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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
いざ冒険者へ…
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第二十九話 雛鳥って言うぐらいだから……ってデケェ!

 孝雄実たちはワレンスナ支部長の尻拭いをするべく、フェリシャスというダチョウに似た魔物の巣へと向けて移動中である。一行の足取りは決して良いものではない。本陣から進む事二時間は移動している。孝雄実は自身の体力が相当付いている事に驚いていたが、エレオノーラたちはそれどころでは無い。

 進めば進むほど元動物、魔物と思われる骨が転がり、量が多くなっているのだ。明らかに巣が在りますと訴える様な証拠が、である。特にキャメルの表情が深刻だ。報告はたしかにしたし、この場合彼女に責任は無い。

「あーあんまり気にするなよ、キャメルさん」

「そうよ。貴方はやるべきとはやったのだから…」

 マリアンとサラは何とか慰めようと試みるが変化が現れない。それは仕方が無いとは言え、どうもそれだけではない様にエレオノーラは感じている。


「他にも問題が有るんじゃないかしら?」

 彼女の言葉にキャメルは体をビクリとさせる。これではあると言ってもいいだろう。

「皆さまにはご迷惑をお掛けしますが、こればかりは…」

 そう彼女が口を割れない理由がある。エレオノーラは冒険者として登録しているが他の三人は登録していない。今回臨時に冒険者として籍を与えられているに過ぎない。


「まあいいじゃないか、それよりも、もう直ぐなんだろ?雛ってどんなもんなんだろうな?」

 彼はその様に言って話題を変えようとする。彼には分かる、組織の権力争いであると。幾度となく呼んだ小説の中や歴史を学んでいけば必ず起こりうる事象であった。

「それもそうね。キャメルさんはご存知ですか?」

 エレオノーラも流石にその質問は不味いと思ったのか、彼の話題は渡りに船だった。

「そうですね…話によりますと、殻がとても硬い何かで出来ているとか、中にはそれを防具として身に着ける豪の者が居るとも聞きますね。恐らく、雛はそれなりの大きさとしか申し上げられません…」

 それもそのはず、特に孵化したばかりでは親鳥の気性が荒くなる。さらには当面の食事が出来ていない事も合わせて気性に繋がっている。その為に近づく事が出来ず、あくまでも彼女の憶測で話しているに過ぎない。





 一方ワレンスナたちと言えば、冒険者勢は二百を残してドランデストハイムへと帰還を果たしている。エルサンド族軍も四千を帰し、千名で本陣を構えている状況である。

「ルチア、どうじゃ?」

 エルサンド族の族長ロームルンは家令兼参謀として後ろに侍るルチア・エルサンドへと尋ねる。他の者が聞けば何を?と言いたくなる言い方であるが、彼には何を言いたいのかが理解できている。

「どうやらフェリシャスはグルンビッグの死体に反応を示したようです。偵察兵からの連絡が逐一入っております」

 彼もまたキャメル同様に連絡を取る為の道具を持っている。しかし、この場合は偵察兵もと付けくわえねばならない。

 ドットゥーセ王国で自治を認められるエルサンドは侯爵位を国から与えられている。豊富な資金によって軍備などにも予算をつぎ込んでいるのだ。ルチアは家令と言う立場でありながら、軍の参謀兼責任者でもある。勿論最高責任者はロームルンであるが、実権はルチアである。


 彼には情報の価値がどれだけの物かが理解できていた。それ故に、偵察兵には敢えて高額な道具を支給し、それを扱える魔法元素を持つ者を選別している。 

加えて高給取りな彼等はスーパーエリートである。 彼等はその職責を確りと果たしている。今の報告もそうだが、孝雄実等全員が詠唱破棄を行えるという情報も彼等の報告である。それが先の集まりで功を奏したのだ。あのオークを隠していた場所には、キャメルの他に件の彼等も居たという事である。

 偵察兵とは言え、日本で言えば隠密に近いかもしれない。


「そうか。しかし魔法とは凄いな…」

 ロームルンの目の前には、大穴を掘った際に出た土砂を使用して造られた台地が見えている。その言葉にはルチアも頷かざるを得ない。彼にも風と光の魔法元素が有る。しかし、此処までの事は彼でも出来ないと考えている。

