第二十七話 こんなもんでいいか…
食堂でのいざこざから翌日のこと、孝雄実たちは冒険者ギルドにて打ち合わせのため赴いた。表面上は平穏を保っているが何時噴火するか分からない状態である。デンたちと会っても昨日の事を謝って以降会話が無いのがその証左である。余計な事を話して爆発しては叶わないということだ。現在案内された部屋には急造チームのメンバーしか居ない。それが重苦しい雰囲気を作り上げている…
「遅くなったな、それでは早速始めよう」
ワレンスナ支部長が室内へ入ってきた。後にはキャメルが続く。その雰囲気を察しては居るが彼女はお構いなしに始める。口では表わさないがその態度で彼女は意思表示しているのである。
「既に本隊の人数は確保し終わった。総勢六千名が動員される。そう大将はエル・ロームルン・サンド族長が務める。私は副将格で冒険者を率いる事になる。みなは明日の朝、日の出と同時に平原へと赴いてもらう。その後すぐに作業を開始して貰う。ここまでで質問は?」
彼女がそう言うとデンが手を上げる。それを頷いて発現を促す。
「フェリシャスを確認はしたのか?」
「勿論だ。後で話そうと思っていたが丁度いい。先行して偵察させていたがその者の報告では体長十五メートルだそうだ。かなりの大きさのようだ」
その言葉にざわつき出す。
「作戦に変更は無いんだな?」
「無い。コンドウ、君は昨日出来ると言ったな」
ワレンスナはそう尋ねる。全ては彼次第である。
「はい。必ずやりとげます」
孝雄実は何処か決意の籠った表情である。そう彼女は見てとった。
「宜しい、全ては君の活躍に掛かっている。頼んだぞ!」
ワレンスナは満足そうに頷いて彼に言葉を掛ける。
「途中までは馬車での送迎を行うが、そこからは徒歩で移動してもらう。コンドウは戦うな、全てを穴の作製に注いでくれ」
「分かりました!」
「それとだ、昨日何某かがあった様だが作戦中影響が無い事を私は節に望むがいいな?」
彼女の目が殺意の籠る目である。特にセイ、ルイへと向けられる。彼女等もワレンスナの恐ろしさを理解している為に大きく頷いて意思を示した。一応楔は打ったがそれが効果を保てるかは不明確である。全ては作戦が終わるまで持ってくれればいい、唯それだけである。
ワレンスナは話す事が終わると解散を宣言する。皆は再度食事でもと移動を開始したが、孝雄実がワレンスナを引きとめる。
「あのワレンスナさん、少し宜しいですか?」
その言葉に平の冒険者であれば跳ね除けられるが彼ではそうはいかなかった。予定も差し迫るがそんなものは後回しにでもできる。
「どうしたコンドウ、何か問題があるのか?」
丁度皆が出て行った後で、彼が呼びとめた為に此処に残るのはキャメルを含めて三人である。
「フェリシャスを穴に落としてその後どうやって倒すのでしょうか?」
彼女は敢えてそこまで話しをしなかった。説明ではフェリシャスの生態は話したが、倒し方は言わなかった。
「無い。倒し方は無い」
言いづらそうに彼女は話す。
「無いって、まさかフェリシャスが力尽きるのを待つとでも?」
彼の言葉は正鵠を射るものであった。
「そうだ。魔法も物理攻撃も効かない。そんな相手を倒すには自滅を待つしかない。あいつはな一日食事をしないとあっと言う間にやつれて行く。穴に誘い込んで五日ほどだ。それくらいであいつは死ぬ」
「それまではあそこで監視をするということでしょうか?」
「そうだ。あの穴に餌を入れない為にも周囲を囲んで監視を行う」
その様に説明されると彼は何かの許可を求めてエレオノーラたち追いかけた。勿論キャメルも彼等の後を追うと孝雄実に言葉を掛けている。
「宜しいのですか?」
「まあ良いだろう。コンドウのお陰で無傷で倒せる可能性が出てきたのだ。それくらいの要求は飲んでやるさ。ロームルン族長も納得されるだろう」
孝雄実の要求自体彼女が考える事が済んだあとでの話しである。であるならばどうしようとも問題は無い。自己責任であると彼女は考えている。
「それよりも後を追わなくていいのか。皆も待っているだろ?」
「そうですね。それでは失礼いたします」
そう言ってキャメルは孝雄実の後を追ったのであった。
翌朝、まだ朝日も登らぬ中城門前に集合をする。マリアンと姉妹との確執は何とか静まっている。
