23話 「失っては行けない者」
ユウキやゴルガたち救助班を、容赦ない日差しが照りつける。
日差しを遮るものは何もない。
額から流れ落ちた汗が地面へ落ち、瓦礫の一部だけが黒く色を変えていく。
それでも誰一人手を止めることなく、エレミアの捜索を続けていた。
「エレミア!どこだ!おーい!いるなら返事をしてくれ!」
大声でエレミアの名を呼んでも、返事は一向に返ってこなかった。
ユウキは瓦礫をどかしながら捜索を続けた。
一体どこにいるんだよ……。なんで俺と一緒にいたのにいねえんだよ……。
すると、一人の傭兵が何かを見つけたようだった。
「ゴルガ隊長!こんなものが……!」
その傭兵が手にしていたのは一本の矢だった。
それはエレミアが使っていた矢によく似ていた。
まさか……エレミアの!?だとしたらこの辺にいる可能性が高い。早く探さないと……!
「なるほど。ユウキ様、確かエレミア様は弓使いでしたよね?」
「ああ。その通りだ」
「では、この矢はエレミア様のものか分かりますか?」
ユウキは大きく頷いた。
「そうだ。これはエレミアのもので間違いない」
「分かりました。それでは、この辺りを重点的に探しましょう」
「おう」
ゴルガは救助班全員に向かって声を張り上げた。
「この辺りを重点的に捜索するぞ!」
救助班全員が集まった。
「この付近でエレミア様のものと思われる矢が見つかった! この一帯を重点的に捜索する!」
「「は!」」
エレミア……。必ず助けてやる。絶対に見つける!
ユウキは矢が見つかった場所の周辺を捜索していた。
すると、一際大きな瓦礫が目に留まる。
あの下にいるのか……? でも、一人じゃ無理だな……。ゴルガに頼むか。
ユウキは近くにいたゴルガへ声をかけた。
「あそこの瓦礫をどかさないか?」
「分かりました。それでは、何人かで持ち上げましょう」
ゴルガが数人の傭兵を呼ぶと、瓦礫の周りに三人の傭兵とゴルガ、そしてユウキが集まった。
「それでは、同時に力を入れます。私たちが瓦礫を持ち上げている間に、ユウキ様は下の様子を確認してください」
「わかった」
ゴルガたちは一斉に瓦礫へ手をかける。
「では、いくぞ! せーの!」
掛け声とともに、瓦礫がゆっくりと浮き上がった。
ユウキはすぐに瓦礫の下を覗き込む。
頼む……。いてくれ! 無事であってくれ!
しかし、そこにあったのは砕かれた木だけだった。
「どうですか? ユウキ様」
「ダメだ。いない……」
ユウキの言葉を聞くと、ゴルガたちは静かに瓦礫を元の位置へ戻した。
「では、次の場所を探しましょう」
その時だった。
ユウキは、どこからか誰かの視線を感じた。
(……なんだ?)
以前感じた視線とは、どこか違う。
(誰が見てる……?)
周囲を見渡す。しかし、自分を見つめている者の姿はどこにもなかった。
(……くそ。考えても分からない)
今はそんなことより、エレミアを見つける方が先だ。
ユウキは視線のことを頭の隅へ追いやり、再び捜索を始めた。
すると、デュラが突然、一方向を向いたまま鳴き始めた。
「キュイ! キュイ!」
「なんだよ急に。今は忙しいから構ってる暇はないんだ」
それでもデュラは鳴きやまない。
ユウキはそんなデュラの様子を見つめた。
(……待てよ)
デュラは何かを伝えようとしているように見える。
(そういえば、デュラって鼻が利くんじゃなかったか?)
ユウキはしゃがみ込み、デュラと目を合わせた。
「おい、デュラ」
「キュイ?」
「お前、匂いでエレミアを探せるか?」
「キュイー!」
デュラは大きく鳴いた。
(よし! これなら魔力探知を使わなくても、エレミアを探し出せる!)
