安倍忠貞について
『平安京エイリアンズ』という作品は、神話や伝承など、後付け的な逸話もかなり取り入れています。ただ、歴史的な事実については、基本的には史実ベースで考える、というのを一応の自分ルールにしています。
ただ、ちょいと厄介なのが、東北の安倍氏です。
作中の舞台になっている十世紀中頃というのは、関連する資料がほとんど見つかりません。九世紀なら元慶の乱があり、十一世紀なら前九年の役があるので、そこに絡んできた安倍氏の面々については、ある程度分かることもあります。
けれど、その間にあたる十世紀は、記録の上ではかなり空白に近い時代です。
そもそも、東北地方の安倍氏というのは、そのルーツ自体に諸説あります。
1.長髄彦「神武東征神話のラスボス」の兄弟、安日彦説(神話・伝承)
2.阿部比羅夫「樺太~白村江まで戦った将軍」説(7世紀)
3.道嶋嶋足が俘囚に配った「安倍」「阿部」説(8世紀)
4.阿弖流為にボコられた安倍猨嶋墨縄説(8世紀)
5.安倍比高説(9世紀に陸奥守)
6.安倍貞行説(9世紀に陸奥守)
このあたりは、いわゆる学説と呼べるものから、後世の系図や伝承に基づくものまで、かなり混ざっています。
まあ、これだけ諸説あるということは、それだけ妄想する余地があるということでもあります。
現存する諸系図についても、後世に作られたものと考えるのが自然でしょう。ただし、完全な作り物というよりは、何かしらの事実や記憶を元にして、それを後世の人々が整理したり、つなぎ直したりしたものなのだと思います。
本作に登場する「安倍忠貞」も、史料上にそのまま存在する人物ではありません。完全にフィクションの人物です。
ただ、十世紀東北の空白、安倍氏の諸説、俘囚や在地豪族たちの複雑な関係。そうしたものを踏まえた上での、作者なりの妄想の一つとして、受け入れていただければ幸いです。