「そうですね。流石はコンドウ様で御座います」

 そう言って彼に肯定的な意見を述べる。


「そこでだ、ルチア。この場を我が軍の練兵場にしてはどうだろうか?フェリシャスはこの度で滅するのであろう。ならば軍で倒せぬ物が無くなるということだ。どうか?」

 彼は飾りでは無い。確かにルチアは有能な人間である。家令として族長一族を取り仕切るのは彼である。しかし、所詮はそれが出来るだけである。上に立つ者はそれ以外に何かが求められるのだ。ロームルンにはそれが有る。そうでなければエルサンド族の繁栄などありはしないのだ。

「それは良いお考えで御座います。この度の討伐が終わり次第準備を始めましょう」




 場面は孝雄実たちへと戻る。あれから道なき道を進む。どうやら彼以外は巣に近づいている事を肌で感じている。特にキャメルは鳥肌に悩まされている。

「魔力が強い…」

「こりゃあ、近づきたくも無いかもな…」

 エレオノーラとマリアンはそうは呟きながら進む。先頭は何故か孝雄実とブラックとホワイトである。

「確かにこれで子供を護ろうとしているのね」

 キャメルと女性陣では魔法レベルが違う。低いと相手の魔力であっと言う間に、今の彼女の様になってしまうのだ。そこから進むと戦意喪失となる。


「でもご主人様はどうして平気なんだ?」

「んっ、どうしたマリアン?」

 呟きで彼女が孝雄実を呼ぶ声がして、漸く彼は後ろを向いた。

「ご主人様はこの魔力を何も感じないのか?」

 彼女が言うのは重苦しい様な、重力が圧し掛かる様な感覚である。自身の持つ魔力との差が大きければ大きいほど、受ける物は激しくなる。

「いや全然。それよりも何かが呼んでいる声がしないか?」


「声?聞こえないわよ?」

「私も聞こえないわ」

「私もだぜ…」

 皆は立ち止ると耳を澄ませてみる。彼が言うのだからとやっては見たものの、聞こえるのは草が風で揺れる音だけである。

「そうか…おかしいな、確かにこっちから声が聞こえたりするんだよ」

 そう言って彼は指を指す。

「こっちって、フェリシャスの巣が有る方向じゃない!」

「もしかしてご主人様、巣を目指して歩いていたんじゃなく、声を頼りに移動していたのか!?」


「キャメルさん!」

 そう四人が話していると遂にキャメルが限界を迎える。完全にフェリシャスの親鳥の魔力に圧しやられてしまった。サラが気が付いて崩れ落ちる彼女を支える。既に気を失っている状態だった。

「キャメルさんはどうしたんだ?」

 孝雄実はその原因が分からずに尋ねた。

「これが…私たちが感じていたものの末路よ」

「そうだぜ。ご主人様は全く気にしていないけれど。魔力レベルが低いとこうなるんだ」

 キャメルは呼吸が荒く、熱に魘されている様に見える。両者の魔力関係は白血球とウイルスの関係に近いのかもしれない。


「それよりもどうしましょう…」

 そう考えるのはエレオノーラである。ある意味キャメルが倒れるという事態想定外もいい所である。だがそう悩んでいると、ホワイトが彼女も元へと駆け寄り伏せをするようにして一鳴きする。

「どうしたの、乗せろってこと?」

 彼女がそう尋ねるともう一度肯定する様に鳴く。落ちる事が無い様にすっかりとホワイトの体に結び付ける。とても妙齢の女性に対するやり方ではないが背に腹は代えられない。しかし、これが良い方向へと動く。

「少しは落ち着いたのかしらね」

 荒い呼吸も収まり、一定のリズムで胸を上下させているのを見て、エレオノーラはホッと一息つく。


「でも、これからどうすればいいのかしら?」

「それは進むしかないんじゃないのか?」

 部隊の隊長に当たる彼女が倒れた今ここに言うのは一兵卒に等しい者しかいない。

「いや、先へと行こう。此処は俺の意見に従ってくれ」

 孝雄実がそう言うと彼は歩き出す。他の者の意見は聞かずにだ。ブラックはその後を追い、ホワイトも続く。三人は取り残される様な形になる。

「どうするんだ?」

「どうするって…後を追うしかないわよ」

「そうね、バラバラになるのは不味いわ」

 そう言って三人は掛けるように後を追う。


 暫く彼は声のする方向を進む。彼には『こっちだ』が頭の中で連呼しているのだ。少しでも道を違えれば『違う』という警告が聞こえる。だがそれも終わりを迎える。漸く目標を視認できるようになったから。