ユウキはゴルガのもとへ駆け寄った。
(さっきのエレミアの矢なら、匂いが残ってるかもしれない。ゴルガから借りよう)
「ゴルガ、さっきの矢を貸してくれ」
「はい。もちろんです」
ゴルガはユウキへ矢を差し出した。
「ありがとう。助かる」
ゴルガはユウキの顔を見つめる。
「その様子だと、何かいい案を思いついたんですね」
「ああ。きっと次こそは見つけられる」
「私はユウキ様を信じています。ですから、必ずエレミア様を見つけてください。そのために私たちも力を貸します」
「任せろ」
ユウキは口元に小さく笑みを浮かべると、デュラの前に矢を差し出した。
「デュラ、分かりそうか?」
「キュイーン!」
「よし、いい子だ」
デュラは鼻をクンクンと動かし、匂いを探し始めた。
◇
「行かないで! 私を置いていかないで! お母さん! お父さん! お兄ちゃん!」
少女は必死に手を伸ばした。
しかし、誰一人として振り返ることはなかった。
「なんで!? どこに行くの!? ひとりにしないで! 私を置いていかないで!」
少女の叫びも虚しく、家族は闇の中へと消えていく。
その時だった。
闇の奥から、一人の男が姿を現した。
腰に剣を差したその男の前へ、剣を手にした別の男が飛び出す。
二人の剣が激しくぶつかり合う。
しかし、戦いは一瞬だった。
剣を手にした男は弾き飛ばされ、そのまま闇の中へ消えていった。
残された男は、ゆっくりと少女へ近づく。
「誰……? みんなはどこに行ったの?」
男は答えない。
「ねえ、教えてよ! お母さんたちはどこなの?」
男は静かに少女へ手を差し伸べた。
「俺と一緒に来い」
少女は戸惑いながらも、その手を握る。
男は無言のまま歩き始めた。
その瞬間――。
闇の向こうから、一筋の光が差し込んだ。
「なに……これ?」
「もう時間だ」
「え? どういうこと?」
「後になれば分かる」
少女には意味が分からなかった。
「おじさん、どこかに行っちゃうの?」
「ああ。お前はあっちへ行け」
男は光の方を指差した。
「みんなは?」
「また会える」
少女の目に涙が浮かぶ。
「いやだよ! 私もみんなのところに行く!」
「駄目だ」
「絶対に行くもん!」
男は静かに少女の手を引き、光の方へ歩き出した。
「いやだ! 行きたくない! あっちに行きたくない!」
少女は何度も抵抗した。
それでも男は歩みを止めない。
やがて光のすぐ近くまで来た時、少女は初めて男の顔をはっきりと見た。
優しく、それでいてどこか悲しげな表情。
その瞳の奥には、消えることのない怒りのようなものが宿っていた。
その瞬間――。
エレミアは、その男のことをどこかで見たことがあるような気がした。
「あなたは……誰?」
男は優しく微笑む。
「もう時間だ」
次の瞬間、男の姿は闇へと溶けるように消え、エレミアは眩い光に包まれていった。
◇
エレミアは薄れゆく意識の中で、どこからか物音が聞こえた。
最後の力を振り絞り、ゆっくりと目を開く。
しかし、周囲は暗闇に包まれ、何も見えない。
(もう……だめ……だ……)
その瞬間──。
ピカッ。
瓦礫の隙間から一筋の光が差し込んだ。
誰かの声が聞こえる。
「──!」
ぼやけた視界の先に、一人の人影が見えた。
(あの人……?)
