第1話
此処は深海、暗く、深くとてもじゃないが人の住めた処では御座いません。しかし、この様な場所に人の姿をした者がいます。それは、かじきとおしと言う妖怪です。彼は退屈な表情をし、何処か遠くを見ていました。
「....退屈だ。此処には何も無いし、妖怪は皆消えたし.....人里に行ってみるか。」
そう彼が呟くとおもむろに立ち上がり、一歩踏み出した途端、周りを覆う程の光が彼を襲った。彼は咄嗟に腕で顔を守った。
強烈な光が収まったと分かると彼はゆっくりと腕をおろし辺りをゆっくりと見渡した。其処は先程の景色とは違い一面緑色でした。つまり其処は.....樹海です。
彼は--万人ならば慌てふためき混乱するところを--冷静に辺りを見回し状況確認に努めようとした。十中八九彼がここまで冷静なのは自らが妖怪であり、数え切れない程の神秘に触れてきたからでしょうか。
彼は辺りを十分に見ながら自らの現状把握を行いました。しかし、彼が解っていることといえば、深海から樹海に転移したこと 持ち物が妖槍位しかないこと。この二つです。さて、状況確認や現状把握を一通り終えた彼は次に転移した原因を考え始めました。多くの神秘に触れてきた彼はこのように転移のできる妖怪を知っていますが、もういない筈と思いました。その後も考えを巡らせましたが、ついぞ答えは見つかりませんでした。
---ここでアニメが好きな人なら魔法による転移や神の力による転移、又は偶然による転移を思い付きますが、彼はそのような知識は無いため何故転移したのか分かりませんでした。---
此処に居ても仕方がないと思ったのか、やがて彼は辺りを探索し始めました。
探索を始めて数刻経った頃草むらからかさかさ、かさかさと音が聞こえます。音のする方向に顔を向けると、狼が周りを囲んでいます。
「あ?」
と彼の言葉を皮切りに狼が彼を襲い始めはした。一匹の狼が彼に飛び掛かりました。狼は勝利を確信した顔をし、彼は肉塊になってしまいます。
----ヒュン
----ドス
----ピッ
このような音が聞こえたかと思うと
狼の頭から上が
なくなっていました。
狼達に困惑の色が見えます。----何故だ、何故だ、何故なんだ!----と狼の心を代弁するとこうでしょう。それもそのはず、狼達は確かに勝利を確信し、彼は肉塊になるは筈でした。ですが、現状は仲間が一匹居なくなりました。彼らは本能的に逃げなければいけないと考えました。
一歩後退しようとすると、
「さようなら」
そう言葉が聞こえると彼は足を踏み出しました。其が狼達の今生の最後の光景でした。
彼は妖槍に着いた血を落とすと狼に勝利した喜びも興奮もなく、ただただ興味無さげに死体を一瞥すると歩み始めた。