「皆朝早くに集まって貰い感謝する。既に偵察が指定した場所に出張っている。それを目印に事に及んで貰う。特にコンドウ頼んだぞ。デン護衛の任しっかりな!」
「はい!」
「おう任せてくれ!」
ワレンスナのデンに対しての言葉はあの二人にの事も含まれている。二台の馬車に乗り込むと主力としてではあるが、静かな出陣であった。
出発から一時間ほど馬車はドランデストハイムと平原の中間点間で移動して停車した。孝雄実たちは馬車を降りる。既に臨戦態勢で彼等は準備している。
「此処からは徒歩となります。馬車の運転ご苦労さまでした」
キャメルは御者へ労いの言葉を掛けて帰した。
「さてここからは俺の言葉に従って移動して貰う。コンドウと嬢ちゃんたちは俺たちの後ろだ。キャメルお前さんもそうだ。先頭はゼーファ、ロインの順でその後ろにセイ、ルイ最後に俺が続く。間違ってもコンドウに攻撃させない様にな…」
「おいデン、つまらないギャグは要らねえぞ…」
「……」
彼にしては会心のギャグであったと自負している。場の雰囲気を盛り上げようと彼なりに努力した結果である。
「まあいいじゃねーか出発するぞ!」
進みだしてからほどなくして動物たちが現れ始める。当然全てを倒してはいかない。害の無いもの攻撃してこない物は無視して進む。しかし、虎が二頭も睨みをを聞かせていればそうそう襲おうとする動物は居なかった。勿論おバカな動物も存在する。その場合は仕方なく倒されてもらう。
「それにしても魔物が出無いな…」
「大方フェリシャスに食われたのかもな…」
先頭を行く二人は警戒しつつもそうやって話しながら進む。彼等とて緊張がピークになり始めている。もうすぐ予定ポイントに到達するからである。
一緒に移動するとはいえデンたちと孝雄実たちとは人三人分程の距離がある。別に何かがあるわけで離れているのではなく、付いて歩くと戦いにくいということからである。そこでは彼等も同じような話しをしている。
「何か前と違うよな…」
「そうね。前はもう少し和らいだような空気を感じて居たわよね」
孝雄実とエレオノーラはそうやって話しながら歩く。最後尾はマリアンが確りと見張りその前をサラとキャメルが歩いている。そのキャメルは自身の魔力でもって通信を行う道具で、逐一本隊に居るワレンスナへと報告している。
その後も魔物は現れなかった。元来動物と魔物の境界は魔力を持つかどうかである。同じ見た目であろうとも魔力が有れば魔物なのである。これはあくまでも人間の定義である為に須らくそうだとは言い切れない。唯孝雄実たちが遭遇した鬼、ゴブリン、オークは完全に魔物である。
とうとう穴作製ポイントに到達する。そこには二人の兵士が待っていた。
「お疲れ様です!!」
二人は彼等の姿を見つけると元気よく挨拶をする。それにはみんなも労いの言葉と共に挨拶を返した。
「さて、それじゃあ頼んだぜコンドウ!」
「俺たちは周囲を見張る。安心して集中していてくれ!」
ゼーファとロインはそう言ってこの場から離れる。
「近くで見ていたいけれど流石に無理なようね。頑張ってね」
「終わったら確りと教えてね」
姉妹も控えめに言葉を掛ける。
「此処までは俺たちの仕事だ。無事に辿り着いたことで全うしたと考えている。次はお前さんが仕事をこなす番だ。頼んだぜ…タカオミ!」
デンは名前で彼を呼ぶと背中を一叩きする。そうやって彼なりに気合を入れたのだ。
「それじゃあ私たちも少し離れて周囲を警戒するわね」
エレオノーラたちは簡単に言葉を掛けて離れて行った。別に薄情とかでは無い。単に今回の要求が彼には簡単なものであると考えての事だ。此の場には進捗状況を知らせるべくキャメルが残る。
「さてそれじゃあやりますか。ブラック、ホワイト頼んだぜ!」
孝雄実が言うと二頭は呼応するように鳴いた。
孝雄実は例の如く頭に三角フラスコの様な穴を思い浮かべる。今回は大きさが大きさだけにより細かいイメージが必要だった。特にその大きさをどうもっていくかである。
十メートルの直径の円を先ずは掘り下げる。そう頭で思い浮かべて構えるボウガンを地面に着ける。すると徐々に、ボウガンの五メートル先で丸い円が描かれて地面が沈んでいくではないか。凄まじい音と共に筒状に地面が沈む。勿論土は掘り返されるので周囲に土が盛り上がる。それでもその速さは人力の比では無い。キャメルは急いでワレンスナへと連絡を取った。
