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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
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第六十一話 暗闇から差し込む一筋の光

 ティーナは早速借り受けた馬車を登録し商人ギルドへと赴いた。此処で必要なのは誰々所有の馬車をどの期間借り受けると言う旨を報告しなければならない。間違ってもそれを怠ると違約金が発生する場合があるので彼女は必ず登録を行うのだ。

「ポーレスト商店のティーナ様ですね。ええっと、全員で十名の方から馬車の貸し出しですか、全部で八十台!?」

 受付の男性はその突拍子もない数字に驚きを隠せないでいる。彼等はどうしてその様な数字と成るかを尋ねる事は禁止されている。その為に心を落ち着けて業務へと戻る。

「失礼いたしました。それではこちらにサインをお願いいたします」

 彼はその様に述べると一枚の用紙を彼女へと渡す。彼女が書いたのは『私用馬車借り受け申請書』であった。そこには各商店と代表者の名前に馬車の台数が其々の欄に記入されてあった。

 職員が渡したのは誓約書である。サインとは言え、各商人と結んだ契約内容を書き込まなければならない。これはティーナの仕事である。


「ありがとうございます。それではこの用紙はティーナ様が帰還なさった後、関係者一同の前で破棄されます」

「分かったわ」

 ティーナはその様に述べると直ぐにギルドを後にする。この後も彼女にはやらなければならない事が待っていたからだ。先ずは自分の店に戻りこれから必要となる物資の振り分けを従業員へと指示するところからである。これはドレイルと言う店番が粗方の事をやってくれる為その作業は任せる事になる。問題は王宮に移動して確りと任務を受けるところである。一応フレテストを通じて直接権限を持つ者に話しが通ることとなっているが、若干人間不信の成りかけているティーナにとっては不安で仕方が無かった。


「お帰りなさいませ、旦那様!」

 ドレイルは彼女が店主となってから常にこの名で呼んでいる。最初は止める様に指示を出したが彼はそれを頑として受け付ける事は無かった。別に見下している訳ではなく、他店と比べても不利な状況であるポーレスト商店を考えての事である。ドレイルは確りとその辺りを説明し、ティーナが認めたところで唖然従業員へ旦那様と呼ぶよう通達を出したのであった。以来、ポーレスト商店の人間は彼女を旦那様と呼ぶことに決まっている。


「ただいまドレイル。お店はどうかしら?」

 その様にティーナが言うとドレイルは帳簿を彼女へと差し出す。口で説明するよりも数字で確認した方がより実感出来ると言う事である。それを見たティーナの反応はそこであった。ただ以前の様に赤い帳簿にならないだけマシと言った程度である。

「まあこんなものかしらね。ご苦労さまドレイル、みんな」

「何、私たち一同旦那様とこのお店に命賭けてますんで!」

 ドレイルはその様に言うと残りの従業員も彼と同様の言葉を言って賛同している。それが彼女にも嬉しいのだが、どうにも体育会のノリに近い雰囲気の為馴染みにくいものであった。


「そう、ありがとね、みんな。必ず成功させるわ。そこでドレイルこの馬車に満載出来る物資の数量と人数を掻き集めて貰いたいの」

 ティーナは努めて冷静にドレイルに計画書を見せる。彼もピュータ村で発生した崩落事故は知るところとなっている。これはティーナが唯一所有していた最後の一羽、伝書鳩が居たからである。基本この事故は情報統制されているのだ。しかし、目ざとい商人は少しでもお零れに与ろうと、懇意にしている貴族にそれとなしに交渉がてら顔を出しに向かったりもしている。とは言え実際に物資を運んだりするのはティーナの様な商人である。


 それもこれもゲータと言う魔物が絶対に出現するからである。故に輸送コストが増大しピュータ村で販売する場合の値段が跳ね上がるのだ。

 だが、現状を知るのはティーナだけである。実はゲータが出現しない事を彼女は話していない。この事はキャメルが彼女にアドバイスをしていたのだ。商人とはどれほど有益で新鮮な情報を駆使して動くかで儲けが決まる。商人だけではないが、キャメルは絶対に他の商人に話してはいけないと堅く言い聞かせていたのだ。この話しは船で川を下るときに四人で、フレテストとエレオノーラを含めて、話してある。情報が明るみに出るとき一人勝ちをしていればいいと言う事だ。

 何か言われたら知らぬ存ぜぬで、押し通せるとキャメルは自信たっぷりに言ってのけたのである。






 それ故に他の商人たちは輸送する駄賃を授けて物資を運んでもらおうと言う者が居るのだ。それ故に、俄かに救援物資として必要な品物の値段が上がり始めていたのである。ティーナはそれを見込んで行動を始める。だがそれも彼女が任務を受けなければ意味が無い。そこで王宮へと足を延ばすことにした。これはセドーフェンと言うクマの様な男の商人から渡された紹介状を使用して行う。