「やっぱり俺を呼んでいたのはあの巣なのかな…」

 孝雄実は此処へと来るまで一心不乱とも言える行動であった。時折エレオノーラやマリアンが声を掛けるが、上の空であった。

「ってえ、ちょっと待ったご主人様!」

 マリアンが急いで彼を止める。無謀にも巣穴へと進もうとしたからだ。三人にはその様に見えていたのだ。危険な魔物であるフェリシャスの巣へと、警戒もせず歩き進もうとすれば、無謀と言う言葉以外ないだろう。




「何だよ、マリアン?」

 彼にはどうして止められるのかが分からないと言って感じで問い掛ける。そこには非難めいた物が含まれている。

「何だよ、ってな…」

 流石に彼女は呆れるしかない。この状況がまるで理解できていない様であった。

「あのね。孝雄実、貴方が向かおうとしているのは何?」

「何って…フェリシャスの巣だろ」

 エレオノーラが言っても要領を得ない言葉である。彼女が求めた答えとは大分距離が在った。

「とにかく無謀に突き進まないで、いいわね!」

 サラは怒気を含めた言葉尻で話す。これには彼も聞かざるをえない。

 しかし、彼は未だにその声の主から早く来いとの催促が鳴りやまない。

『ギャウ!』

 ブラックがそこで一鳴きする。辺り一面に響き渡る声である。とても一虎と言う生物が出せる声量では無い。何処に隠れていたのか小動物が現れ出し、その場から逃げだしていく。


『虎が付いていたのか…』

 そう声が孝雄実には聞こえる。するとどうだろうか、フェリシャスの巣穴から雛鳥が現れたのだ。彼にはその声の主が目の前の雛鳥であると認識していたが、他の三人は違う。

「おい、出てきたぞ!」

「やるしかないわね!」

「そうね!」

 三人はそう声を合わせると武器を構える。事前に物理攻撃も効果ありと説明を受けているから、こうしている。

 しかし、雛鳥が近づいて来るとその大きさに圧倒される。何と生まれて間もない段階で三メートルは在るのだから…


「出けぇ…」

 彼はそう声を漏らす。

『当然だ、我は鳥類の王だ。これぐらいの大きさが当たり前なのだ』

 フェリシャスの雛は彼にのみ向けた言葉で話しかける。三人には声は聞こえていない。

「おい、ご主人様!何、ボーっと立っているんだよ!」

 マリアンが彼の前に出ようと動く。勿論二人も同じような行動に出る。

『少し邪魔だな…』

 雛鳥がそう言うと視線を彼女たちに向ける。それだけで彼女たちは動きを止め地面に伏せる。これに孝雄実が焦るが確りと説明を果たす。

『気を失わせただけだ。話しをするのに邪魔な故な』

「それで、俺を呼んだのはお前なのか?」

『そうだ。長い事待ったぞ。かれこれ一千年であろうか…』


 その言葉に孝雄実は驚かされる。

「一千年…」

『そうだ、呼ばれた者の中でも適格者が現れなければ我は生まれん。つまりはその年月掛けて漸く貴方が現れた』

 そう言うとフェリシャスの雛は翼を広げる。親鳥が巨鳥である。広がる羽根の大きさも尋常ではない。それに伴い一陣の風が巻き起こる。

「何を?」

『仮にも長い年月、あ奴らは我を維持してくれたからな。せめてもの礼をしたのだ。とは言え今頃はお前の造った穴で死んでいよう…』

 そう、雛鳥が言う様にこの瞬間餌を求めて動いていたフェリシャスは見事作戦通りに穴へと落ち、這い上がる事が出来ずにいた。その事に焦ると余計に魔力を消費してします。グルンビッグ三頭をペロリと平らげて直ぐにも拘わらず、消耗しきっていた。


『不思議そうだな。何故知っているのか、そんなところか?』

「そうだ、何故俺が穴を作製したと知っているんだ?」

『簡単だ。知っていたからだよ。この平原自体我の領域だ。そこで誰が何をしようとも分かる。おかしいと思わなかったか何故魔物が、いやフェリシャスが貴方方を襲わなかったのか』

 孝雄実はルチアの言葉を思い出す。『雑食で人も食べるが優先順位では最低である』と言う言葉である。

『あのフェリシャスはな、我の生命維持活動に必要な魔力を運ぶ言わば装置よ。この巣穴も効率よく長らえるように造られている。何分卵で居る場合多くの魔力を消費するからな。それ故にあのフェリシャスは一日中何かを捕食せねばならんのだ』