それは、幼い頃に自分を救ってくれた、あのおじさんのように見えた。
「やっと……会えた……」
エレミアは、誰にも届かないほど小さな声で呟いた。
────
「エレミア! エレミア! 返事をしてくれ!」
ユウキは瓦礫の中からエレミアを抱き起こした。
「エレミア!」
返事はない。
「呼吸は……!?」
ユウキは震える手でエレミアの口元へ手をかざし、呼吸を確かめる。
そして、首筋へ指を当て、鼓動を探った。
「ユウキ様、どうですか?」
ゴルガの問いに、ユウキの表情が強張る。
「駄目だ……息をしてない……鼓動も弱い……」
ユウキの顔はみるみる青ざめていく。
「まずい……どうすれば……!? このままだと、エレミアが……!」
すると、ゴルガが静かにユウキの肩へ手を置いた。
「ユウキ様、一度落ち着きましょう。今は一刻も早く、エレミア様を医療班のもとへ」
「あ、ああ……」
ゴルガは医療班へ向かって声を張り上げた。
「医療班は直ちにエレミア様の治療にあたれ! 今すぐだ! 急げ!」
「「はっ!」」
医療班の傭兵たちが一斉にエレミアのもとへ駆け寄る。
しかし、ユウキはその場を動かなかった。
エレミアの手を強く握り締めたまま、じっとその顔を見つめている。
「これで、治ればいいんですが……」
「俺も治療する」
ユウキは医療班の間へ割って入ろうとする。
しかし、ゴルガがその前へ立ちはだかった。
「ダメです、ユウキ様。あなたは頑張りすぎです。ここは医療班に任せて、少し休んでください」
その言葉を聞いた瞬間、ユウキはゴルガの胸ぐらを掴んだ。
「ふざけるな! 頑張りすぎだと? 何がだ……。俺は何一つ成し遂げられてない! このままじゃ、また仲間を失うかもしれないんだ! それなのに、黙って見てろっていうのか!」
胸ぐらを掴む手に力が入る。
「俺は……俺は……もう誰も失いたくないんだ! 無理なんかしてない! もっと頑張らなきゃいけないんだ!」
ユウキは歯を食いしばりながら叫んだ。
やがて力が抜けるように手を離す。
そして俯いたまま、小さく呟いた。
「だから、助けないといけないんだ……。変わらなきゃダメなんだよ……」
すると、ゴルガは優しくユウキの両肩に手を置いて話し始めた。
「確かに、私の配慮が足りませんでした。ユウキ様はとても責任感の強い、優しい人ですね」
ユウキは歯を食いしばった。
「だからなんなんだ。いくらそんなことができても、守れないものだってあるんだ」
ゴルガは話を続けた。
「そして、ユウキ様は抱え込みすぎで、深く考えすぎで、頑張りすぎです。そこが悪いところですね。でも、それがユウキ様です」
「なにが言いたい……」
ゴルガは少しだけ間を置いた。
「ですから、私が言いたいのは、ユウキ様の周りにはたくさんの仲間がいるということです。もちろん、みんな頼れます。でないと、あなたのそばにはいられません」
ユウキは黙ったまま、俯いていた。
「ですから、私たちを信じてください。頼ってください。必ず、ユウキ様のお役に立ちます」
ゴルガは真剣な表情でユウキを見つめた。
「だから、一旦休んでください。確かに仲間は大切です。ですが、自分がいなければ、その大切な仲間も守れません。だから、自分を大事にしてください」
ユウキは小さく拳を握り締めた。
すると、慌ただしい医療班の声が聞こえてきた。
「治癒魔法を続けろ! 魔力切れの者はすぐに交代しろ!」
「ダメです! 息が戻りません!」
「それでも続けろ!」
ユウキはその声を聞き、我に返った。
「みんなは……こうやって助け合ってきたのか」
「そうです。助け合うのが仲間ですからね」
ユウキはオレンジ色に染まる空を見上げた。
そして、小さく、しかし力強く呟く。
「エレミア。必ず、俺らで助ける。だから、耐えてくれ」
夕日はユウキたちを美しく、そして儚く照らしていた。
2章 アーメリー編完
ここまで『次こそは誰も死なせないと誓ったあの日から-神に選ばれし者の選択-』第二章を読んでくださり、本当にありがとうございます!
無事に第二章を完結させることができました。
第二章では、遺跡での出来事を中心に、エレミアの過去やユウキの「誰も失いたくない」という思い、そして仲間との絆を描きました。
特に今回の最後のシーンは、自分の中でもかなり大切な場面です。ユウキは何でも一人で抱え込もうとする性格ですが、ゴルガとのやり取りを通して、「仲間を頼る」ということを少しずつ学び始めました。この経験が、今後のユウキにどう影響していくのかにも注目していただけたら嬉しいです。
そして、まだまだ物語はここからです。回収されていない伏線や、新たな登場人物、さらに大きな戦いも待っています。
第三章では物語がさらに大きく動き始めるので、ぜひ楽しみにしていてください!
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それでは、第三章でお会いしましょう!




