第十八話 誕生、ロースロンド男爵家!! そして新たな旅立ちへ…
孝雄実たちはサラの実家フロランス家の屋敷に招待と言う形で行動を共にしている。オリマッテの場所からは三日が経とうとしている。あと半日も掛からず屋敷が見えるとサラは話す。
「それにしてもさ、何故この辺りは民家がないんだ?」
孝雄実はそれが不思議であった。彼の貴族と言う認識は領地が在ってこそと考えているからである。
「孝雄実それは間違いよ。中には金銭で貰う貴族もいるのよ」
「えっそうなの?」
「何もすべての貴族が領地を持っているのも間違いよ。この国の行く末を誰が決めるのか、それは王様なのよ。で、王様を補佐しているのがまた貴族なのよ。そう言った人間には領地よりも金銭にしないと国の政に集中できなくなるでしょ」
「まあエレオノーラ殿の言う事は在ってはいるが、当家に限っては違うから…」
サラがそう言うと愁いが在った。その両方でもなく、お情けで爵位を与えられているのを彼女は確りと認識しているからである。
「ま、まあいいじゃないかそんな細かい事!今は見事ゴブリンを倒して意気揚々と凱旋するんだから!なっ」
マリアンは何とか空気を変えようとしたが空振りに終わる…
一行は程無くして屋敷へと辿り着く。そして、一行の目に映るのは信じられないものであった。
「あれは王家の紋章…よね?」
エレオノーラは嘗て習った家紋を思い出す。目の前には多くの馬車と共に一際目立つ馬車が在り、そこには王家らしき家紋が克明に入っていた。
「確かにあれは王家の家紋ですね…しかし、何故このような場所に?」
サラも訝しんだ。そもそもここには来るような事はないはずである。そう考えていたのであった。
「サラ!」
「兄上?」
屋敷から一人の男が走り寄ってくる。彼女は兄と呼んだ。その後ろには数名の騎士と貴族の人間が続いている。
「良く戻った。話しは聞いたぞ!」
そう言って彼は妹を出迎えた。
「貴方がサラ・フロランス殿で宜しいのですかな?」
男たちは追いつくとサラにそう尋ねる。
「はい、私がサラ・フロランスで御座います」
そう言って貴族の令嬢に相応しい挨拶をする。此処は彼女への教育と努力の賜物である。
「何とも確りしておりますな…失礼わたくし、カルトドン・グロット・カールセスと申します。この度は国王陛下のご命令によりまかり越しました」
そう言うとカルトドン以下後ろに控える騎士も同様に彼女に対して膝をついて礼を取る。これには彼女が慌てる。
「えっ、なんで、何でしょうか?」
「まあ無理もありませんな…」
一つ咳払いをして恭しく後ろの男から一つの筒を受け取る。それを開いてカルトドンは読み上げる。
「汝サラ・フロランスに命じる。ただいまを持ってロースロンドの家名を与える。ついては男爵位を授ける。ドットゥーセ王国フェーバル王…以上が国王陛下よりの沙汰で御座います。誠におめでとうございます」
そう言って深々と彼は頭を下げるのであった。しかし、何時まで経っても彼は頭を上げない、そこでサラはこの後にする形式を思い出す。
「あ、有り難く拝命いたします!!我が命は国王の為に!」
そう言って膝をついて答礼する形になった。これが正解であったのかカルトドンは頭を上げる。
「誠におめでとうございます。つきましては貴方の名はサラ・ロースロンド男爵となります」
そう言って羊皮紙を手渡す。
皆は突然のこと故に状況が飲み込めていない。しかし、いち早くその事態に気が付いたのはサラの兄、ドライアトであった。
「お、お待ち下さい、ご使者殿!サラが男爵と為るからには当家は如何なさるおつもりでしょうか?」
彼には珍しい事に幾らかの予測が出来ていた。しかし、どれもが厳しい結果となっていた。
「ふむ…恐れながら国王陛下はこう仰っておられる。フロランス家の問題は早急に解決すべき案件である。家宝を持つが故に存続を許されておったが、それも限界である、と」
そこまでで話しを切るとドライアトは震えだす。
