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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
異世界でするべき事、その立場って…
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第十七話 いざ出発!…の前にサラの家を学ぼう!!

 サラ・フロランスはとある話しをロットロン領へと赴く前に聞かされていた。

「魔法ですか兄上?」

 彼女が暮らすとある一室で、彼女は目の前に座るドライスルから話しを打ち明けられる。今回のゴブリン討伐に際し、ブラスト辺境伯への要請がオリマッテ・ロットロン男爵よりあった。しかし、出したくとも賊討伐により各領内では再編成等で送り出す事が出来なかった。そこでブラストの指名により、彼女に白羽の矢が立つ。理由はカラドヌルクの使用者であるからだ。この家、残念ながら子爵家とは言え先の戦闘には参加していない。と言うのも領地経営が出来る優れた者がいないのである。


 父であるヘブライアトにしても、ブラストは無能という烙印を押している。子爵家であるのは単にサラのお陰である。だから、領地はごく僅かで、領民もこの屋敷で働く者だけである。後は子爵家に相当した金銭を与えられるだけであった。それが今のフロランス家である。


「そうだサラ。ブラスト辺境伯が仰るには先の賊討伐で、一騎当選の如くに活躍した者がいて、そのものが魔法を使って勝利を収めたのだそうだ」

 これは周囲の注目を孝雄実に集めて英雄を生み出し、この度の失態を消そうと言う魂胆のもと話しが作られているのだ。その手紙とはまさにそれであり、噂好きな貴族などが好き勝手に流してくれる事を意図して作成されたのである。

「それは噂でも私も聞きました。それとこの度の話しどう繋がるのでしょうってまさか!」

「そうだ、これからサラが向かう領地にその男が居る。彼の名はコンド・タカオミと言う名だそうだ」


 ドライスルの話しを聞いた後、合流期限まで時間が無いと判断した彼女は、直ぐに荷物を持って移動を開始した。勿論カラドヌルクに乗っての移動である。乗っているサラは安心安全の移動である。僅かな魔力を与えることで、行き先まで自動で走ってくれる優れものである。さらには周囲の安全にも考慮され、衝突事故などは過去零件である。そのくせ、他の馬よりも四倍の速度で移動できるのである。


 



 最初はドライスルの話しは全く信じていなかった。と言うよりも、彼女は家族そのものを見放していたのだ。家名と歴史しか誇る物が無く、サラが継承者と為るまでは周辺の農家と変わらぬ生活としていたのである。そのくせ、お情けとは言えブラストから子爵を与えられると威張り出す始末である。

 前に書いたが、サラがカラドヌルクに触れた云々と言う話しはヘブライアトとこのドライスルが流した噂話である。所謂見栄の為にそう言った逸話を流しているのだ。彼女を驚かせたのは商人への借金の片として質入れされそうになっていたと言うから驚きである。


 では借金の金は何処へ?金額を聞いた時彼女は目が飛びさんばかりであった。しかし、そのような鐘があれば生活がもう少し贅沢に為っていてもと考えたのである。勿論彼女の教育費に幾らかの金が使われている。しかし、それは極僅かでヘブライアトやドライスルら家族の交際費として消えていたのである。


 その話は領地を持つカスミッカ男爵家へと嫁いだ、歳の離れた姉から仔細詳しく聞かされたのである。 彼女もヘブライアトらフロランス家を見放していた。しかし、それには理由が在り、彼女も何とか頑張って家の為にと尽くしてきた経歴が在るのだ。家宝を継承出来ずとも、それなりに冒険者として食っていける実力が在った彼女は、適正年齢に為ると家を出て冒険者として世界を回る事に為る。そこで得た金銭をその当時からあったとされるフロランス家の借金返済へと充てていたのだ。

 見事にあと少しと言う額まで減らす事ができた。それは奇跡に近いことである。だが、それが縁で嫁ぎ先が決まった事は彼女にとって僥倖であった。


 しかし、その話が無い頃。実家に久しぶりに帰った彼女が見たものは、新たな商人からの借金返済の催促であった。そう、借金が減ったのをいいことにヘブライアトは借金をしていたのであった。

