第30話 孤児院①
タウトナ鉱山からアイギスの街へ向かう途中ポルネ村に寄ったりして多少時間はかかったが、3週間ほどで到着した。
街に着いて一番最初に向かった場所は宿ではなく、今回ミスリルリザードを討伐する理由にもなった鍛冶屋。久しぶりのアイギスとのこともあり、街並みを楽しみながら歩いているとヴァルニアが何か気になったのか話し掛けてきた。
「何であそこの路地先からここら辺と雰囲気が違うんだ?」
気になっている場所へ目線を向け俺に聞く。
「あそこか…あそこがこの付近と違うのはスラム街だからだ。」
スラム街とは、都市部でまともに暮らしていくことが困難な貧民層が集まっている区域のことだ。
一度知らずにここに入ったことはあるが、もう一度入りたいと思うような場所ではなかった。そこに居た奴等は殆どが痩せ細っていて、中には餓死した死体が放置されている場所もあった。
心のなかでは可哀想と思ったが、優しい言葉を掛けたりしようとは一切思わなかった。もし声を掛けたりしても相手側が哀れな想いになるだけだと分かっていた。
仮に実際、手をさしのべ少数を助けた所でそんなものは偽善に過ぎない。自分の心を満たすだけの一時の行動。全員を助けるなんてのは現実問題不可能。ならば、その少数ですら助ける際は選ばなくてはならない。そんな人の価値を振るいにかけるくらいなら端から助けなければいい。
「用事があるとき以外は近寄らないことを薦める。」
「そうなんだ。でもすぐに寄ることになると思うぞ。」
「どういう意味だ?」
俺はさっきも言った通り、スラムに寄ったところで自身の心を試されるだけで何も得るものはない。だから、スラムに寄る理由は皆無。
「すぐに判る。それより鍛冶屋に行かなくていいの?」
「そうだったな、さっさとルドロフのおっさんに槍を作って貰わないと。」
本来の目的を思い出し、再び街並みを堪能しつつ鍛冶屋へ歩き出した。
鍛冶屋に到着し、扉を開ける。そうすると室内から熱気が溢れ出てきた。
「この熱気、アイギスに帰ってきたって感じがするな。」
1ヶ月ぶりに訪問した鍛冶屋。店内の表には手作りだと思われる剣などが幾つか飾られている。どの作品も丁寧な作りをされていて素人目でも一級品だと判断出来る程の出来映え。
「おっさん、居たら返事してくれ!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえるわい!」
今回は仕事中ではなかったのか、呼び出しをしたらすぐにルドロフが奥の部屋から出てきた。
「頼まれていたミスリルリザードの討伐を終えてきたぞ。」
「案外早く終わったのう。それで、どこにミスリルリザードがいるのじゃ。」
ルドロフにミスリルリザードの場所を尋ねられたので、【アイテムボックス】から1体出現させた。
「やはりスキルの中に収納しておったか。何度見ても便利なスキルじゃな。」
「スキルのことは別にいいとして、ミスリルリザードは1体だけで大丈夫なのか?」
「1体でも作る分には問題ないが、出来れば3体は欲しかったの。」
エレシュガルが討伐したあと追加で4体ミスリルリザードを討伐しておいて正解だった。今の俺のミスリルリザードの合計所有数は全部で5体。3体程度なら何の問題も生じない。
「これでいいのか?」
「おう!これだけミスリルを用意すれば、かなりいい魔槍が作れそうじゃわい。」
「そうか、で槍の完成はいつくらいになりそうだ?」
「完成の目処は、そうじゃな…1週間くらいといった所じゃな。」
1週間なら槍をわざわざ買い換える必要性はなさそうだな。
「完成の頃合いも聞けたことだし、また今度な。」
完成日時も聞けたので、軽く別れの挨拶をして鍛冶屋を出た。そして次は、ヴァルニアとエレシュガルを冒険者登録する為にギルドへと向かった。
冒険者ギルドに着き、扉を開けると併合してある隣の酒場で大勢の冒険者が酒に入り浸っていた。今は日が暮れ始めている夕方ということもあり、多くの冒険者が丁度依頼から帰還してくる頃合いなのだ。だからこの時間帯はいつもこんな感じである。
「冒険者ギルドってたくさん人いるねー」
「確かに大勢いるな、冒険者ギルドはいつもこんな感じなのか?」
