月みたいになりたい
SKJに茂さんが助けに来てくれた時、私は全力で反抗した。
あらゆる動物を使い、SKJのスタッフたちを助けた。
だからサイに連れてこられてからも、茂さんたちとはなかなか打ち解けられなかった。
「その野良猫ちゃん、なんて言ってるのー?」
ある日、いつもみたいに野良猫の前に佇んでいたら、カミラちゃんが話しかけてきた。
サイメンバーの中で、カミラちゃんはとくにしつこく話しかけてくる子だった。
「……お腹すいたって」
「えっ!アタイと同じだ!
じゃっ!これ一緒に食べよ!!」
ポッキーを差し出してきたが、私は首を振った。
「猫も犬も、チョコレートはダメなの」
「じゃあなんならいいの?」
「…………鮭むすび……」
猫の意見を代弁すると、カミラちゃんは「アタイもそれ大好き!」と言ってすぐに買って戻ってきた。
「いいなぁ、アタイも動物とお喋りしたいなぁ」
モグモグと口を動かしながらカミラちゃんはそう言った。
「……どうして?」
「だってお友達になれるもん!
そのためには、まずはお喋りしないと!!」
私はその言葉にハッとした。
「………もしかして…だから私にいつも話しかけて……」
「えっ!そうに決まってるじゃん!
椛はアタイの仲間だし、もう友達だよ!!」
仲間……友達……
初めて言われたその単語は、自分に向けられているものだとはにわかに信じ難いくらい、聞き慣れない言葉だった。
「……でもね……みんなすぐに、私のこと嫌いになるよ。だからカミラちゃんもここのみんなもきっと……」
私の見た目が、声が、鈍臭いところが、空気が読めないところが、みんな嫌いなんだって。
私のことをずっと好きでいてくれるのは、動物たちだけ。
「ん〜、嫌われるのってそんなに怖い?」
その言葉に目を見張った。
でもカミラちゃんは、いつもの顔で明るく問いかけてきた。
「嫌われるっていうのは、魅力があるってことだよ。」
「え……」
「嫌われる要素を自分の欠点だと思ってるの?
欠点があると人から嫌われる、欠点のある自分は愛されないと思ってるの?」
一見すると、カミラちゃんの言動は私によく似ていて、いつもカイトさんを中心に、イラつかせたり怒らせたりしている。
だけどカイトさんを始め、皆に好かれている彼女のことが、私は不思議だった。
「アタイやカイトやカオルだって、生まれた時からずーっと動物以下の扱いで生きてきたよ。
でもどこかに絶対にね、いるの。ありのままの自分を愛してくれて、必要としてくれる人が。」
ニコッと笑うカミラちゃんの笑みを見て、私は気がついた。
自分を一番嫌っていたのは自分自身なんだと。
自分はダメなんだ、ダメなところを直さないと愛されないし受け容れてもらえない、そう思いこんで自分を卑下して、自分が自分を受け入れず卑屈になっていたことが、一番ダメなことだったんだと。
だから、私は誓ったんだ。
もう自分をそうやって騙し続けることはやめようって。
そんな人生に、未来はない。
ドンッ!!!
「んっ……は……」
口から血を流しながら、私は刃を強く握った。
「ふ〜っ、危なかった危なかった〜
小さくって全然見えませんでしたよ〜でもまさかこんな小さい子供だけ置いて逃げてくなんて、サイは心が無いですね〜」
違う。心が無いわけない。
彼らはみんな、こんな私を無条件で愛してくれた人たちなの。
初めて私に、人としての心を教えてくれた人たちなの。
そんな彼らは、素敵な心がたくさんあるの!!
「私はっ…私の…っ…好きな人たちの人生をっ…守るっ…!!」
周辺に倒れていた猫たちが蘇ったように起きだし、離れていくライフルエスパー目掛けて一斉に飛んで行った。
「なっ?!こいつらなんでっ…」
「うああぁあぁああああぁぁあっっっ!!」
雄叫びをあげながら後ろから心臓を刺されたエスパーは、そのまま倒れて行った。
そして力尽きた椛もその場で仰向けに倒れた。
「あ……月……綺麗……」
" ただそこにいるだけの月だって、本当はとっても重要で必要とされてるでしょ? "
あの時のカミラちゃんの言葉が蘇る。
そうだ、私はあのとき……
月みたいになりたいって思ったんだ。
暗闇の中でも、ただそこにいるだけで人も動物も、皆を明るく照らすことのできる、光みたいな存在に……
「おいっ?!なんで椛がいねぇんだ?!」
空を飛びながら月明かりに照らされ、モトキがそう気付いて叫ぶと、瓦礫から助け出した男の子が小さく口を開いた。
「こ、これに乗る時……あのお姉ちゃん僕を…僕だけを捕まらせて…っ……」
皆の顔が驚愕の表情になる。
「もっ、モトキくん!!早く戻らないとっ!」
朝凪の叫びに、モトキは深刻な表情でグッと奥歯を噛み締めた。
「ダメだ……このまま飛んでいく……」
「でも椛ちゃんがっ!」
「夕凪!最初に言ったろう!たとえ落ちるヤツがいてもこのまま高速で移動するって!!」
絶望したような全員の目から、涙が零れた。
「……あいつは全うしたんだよ…自分の人生を……」
前を向いたまま微かにそう呟くモトキの頬に、月明かりで照らされた涙が見えた。




