その眼の奥に宿る
怪我のこともあり、今日はこのまま帰らせてもらった。
帰宅中も、藍那に言われた言葉が何度も自分に突き刺さる。
そして、自分がいかに弱い奴だったのかを思い知らされた。
「足元ばかり見て歩いてると転ぶぞ」
「っ!茂さん!」
「今日は随分帰宅が早いな」
茂範には真奈美の死のことはもう伝えてある。
最近病院に行けなくなっていることも察しているだろう。
「あー、うん……体育祭の練習で怪我しちゃって……足でまといだって言われちゃってさ……」
笑って誤魔化すと、茂範は目を細めた。
「寄っていけ」
たった一言そう言われ、茂範の大きな家の中に招かれる。
大きなソファーに座り、幼い頃から光が好きなリンゴジュースを出してくれた。
しかもストロー付きで。
「ありがとうっ!」
リンゴジュースを吸いながらチラと茂範を見ると、なんと茂範もストローでリンゴジュースを吸っていて、その姿がなんともシュールすぎて自然と笑みが零れた。
思えば、ここへ来るのは数年ぶりだろう。
話すにしても、いつも会うこの家の玄関先だ。
椅子と小さいテーブルが置いてあって、よくそこで茂範はタバコを吸っている。
そういえば茂範は普段何をしているのだろう。
キョロキョロと部屋を見回すが、相変わらずシンプルでこれと言ったものは何も無い。
それならこんなに広く大きな家でなくてもよい気がする。
椅子もソファーもたくさんあって、
まるでこれだと、大家族がいるか、ここにたくさんの人が来ることがしょっちゅうあるみたいな感じだ。
幼い頃は1ミリも気にならなかったことが、
この歳になるとようやく疑問に思えてくる。
「……真奈美のことは残念だったな」
「あ……うん……
でも、いつまでも俺がメソメソしてるなんて大人気無いからさ。明日は顔出したいなって」
そこから光は、真奈美のことや、志門や美乃里のこと、クラスメイトのことなどを話した。
どの話も、茂範はいつものように真剣に興味深そうに聞いてくれた。
「ところでさ、ずっと思ってたんだけど、あの病院ってどうしてお見舞いとかに来る人いないの?患者さんたちの身内とか誰も見たことないんだけどさ。」
そもそも茂範の紹介した病院だ。
たまに顔を出していることも知っている。
茂範なら何か知ってるはずだと思い、今更ながら問いかけてみる。
「そのままの理由だ」
「え?」
茂範は目を逸らし、窓際を見た。
空はグラデーションのようになっていて、ほどよく夕暮れになりそうだ。
「身内がおらんからだよ」
確かに1つの可能性として考えたことはあったが、まさか本当にそうだとは思っていなかったため、光は開いた口が塞がらない。
「……え、いないって…ホントにいないの?」
「正確に言えば、身内は不明と言った方が正しい」
「不明?!」
「お前は来週で17になるんだったな。」
「そうだけど…?」
茂範は、疑問符を浮かべている光の丸い目をジッと見つめた。
あぁ……本当に……
そっくりになってきたな……
お前そっくりの目に……
懐かしい……
その眼の奥に光る……
「光。来週の誕生日、お前に渡したいもんがある。その時に、また詳しく話そう。」
茂範はそれだけ言って口を閉じた。




