スパイは誰?
兄 亜斗里は優秀なエスパー以外の人類、またその他の反勢力の抹消。
弟 唯央里は全人類の才能と、国の組織そして強者の完全抹消。
どちらも殺戮が行われるだろう。
その場合、どちらの方が正当性を持たせることができるだろうか?
どちらが、より平和に近づくのだろうか。
「しかし、あなた方サイの目的は少し違うのではないですか?国のトップを全て抹消したり、人を殺したり、これから私たちが起こす戦争も、望んでいないでしょう?」
言葉を探している雫に、唯央里は続けた。
「しかし、サイのやっていることは実際なんの解決にもなりません。
"才能" という根本的な問題から目を背け、対処療法をしているだけで、平和には一歩も近づけていないどころか、むしろ後退しているのです。」
「じゃっ……じゃあどうしたら……
私も、皆が平和になるならなんでもできるっ」
今度は雫が力強い眼光で訴えかけた。
その瞳を見つめ、唯央里はほんの少し安堵したような表情に戻った。
「では雫さん……同じ目的を持つ者として、アクシアに身を置いてはいただけませんか」
「わ、私が……このまま……?」
「雫さん、あなたは、傷つけてきた人間の数より多くの命を救えます」
その言葉にハッと息を飲む。
かつて、サイに入る時に、カオルに言われた言葉だからだ。
「っ……でも……それは……」
向こうには大好きな友達がいる。
もしもサイとアクシアが敵対したら、この人は間違いなく、強者としてサイを抹消するだろう。
「あなたのご友人なら、あなたの仰ることを理解してくれるのではないでしょうか。」
「どう……でしょう……。
私の友達はみんな、私と違って優しいんです。
私みたいに人を傷つけてきた人間は、残酷なことにもそこまで躊躇がない……けど……皆が大丈夫とは言えない」
でも……
その前に一つだけ、確実にやらなきゃならない事がある。
「スパイ……それが誰なのかをまずは捜さないと。
ずっと私たちには良い顔をして、平然とアダマスに加担してたなんて許せない……!」
「……もう時期わかるでしょう。……おや……」
「?」
よく耳を澄ませると、微かに地響きがする。
それは徐々に大きくなっていき、雫は疑問を抱きつつも視線を走らせた。
「雫さん、お見えになったようですよ。」
口角を上げて杖をトンと地面につき、ゆっくりと立ち上がる唯央里を、急いで支える雫は「え?」と声を出す。
「なっ、何がですかっ?」
すると、ついた杖の先から虹色のオーラのようなものがすごい勢いで広がって行った。
周りにいた子供たちがたちまち消えたかと思えば、別の空間のようになった。
「っ?!」
内外部両者から認識できなくする、空間変異もしくは空間断絶のような術の類だろうか…と雫は一瞬で認識した。
しかし、一体何が "お見えになった" というのだろう。
「雫さんが捜している人物ですよ」
雫に支えられながら唯央里が囁いた瞬間……
ズドドドドドドドドー……!!!
その人物は現れた。
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「くっ……! あんた幾つだい?なかなかしぶといね」
燕は、かれこれ20分以上、目の前の少年に苦戦している。
「私は自分の生まれた日を知りません。だから歳も分かりません」
喋りながらも、にこやかなその雰囲気とは似ても似つかない激しく高度な技が飛んでくる。
燕がそれを避けるのに精一杯なほどスピードも速い。
「あんた……SSか?」
すると少年は、にっこり笑って耳裏の痣を見せてきた。
すなわちそれは、SSということだ。
「私は SS 37 フォー。名は、錦と申します。」
「へぇそうかい。ここは長いのか?」
「そうですね……唯央里様にお仕えして10年近いでしょうか」
その言葉に、斬撃を避けながらも燕は目を丸くした。
10年?! そんなに長くある組織だったのか?!
ならなぜ最近になって突然現れた?!
アダマスにいた時も、亜斗里様にアクシアの存在を聞いたことはあったが、特になんの動きもなかったはず……!
まぁ……とは言っても亜斗里様が私をそんなに信用していなかったから、情報を漏洩しないようにしていたとは思うが。
亜斗里様はとても頭がキレて用心深く、なにもかもに用意周到だ。
「はっ……!」
まさか……私がこうなることも想定済みだった……?
きっとそうだ……ごく稀にくる私の勘は、昔からほぼ100%の確率で当たる。
だとしたら……今私は……
「……考え事ですか?
随分と余裕なのですね、燕さん。」
ズバッー!!
「いっ……! な、なぜ私の名前をっ」
腕から血を流しながら燕は顔を顰めて問いかける。
ここにいてはマズイ……!
何かは具体的には分からないが、とにかく何かがマズイのだと、本能が察知していた。
「サイの一部にしか知られていなかったアダマス潜入スパイ。しかし、不覚にも天艸亜斗里に逆手に取られ、良いように使われていた……」
「黙れ」
「まぁ、いいです。ここで終わりにしましょう。あなたを殺すことは、唯央里様に許可されている」
そう静かに唱えたかと思えば、人差し指で六芒星を描いた。
「っ!!!」
その六芒星に囲われた燕は、
「うあああああぁぁ!!」
全身をオーラで包み込まれ、そのまま消えた。
「……想像以上に呆気なかったですね。
さて……あとのお2人は何処ですかね。
まぁ放っておいても問題はないでしょうけど」
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「はぁっ……くそ……っ」
錦にやられたと見せかけて、実は燕は別の場所に抜け出ていた。
「私だって、そんな簡単にやられるものか……」
" 俺に殺されたくなけりゃ貢献しろ。
姉貴と共に証明してこい "
胸糞悪いカイトの表情を思い浮かべ、残っている力を振り絞ってスキルを発動する。
目を閉じると、姉の残穢を感覚だけで脳内で探ることができた。
スッー……
そして場所を突き詰めると、一瞬にしてその場から消えた。




