馬鹿を言うなっ。そいつは排除すべき存在だ! 俺はお前を助けようとしているんだぞ?!」


 ……うん。残念ながら、声が届いても気持ちは届かなかったようだ。意思の疎通って難しいね。



 なんて考えてるうちにも、私を守ろうとするその燃える使命感のように紅い目をした彼は、じりじりと間合いを詰めてくる。

 どこにも隙の見えない強いオーラに気圧(けお)されながらも、私は目線を外さず、一定間を保つべく後ずさった。


 できれば、平和的に対話で解決したいと思ってる。とても逃げきれる気がしないから。

 だって私の運動神経は引きちぎれてるんだもん!



「頼んでないけどありがとう! でも、助けるのはこの子! 私のことは助けなくていいから放っておいてっ」

「く……っ。魔物にかどわかされたか。待ってろ、俺が助けてやるからな!」


 放置を希望したはずなのに、救助宣言までしていただきました。どうにも一人勝手に状況を把握された模様です。


 そんなまったく会話の噛み合わない彼を思わず冷めた目で見つめて、ははっと苦笑する――次の瞬間、一気に詰め寄られた。



「――!」

 見開く目前にまで迫ったその人は、よほど腕に自信があるのか、私の腕にいるものだけを狙いすかさず剣を(ふる)ってくる。

「な……っ!? ……ちょっと!」

 秒速ともいえる光のような動作に「待ってよ」と最後までは言えず、とにかくなんとか攻撃をかわした。

 危ないなあっ、もう!


 よろけそうになった足を踏ん張り、すぐさま抗議を込めてキッとにらみつけたけど。

 少し赤みをおびた栗色の髪が力強く風に跳ねる姿に、何となくライオンを連想してちょっぴりひるんだ。

 顔にかかった無造作な前髪や耳が隠れるくらいのサイドの髪まで、その強い意志を表すように真っ直ぐ毅然として見える。年は私よりちょっと上くらいだろうか。

 何気に眺めるだけで身なりがいいのはわかった。


 そして私は、目の前の熱いハートで挑む彼を、アンテウォルタの騎士なのだろうか? と思いながらも逃げまくっていった。



***



 静かな森には川のせせらぎと鳥のさえずりが(かす)かにただよっている。

 時おり耳に届く草葉の擦れる音だけが、やけに大きく聞こえた。


「この子は危害を加えないし、私も自分の意思で動いてるから!」


 依然として攻勢を崩さない彼を何とかしたくて、自ら口火をきる。

 腕の中で息づく存在からは、本当に害は感じ取れない。守るようになおさら強く抱き込み、必死にその事を主張する私は、繰り出される剣を反復横跳びでちょこまかと避けていた。


「人の心を操るとはこざかしい。ただちに淘汰してやるっ」

「私は操られてないってば!」

「わかっている。大丈夫だ、今すぐ助けるぞ!」


 必死に訴えたにも関わらず。現状の解決を、駆除すべきと捉えるだけの彼とは永遠に会話が成り立つ気がしない。

 これだから熱血野郎はっ!



 ……かくいう私は、本能から危機回避能力とやらを発揮してるようで。

 あの、『普段は運動音痴でも逃げ足だけは速い』というスペックを持つ、青い猫型ロボットの漫画に出てくるメガネ少年よろしく、なんとか華麗に逃げ回れていた。人の底力ってすごいね。


 とはいえこうして逃げ続けても、らちが明かない。私は彼の動きを止めるべく、反撃を試みることにした。



「――くそ、この魔物めっ。令嬢の自由を奪うな!」

「だから違うって! 人の話、聞いてる?!」

 この(かん)で、信じた底力で足払いをかけようとしたのはサクッと失敗に終わってる。私の運動能力でそこまでは無理だったらしい。


 うん、少し調子に乗り過ぎたね。なので、それ以降は全力で逃げ回ることに専念した。


 だけど、これも時間の問題。私を傷つけまいとする彼が手加減してるのがわかるから。期を見計らった一撃をいつ仕掛けてくるかと思う。

 それでも私は、負けるわけにはいかないのっ!



