第六十二話
孝雄実たちは早いもので此方へとやって来て、二週間も終わりを迎えつつある。今では白もシンキを難なく使用出来るまでになっている。弱点であった、孝雄実のシンキ吸収力はそれなりに成長を果たし、ムーレリアのシンキ容量は大幅に改善された。
「そろそろ、お主たちには試練に挑んで貰おうかのぅ」
ヘルシマシルトンはカミナと顔を見合わせると夕食時にその様に三人に言い放つ。言われた彼等はキョトンとした表情を見せる。
「そうですね。三人とも相当成長しましたからね。今ならば大丈夫でしょう」
カミナも彼の言葉に賛成を表明する。
「まさか、為しにドラゴンでも倒してこいとか言わないわよね」
ムーレリアはあり得ない話しの中で、最も無さそうな事柄を選んで二人に尋ねる。しかし、孝雄実はその様に話すと起こり得る事と相場が決まっていると考えている。
「おお、よく分かったのぅ。流石はムーレリアの嬢ちゃんじゃ」
「本当に、前に話したかしらね?」
二人はまさか想像で話しているとは知らず、のほほんとした雰囲気で話す。笑い合う二人を見て三人はどうしようもない気持ちとなる。
「ドラゴンって……なあ白、お前は想像出来るか?」
「ごめん、分からないわ。ムーレリアは?」
「見た事はあるが、あれは倒すべき対象ではないからな。言うなれば崇拝の対象に近いからな」
三人は世界が違う中のドラゴンをイメージしている事であろう。白は若しかしたら孝雄実のイメージを思い浮かべる事は出来るかもしれないが、ムーレリアとの意思疎通は不可能だ。彼女と孝雄実のドラゴン像は大きく異なる筈である。
そこからはヘルシマシルトンとカミナのドラゴンについてのレクチャーが始まる。
「よいかの、先ずは場所からじゃ。この家より二日程行った場所に竜の棲みかと呼ばれる地帯が存在する。そこはドラゴンとはいえ小さな生き物ばかりが住まう地なのじゃが、一頭だけその場所を治める長がおっての。それがドラゴンと言う訳なのじゃ」
「大きさ二十メートルはあると言われているわ。大丈夫シンキを扱えるようになった貴方たちに出来ない事は無いの。よく覚えておいてね」
三人はまるでドラゴンを倒すに倒す事が、元の世界に帰る方法の様に思えて仕方が無いと言う思いであった。これが最後の機会とも言う様な雰囲気である。
三人はきっかり三週間、二人からシンキの扱い方を学び其々に弱みとしている箇所を鍛えた。加えてドラゴン討伐を伝えられてからの僅かな期間をその対策につぎ込んだ。
そうして彼等が旅立つ日、ヘルシマシルトンとカミナは其々に言葉を掛けている。
「三人ともよう頑張った。まさかこれ程短期間でシンキの扱いを学びとれるとは思わなかったぞ」
「特に白ちゃんはシンキを感じるまでに時間が掛かりましたからね。一番の成長株は白ちゃんですね」
白は褒められ慣れていないのか、照れてしまいもじもじするだけである。
「ヘルシマシルトンさん、カミナさん本当にお世話になりました。いきなり現れた俺たちに此処まで面倒を見て頂き感謝しております」
孝雄実は三人を代表し、二人にお礼を述べる。二人も彼に合わせてお辞儀を行う。
「何の気にする事ではない、老人の気紛れじゃ。それに付き合ってくれた三人に、感謝する側はワシらの方じゃよ」
「そうですね。若い方々と一緒に居ると、私たちも若返った気持ちでしたよ」
「というわけじゃ。最後にもう一度言うぞ。シンキは万能じゃ。思えば叶う。これを確りと胸に刻むのじゃよ。それから孝雄実君これはワシからの餞別じゃ」
そう言うと彼は孝雄実に二振りの剣を差し出す。見た目は嘗て孝雄実がボウガンから変形させている剣に形状が似ていた。
「これは?」
「君が持っていた剣を模したものだ。とは言え、威力は以前使用していた比ではない事だけは保証しよう」
見せた事も無い剣をどの様にして知ったのか、孝雄実が使用する剣は魔力によって変化させた物である。だがその様な事を尋ねようとはこの時すでに思う事は無かった。
「ああ、言い忘れておった。それは君の世界に戻った時、新たな武器となる。今は変化しないがのぅ」
「分かりました。ありがとうございます」
全てを知り尽くしているのではないか、そう思う事はあれども水を差すような無粋な真似は出来ないと孝雄実は考えた。
「私も白ちゃんとムーレリアさんにこれをお渡ししますね。これが白ちゃん、此方がムーレリアさんの物ね」
カミナは依然身に着けさせていたリストバンドにそっくりであった。それを思い出した二人は微妙な顔つきになる。
