甘い香 4
これで完結になります。
てっきり騙された。
まさかリンツが発情期だったなんて 。
人間には発情する事はあっても発情期なんかないからな。
俺の我慢強さが今日ほど役に立ってよかったと思った事はない。
あんな火照った顔で、
『いいよ。ザット』
なんて言われて我慢した俺は自分を褒めてやりたい。
なんとかくっつかないように精一杯くの字の状態で頑張ったんだ。
残念ながら、俺の下半身の一部は抑えきれなかったが・・。
色々考えながら歩いていたら、目的の騙した本人を見つけた。
「おい、どーゆー事だ。」
「どーだった?」
こっちを見てへらへら笑ってやがる。
鍵を返しながら問い詰める。
「お前発情期だって言ったら行かなかっただろ?」
「当たり前だろ。あいつはそういうのをすごく嫌がるからな。」
あいつは素直じゃないし、お前も意外と口説いてる割には強引に行かずに遠慮がある。
俺はそれを見ててイライラしてたんだよ。
だったらここで少しでも進展してくれなきゃなあと思ってだな。
図星を突かれてなんとも言えない。意外とこいつ観察してるんだな。それともまさか・・。
「・・お前あいつの事好きなのか?」
「な、訳ないだろ。俺は彼女いるし、昔からの付き合いだからな。
女の子としゃべりもしないし、発情期は家にこもるわで、心配してたんだよ。
で、お前結構あいつに押せ押せだったし、あいつもお前の事それなりに意識してたから
ここは一気に行ってもらおうと考えた。」
こいつはこいつなりに気を使ってくれたんだな。だが、紙一重だろ、あれは。
もう二度と会ってくれなくなってもおかしくない状況だった。
いや、どうだったんだろうか、頭を抱えた。
「大丈夫だって!お前結構心配症だな。はははっ!!」
人ごとだと思ってわらってやがる。だけど俺は項垂れるしかなかった。
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やっと発情期が終わった。
「よお、体調はどうだ?」
私は声をかけてきた相手を凝視した。
「シュースよくも意気揚々と声かけてきましたね。」
「鍵渡したの、やっぱ怒ってる?」
「当たり前です。勝手にどかどか上がり込んで、それで、、、」
ダメだあの後は思い出すだけでも恥ずかしい。自分の行動とは思えないことをした。
「それで?」
面白そうに聞いてくる。
「もういいです!仕事量増やしますからね。」
「なにそれひどい。」
ひどいのはそっちだと思うのだが。シュースはいつかひどい目にあわせないといけない。
「じゃあとりあえず、私はセスナ様のところに挨拶に行ってきます。長く休んでましたから。」
「俺もきちんと休んでいた間お前の仕事してやったのに、お礼はないのか!」
その言葉を背で聞き流しながら、王の元に向かう。そういえば久々の外だ、気持ちがいい。
なのに心が騒つく、頭の片隅でザットの顔が浮かぶ。あれ、目がおかしいのかザットが見える。
いや、現実か。
あちらも私に気づいたのかこっちに近づいてくる。
「なんだ、俺の事考えてたのか?」
今聞きたくない、いや聞きたい声だ。
顔が浮かんだ相手が目の前にいるなんて。
「相変わらず、自意識過剰ですね。」
「なんだ、あの時はあんなに大胆だったのにな。」
こいつ・・・。
でも私が発情していてあんな恥ずかしい言葉を発しってしまったけど、
何もして来ずにベッドまで運んでくれた。私は何も言えずに顔を横に向けた。
「・・・悪い。鍵を渡されからといって家に勝手にはいってしまって。
お前嫌だっただろ。でもやっぱり心配だったから。
発情期だったのは本当に知らなかったんだ。信じてくれ。」
真剣に語る姿に私は肩をすくめて笑った。そんな事は知ってますよ、私に幾度となく迫ってきても、
あなたはいざとなったら紳士ですからね。文句の一つでも言おうと思ってましたが・・。
「あの時は、ありがとうございました。」
「!!!」
驚いた顔をするザットを見てなんだか可愛く思えてきた。
「そんなに私は冷たいと思われてましたか?」
「思ってない!」
いつもと逆であたふたしてる姿もまた新鮮で楽しい。こんな風に思えるなんて、
これはもう私は、決定的になったのは発情した時だったかもしれない。
そう思った瞬間に抱きしめられていた。
「好きなんだ、本当に。」
一瞬の事で驚いた。両腕に力が込められて、胸の鼓動が早い。
そんな私もドキドキしてる。あの時の甘い香は私からはもう出てないが
ザットからは甘い香がする。この香に包まれていたい。
答はどう出せばいいのか。迷っていたがこれしかないと覚悟を決める。
私の肩に顔を乗せているザットにそっと語りかける。
「顔見せてください。」
ザットの顔を見つめる。なんか不安そうな顔してる。笑いそうな気持ちを抑えて答える。
「私も好きです。」
自分でもこんな事するなんて信じられないがこれが私の気持ちだ。
そしてそっと頬に口づける。
私の思いがけない行動にザットはさらに驚いた顔をしていた。
「お、お前大胆だな。」
そしてさらに力強く抱きしめてきた。
「リンツ、両思いでいいんだな。」
胸の中でコクリと頷く。
ゆっくりと顔を上げると、ザットは微笑んでいた。
胸に込み上げるものがある。私も背に手を回し抱きしめた。
それからセスナ様に挨拶しに行った。
「いい事があったみたいだな。」
「はい。」
嘘をつく必要もなく満面の笑みで答えた。
セスナ様からレオン王子の香がする。
だからきっと私からザットの香がするのも
気付かれているのだろう。お互い特に人間嫌いだったのに。
こうも変われるものなか。
「じゃあな。」
「また。」
ザットが人間界に帰る時間だ。
気持ちが通じ合った後は本当にこんな別れすらも辛いのか。
ずっと側に居たいと思ってしまう。
切ない思いを秘めて相手もそうであると思いながら、また来る日を待つ。
妖精界と人間界が一緒になる事はない。
それでも私とザットはいつか、共に。
甘い香は私をいつまでも包んでくれる。
END