1:『回』の字が二つも入ってる
『現実存在、つまりは現在以外が実存。過去と未来、それらが自分にどう在るべきかと尋ねている』
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ユウは体に掛かる慣性力で意識を取り戻した。
どういうわけか、目の前にはラプラスが座っている。
「……あれ?」
慌てて周囲を確認すると、自分の右横にはステラ、その正面にはリアが座っていた。
三人ともユウを見ている。
(ここは……? 馬車の中……、だよな?)
ターニングポイントによる復活はもうできないはず。
となれば、いったい自分はどうしてここにいるのか?
あるいはもしかして天国に来たのかという懸念が頭をよぎる。
「ユウくん、おはよ」
ステラが微笑んだ。
ユウを殺した時のような暗い瞳ではなく、その笑顔は自然だった。
本人の意思とは無関係にユウの顔が赤くなる。
「ようやくお目覚めか? 一応は従者なんだから、リア様がいるときぐらいはちゃんとしとけよな?」
ラプラスが呆れたような声を出した。
どうやら彼の目にはユウが起きたばかりで寝ぼけているように見えたらしい。
「あ、ああ……。ごめん……。」
狐につままれるという表現があるが、今のユウはまさにそんな気分だ。
いや、むしろここでこそ狐に包まれたと言うべきかもしれない。
(どうなってるんだ?)
馬車は既に街の中を走っているらしく、窓の外には中世の西洋風の街並みが流れている。
「この街は……?」
どこかで見たような風景。
だが、ここがどこであるのか判断できるような決定打は見当たらない。
「なんだ、もしかしてアスクに来たことがあるのか?」
「え? いや、そういうわけじゃ……。ほら、あんまりこういう街って見たことなかったからさ。」
ユウはリアの言葉でようやくここがアスクであることを理解した。
つまり時期としてはアイナを助けてU&Bを撃破する前まで戻って来たことになる。
(また戻されたのか? でもなんでここまで……?)
覚えている限り今までで最も大きい戻り幅に、様々な可能性がユウの頭の中に沸き起こった。
――ターニングポイントの回数制限は嘘だった?
――それとも残り回数ゼロで死ぬと戻される時点が変わる?
これまでも戻る時点が前後に動いたことはあった。
しかし今のユウは正解に辿り着くために十分な情報を持っていない。
(わけがわからないな……。)
ユウは横目でリアと楽しそうに話しているステラを見た。
現時点ではっきりとわかっていることと言えば、どうやらステラが自分を殺す気満々でいるということぐらいか。
好きな子に命を狙われるというのは結構ショックだ。
これで喜ぶ奴がいるとすれば、相当にアレな性癖の持ち主であるのは間違いない。
自分がステラに嫌われているという可能性を吟味するたびにユウの気分が沈んでいく。
「……どうした? なんか元気ないぞ?」
ラプラスがそんなユウの様子に気づいた。
リアの命を脅かすという意味では彼にとっても決して他人事ではないのだが、もちろんユウもラプラスもそのことは知らない。
ユウは前回のループでステラがラプラス達を殺したことを知らないし、ラプラスは彼女に殺された記憶を持っていないからだ。
いったい今の自分の身に何が起こっているのか。
しかしたとえどんな事情であれ、ユウにまだやり直しの機会が残っていることだけは事実だ。
「よし、早速みんなのところに行くとするか!」
「うん、そうだね」
馬車がレッドノート邸に到着した後、ユウ達は早速エル・グリーゼのメインアジトに向かった。
ユウの体感時間を基準にすれば、あそこに行くのはいつ以来だろうか?
ノスタルジーに近い懐かしさを感じながら、ユウは知っているはずの道を知らない振りをしながらステラ達に付いていく。
ちなみにだが、今回もリアは顔を隠すための白い仮面をつけている。
名前もリア=レッドノートではなく、自称リア=ステイシスだ。
ユウの記憶ではそれが役に立ったことは今のところ無い。
メインアジトとして使われている倉庫の裏口に行くとバーノンに出迎えられた。
「バーノンだ。はじめまして、でいいか?」
「ユウ=トオタケです、よろしくお願いします。」
距離感に注意しつつ、ユウは彼に自己紹介した。
「ああ、堅苦しいのは無くていい」
「じゃあよろしくバーノン。」
ユウが以前よりも少し長めにバーノンと話している間に、ステラ達は倉庫の奥へと行ってしまった。
その嬉しそうな後ろ姿を見ていると、あれはやはり夢だったのではないかと思えてくるから不思議だ。
――だとすると予知夢? それとも明晰夢?
(いや、違う。)
あれは現実だ。
少なくともそれは認めざるを得ない。
「みんな、ただいま!」
ステラの声が倉庫に響く。
これから買い出しに行くために集まっていたロト達が彼女に気づいて一斉に振り向いた。
「ステラ! 早かったじゃないか!」
どうやらもう少し時間が掛かると踏んでいたらしいロトが驚いた声を上げた。
ユウもバーノンとの話を切り上げて中へと入ってきた。
中にいたのは全部で六人。
ロトにダリア、ナルヴィにソフィア、それにパウロとジュリエッタだ。
開幕一番にナルヴィから強烈な一撃を貰ったのが懐かしい。
(……やっぱり黒いな。)
「――! ちぇすとぉぉぉ!」
ユウの脳内の呟きをどういうわけか拾い上げたナルヴィが即座に飛び蹴りを放つ。
所謂ラ○ダーキックというやつだ。
改造人間が使えば即死級の威力になるであろう攻撃が迫る。
「おっと。」
しかしユウは顔面に飛んできた蹴りを余裕を持ってかわした。
敗北を重ねながらとはいえ、ここまでの間にそれなりの修羅場は潜ってきた。
事前に来るとわかっていればこれぐらいの蹴りを避けることは十分可能だ。
自分の蹴りが空振りに終わったことに驚きながら着地するナルヴィ。
「ちっ、やるじゃない」
「まあね。」
ナルヴィが諦めた様子なので、ユウはみんなの方を向いた。
つまり彼女に対しては背を向けたことになる。
「隙有り!」
「甘い!」
ナルヴィの性格から言って、まさかこれで終わるわけがない。
それを予見していたユウは、再び飛び蹴りをかわそうと前を向いたまましゃがみこんだ。
これで彼女の飛び蹴りは先ほどと同じように回避できるはずだ。
きっとナルヴィはユウの真上を通過していくことだろう。
……そう、それが飛び蹴りだったなら。
ドゴっ!
「ぐへぁ!」
右肩と首の間辺りに強烈な衝撃。
背後から飛んできたのは先ほどと同じラ○ダーキックではなく、ナルヴィの全体重を乗せた胴回し回転蹴りだった。
衝撃がユウの意識を一瞬で刈り取る。
「ふふん♪」
「ユウくん!?」
勝ち誇った顔をしながら着地したナルヴィと、白目を向いて倒れたユウに気がついて目を丸くするステラ。
以前のループでは悶絶するだけで意識を失うところまでは行かなかったことを考えると、結果はむしろ前よりも悪い方に傾いたと言っていいかもしれない。