「止まれ、これよりは王宮である。何用か?」

 王家の家紋が刻み込まれた王国軍兵士が威圧するようにティーナを止める。彼等も栄えある王国軍へと入る事が出来て気合が入っているのだ。故に職務に忠実いと言う考えであり、決して上から見下すような意図はない。

「私はポーレスト商店の代表を務めますティーナと申します。本日は物資輸送の件で参りました。これはセドーフェンさんからの紹介状です。アレンゼントル侯爵様へお渡し願いたく」

 その様に述べると恭しい態度で封をされた紹介状を兵士へと見せる。


「セドーフェンと言えば」

「フロランス侯爵家と懇意の間柄ではないか?」

 その様に兵士たちが話し始める。そう、セドーフェンは侯爵家にがっちりと喰い込んでいる御用商人となっている人物であったのだ。ゴーステンス商会言う名前が彼の営む会社である。この国では複数店舗展開する場合は○会と言うふうに付けなければならず、○店と言う様な場合は一店舗のみで営むお店を指す。

「承知しました。それではこれより関係者へと取り次ぎを致しますので暫く兵舎にてお待ちいただきたく」

 彼等はこの様な場合の対処も万全である。何と言っても失礼が在ってはならない場所である。万が一礼を失する事が在れば外交問題へと発展しかねないとも言い切れないからである。


 迅速な対応はフレテストが話しを通していた結果でもあった。待つ事三十分ほど、これは驚異的な早さである。小さな、後ろ盾のない商店が対応される様なものではない。しかもアレンゼントルの部下が直接彼女を迎えに来た事から異例の対応が為されていたのである。

「貴方がポーレスト商店の代表ティーナ殿であるか?私は侯爵閣下の家臣でレオナット・ヘルセンと申す」

 彼は確認の為に彼女本人の口から聞かなければならない為にその様に尋ねる。

「はい、お初にお目にかかります。わたくしがポーレスト商店代表ティーナで御座います」

「ふむ、失礼ではあるがセドーフェン殿の紹介状を持参していると聞いておるが…」

 彼はその様に兵士から報告を受けている。


「はい、此方が紹介状で御座います」

 ティーナはその様に述べると彼に手渡す。

「確かにセドーフェン殿の印が在りますな。よろしいでしょう。既に侯爵閣下より通達を受けております。私に付いて来て下さい」

 そう言うと紹介状を懐へと入れ彼は王宮へと歩みを戻す。それを追う様にティーナも続く。彼女は初めての王宮である。雰囲気がまるっきり違う中、自身の行うべき事やるべき事は決して忘れはしない。


「随分と落ちついていらっしゃいますな。お若い方とお見受け致しますが」

「ありがとうございます。これでも緊張しているんです。何と言いましても初めての王宮です。この様な事一生のうちに有るかどうかですから」

 彼女は良く前を向いていながら分かるものだと内心思っている。

「そうですか、まあ確かに貴族の何方かとがっちり結ばれていないと此処へは来る事が在りませんからな。ですがそのお考えも今この時を持って改めて頂きます」

 その意味するところは今一解っていなかったティーナであった。






「此方で御座います」

 レオナットはとある一室へと彼女を案内する。扉を開けるとそこには数名の男性が待ち構えていた。

「遅くなりました。殿下、旦那様」

 扉を開けると先にティーナを通そうとする。それを悟った彼女は一言挨拶をしてから室内へと入る。此の場は国家の中枢のさらに中心に居るものであると彼女は考えた。

「構わん、これより重要な話しが在るからレオナットは外で見張りを頼む」

「承知いたしました」

 ティーナは顔こそ分からないが、彼こそが軍務大臣フロランス侯爵だと当たりを着ける。ではととなりは誰かと考えれば殿下と言えばお一人だけである。彼こそが次期国王アレイセン・ドットゥーセで間違いないと確信した。


「さて、席に着いてくれ。こう見ても時間が惜しいのでな。私はアレンゼントル・デレッロ・ストランデス・フロランスである。此方のおはす方がアレイセン・ドットゥーセ殿下であらせられる」