「ついてはサラ殿が新たな家を立てられた。故にフロランス家の当主にはその正当性を主張するものが無くなる訳でありますな…」
「なっ、そ、それは勝手に!」
カルトドンはまるで他人事のように淡々と話していく。それが余計に彼を苛立たせる。
「勝手?勝手とはどういうことか!そもそも貴殿のフロランス家はどれだけ迷惑をかければ気が済むのだ!」
カルトドンは今までにない怒気を見せる。その事でドライアトは怯む。
「良く聞きなさい。本来、前当主の時点でお家取り潰しが検討されていたのです。それをサラ殿が現れて存続が決まった。それで確りと経営できていればよかったのです…」
そう言うと彼はさらに後ろに控える騎士から紙を受け取るとドライアトへ渡す。
「それはブラスト辺境伯の子爵家となって以後の報告書です。何ですかこの滅茶苦茶な報告書は!一体何にどれだけ使ったか、と言うのが分からないでは無いですか!私は財務を担当しております故にこの管轄なのです。私の部下が何度となく是正要求をしたにも拘わらずそれを怠った。加えてブラスト辺境伯からも救援を求める話しが上がって来ているのですよ。故に国王陛下は決断なされた…」
そこで今一度、彼は冷静さを取り戻すべく深呼吸をする。
「ただいまを持ってブラスト辺境伯のフロランス子爵家はお取り潰しとなります」
そうカルトドンが宣告すると後ろに居る騎士がドライアトの両腕を拘束する。
「な、なんでだ!これは!俺は一体どうなる!!」
暴れようにも屈強な騎士である男二人に腕を押さえられてはどうする事も出来ない。
「流刑となります。貴方の家族もろとも流刑地へと送られます」
そう言うと彼はサラへと向く。
「ロースロンド男爵に置かれては、さぞ辛いことと存じます。しかし、これも貴族の習い。決して情を挟まれませぬ様、御忠告申し上げます…」
これは心配している様に見せての脅迫である。少しでも同情すればどうなるか分かるよなと、彼の目は訴えているのである。
程無くして刑を執行すべく、サラの家族は馬車へと押し込められる。とうに見放した家族であったがそれでも一応の恩義は感じている。今回流刑となるのは前当主ヘブライアトとその家族と言う括りである。 そこにはドライアトも含まれ、その家族も同様であった…
サラは家族の顔を見る事はしなかった。見れば決心が鈍る為である。これで連絡が取れるのはカスミッカ男爵家へと嫁いだ姉だけである。
孝雄実等は蚊帳の外であったが、貴族社会の生々しい現実を目撃してしまったのである。そこで感じる事は、貴族って奴は……と言うものであった。
「よく耐えられましたな。私としても忍びない事とは言え、今回の処分は相当軽いものであります。決して軽挙に走らぬようご注意ください」
そう言ってカルトドンはこの場を立ち去る。数台の馬車はサラの家族が乗る物であったのだ。
「お嬢様…」
屋敷へと入るとフロランス家の使用人が待っていた。この家は今からロースロンド家の屋敷として変わる事に為る。
「皆は無事なのか?」
「はい、我らはお嬢様のお世話をせよとのお達しであります」
サラは男爵家の当主となった。この事で、ブラスト辺境伯の陪臣からは外されることに為る。主君は王家である。以前の子爵とは爵位こそ下がったが、格としては上がったと見做される。領地はこの屋敷と周辺の庭程度である。加えて金銭で支払われる形となる。
「ならば皆はそのまま職務に励んでほしい。解散だ!」
サラはそう宣言すると使用人を戻す。
サラたちはそのまま彼女が生活している部屋へと向かう。孝雄実は躊躇ったが彼女はそれに気にすることなくからを向かい入れる。
「これからどうすれば…」
そう悩む彼女を助けるべく、戦力にはなりそうもない彼等がどうにかしようと頭を悩ませる。
「でもこれにはサラの活躍を持って男爵位を認めると在るわね。と言う事は冒険者でもやる?」
エレオノーラはカルトドンに渡された物を読んでそう話す。
「しかし、サラは男爵様だぜ。いいのかな、冒険者なんてやっちゃって?」
「構わないよ。私の姉も未だに冒険者をやっているし。当主がやってはいけないなんて決まりはないからね」