 この雛鳥はさらに言葉を付け加える。魔力を持つ者を喰わねば魔力を保持できないと。

「どう言うことだ?魔力は体内で生み出されたりはしないのか?」


『それが出来るのは人間だけよ。魔物は外部から魔力を取り込むしか方法が無い。魔物と名の付く物は須らく捕食し捕食される運命にある。この辺り一帯には既に魔物が居ない。それは貴方が現れたからだ』

 雛鳥がその様に言うと孝雄実が分からなそうに尋ねる。

「どう言う意味だ?俺が現れることでどうして魔物が居なくなる」

『先程も話したが、此処は我の領域だ。魔物から魔力を貰い、残り滓で魔物を生み出していたのだ。利潤の多い再生と言えばいいか。そうでもしなければ我は生きられない。しかし、これからは貴方がいる。であればもうこの場所も魔物も要らなくあるのだ』

 その言葉で精神世界での言葉を思い出した。


「つまりお前はここに居るブラックとホワイトの様な存在なのか?」

『正確には違うと言っておこう。しかし、概ね正解でもある。分かりづらいならば…貴方の魔力を戴き、我はそれに答える存在。虎は魔法を発現させるが我は貴方の移動手段となろう』

 これで漸く黒と白の言葉が繋がる。『従属させる』『移動手段』この言葉であった。

「俺はどうすればいい?」

『我に触ってくれ…』

 そう言われて彼は触れる。その肌触りは何とも言えない気持ちよさが有る。すると雛鳥の体が青白く輝きだす。

「これがそうなのか?」

『そうだ。貴方は少し疲れたとは思わないか?』

「いや、全く疲れたなんて感覚は無いぞ」


『そうか、貴方は今までのどの呼ばれた者の中でも優秀な魔力を持っているのだな』

 そう言うと雛鳥は小さくなり頭を垂れる。それは主従の誓いである。

『我はフェリシャスの王。今この時より貴方に絶対の忠誠を誓う!』

 そう言うと孝雄実の体に変化が起こる。手の甲に紋章が刻まれたのだ。さらに左には腕輪が装着される。

『これが我と貴方との誓いです』

 紋章は主従の証であり、腕輪は意思の疎通を、言葉を介さずにするというものだと雛鳥は話した。




「わかった。これからよろしく頼むミレム」

『ミレム?』

「そうだ。一千年待ったのだろ。俺に居た世界では千年間をミレニアムって言ったりするんだ。だからお前をミレニアムから略してミレムとする」

『成程、承知いたしました。唯今この時より我の名はミレムと致しましょう』

 ミレムは嬉しそうに羽を広げる。これは今までの感謝とこれからの事を祈念してである。

「それとなミレム。もう少し小さくなれないかな…お前がフェリシャスだと知れれば大変なことになると思うんだけど」

 彼には新たな懸念が生まれていた。ワレンスナの命令だが実際にはルチアの提案である。その雛鳥の抹殺を彼等は命じられていたのだ。


『成程、フェリシャスの絶滅ですか…まあフェリシャスとはあくまでも我が生命維持を行うための物でしかありません。つまり(あるじ)の造られた穴に落ちたのが最後のフェリシャスです。問題ありますまい。それと大きさは自在に変えられます』

 その言葉を聞いて孝雄実は安心する。此処までの相手をむざむざと殺したりはしたくは無いと思っていたからだ。

『それではあの人間どもの場所まで帰りましょう。印象を植え付けるためにも我に乗って戻る事に致しましょう!』

 すると彼を始め、全員がミレムの背に移動していた。都合のいい事に、羽毛が椅子の形になり気を失っている彼女等を固定している。シートベルトの様なものである。


『主、これを握ってください』

 ミレムが言うと手に綱が現れる。

『これは私を操縦する綱です。私と直接繋がりが有りませんが、主が思う方向へと綱を動かせば移動します。止まる、減速の場合は綱を引いて、速度を上げる場合はそれで叩いてください。それでは練習がてら参りましょう!!』

 そう言うとミレムは大空へと飛び立つ。美しい羽毛を持つミレムは太陽に照らされまるで錦糸が如く輝いて見えたのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。

 

 ご感想等お待ちしております。

 誤字脱字ありましたら御一報いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

               今野常春

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