「カ、カミナさーん」
白はあの悪夢を思い出し、つい泣き出しそうになる。
「私も貰えてうれしいが、これは力を制限させるのではないのか?」
「私も説明不足でしたね。これは貴方たちのシンキを貯める補助をしてくれる物よ」
カミナが言う事はバッテリーの様な物であった。彼女がその後に説明するのは溢れださんばかりの吸収力が在る二人は、その零れ出る物が勿体無いと言う事で、作製されたのがそれだ。
「力を使用する時、このリストバンドも力を与えてくれるわ。これで通常の攻撃もより威力の強い物に変化するとともに持続力が増えます。効率よく使用してくださいね」
「分かりました。ありがとうございます、カミナさん!!」
「ありがとうございます、カミナさん!」
三人は其々に感謝の言葉を述べて二人の元を後にする。二人は三人が見えなくなるまで見送りを続けるのであった。
「公、感謝いたしますぞ。よくぞこの任務を我らにお与え下された。これで思い残すことは有りません」
「私も同意です。これ程までに心躍る気持ちになりましたのは久方ぶりで御座います。願わくは、私たちの教え子が無事に試練を乗り越えますよう切に願います」
二人はまるで目の前に何かが居る様に語りかける。それに答える様に風が吹きすさぶ。次第にその風が目を開けていられない程の強さになると二人の痕跡は無くなっていた。家を含め、二人がそして三人が過ごした落ちついた雰囲気もひっくるめて消え去っていた。
三人はゆっくりと時間を掛ける様に二人が示した場所へと向かう。その道中はシンキを感じる事に時間を費やす。その最中自然体で居られるようにと会話を多くしている様にと指示されていた。
「ふうーしかし、ドラゴンかよ。まるで映画だな…」
孝雄実はふと日本に居た時の文化を思い出していた。
「なんだ、その映画って言うのは?」
「ん?どう説明すればいいのかな、映像って言って理解出来るか?」
思い描く事が出来なければ説明も出来ないと、何とか分かる物と考えて話す。
「映像?映写機の様なものか?」
「映写機…ああ、うんそうそう、それで撮った映像なんだよ。で、それをもっとリアルにしたものなんだけどさ…」
文化、科学技術が異なれば、考え方も見え方も異なる。孝雄実は映画のなんたるかを説明するもののムーレリアには今一伝わっていなかった。
「まあ映画の事はいいか、その口ぶりからして孝雄実の世界は、ドラゴンは居ないのか?」
「居ないな、空想の世界ではよく登場するけど。その分憧れはあるのかもしれないな。ムーレリアの世界では確か尊敬の対象とか言ってなかったか?」
孝雄実は一度耳にした事を思い出して彼女へと尋ねる。彼自身ドラゴンと言う得体の知れない存在に、どの様なものなのかと言う事が気になっている。
「確かにその様な話しをしたな。あれは老人に話した時であったな」
「そうだ。それで、ドラゴンは魔族なのか?」
「いや違う。魔族ではないのだ。神聖な存在としての象徴なのだ。我らが最初に出会った場所を覚えて居るか?」
「ああ覚えているぜ。それがどうかしたのか?」
二人が出会った場所は魔鉱石を生産する核と呼ばれる物質が在る部屋の話しである。魔鉱石とは魔力を含んだ鉱石である。しかし、核のある場所は純粋な魔力結晶へと昇華している。
「恐らくあの蜘蛛からも説明が在ったかも知れぬが、あの場所は地底竜メアレステロンと言う名のドラゴンが食糧庫としていた場所なのだ。勿論食料とは魔鉱石だ。我ら魔族は魔力を体全体で吸収出来る。あの蜘蛛も同様だ。しかし、メアレステロン公はそれが出来ないのだ。故に魔族と言う定義とは異なる」
ムーレリアはあくまでも魔族とは魔力を吸収する者の総称である、と言う事を話してある。それを思い出す孝雄実は再度彼女に尋ねる。
「それじゃあドラゴンって何なんだ?」
「見た目は人間であるな」
彼女はその様に答えると続けて話し始める。
「本当に人間に見えるのだ。私と孝雄実の違いはなんだと思う?それは瞳だ。恐らくこの瞳の色は存在しないだろ。ドラゴンはのぅ、因子を人の心に貯め込んでおるのじゃ」
彼女は瞳を孝雄実にハッキリと見せつけると、彼の心臓の部分に指を当てて説明する。
「つまりは姿形で判別出来ず、心を調べるしかないと?」
孝雄実がその様に聞くとムーレリアは頷く。
「そうだな。とは言え、寿命は人間と同じなんだ」
「それじゃあドラゴンだなんて分からないじゃない」
白は矛盾する話しを聞いて彼女に問い掛ける。
