1話 「変なリス」
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俺は、なんの変哲もない高校生、伊澤祐樹だ。
特に人生に不自由はない。そこそこ頭のいい学校に通っていて、成績も上位。顔は……まあ、そこそこ。それでも、毎日は普通に楽しかった。
──あの日までは。
大親友が死んだ。
そいつの名前は、稲畑駿。幼稚園の頃から仲が良く、ずっと一緒だった。
駿は成績が特別良かったわけじゃない。でも、いい奴だった。
事故で死んだらしい。それも、子どもを庇って。
……あいつらしい死に方だった。
それでも俺は、あいつの死を認められなかった。認めたくなかった。
「なんで俺を置いて先に行くんだよ……。死ぬなよ……」
いつも通りの帰り道。俯きながら歩いていると──突然、木の上から一羽の烏が飛び出してきた。
「うわっ!」
驚きすぎて思わず大声を上げ、その拍子に足を滑らせた。
「うおっ!?」
そのまま側溝へ落ちる。
「痛っ!」
側溝の中で躓き、盛大に転倒した。運悪く倒れた先には石があった。
ゴンッ!
「…………」
頭に見事なクリティカルヒット。
「あ、死んだ」
──俺の意識はそこで途切れた。
───────────────────────
目を覚ますと、知らない森にいた。
「……ここ、どこ?」
辺りを見渡す。見たこともない植物。見たこともない景色。そして、どう考えても日本ではない。
「まさか……これが噂に聞く『転移』ってやつか?」
ということは──
「ここ、異世界!?」
そう思った瞬間、テンションが一気に上がった。
「デュフフ……これはいいぞ! めっちゃいいぞ!」
異世界。魔法。冒険。
そして──チート能力。
俺の脳内では、すでに輝かしい未来が始まっていた。
すると──
「うるさいわボケ。静かにせい」
「……え?」
後ろから声がした。
少しはしゃぎすぎたか。
「すいません。ちょっとびっくりしちゃって」
そう言いながら振り返る。しかし──誰もいない。
いるのは、一匹のリスだけだった。
「……」
なんだこのリス。リスっぽくないというか……あんまり可愛くないな。
「まあ、リスが喋るわけないよな」
「おい」
「…………」
「おいコラ」
「…………」
「リスが喋らないとでも思ったんか?」
「うわあああああ!?」
俺は飛び退いた。
「こいつ絶対バカだろ」
「誰がバカだと?」
「てめえみたいな脳みその詰まってなさそうなヘンテコリスには言われたくねえよ!」
「てか、なんで喋ってんだよっ!」
「散々言ってくれるじゃないか、人間よ!」
リスは胸を張った。
「今に見てろ! リス様の恐ろしさを!」
「あ、そうですか。もう間に合ってるんで、ちょっと忙しいんでまた今度お願いしますね。それでは」
「待てゴラ! 話は終わってねえんだよ!「あと、お前忙しくねえだろ!」
……にしてもうるさいリスだ。仲間からハブられたのか?
可哀想に。
「なんなんだその目は! やめろ! 照れるだろ!」
「いや、褒めてないから」
「……まあいい」
リスは少し真面目な顔になった。
「お前、この世界は初めてだろ?」
「まあ、そうだけど」
「俺はある人から頼まれて、お前のところに来た。分からないことがあったら、なんでも聞け」
……こんなリス、信じていいのか? でも、この世界について何も知らないのも事実だ。
「じゃあ、なんでお前リスなのに喋れるんだ?」
「いい質問だ!」
リスは得意げに胸を張った。
「俺は知的型魔物だからな」
「知的型魔物?」
「魔物には大きく分けて、知的型と怪物型がいる」
「怪物型は知能が低く、本能のまま生きている。その代わり、かなり強い奴が多い」
「一方、知的型は頭がよく、人間と友好的な奴も多い。ただし、戦闘面ではあまり強くない」
「……例外を除いてな」
「例外?」
「魔王軍さ」
リスの表情が少しだけ変わった。
「特に魔王と、その幹部たちは別格だ」
「幹部は七人。中々倒せたものじゃない」
「そうなのか……」
なるほど。異世界転移ものによくあるような世界らしい。
「他には?」
「そうだな。スキルとか、冒険者とかはいるのか?」
「もちろん。スキルもあるし、冒険者もいる。あと職業なんかもあるぞ」
「……!」
来た。
これは──
異世界無双、確定じゃん!
「なんだその気持ちの悪すぎる笑みは」
「デュフフ……」
あ、やべ。興奮し過ぎてマイブラザーまで興奮してきた。
「かじりたい。めっちゃかじり尽くしたい」
「気色の悪いやつだ。まあいい」
リスは話を続けた。
「スキルにはメインスキルと、それ以外のスキルがある。転移してきた人間なら、最初からメインスキルを持っている可能性が高い」
「俺にもあるのか?」
「たぶんな」
「俺のスキル、今わかる?」
「俺のスキルを使えば簡単に分かるぞ」
「おーマジか! やってくれ!」
これで最強のスキルを持って英雄になる。
よし。
俺の時代が来た。
「じゃあ行くぞ」
「お願いします!」
リスが俺に手をかざす。
「能力鑑定」
少しの沈黙が流れる。
「どれどれ……どんなへっぽこスキルかなー?」
そして──
「…………っ!?」
「どうした?」
「まさか俺のスキルが強すぎた?」
「……そ、その通りだよ。祐樹」
「えっ?」
「これは……強すぎる」
「マジで?」
いや、そこは雑魚い能力じゃないと困るんですけど。
俺、わざわざフラグまで建てたんだぞ?
「お、おい。冗談はやめろよ」
「はは……オモシロイヤツダナ」
「……」
「うん。全く嘘はついてない」
リスは真剣な表情で言った。
「このスキルは、世界でも片手に入るほど最強と言われているチート能力だ」
「その名も──『強き者』」
「……いや、安直な名前してんな」
「名前の問題じゃねえ!」
「そんなに強いのか?」
「聞いて驚くなよ」
リスはゆっくりと説明を始めた。
「まず、すべてのステータスに大幅なバフがかかる」
「攻撃力、防護力、機動力、運気、魔力量、スキル攻撃力、回復力──すべてが上昇する」
「さらに、スキルそのものの性能も強化される」
「そして──物理攻撃無効、魔法攻撃無効。さらに、スキルを短期間で習得できる。普通なら習得に二、三年かかるようなスキルでも、二、三日で習得できる可能性がある。……これが『強き者』の能力だ」
「…………強すぎんか?」
「だろ?」
「この世界のバランス、どうなってんだよ」
「お前のせいでおかしくなったんだろうがっ!」
「それは悪かったな」
俺は少し考えてから、最後に質問した。
「そういや、お前はなんていうんだ?」
「俺の名前か?」
グムは首を傾げた。
「うーん……名前はないんだよな」
「名前ないのかよ」
なら、俺がつけてやるか。
仕方のないリスだ。
「じゃあ、お前の名前は──グム」
「……グム?」
「いい名前だろ? リスらしい」
「いや、どこもリスっぽくはないんだが」
「そうか? 俺はいいと思うんだが。変えるか?」
「……いや、別に嫌なわけじゃない」
グムは少し笑った。
「俺は気に入った」
「これからは、グムとして生きていくことにしよう」
「おう。よろしくな、グム」
俺は手を差し出した。
「俺はイザワユウキ。これからも頼むな」
グムは差し出した手を見ると、少しだけ笑う。
「ふっ。任せろ。──ユウキ」
こうして俺とグムの、異世界での冒険が始まった。
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