「これは夕方の今だけで、昼頃とか全然人がいないぞ。」
こんな感じに冒険者ギルドについて説明しながら、冒険者登録コーナーの場所へ移動した。その後、手早く登録を済ませたあと昇格試験も一応やっておいた。この2人ならすぐにランクは上がっていくだろうが、最初からある程度ランクが高いに越したことはない。
模擬試験の勝敗は予想通りといえば、予想通りだった。ヴァルニアの相手は普通の試験官だったこともあり、1分もかからずヴァルニアが完封。これは別にいい、だが問題があったのはエレシュガルの方だ。
エレシュガルの相手をしたのは、ギルドマスターでもあるトール。なぜ忙しい筈のギルドマスターがほぼ毎日、修練場にいるのかは謎だが今は関係ない。
俺のときは少し本気を出した一撃で伸されてしまったが、今回の試合では前回の試合とは比べ物にならないくらい接戦になった。その試合を言葉で表すのなら、凄まじいの一言に尽きる。
結果から言えばエレシュガルは負けてしまったが、よくやったと思う。初めの方は善戦していた。しかし、後半なるにつれ魔力の残量が減っていき、最後は消耗仕切ったところを死角からの一撃。これで決着が着いた。
2人とも本来ならCランク位になってもおかしくない成績。だけど、経験をもっと積むべきだという判断でDランクへの昇格が決まった。
(でもこれでいきなりCランクになられたとしても、俺の立つ瀬がないからこれはこれで良かったのかもな。)
ヴァルニアとエレシュガルの昇格結果にホットしながら掲示板の依頼を流し見する。すると、妙な依頼があることに気が付いた。
「何だこの依頼内容?仕事と報酬が全く割にあってないじゃないか。」
「どれどれー」
エレシュガルがどんな依頼か気になったのか、内容を聞いてきた。依頼内容はこうだ。
依頼主は孤児院。依頼は神力草の採取となっている。この神力草という薬草は部分欠損以外の怪我を完治させ、病気に対しても高い治癒効力を持つ。魔素濃度が特に濃い場所で生えており、通常の薬草が生えているような所では絶対に採取出来ないもの。
薬屋でも中々売っておらず、売ってあったとしても金貨数枚はする値段。それなのにこの依頼の報酬欄には大銅貨3枚と書かれている。依頼主が孤児院だとしても流石にこれは正気だとは思えない。
「お願いします!その依頼を受けて下さい!」
エレシュガルたちにこの依頼どのくらい割に合わないのか説明していたら、10歳くらい…つまりヴァルニアと同じ位の歳の少年が俺に頭を下げてきた。
「この依頼を出したのはお前なのか?」
「そうです。」
「なら分かると思うが、依頼に対して報酬が少なすぎる。これでは誰も受けてくれないぞ。」
「報酬が少ないのは重々承知です。それでもどうか依頼を受けてくれませんか?」
顔を下に俯きながら、必死に頼み込んできた。先ほどの表情と、依頼内容が神力草という時点でただ事ではないことは判るが、それでもこの報酬はない。
「お前にもそれなりの事情があるのかもしれないが、さっき言った通り報酬が少なすぎるから依頼は受けれない。」
「それでも、それでもこの通りお願いします。」
必死になって頭を下げてくる。目を見て判る、冗談や遊びなんかではないのだろう。
「お前は1つ勘違いをしている。俺がこの依頼に目を止めたから、少しは受けてくれる気があるのだろうと思っているのかもしれないが、俺にそのつもりは一切ない。」
「でも、今日までに冒険者の方が依頼を受けてくれないと1ヶ月の期限が過ぎ、ギルド側で掲示板から依頼表が剥がされてしまいます。そうすると、お姉ちゃんの病が…」
「そんなことは俺には毛頭関係ないことだ。この際だからもう1つ言っておこう。俺は善人でもなければ、まして聖人君子でもありはしない。その俺がわざわざ何のメリットも存在しない依頼を受ける必要はないだろ?この世は綺麗事だけでは回らないんだよ。だから悪いな、俺はその依頼を拒否する。さぁ行くぞヴァルニア、エレシュガル。」
孤児だと思われる少年が泣きそうな顔をしながら、拳を握る。そして震える声で叫んだ。
「いつもそうだ!大人はみんな汚い。自分に利益が無いからとすぐに見放す。そんなんで恥ずかしくないのか!」