 ……とゆうか、話を聞け。何よりその事にイラつき始めた。


「大人しく彼女を解放しろ!」


「いや、もう――……いい加減にしてっ!」

 十二分にいらいらを募らせた私はついに渾身の一撃で――敵の腹に思いっきり蹴りを食らわした。



「!? ……うう……っ」

 思わぬ反撃でまともにみぞおちを(えぐ)られた彼は、剣を握りしめたまま、その場にうずくまる。

 ……ふっ、勝ったよ。


 我ながら見事に決まった。一瞬息が止まるから、すぐには動き出せないだろうとわかる。

 でも、私のために頑張ってくれていたということもわかってる。


「ごめんね、助けてくれようとしたのに。でも本当に大丈夫なんだよ。魔物だからって一括(ひとくく)りにしないで、ちゃんと自分の目で見て判断して?」

 ようやく話せる状況に、私は自分の思いを伝えた。修練された彼なら、冷静に考えれば正しく識見してくれると信じたから。



「……本当に、操られていないのか?」

 腹を押さえながらも、発せるようになったところで私の様子を伺いつつ問いかけてきた。


 頷く私と腕の中の魔物に何度も目をやって、彼は少し考えるふうを見せたが、すぐに目線を落ち着かせる。やはり中々に賢く理解が早い。


「怪我をしてるのか」

「わからない。でもとても衰弱してるみたい。だから早く助けてあげたいの」

 静かに会話する中で、彼は納得したように軽く首を縦に振るも、口を開いた。

「それが即時に何か出来ないことも、お前の気持ちも良くわかった。だが魔物であることに変わりはない」


 紡がれたのは、当然の全うな発言。それでも反論しないわけにはいかなかった。

「だけど、この子は……」

「ああ。言いたいことがわからなくはない。だが、害をなさないとも限らない要因を見過ごすことも俺には出来ない。この国を守る者としてはな」


 私の気持ちは、言うまでもなく了解してくれていた。

 その上で語られる彼の言い分に、やはりこの人は騎士なんだと思った。


 この国を、ここに住む人々を守ることに心を注いでる。彼の気持ちも同感すべきものだ。



 そう考えていれば、真っ直ぐにこちらを見つめる彼と目が合う。

「そいつが……。もう大丈夫だとわかったら、ちゃんと結界の外に放せるか?」

「……え?」

 正論では魔物を国内にとどめてはいけないとわかっても、我が儘に生きると決めた私はこの場をどう切り抜けようかと悩んでいた。

 そんな中、彼のほうが先に提案を投げかけてくれたのだ。

「どうなんだ」

「あ、うん!」


 とりあえずこの子を助けられる内容に、私は慌てて返事をする。

 ……最後に「たぶん」と小さくつけ加えたけど。



 すると彼は頷きながら、自分の馬に乗せた荷物の中から布と水、そして少しの食糧を持ってきてくれた。


「ほら、まずは体を温めてやれ。そして水だ」

「ありがとう」


 判断を固めれば、存外に彼は優しかった。先ほどの行動からもわかる、元々が熱い(ハート)の持ち主だ。


 魔物を布にくるんだのち、口もとを濡らして与える水を飲み始める段になれば、ほっとした様子も見せた。自らパンの切れ端を食べるかな? と近づける姿はちょっと可愛い。うん、いい人だ。

 そうして私はこの子だけではなく、彼とも打ち解けていった。



「それにしても。さっきの反撃は、間違いなくお前の意志だったんだな」

「うん。ずっとそう言ってたよ?」

「いや、あれほど暴れる令嬢には今まで出会ったことがなかったから」

「あー……それは、そうだね」

 言われればそうだ。そんなはしたない令嬢はいないだろう。自分がなおさら誤解を招かせていたのだと今頃気づいた。


「俺に蹴りを食らわせたやつもお前が初めてだ」

「……ごめん」

 もっと早く話を聞いてくれたら蹴らずに済んだけど、と思いつつも謝った。


 さすがに令嬢が食らわす腹蹴りなんてそうそうどころか一生ないだろうね!

 うん。これはとても自分の身分は明かせないと思った。いくらなんでも父に申し訳なさすぎる。


 宰相の娘ともなれば、騎士のこの人といずれまたどこかで会うかも知れない。だけど五年の間に会わないかも知れないし、隠せるところまでは隠そうと決めた。



「ところで、お前の名は……」


 そう紡がれたところで呼び声がした。即座に振り向く彼を探すものだったらしい。

 彼は再びこちらに目線をやると、一瞬何か言いたげな顔を見せたがすぐに立ち上がり馬へと戻った。


「最後まで見届けるつもりだったが仕方ない。今、そいつが見つかるわけにはいかないしな。いいか? そのパンを食べ終えたら、必ず結界の外に出すんだぞ」

「わかった。ちゃんと食べさせる」

「……なぜか、お前にはそれが出来るらしいからな」

「ん?」

「いや、なんでもない。必ずだからな!」


 颯爽と馬にまたがり放つ言葉に返事をすると、彼はそのまま声のした方へと去っていった――。



 うん……ちゃんと返事したよ。

 この子に『食べさせる』――って。


 私は世話をすることに『わかった』と答えただけで、『結界の外に出すんだぞ』の言葉に言ったんじゃないもん。だから嘘はついてないからね?


