520 箱から出てきた宝石もどき
私は負けた。デザートという誘惑に負けてしまった。
そして私は椅子にもたれて天井を見上げている。
恐ろしい。悪魔神父はこの国を魔界にしようと思っているのかもしれない。
「アンジュ様。食後のデザートです」
そんな私に朧がデザートを持ってきてくれた。視線を天井からテーブルの上に戻す。
白いクリームの上に赤やオレンジ、紫の果物が乗っている。
「ケーキ!」
添えられていたフォークを手に取り、ぶすっと白くふわふわに化粧をされたケーキに突き刺す。
大きめに切り取って、口いっぱいに満たす。
この状況に食べないとやってられない。
私は開けられたままの小箱に視線を向けた。みっとりと宝石が入っているように見える。
そして神父様のほうを窺い見た。
にこにこと胡散臭い笑顔で、私たちに出された料理と同じものを食べている。
そう、あの神父様が宝石など私にくれるはずなどない。
黒狼の人が持ってきたのだ。中身はすべて精霊石。
この箱の中に入っているのは世界が食べて消化できなかった残骸の魂の成れの果てだ。
悪魔神父はどれほど配下が必要だと思っているのだろう。赤い鳥だけでは満足できなかったのだろうか。
そんなことを思っていると、一瞬にしてケーキが皿の上から消えてしまった。
味を堪能することなく、お腹の中に入ってしまった。
「アンジュ。食べ終わったのなら、そこから一つ選んで復活させなさい」
取り敢えず一体でいいらしい。
悪魔神父が配下を引き連れて国を蹂躙する未来を予想していた私はホッと胸をなで下ろす。
「でも神父様。これ何が出てくるかわからないのだけど?」
これは妖怪ガチャと言っていい。私では何が顕れるのかわからない。
いや、何故か鱗率が高いので、蛇を引く可能性のほうが高い。
「確か月の聖女に渡したモノは敢えてキリンというモノにしたのですよね」
「ああ、蛇どもに聞けってことね」
私の背後には食事を取らずに立っている蛇二匹がいる。
そう言えば、酒吞と茨木は食べているけど、蛇三匹は必要ないのか、私とルディの背後に控えていた。
でも、何のために喚び出すのかわからない。それによってどういうモノにするか変わってくるよね。
「神父様。そのモノに求めるものはなに?」
「そうですね。騎士団に一体いるだけで、先程の目というものを排除できるモノですか」
ああ、赤い鳥を手元に戻しておきたいと。
「青嵐。月影。どれかお勧めはある?」
私は箱の中身をテーブルクロスの上にぶちまけた。
色とりどりの石が転がっていく。
あれ?麒麟は勾玉の形だったけど、この中にはそれらしき形がない。
楕円形だったり、球状だったり、欠けたように歪だったりしている。
「質が悪い?」
私は首を傾げて石を指で転がしていく。
「だいぶん摩耗しているようですね」
「摩耗?」
他の石によって削られてしまっているってこと?確かに地面に敷き詰められていたら、その上に何かが通るたびに擦れてしまうだろうね。
「それでこの中で意志の疎通ができて、雑魚妖怪が寄ってこないモノっている?因みに制御可能なやつね。ツチノコのできそこないみたいに、内心なにか抱え込んでいるのは困るからね」
「我は黄泉の王に忠誠を誓っております」
私が表面上は従っているようにしていたリトのことを棚に上げる。
今はルディが躾けたからいいけど、それまでは隙あらば噛みついてやろうという感じだ。
「我が主。画皮鬼はどうでしょう?見た目は人に見えます」
「で?」
青嵐が聞いたことがない名を言ってきた。『き』ということは鬼だろうか?
「人の姿で現れ、騙した者の皮だけを残して食べます」
「却下」
それ、食べられる人がいるってことだよね。いくら人の姿をしていても駄目だよ。
「そうですね。人に危害を及ぼさないとなりますと、蓬頭鬼は如何でしょう?」
「また鬼?」
今度は月影が聞いたことがない名を言ってきた。また『き』だ。鬼率が多いところから取ってきたのだろうか?
「はい、森を守る鬼ですね。動物を殺した者に牙を向く鬼です」
「……動物はいないけど、魔物はいるのだけど?それ、魔物を動物と勘違いされたら困る」
この世界に犬はいないのだけど、魔犬はいる。見た目は凶暴な犬だ。
人に危害を与えるので、討伐対象になるのだけど、魔物を動物と勘違いされそう。
「青嵐よ。これは……」
「月影よ。しかし、これは……一つではない」
何かを見つけたらしいけど、神父様の一つという条件に当てはまらないらしい。
「何を見つけたの?」
妖怪なのでまともなモノがいないのはわかっている。だけど、話し合いで解決できる相手なら一番いい。そして、人に危害を加えないモノだ。
「「一対のモノです」」
一対ということは、二人いないといけないという妖怪ということだね。




