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■第2話「終わりの記憶」

私の号令と共に、若い男ーーアルジャンに続いて入ってきた、ロッソとヴェルデにアスール。

全員がそれぞれの武器を構え、敵の制圧或いは一般人の救出を始めた。

懐かしい顔ぶれは、全く変わっていない。前の私が死んでからそこまで時間が経っていなかったおかげだ。


伸びた敵のボスが起きる気配は未だない。これ幸いに、と私は目の前の敵を殲滅する事に意識を集中させた。

先ほどとは違って、自分を遠くから眺めているような、透明なフィルター越しに見ているようなあの感覚はもう無い。

自由に思い描いたように動く身体。思考はクリアだ。

敵の懐に飛び込んで鳩尾を殴り、持っている銃で敵の顎を思いっきり割る勢いで殴る。

大抵はそれで気絶をしてくれるので、それで済ましてしまう。

次々に敵を()()ではなく、昏倒させていき数を減らした。

さっと周りを見渡して、味方で苦戦を強いられている者などがいないかを確認する。今回はおそらく出来たばかりの極小マフィアだったのだろう、そこまで苦戦を強いられている仲間は一人としていなかった。

最後の一人を、私が昏倒させて漸くショッピングモールの中に静寂が訪れる。

「ノワール……」

「……久しぶり、アルジャン」

呼ばれて振り向けば、アルジャンは床に膝をついて私に手を差し出してきた。

淡い銀色の髪を後ろで一つに結んでいたのに、急いでいたのかなんなのか、理由はわからないが今は解かれて下されている。冷静沈着を絵に描いたような男なのに、今はその表情がぐちゃぐちゃに歪んでいた。

「えぇっと……変わりない?」

その手に自分の手をそっと乗せると、大事な宝物のように握られて居心地が悪く感じる。誤魔化そうと、これまでどうしてたのか促したが、アルジャンは答えてくれそうもなかった。

ただ、私の手を握って何かを堪えるように目を閉じていた。

「アルジャン? どうしたの?」

「……っ、あんな死に方をされたら、誰でもこうなるでしょう!?」

気がつけば、他の仲間ーーロッソ、ヴェルデ、アスールも同じような顔をしていた。

「……あー……悪いけど、その辺りはまだ……」

最後に覚えているのは、あたり一面に広がる赤い色だけだ。バツが悪くなって、ぽりぽりと頬をかく。

「……覚えていないのですか?」

「覚えてない……というより、まだ思い出してない、かな? まだハッキリしないの」

「これを見ても……でしょうか?」

アスールが、おずおずと差し出してきた写真に映っているのは、二十代ぐらいの若い女で髪の毛をひとつにまとめて、前髪で顔半分を隠している。口元に三つのほくろ。少し垂れた目は優しそうというよりは、何を考えているのか分からない印象を受けた。

「……ほく、ろ」

特徴的な三つのほくろ。私がそう呟いた瞬間。脳裏に映像がフラッシュバックした。





ドタバタ騒がしい靴音。私の右腕はダラリと力なく垂れ下がっている。

冷たいコンクリートの壁に背中を預けて、荒い息をなんとか鎮め、隣で同じように屈んで息を潜めている女を見た。前髪で顔半分を隠しているその女を、私が心配している風に声をかける。

女はただ、首を振った。言葉はない。



視界が暗転して、今度は見えている角度が凄く低くなる。目の前に小さな砂利や砂埃が見える。

腕は相変わらずダラリと動かない。ついでに足も、息も苦しかった。ただ、心臓だけが弱々しく脈打っているのだけわかる。

『本当に馬鹿だ、無能だ』

ぐりっと米神に刺激が走って、床に頭が減り込みそうな程の強い力を感じた。踏まれているのだ、と把握して見上げれば、片方だけの瞳が私を冷たく見下ろしている。

『どうしますか、()()

ドゴっと腹を蹴られて、身体を折り曲げて激しく咳き込んだ。

『本当に……なん……!』

途切れ途切れだが、女とは違う声が何やら嘲笑っている。

『こ……せ。そしたら、みと……てやる』

『了解』

すらりと女が何か光る物を懐から取り出した。それを私に向けてニヤリと微笑む。

『さようなら、ノワール……いいえ、ナギサ』

それが、躊躇なく振り下ろされて私の腹部に熱い刺激が走った。そして、今度は肩に、胸に、足に、腕に同じ感覚を感じる。

見下ろす女の出ている半分の顔は綺麗な赤色で染まっていた。


ぷつんと、そこで映像が途切れる。



「ノワール? 大丈夫ですか?」

怪訝そうにこちらを覗き込む、ヴェルデの顔が見えて、ハッとする。

「もしかして、思い出したんですか!?」

「最後だけ、ね」

目を細めて、映像の中で刺されたであろう肩を思わず撫でる。

「この女が裏切ってあなたを殺した。間違い無いですね?」

「……まぁ、おそらく。思い出したと言っても、本当に最後の瞬間だから確信はないけど、僕を刺したのはその女で間違いないよ」

その私の言葉に、アルジャンは写真を近くにいた部下に渡した。何か指示を出しているのが仕草でわかったけど、内容までは小声すぎて聞き取れなかった。

こちらに向き直ったアルジャンは、悲痛な顔で私の手を握りしめる。

どうやら私が死んだ後とても大変だったようだ。

「俺たちが駆けつけた時には、貴女は血まみれで……倒れていて、息はもう……していなかった。身体の至る所から血が出ていて、真っ青な顔で横たわってた。……お願いですから、こんなことはもうこれっきりにしてください! というか、こうして戻れるからと、簡単に色々と投げ出しすぎです! その前は仲間を庇って撃たれるし……あの時は命に別状はありませんでしたけど……」

「アルジャン……でも、ね」

「でも、禁止」

ヴェルデに唇を人差し指で抑えられた。むぐっと吐き出せなかった言葉が口の中で行き場を失ってぐるぐるとした後、喉へと滑り落ちていく。

でも、がダメなら指が離れたのを見計らって口を開けるが、

「あ、だって、もダメだよ?」

アスールにニッコリと笑って言われて、思わずため息がでた。

「……ぜ、善処する」

たっぷりと悩んで、悩んだ末に出した答え。

アルジャン、ロッソ、ヴェルデ、アスールはなんとも言えない顔をしたのち、まぁ及第点と小さく呟きふっと微笑んだ。




話も終わり、感動の再会も済ませ、さて、引き上げるかとスマホを取り出して110番しようと画面を呼び出した。

その瞬間。

ショッピングモールの床一面に黒いモヤが広がって、私は思わず手を止めた。

「これは……!?」

ロッソが驚いて後ずさる。

その黒いモヤはすぐさま床一面を覆いつくし、そこからにょきりと黒い影を生み出した。

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