 なんて、心の中で言い訳しながら、にししとほくそ笑む私には気づかずに。



「良かったね。もう大丈夫。これからはずっと一緒だよ」

 言いながら、元気を取り戻しつつある魔物の頭をゆっくり撫で、目を細めるようにするその子へ笑顔を送った。


 そうして私は、乙女ゲームの『悪役令嬢』から、乙女ゲームの『魔物を使役する悪役令嬢』にレベルアップしたのでした。



***



 その後、うさぎ仕様の魔物はストールに隠して(やしき)へ連れ帰った。



 出迎えたロマンは驚いて、すぐさま私から引き剥がそうとしたけれど。直後に弱った様子に気づき、以降は私の話を聞いて自室に連れていくことを了承してくれた。

 さすがロマン、あの熱血男と違って物分かりがいい。あと素直で優しい。


 それから私の部屋にこもり、二人で世話をしていると……帰邸(きてい)した父が瞬時にその気配を察知してやってきた――。



 父は扉を開けた瞬間、広がる光景に目を丸くしたかと思えば若干うなだれ。呆れたように一つ溜め息をついてから、私たちに近づいてくる。

 そして怒られる覚悟で身構えた私の目前で、慮外にひざまずいた。


 次いでマントの中から何かをさっと取り出しては、魔物の首へと丁寧に巻きつける――それは首輪のように見えた。


「いいかい? 決してこのチョーカーを外してはいけないよ。念のためにかけた鍵は、私が預かっておく。いいね?」

 父が取りつけたのは、黒いベルベット調の生地に綺麗な刺繍がほどこされたチョーカーだった。


 その行動と飾られたものを、じーっと無言で眺めていれば、再び念を押すように父が話し出す。



「ティアナ、ロマン。これは絶対に取らないと誓ってくれるね? 約束が出来ないのなら……側に置くことは許せない――」



 思いもよらないその言葉に私は、一緒にいてもいいんだ! と途端に嬉しくなった。


 我が儘に生きるとは言っても、どうお願いしようかとさすがに考えあぐねていたのだ。

 それなのに、語らずともわかってくれる父には、もはや感謝と尊敬の念しか抱かない。



「ありがとう、お父様! わかった。必ず着けたままにする!」

「いい子だ。ティアナ、ロマンも」

 答える私と、横で頷くロマンの頭を、父は優しく撫でてくれていた。


「二人に説明しておく。このチョーカーは魔力のないものにはこの子の姿を見えなくさせる。(やしき)の者や街の人たちを無駄に怖がらせてはいけないからね。それと、もし。魔物として暴走しそうになった時は、その力を抑える働きもする。私は君たちを危険に晒したくはない。例え何があってもだ。それはわかってくれるね?」



「お父様……」


 私たちをこれほど大切に思っていながら、その気持ちも汲んで、出来る最善を尽くしてくれる。

 こんなに優しくて賢くて大きな父のもとに生まれたことが幸せだった。


 私は本当に幸せ者だ。

 この世界に転生して良かったと、改めてまた思う。


 どんどん好きなものが増えていく日常に笑顔が溢れる。

 可愛いうさぎ魔物と大好きな家族に囲まれて、私は幸せな気持ちで満たされていた。



***



 あれから私は、男の子だった魔物を前世と同じくコタと名付けた。

 父の許しも得て、これで心置きなく一緒に暮らせると思えば頬が緩む。



 ――その時、ふとコタをつつむストールに目をやった。それは(やしき)へ連れ帰る時分、こっそり隠すために使った物。

 森で出会ったあの騎士が渡してくれた布だった。


 彼が去ってから、よく見ればストールだと気づいた。薄いのに丈夫な生地は手触りも良く、上質の品であるのは歴然。


「本当はもう、会うつもりなかったんだけどなあ」



 だけど、とても貰うことは出来ないから。

 私はいつかちゃんと返すと決めて、それまでは大事にしまっておくことにするのだった。

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