「それがじゃな、ドラゴンの因子と言うのは人間に宿るのだ。その人間が死ねば新たな人間に移る。それは自分の子供に移る場合もあるがそれは稀であるな。そうして何百年何千年、下手をすれば何万年と適合した人間を待つのじゃ」
ムーレリアが説明するドラゴンと人間の関係は、あくまでも人は候補でしかなかった。彼女が知る限りドラゴンが人間から生まれる事は無いと言う。魔族の間でもドラゴンは既に伝説級の話しであり、だからこそ崇拝の対象に成るのである。しかし、彼女はどの様に思うであろうか、最後に地底竜メアレステロン公を見たのは蜘蛛と呼んでいる者であったと言う事を。
三人は念のために二日野営を行い、ヘルシマシルトン達から教えられた場所へと到着したのは三日目の午前中の事であった。
「ここがドラゴンの棲み処か…」
「そのようだな。しかし、あの何もない場所から二日の距離に、これ程の生き物が居るとは…」
「でもこれがドラゴンなのかしらね…」
三人が見た者はリアル○ュラ○ック・パークであった。この場所はカルデラの様に山が円形に大きく抉れている造りの中に存在している。さながら恐竜を外へと出さない檻の様であった。彼等の目には恐竜と言われている種類の生き物が、巨大な大地で弱肉強食を繰り返している光景であった。
「うーん、この中を、ドラゴンを探すべく練り歩くの…?」
白は心底嫌そうな顔で二人に聞こえる様に呟く。その思いは二人も同じである。
「だが老人は特徴は直ぐ分る様な巨大な体躯をしていると言っておったではないか」
「では目を凝らして見てみる事にしようか」
孝雄実の提案は万丈一致で可決される。それほどまでにあの中に入りたいとは思わなかったのだ。その様に多くの恐竜を見ていると、一頭の恐竜が飛んで来た。地上と彼等が居る高さで言えば一千メートル程の差である。この場へと来る時僅かに登って来た三人であるが、一千メートルも登って来てはいなかった。
「皆さまお待ちしておりました。おや、魔族に貴方様は?まあよろしいでしょう。族長がお待ちで御座います。どうか、わたくしに付いて来て下さい」
その様に言うと恐竜は人の姿を為す。
「人間!?」
孝雄実がその様に驚くがムーレリアと白はさほど驚く事は無かった。
「少し違いますな。あくまでも皆さまに姿を合わせたに過ぎない。これよりは気を付けて参られよ。中には血気盛んな物が居りますので」
彼がその様に述べると、それを示すように恐竜が群がって来る。その大きさに三人とも驚くが思いのほかに愛嬌のある顔をしているなと孝雄実は思ってしまう。
「皆さま族長がお待ちです。なるべく急いで下さい」
そう言われては是非も無い。撫でてみたいという衝動を抑えつつ彼等は中心部へと向かうのであった。
直径三百キロと言う広大な円周型の大地は其々に住む場所が決められている。外側から弱さが決まって行くのである。中へと進めば進むほどに凶悪な恐竜が出現するのである。現に彼等の目には可愛げのない、彼等を餌と勘違いした肉食が涎を滴らせながら出現するのだ。
「まったく可愛げのない!」
ムーレリアはその様に次々に現れる恐竜に文句を垂れ流す。白もそれに続いている状況だ。
「お二人とも可愛い、可愛くないで判断しないでいただきたい…」
「済みません。ところで待っていると言うのはどう言うことでしょう?」
孝雄実は二人の保護者の如く彼に謝罪を行う。
「まあ、構いませんが…そのままの意味ですよ。族長はあなた方がこの地へとやって来てからずーっとお待ちでした」
「は、はあ…」
「戦いたいと言うお気持ちもありますがそれ以上にあなた方との会話が楽しみだと仰っています」
そう言う男は先を急ぐ。ヘルシマシルトン夫妻からは戦う様にと、色々アドバイスを貰った手前拍子抜けする様な反応である。
「こちらです。到着いたしました。族長!三人をお連れ致しました!!」
この場所は大きな洞窟となっている。何故か中央部に巨大な岩が存在している。巨大な大地にドーナツが出現しているかのようである。
「わかったでぇー入って貰ったって」
エセ関西人風の声が中から木霊する。その声に従い、四人は奥へと進んでいく。するとそこには小さなおっさんが待ち構えていた……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
ご感想お待ちしております。
誤字脱字有りましたらご報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




