エンパワメント計画②
「トントントン♪」
なぜか、声でノックの音を鳴らす金髪ポニーテールの女性が、もぐもぐと口を動かしながら部屋に入ってきた。
お盆に乗ったリンゴジュースを2つテーブルに置く。
「ありがとうカミラ」
「ういーっす」
真顔でリンゴジュースに口をつける茂範に習って、光も少しずつ喉に流し込む。
自分は相当喉が渇いていたのだと自覚した。
「さっきワシは、養成所がいくつもあると言ったな」
「あ、うん……」
「問題はそれだ。PSIサイから逸脱して、国の一部の組織が秘密裏に作り出した。養成所と呼ぶにはあまりにも間違っているものをな。」
「どういうこと……?」
「別名、エスパー開発改造実験機関。SKJ。」
その言葉を聞いただけで、ゾクッと鳥肌が立った。
開発……?
改造……?
実験……?
「なんだよ……それ……」
茂範は至って冷静に続ける。
「昔、アメリカでスターゲイト計画というものがあった。いわゆる、国力を上げるために国が超能力スパイを養成する研究を政府主導でしていたんだ。
その後1995年にCIAによって打ち切りになった。」
光は目を見開いたまま固まる。
グラスの中で氷が溶ける音がやけに大きく響いた。
「しかし、世の中の大半のことは、いつまでも続いている。良いことも悪いことも、大抵のことはどこかで細々と誰かが続けているのだ。」
そこまで言うと、茂範はまたグラスに口をつけた。
その冷静な態度に、光は気味が悪くなる。
喉が渇いているのにまたグラスをとる意識が働かない。
この先を聞きたいような聞きたくないような
とにかく心臓の音がうるさい。
それはすでに、なんとなく予想がついてしまったからだ。
「じゃ……じゃあ……あの病院にいたのは……」
「そうだ。ワシがその機関から救出した人間たち。まだほんの1割にも満たなかったが。」
そうか……と光は腑に落ちる。
今まで茂さんがやってきたことは…いや今でもやっていることは……
SKJからの人間の救出……そして……SKJの撲滅……?
「日本が数十年前に始めた、エンパワメント計画は、実は少子化対策の一環という名目だったんだ。」
「え?どういうこと?」
「今現在、この国には3種類の人間がいる。
生まれた瞬間から先天的に希少才能がある者……エスパー。
そしてエンパワメントによって10歳までに才能が開花した者…つまりは大半の人間だ。もう1つは……」
光はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「先天的な希少才能を持つ者で、さらに実験改造をされた人間、スーパーエスパー。SSと呼ばれる人間の分類だ。」
「……スーパーエスパー……SS……?」
「先天的にエスパー能力を持って生まれた者は、耳の裏にアザがある。その際、親は国にその赤子を莫大な金と引き換えに寄与する権限が与えられている。」
ハッと1つ思い出してしまった。
以前、真奈美にふざけて飛びつかれた時だ。
耳の裏のアザを見たことがあった。
その時は全く気にも止めていなかった。
「……金欲しさに子供産むってことかよ……」
「まぁ宝くじに当たる確率よりは高いからな」
実際に、少子化対策としてはうまく機能し、データ上はかなりの成功例になっているらしい。
「そして寄与しない場合は、赤子が10歳になるまで一緒に暮らして良いことになってはいるが、その後は国の行政機関が担う施設に強制的に入れられる。」
「…結局国が取り上げるってことだろ?そんなの……」
そんなの酷い……国も親も。
命をなんだと思ってるんだ…
「だが考えてみろ。そもそも、エスパーを持った者が普通の人間社会で普通に生きられると思うか?」
確かに……と気付いてしまった。
透視能力や念力など、ありえないような非人間的力がある者が、日常で普通に勉強したりスポーツをしたりなど、なかなか常人に合わせてできるものではないだろう。
「99%の親は初めから金と赤子を交換する。そもそもエスパーの場合、育てるのにも危険が伴うから逆に気味悪がられるのが大半だ。
そして10歳までに育てると決めた親が稀にいても、ほぼ100%、10歳未満で手放している。」
「………。」
茂範が言うには、エスパーは基本的にこの世界では一般人から遠ざけられる存在らしい。
確かに超能力があって犯罪でも殺人でもなんでも容易に犯せる非現実的な能力を持った人間などとはなるべく関わりたくないと考えるのは当たり前だろう。