「そうだな、俺は汚い大人だ。でも、お前はその汚い大人に頼らないと何もすることの出来ないクソガキ。そうだろ?だから俺を頼った。自分で何1つ出来ない奴が一人前にものを言うな。判ったらさっさと諦めろ。」
「フェルト、可哀想だよ!」
いつも可愛らしい話し方のエレシュガルが、普段より少し低めの声で言い放つ。
「これくらい強く言わないと諦めないから仕方ないだろ。」
そして、黙っていた少年が口を開き腹の底から声を出す。
「僕がもっと大きかったら、ここにいる冒険者なんかより強くて、誰にでも手を差し伸べるような立派な大人になっていたのに!」
「フッ、よく言う。大した覚悟もない癖に。」
このやり取りを見ている酒場に居た冒険者たちは、笑いながら見せ物として楽しんでいる。少年は真剣な眼差しで再び口を開く。
「覚悟ならある!」
「へぇ覚悟があるねぇ。ならその覚悟とやらを見せてくれないか。」
【アイテムボックス】から短剣を取り出す。
「この短剣を手の甲に突き刺して貫通させることが出来たら、依頼を受けてやってもいいぞ。」
「本当に!ならやってみせる。」
少年が短剣を右手に持ち、左手を机の上に置く。しかし、その右手て小刻み震えており刺すのを躊躇っていた。
「どうした、やっぱり辞めておくか?」
まだ辞めないと、首を必死に横に振る少年。
「手が震えてるじゃないか?やはり、お前の覚悟はその程度だったと、そう言うことだ。」
「違う!僕はお前なんかとは違うんだ!やってやる!!」
目を瞑っておもいっきり短剣を左手向けて振りかぶった。
瞬間――――――
俺は【アイテムボックス】から槍を取り出して短剣を弾いた。
「えっ、どうして?」
少年は何がどうなったのか分からないといった顔をして、此方に顔を向けてきた。
「悪い!お前を試していた。」
「ど、どういうことですか?」
「理由は詳しくは言えないが依頼は受けてやる。」
本当はこの少年を見たときから依頼は受けるつもりでいた。理由は少年のステータスを【鑑定眼】で閲覧したからだ。それが何だと思うが、ステータスを見れば判る。
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ロイ 男 年齢:10歳 種族:ヒューマン
職業:孤児
Lv3
HP16/16
MP15/15
筋力 6
耐久 6
敏捷 6
魔力 5
パッシブスキル
【根性Lv1】
魔法スキル
【水属性魔法Lv1】
ノーマルスキル
【格闘術Lv1】【言語理解Lv5】
称号
【勇者の卵】【天賦の才】
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【勇者の卵】と【天賦の才】この2つの称号を見た瞬間、こいつが将来どうなるのか気になってしまったのだ。そして出来ることならば、俺が訓練をつけてこの成長を近くで感じてみたいとも思った。だけどその前に、こいつが称号だけの奴じゃないか調べる必要があった。だから、今試すような真似をしたんだ。
「今から話すことは強制ではないから断って貰っても構わない。神力草の採取が終わったあとから、俺の元で訓練を受けてみる気はないか?」
「訓練をつけてくれるのですか!?」
「もちろん。お前がよければだけどな。」
今の表情からして十中八九誘いは受けてくれるだろう。それにこいつにとっても訓練をつけてもらえれば、強くなって金を稼げるようになるから、お互いに利のある話だ。
「よければなんて滅相もない。是非お願いします!依頼も受けて頂き、訓練の約束まで…本当ありがとうございます。」
「礼なんていい。俺はお前を試していたクソ野郎だぞ。それより、神力草を取りに行くのはさっき言っていた姉の病を治療する為なんだよな?」
「はい。医者に見せていないので、なんとも言いがたいのですが、ここ最近ずっと寝たきりで普通の風邪のようには見えませんでした。なので、治すのには高い治癒効果を持つ神力草が必要だと判断しました。」
普通の風邪には見えないか…実際に見てみないと判らないな。
「取り敢えず容態を確認して、神力草を採取する必要があるか判断するから、孤児院まで案内してくれ。」
「判りました。僕に着いて来てください。」
少年…ロイに着いていき孤児院へと向かって行った。