しかし、異例である事には間違いが無い。結局のところ近場に居るオリマッテに相談することに為るのである。カルトドンから渡された内容をこの家の執事と共に検証すると以下の事が書かれていた。
先ずはサラがロースロンド家の創始者である事。カラドヌルクは本来、ミリャルト・フロランスが持っていただけで、家を存続させる理由にはならない事。つまりサラは男爵家の当主として正当性を認めるが、子孫はその限りでは無いと言うことに為る。
男爵には領地と毎月金銭を支払う事。サラに対しては貴族の義務を履行し、且つ自由とすると書かれていた。
「じ、自由ってなんだよ…」
「書いてあるまんまってことね」
「どう言うことだ、エレオノーラ?」
孝雄実たちは三人で話し合っていた。サラと執事は別に話している。
「恐らく、サラには本当に冒険者として、という道を与えているのかもしれないわね」
一方のサラたちも同じ結論に至っている。
「お嬢様この度の処置、わたくしにも多分に責は御座います。であるにも拘らず、こうして任せるなど…」
「それは違うお前が居たからこそこの程度で済んだと私は考えている。だから気にせずにこの家を任せる」
「お嬢様何かをなさるのですか?」
サラの言葉に彼はそう尋ねる。どう考えても完全に任せるなど在ってはならないのであるが、そう言う以上彼女は何かを考えているのだ。
「うん。私は幼いころからカラドヌルクの継承者、使用者として生きてきたし、教育を受けて来た。領地経営や、貴族としてのなんたるかは分からない。恐らく王国側もそこは期待していないだろう。であれば私はこの腕をもって冒険者になるつもりだ」
サラの決意は固い。元々彼女は家を出る決意を固めていたのだ。今回のゴブリン討伐の功績を持って、姉の様に家との縁を切るつもりでいた。故に厳しいと考えられる討伐にも文句を言わずに来たのだ。そしてこの執事はサラの考えを理解していた。
「成程、承知いたしました。サラお嬢様のお考えに従いましょう。このロースロンド家の事はお任せ下さい」
そう言うと彼は深々と頭を下げた。これはフロランス家に仕えて初めて心から行った事である。彼も心の中では見限っていた一人である。
「しかし、当面はどうなされます?彼の三名に着いて行かれますか?」
「そうだな…そうだ、これを見てくれ」
サラはそう言うと詠唱破棄で指先から火を発現させる。これに彼は驚いた。
「こ、これ…は、詠唱破棄…」
「そうだ。これはな、コンド殿が私に教えてくれたのだ。今彼はオリマッテ男爵のもとで暮らしている。それにこれからお願いに行かねばならない事もあるし、どうせだからそこで暮らしてもと考えている」
「そうで御座いますか…この家は既にサラお嬢様の物で御座います。如何様にされようとも私に文句は御座いません。唯あえて申し上げるならば、なるべく早く後継ぎを…」
冗談めかして言う男に彼女は顔を赤くする。当然ながら当主ともなればその事に行きつく話である。
滞在期間は一日で終わった。結果として、サラは自分の生まれ育った家で、家名と爵位の変更を行ったに過ぎなかった。使用人には安心するようにと話し、自分自身のこれからを話した上で孝雄実たちに着いて行くことにしたのである。この事は念のためにと執事から王宮へと知らせを出している。今までこのような報告すらまともに出して無かったのである。
四人の表情は半分に別れる。孝雄実とエレオノーラはどうしようと言う顔で在り、マリアンは嬉しそうにサラは晴れやかにこれまた嬉しそうな表情であった。
約四日の道のりを経て彼等はオリマッテの領地へと戻る。九日間出ていたにしては帰って来たなと思えるほどに孝雄実はここに愛着を持ち始めた様だ。
「お帰り、話しは既に聞いている。先ずは家に戻り確りと休みなさい。明日、時間を設けて話し合う事にしよう」
一直線に期間の報告を行うべくオリマッテの屋敷へと報告へ向かった一行。しかし、いつどこで知ったのか、事の概略は諳んじているかのような口調で彼は話した。