 これを見て彼女はキレる。それはもう盛大にである。以後その場で縁切りを宣言すると、借金の話し等を全て目の前に居る商人にぶちまけて家を後にしたのだ。


 こんな家が長続きしているのも(ひとえ)にカラドヌルクを所持しているからである。借金漬けでも取り立てが厳しくないのもそれが理由で、国から商人らへと言い渡されており、別途支払われていたからである。

 だがそれでは根本的な解決とはならなかった。ヘブライアトは禁じての家宝に手を付けたのである。一度良い生活をすれば中々抜けだせないもの。過去の栄華を…なんて言葉が在る様に、昔は良かったと言える贅沢を経験していれば、それに近付けたいと考えてしまうのが彼であった。


 だがそれには王家が激怒する。あれほどフォローしているにも拘らず、この体たらくである。現国王フェーバル王はフロランス家のお家取り潰しを示唆した。その話は瞬く間に周辺に伝播する。これは他の有力なフロランス家へと話しを伝える過程で漏れ伝わった結果である。

 それに焦るは当の本人である。ヘブライアトであった。幸い、その年に三歳となる子供、サラが居た。 祈る様に前倒ししてサラをカラドヌルクへと近付けたのだ。これが、まさかの奇跡を起こす。

 これが事の顛末だ。成長し、姉からこの事を打ち明けられたサラは以後壁を隔てて家族と接することになった。


 本来、正当なフロランスを名乗る事が出来たにも拘らず、どうしてブラストの陪臣となったのか。それは簡単な話しであった。侯爵家に同名のフロランス家が居たからである。軍事に関してはこの家なくしては成り立たない。軍務大臣職を歴任する家柄であった。王家は当然此方を重用していることは明らかである。家宝カラドヌルクが在るだけで、お情けに爵位を与えられるフロランスとは訳が違うのである。しかし、その反面貴族は見栄も大事な要素の一つである。故に近くに居たブラスト辺境伯の家臣として編入させることとなったのだ。

 ここでもう一つ、一番重要な問題があった。『新たに拵えた借金』である。ブラストは王家の命令で、所謂『徳政令』を商人へ発した。当然フロランス家への分だけである。勿論商人は反発する。そこでブラストは許される限りの救済を行う。貸付金の三割を保証すると宣言したのだ。


 たかが一子爵家とブラスト辺境伯は考えていた。所がこの家は異常であった。確かに商人単体からの額はそれほどでもない。しかし、国内中の商人から金を借りていたのだ。保証金の額もうなぎ登りである。あっと言う間に辺境伯が如何こうできるレベルを超える。堪らず彼は王家に支援を求める。一切合財の事情を彼は王宮にて王に奏上する。これではババを引かされた哀れな辺境伯である。王も呆れて物が言えなかった。元は王の家臣であるヘブライアト。それでも領地を持てばその領内では彼が王である。報告義務は生じるが詳しくは査察が無いのが現状であった。


 結局、その借金は王家が『肩代わり』することになる。ブラストの家臣となったヘブライアトは僅かな領地には不満でもそれなりの金銭を得てホクホクである。これで贅沢が出来る。そう思った矢先、彼は今までの現状を鑑み、引責辞任の格好で息子に家督を譲ることに為る。即ち、自分で使用出来る金銭は零になったのだ。ドライアトにはブラストと王家に対し毎月報告書の提出が義務付けられた。破れば即取り潰しである。

 聞かされた当初は真っ白になる親子、それでも存続出来るだけましと従うことに為る。以後借金は正当な理由がなければ、商人が受け付けなくなる。これもブラスト辺境伯が商人に与えた権利である。貴族の求めに応じて金を貸し続けていては商人が路頭に迷うことに為る。彼等と商人は切っても切れない間柄である。


 身分が在るとはいえ、ある程度の保護を行わなければどうにもならないのが現状であった。そんな中ブラストに尽力した商人が居た。不満を抑え、どうにか物流を支えていた者である。それがオリマッテである。全てが終わった後彼の手腕を見込んで商人から貴族へと引き上げたのである。言うなればオリマッテが今の地位に居るのはフロランスのお陰であるが、それは別の話しである。




