20:異世界勇者召喚
『多くの者達の賛同を得られた時は、自分が何か深刻な間違いを犯していないか疑った方がいい』
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「いよいよですな」
「ええ。これで女神教の連中の後塵を拝する日々も終わりです」
中年の男に壮年の男が答えた。
ユウがこの世界に現れる数ヶ月前、ニアクス王国にある勇者教大聖堂ではある儀式が行われていた。
大きな部屋に描かれた魔法陣の周りを赤と白のローブを纏った人々が真剣な面持ちで動き回っている。
『異世界勇者召喚』
それがこれから彼らが行おうとしている儀式の名前だ。
内容はその名前の通り、異世界から勇者を呼び出すというものだ。
ニアクス王国の国教である勇者教において、勇者は女神よりも重要視されている。
わざわざ勇者の名前を冠するのだから当然ではあるのだが、その彼らにとって勇者に関する事柄は自分達こそが第一人者でなければならないという思いがある。
が、しかしだ。
彼らにとってその肝心の勇者の扱いが頭の痛い問題だった。
なぜなら過去の勇者達の墓標は女神教を国教とするノワルア王国に存在しており、さらに過去の異世界勇者召喚は全て女神教によって行われていたからだ。
勇者教による異世界勇者の召喚実績はゼロ。
要である勇者という存在をライバルの女神教に全て押さえられてしまっている状況である。
それは純粋に勇者教を信仰する者達にとって屈辱以外の何物でもなく、故に勇者教関係者にとってこの儀式の成功は悲願の成就そのものを意味していた。
「大司教様、そろそろ始めるようです。これで我々にも一気に四人の勇者が……。なんというか、童心に返った気分ですよ」
「まったくです。今日が我々勇者教徒にとって新たな門出となることでしょう」
「始めます!」
指揮を執る男の声で、数十人が各自の持ち場に着く。
大きな魔法陣の中には、人が一人寝ていられるぐらいの円が四つある。
異世界勇者が召喚されるのはその円の中だ。
全員が真剣な面持ちで開始の合図を待った。
「三! 二! 一! 魔力装填始め!」
ブゥゥゥゥゥン!
魔法陣の周囲に並んだ人々が一斉に魔力を込めた。
鈍い振動音と共に魔法陣が白く光りだす。
そして……。
シュゥゥゥィィィンッ! ドンッ!
爆ぜた。
魔法陣から発生した灰色の煙が部屋を満たす。
「――! なんだ!」
「失敗か?!」
大量の煙の中で魔法陣が輝きを失ったことに気がついた人々は騒然となった。
勇者教にとっての悲願、新たな歴史。
それが失敗したのかと落胆の色が広がる。
「大司教様アレを!」
中年の男は晴れ始めた煙の中を指差した。
その先にあるのは魔法陣の中の円。
つまり勇者が召喚されるはずの場所だ。
「これはまさか……、成功?」
四つある円。
その内の三つには、明らかにこの世界のものではない格好をした少年少女が横たわっていた。
しかし最後の一つには誰もいないままだった。