『支部長、支部長!』
『どうしたキャメル?』
『直ちに本隊を出して下さい!』
『どう言うことだ?何かあったのか?』
『違います。コンドウさんの魔法が凄すぎるのです。既に五メートル近く掘り下げています!』
土が盛り返される音が大きくてキャメルは大声で話しかける。それがワレンスナには焦った様にも聞こえるのだ。
実際には焦ってはいないが、それが分からないワレンスナは、その事態を深刻に受け止めて大将であるロームルンへと至急出陣するよう要請を出した。
これは直ぐに家令のルチアが承認するようにロームルンへと促す。彼は参謀的な立場で参戦している。エルサンドの軍は基本ロームルンの私兵集団である。元々が異なる民族である為に軍の編成なども事なっている。ワレンスナは直ぐに出陣するとキャメルへ返答して連絡を終わらせた。
『すげえぇ』
周囲で見る者の声である。周囲を警戒はしているがそれでも孝雄実の魔法は目に入る。それが余りにも常軌を逸していた。あくまでも彼等の常識と言う概念の中でである。土元素は仕様によって大きく時間を要する詠唱である。それをお構いなしに、絵的にはボウガンを地面に付けるだけで掘っている様に見えるのだ。
「これがタカオミの魔法か…」
デンはその光景に驚いている。
「こんなもんじゃねーよ。ご主人様は!」
偶然にも隣に居たのはマリアンであった。彼女は主人の彼が褒められるのが嬉しいのである。デン以外にも異口同音の言葉が口にされる。
孝雄実は凡そ十メートル同じ大きさの円柱を掘った。此処からが至難の業である。どうしようかと悩む。当初は一気に三十メートル同じ大きさで掘り、そこから傾斜を付けて行こうかと考えたがその考えは破棄した。
風船を膨らませる様に、傾斜を始めから付けて、拡大させる方針へと変えたのだ。一度悩んだせいで作業が止まったが再び始まればノンストップである。再度イメージを膨らませ、ブラックとホワイトが魔法へと変換して土を掘って行く。
そこで、問題が生じる。疑問に思ってのはマリアンであった。デンやエレオノーラでも分からないであろうとキャメルに問い掛けることにした。
「エレオノーラ、少しキャメルの所に行ってくる」
「どうかしたのかしら?」
「ああ、あの土どうするのかなってさ」
彼女が指さすのはこんもりと盛り上がる土砂である。フェリシャスを穴に誘い込むのであればあのような土は邪魔な存在である。それを思ったからこその行動である。
「そう言えばそうね。任せたわ、マリアン」
エレオノーラもマリアンの言い分は正しいと考えてキャメルのもとへと送り出した。
「キャメルさん」
「あら、どうしました、マリアン?」
「聞きたいんだけどさ、あの盛り上がった土どうするんだ?」
「どうするとは?」
今一要領を得ないと首を傾げるキャメルである。しかし、マリアンの指摘にハッとさせられるのである。
「だからよ。穴に落とすのなら周囲にある土が邪魔になるんじゃないかなって思うんだよ」
「!…そう言えば……少しお待ちください!!」
彼女は直ぐにワレンスナへと連絡を入れる。既に二十度は報告を入れている彼女である。魔力もかなり消費し始めている。
『どうしたキャメル。もう出来てしまったとか言わないよな?』
『いえそうではありません。一つお伺いしなければならない事が起こりまして…土です』
『土?土がどうかしたのか?』
ワレンスナも今一分からないと行った感じで答える。現場でその光景を見なければ無理なことであった。以前、人力でやった場合は掘った土を別の場所へと移したり、城壁を造る材料にしていた。しかし、それを完全に忘れていた。
『凄い勢いで掘られていますが、同時に土がどんどん地面を盛り上げています。此のままでは弊害になりかねません!』
最後までお読みいただき有難う御座いました。
中々上手い事物語が進んでいないと感じる今野常春です。何とかこうにか書き続けておりますが……今が踏ん張りどころですかね。
ご感想等お待ちしております。
誤字脱字等ありましたら御一報いただけると幸いです。
それでは次話でお会いしましょう!
今野常春