「なんか、俺行きたくないんだけど…」

 サラは三人に家の話しをしていたのである。目の前の彼等は陰鬱な表情に為っていた。

「ザ、ザ…ザダァー!グドヴ、ジダンダバー!!」

 マリアンは別で号泣である。彼女とて人には大っぴらに言えない生涯を過ごしているが、サラの人生はまた過酷なものであったのだ。エレオノーラは此処が二人を結びつけているのかもしれないと思った。それにしてもと、彼女には運が在るとも考える。一歩間違えば奴隷に為っていたかもしれないし。運が悪ければ死んでいたかも知れないのだ。


「そう言わずに来てください、孝雄実殿!それとマリアンそれほど泣く様な話しでもないだろ…」

 彼女に抱きついて泣くマリアンは、既に彼女の着ている服を駄目にしている。それでも彼女は気にすることなく泣き続けるのであった。

「でもブラスト辺境伯様も思いきった事するわね…」

「案外計算のうちだったりしてな?」

「縁起でもない事言わないでよ…」

 そうは言うがエレオノーラにしても自身が無かった。まさか、ゴブリンを餌に彼女に爵位を等と誰が考えるであろうか…




 話しは遡る。オリマッテがブラストに救援要請をする遥か前からの事である。軍務大臣を務めるアレンゼントル・デレッロ・ストランデス・フロランスはフロランス侯爵家の当主である。フェーバル王の娘を嫁に迎えて一門に籍を置いている。そんな彼は目の上のタンコブである。フロランス家の処遇をどうにかしたかった。はっきり言えば、あの家の借金のせいでフロランスと名のつく家は迷惑しているのだ。彼とて借金取りが家に押し掛ける事があり、毎度困っているのである。

 それは商人の責任となる話しではあるが、声を大にしては言えない事でもある。それ故に怒りがいつ爆発してもおかしくないまでになっている。


 この日は義父でもあるフェーバル王の呼び出しで王宮へと赴いていた。彼は妻のレテシィアを同伴させての登城である。全てをスル―出来る権力で時間を要することなくフェーバル王との対面である。二人は特別に謁見のまではなく、家族が話し合う、今の様な部屋へと案内された。

「待たせたかの…」

 静かにドアを開けて入ってきたのはフェーバル王その人であった。すかさずアレンゼントルは臣下の礼を取る。

「よいよい、此処ではそのような事はせんでもよいわ」

 そう言って手でも示して止めさせる。

「お父様お話しってなんですの?」


 彼女、レテシィアは直情的な性格である。それ故に言い回される事が大嫌いであった。娘とは言え既に四十を超える。全く変わらない娘を見て顔を綻ばせる。此処は王とは言え父でもある故の仕草である。

「相も変わらずだな、レテシィア…何、そろそろ彼のフロランス家の処遇を考えようと思ってな」

 そう言うと二人も見えてくる話しである。

「お取り潰しに為さりますか?」

 慎重にアレンゼントルは尋ねる。一貴族家を潰すのは陪臣であろうと難しい問題である。貴族は血統を重んじる。思いもしない所で信じられない家系と繋がるなどよくある話である。それゆえに慎重になるのだ。

「うむ。あの家の娘、サラとか言ったな。今年で二十歳を迎えると言う。あの娘を当主として新たな家を立ち上げてはどうかと思ってな…」

 フェーバル王は家名とか歴史などはそこまで重視していなかった。ただ、フロランス家と言うのは複雑であり、カラドヌルクを持つ家が正当な家であると名乗る事が出来るのだ。だが、国政に立って考えるとアレンゼントルの家を正当なフロランス家としなければ対外的に示しが付かないのである。


「確かに妙案ですな。しかし、口実が在りませんな…」

 この時点で、ブラストの諸侯軍救済策である深い森の賊退治は報告済みである。前もって、軍を編成できるだけの領地を与えていれば口実は幾らでも作る事が出来た。参加しなければ陪臣とは言え義務違反を口実に出来る。負ければ貴族としてのけじめとして処罰できる。難癖と言われてもどうにでも出来るのだがそうはいかなかった。