「初めて御意を得ます。わたくしはポーレスト商店代表を務めておりますティーナと申します」

 アレンゼントルの商会で始まった三者会談は礼儀に則った物から始まる。しかし、こうするのは此処までであった。

「アレンゼントル、此処までで良かろう。ティーナ率直に聞く、馬車は如何ほど導入出来る?」

「はい、商人ギルドへは八十台を申請致しました」

「それはポーレスト商店の馬車を入れてもか?」

 アレイセンはその様に尋ねる。彼女としてもまさか自分の店の内情を知っているとは、思いもよらなかった。


「確かに当店の馬車を導入いたしますれば、あと通常馬車で三十五台分は導入できます。しかし、それを扱える者が居りません」

 そうあの馬車には秘密が在る。魔力を必要とした馬車で有り馬車内部を拡張できる仕様となっている。見た目は普通の馬車、重量も変わらない。その為に馬二頭で馬車五台分の物資運搬が出来る事は、この際魅力的な話しである。だからこそ、あの商人たちは代償として彼女の馬車を提供すると言った時、即座に賛成したのである。しかし、ポーレスト商店は最大で五台の馬車しか導入出来ないと言う寂しさが在る。

「それはどの様な人材を充てればいい?」

 そう、この馬車には特に人数の少ない光元素を持っていなければ扱えないのだ。


「光元素をお持ちでなければ扱う事は敵いません。私も扱いますので、残り所有する馬車は六台でございます」

 そうティーナが言うとアレイセンはアレンゼントルを見やる。

「どうだ、確保出来るか?」

「はっ、必ずや光元素を扱えるものを確保致しましょう」

 これがどれほど困難なものかはこの国の中枢に居るものであれば分かる話しである。通常火水土風の四元素を持つ者が九割。光と闇二つの元素の内一つ有るものは僅か一厘である。二つ持つ者は皆無である。

 だがアレンゼントルは無理だとは決して言う事が出来ない。やらなければならないからだ。


「ティーナよ、その馬車は元素を所有していればよいのか?」

「はい、御者は通常の方で構いません。必要な人間は馬車の中で魔力を吸収する場所に手を翳すだけで構いません」

 そう言うとアレンゼントルは直ちにレオナットを呼ぶ。

「如何なさいましたか旦那様」

「今から此処に書かれてある者を招集せよ」

 そう彼が言うとレオナットは承知致しましたとだけ述べてこの部屋を後にする。


「これで問題なかろう。よろしゅうございますな、殿下?」

「当然だ。父上も至急対処せよとの仰せである。万難を排してでも成し遂げなければならい。さてティーナよ。君にはピュータ村への物資輸送の任確りと受けて貰うぞ」

 次期王からの直接依頼である。この時に成り漸く自分がどの様な場所に放り込まれたのか理解できたのだ。直接依頼を受けると言う事は一商人にとってはチャンスである。望んでも得られるものではない。大店と成るべき唯一の道なのである。それはつまり御用商人の道と言う事である。ティーナはつまり王家からその切符を渡されたと言うことになる。

 但しあくまでも挑戦券(・・・)の意味合いが強い。成功すればよし、駄目でも構わないと言う意味合いである。ピュータ村へはこの段階でゲータが存在する事が前提となっている。そこでアレイセンが掲げる成功値は…

「七割だ。これより運ぶ物資を見事七割残して運んでくれ。既に物資は集結しつつある。数が揃い次第順次馬車へと積み込みを行って貰う。今回は臨時である兵士を五百付けるその分の費用も此方で出そう。ティーナは無事に荷を運ぶ事を考えて貰えればそれで良い」

 アレイセンはその様に目標数値を掲げ、万全の備えを提示する。その言葉にティーナは放心状態である。まさかここまで手厚い支援を行ってくれるとは王家と言えどもある話しではない。


「し、承知、致しました…ポーレスト商店は必ずや殿下の御意を成し遂げてみせましょう」

 ティーナは何とか返答まで行う。

「セドーフェンはお前の事を相当心配していてな。しきりに私の御用商人へ推薦してきた。しかし、フロランス家は数多くの商人と誼が在る為に快諾出来なかったのだ。そこで一つ飛ばして殿下の御用商人へと言う考えとなったのだ。だから気張れよ、ティーナ!お主にとってこの依頼が天と地を分ける戦いとなる。

 決して気を抜かず最後まで守り通せよ」

 アレンゼントルは裏話を彼女に聞かせる。これは彼なりのエールである。アレイセンにおいては別の事が在る為に彼女にチャンスを与えたのであるが、それは彼女が依頼を成し遂げてからの事となる。


 かくしてティーナは必要物資の目録を受け取り、最短で五日後に集結することになる物資の振り分けを考えなくてはならなくなった。本来はドレイル任せにしてもと考えていたがそれどころの騒ぎでは無くなったのだ。直ちに依頼を受けた事を商人ギルドへと連絡し、何故かポーレスト商店で待っていたセドーフェンを含めて、王宮で話された事を話すティーナであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字ありましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

              今野常春

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