「あー帰って来たな…」
住めば都と言う言葉が在る。孝雄実は日本で暮らしていた家に比べれば相当ひどい造りである。だがそれでも今の方が良い、と胸を張って言える。
「それにしても良かったのかサラ?」
「構わないわ。私ね、どちらにしても家を出ようと思っていたのよ」
サラは今までの話し方を止めて、彼女本来の話し方へと切り替えている。
「でも思いきったよな。所でさ、冒険者って言うのはどう言った物なんだ?」
孝雄実はエレオノーラに尋ねる。
「そう言えばその話ってしていなかったわよね。この国、ドットゥーセは幾つかの階級または職種とでも言えばいいかしらね。先ずは国政と、領地経営を司る貴族というものね。その下は平民と一括りだけれど、商人、職人、農民と大まかに分ける事が出来るわ。それとは別に軍事、船舶等に従事する人たち、さらには冒険者と言うのが在るの」
そう言ってエレオノーラは説明を始める。彼女自身もオリマッテの家臣的な立場であるが、元を正せば彼女も冒険者である。当然ロドムらもである。これは貴賎なく就ける職であると説明する。貴族は商人、職人、農民には決してなれない。逆に、貴族以外の者は相当な理由が無ければ貴族になどなれるわけがない。それがこの国の社会システムである。オリマッテの事を出しても陪臣貴族…貴族が貴族に取り立てる…事が上げられる。王国側から取り上げられる事はほぼあり得ない、と考えて間違いないのだ。
冒険者には唯一であるが貴族も平民もその他、お構いなく誰もがなれる。加えて、領民は移動制限が設けられている。しかし、それを自由に行えるのが彼等である。単独であれ、グループであれ必ず冒険者ギルドで登録を行わなければならない。ロドムをリーダーに、祝福の牙というグループ名を付けて行動している。
「成程…」
孝雄実の中には少し恥ずかしい名前を聞いて、悶えそうになった。
「どうしたんだ、ご主人様?」
「い、いや何でもないよ…」
「???」
マリアンは不自然な態度に為っている孝雄実を心配しているが、どうにも分からないと言う感じである。
「話しを続けるわよ。冒険者は命の保証が無い代わりに、平民階級では手に入らない金銭を得る事が出来るわ。それに貴族でも金銭に厳しい家もあるわ、言いにくいけれどサラの家の様にね…」
「気にしなくていいわ、エレオノーラ。私の姉も冒険者として活動していたわ」
本当にどうでもよさそうな顔でサラは話す。
「いいな、冒険者!」
マリアンも生まれてから賊であった。気が付けばボスへとなっていたが、彼女は賊以外の事を知らないのだ。それ故に自由に行動できる事に憧れが在るのだ。
「孝雄実は興味あるの?」
「まあ、いいかなとは思っているよ。それにさ、この魔法を成長させるには常に行動している方がいいとも思っているしさ」
これは精神世界で黒と白が常に言っている事である。それ故に魔法を使用できない状況は好ましくないのである。
「それじゃあやってみる?」
エレオノーラは軽い気持ちで孝雄実に投げ掛ける。この言葉が後に大きく影響するのである。彼女を覗く場冒険者と言うのも悪くはないと考えている。加えてこのメンバーでと考えれば悪くはない戦力である。いや、最上の戦力と考えても良いだろう。全員が魔法を使用出来、攻守に優れた者が居る事を考えればである。
孝雄実は彼女の言葉に大きく頷いた。この世界では未だに『呼ばれた者』、お客様であった。しかし、遂にこの世界での職を自らなろうと決意した瞬間であった。
最後までお読みいただき有難う御座いました。
サブタイトルに在りますように、ここで場面を変えようと考えております。即ち、第一章(完)の様なものですね…
少し無理やりな設定かとも思いますがご了承くださいませ…
何分異世界での事、制度や等、なんや等は全て歴史上の事とは一切違うことであります。
ご感想等お待ちしております。
ご指摘いただいた箇所はこれを投稿した後に変更する予定であります。
それでは次話で御会い致しましょう。
今野常春