「うむ、それよ。鬼が出たと聞いてから幾らかの計画を考えたがどれも考えるだけ無駄であったわ」

「確かに…しかし、この問題はブラスト辺境伯の領分ではありませんか?」

 形式は彼の家臣である。それ故にいかに王とは言え簡単には手が出せないのが現実である。


「所がだ、アレンゼントル。そのブラスト辺境伯、レイバーグ・コレスタント・ブラストがそろそろ何とかして欲しいと泣き付いて来たのだ」

 これはフェーバル王が打った布石であった。確かに徳政令で苦しんだブラスト辺境伯。それを救ったのが王家である。それは確かに仕方のないものである。だが以後の事は全て辺境伯が責任を持って対処していたのだ。

「成程、漸く口実を一つ得たと言うわけですな…」

「うむ。レイバーグも我が家臣。その嘆願故に彼の者を救ってやらねばならん。であれば陪臣何ぞ、どうにでもなれだよ」

 そう言って二人は笑い出す。此処には三人以外は誰もいないし、外にも声は漏れないそう言う設計に為っている。

「お二人とも随分と人の悪い顔を為さっていますわよ」

「何、許せ…それを言うならレテシィア、お前も同じように笑っておるではないか!」

 フェーバル王がそう言うとより一層高い声で笑い出した。


 それからほどなくして、知らせが届く。此の場へは信頼厚い者しか来る事はない。アレンゼントル達は別室で休むことになった。

「申し上げます!」

 そう言って男が差し出した手紙をフェーバル王が読む。まさに待っていたことであった。

「直ちに大臣を集めよ。これは緊急じゃ!」

 その言葉に男は急いでこの部屋を後にする。



 数時間後、日が落ち出している頃漸く人を集め終わった。

「フェーバル王、全大臣御下命により参集いたしました」

 大臣でも筆頭の国務大臣セレッファツが恭しく話しかける。

「皆忙しい中集まって貰い感謝する。早速であるが本題に入る。先ずは余の話しを聞け。先程ブラスト辺境伯のオリマッテにゴブリンが現れたそうじゃ。規模は不明なれど、期間から言ってレベル三は固いと言う」

 その言葉に聞けと言われても言葉が漏れてしまう。

「静まれ、よいかこれはかねての懸案事項である、フロランス家の決着を計る好機であると余は考えた。ブラスト辺境伯は出せる援軍なしと付けておる。加えて唯一一名を援軍として派遣するともある。それがあの家の継承者、サラ・フロランスである。この者の活躍により新たな家を立ち上げる!」

 これは決定事項である。


 計画自体は既にあった。フェーバル王が述べた事は手続きの話しである。各大臣はこの為に手続きに必要な関係書類は作成済みで、関係のある者への根回しも済んでいる。後はあの家を潰すだけで終わるのだ

 各大臣が王の言葉で行動すべく室内からは居なくなった。しかし、軍務大臣アレンゼントルはこの場に残っている。

「漸く片付きますな…」

「全くじゃな…それでサラと言う娘の方はどうなっておる?」

 フェーバル王は彼に尋ねる。

「どうやら家族とは上手く行っていないようです。彼女から線を引いている様です」

「まあ仕方なかろうな…」

 誰でもあの金使いを知ればドン引きする程である。何といっても娘が冒険者として稼いだ金で借金を減らして貰った件には誰もが呆れていたし、その後に新たに借金をしたことで見放したのである。


「ならば可及的速やかに此方へと呼び寄せ、叙爵を行わねばならんな」

「して、領地をお与えに為られるので?」

「馬鹿を申すな…爵位だけじゃ。領地を与えてみよ、あの家の人間が群がってくるぞ。金銭だけでもその恐れがあると言うに…」

 王は彼等のその嗅覚だけは一級品であると考えている。






 このような事が在るなど露知らず、孝雄実たちは何故かサラの実家から招待を受けていたのである。実際には王国側から使者が向かい、正式に家の取り潰しが行われるとは思ってもいないのである。オリマッテは念願の報奨金を手に入れ、それを過不足なくサラに渡した。これで彼女は家に帰る事に為るのである。

「では、長い間お世話になりました」

「何、世話をしたのは孝雄実たちだ。私は何もしておらんよ。だが、何か困った事があれば相談しなさい」

「本当に有難う御座います。オリマッテ様」

 そう言ってサラと孝雄実たちは移動を開始したのであった……






 最後までお読みいただき有難う御座いました。

 ご感想お待ちしております。

 それでは次話で御会い致しましょう!

             今野常春

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