結婚の申込み
ネフェリアーナ目線に替わります。
『すまない、ネフェリアーナ。やはり君への処罰が必要だということになったんだ』
もう絶対これだし!あーもう想像できる!めちゃくちゃ想像できる!できるでしかない!あのキレイなお顔を申し訳なさそうに歪めて、でもサラッと言うのよ「縛首だね」て!もぉー男前だから何でも許せるってもんじゃないんだから!
最悪の事態なのだ。
先程王宮から使者が来られて、第二王子が我が家へ来訪されると伝えられた。
そして何故か、いややはりか?「ネフェリアーナ令嬢には必ずご同席下さいませ」ときた。終わった…。
そして今私は侍女達の着せ替え人形と化している。
「やはりお嬢様にはピンクがお似合いだわ」
「いいえ、ここはイエローで。」
「それは派手すぎだわ、もう少し押さえましょう」
そして二言目にはこう言うのだ。
「だって第二王子殿下がお嬢様に会いに来られるのよ!」
ーーーええ、まぁ死刑宣告する為にね。
最高級のドレスに薄っすらとお化粧をして死刑宣告受けるとか…バカなの?どこぞの悪役令嬢なの?
でも…顔を高潮させて本当に楽しそうな侍女達を見ていると、これが侍女達にとって最後のワクワクかもしれない。数時間後には全員悲しみに突き落とされるんだし。そう思うと「やめて」とは言えない私なのだ。全ては私が撒いた種、きっちり回収させて頂こうじゃないの。
……でも時間差で処罰とかなくない?
「バルドメオ公爵、突然の訪問、申し訳ない」
「いえ、とんでもございません。何かございましたので?」
「ああ。……ごきげんよう、ネフェリアーナ」
「……あ、はい、第二王子殿下。ようこそおいで下さいました。」
父と話していたはずが、急に私にお声がかけられた。私は殿下の目も見ず挨拶をし言葉を交わす。
「どうした?体調が良くないのか?」
ーーええ、こんな時に体調万全とかありえないですよね?
「いえ、お気になさらずに。」
「そうか。大丈夫か?」
すると、あろうことか殿下がぐっと身体を曲げて、俯く私の顔を覗き込んできたのだ!!
ーーだから何!!!???
殿下は私の顔を覗き込みニコッと笑うと
「先日の飾らないあなたも素敵でしたが、今日のあなたは格段素敵ですね。やはりお美しい。」
耳元でそう囁くと元の姿勢に戻った。
ーー突然何キャラ?
応接室へ移り、私の両親と私そして殿下とラミエル様、全員が腰をおろした。今日はラミエル様も殿下の隣に座られた。
「さて、あらためて今日は突然の来訪ですまない。
実は少々込み入った話をしたくて参ったのだ。」
ーー込み入った……ね……
「先日の出来事だが…あの後、あり得ないはずの事態が起きた。」
ーー吐きそう。
「単刀直入に言おう。第一王子の身体に魔紋が現れたのだ。」
ーーーーマモン?マモン?新種の処刑方法?
「マモンってなに?…ですか?」
思わず発した言葉に殿下とラミエル様は少し驚いたようで顔を見合わせた。「そっちか…」殿下の小さい声が聞こえた。
ーーどっち?
「申し訳ございません。娘は魔紋を知りません。」
母が助け舟を出してくれた。
「知らないとは?……あ、すまない、先に言っておこう。
我が国では魔力使いは処罰対象だ。ただ私は本日公爵家を処罰したくて来たわけではない。同じ魔力を持つ血筋として話をしたくて来たのだ。
なので出来れば隠し事なく話をしてもらえたらと思う」
殿下は明らかに母に向かって言った。
ーーちょっと待ったぁぁ!
今、『処罰をしたくて来たわけではない』て言った?言ったよね?うっそ、やったぁ!なぁんだ、そうならそうと早くおっしゃって下さいませよ、第二王子様!
脳内お祭り騒ぎの私の隣で、母が一瞬目を瞑って俯いた。そして何かを決したかのように顔を上げると、まっすぐ殿下の目を見た。
「わかりました。こうなってしまった以上、殿下のお言葉を信じ、私も覚悟を決めます。
娘には魔力がありますし本人にも伝えてあります。
しかしながら恐らく使ったことはないと存じます。
魔力について特に教えてもおりません。」
ーーえ、お母様、それ言っちゃうの?
「………なるほど。そうなると暴発で間違いないだろう。我々もそう予想してはいた。
それにしても魔力を使ったことがない?本当か?」
私に質問が向けられた。
いまいち話の展開がわからない私はチラッと母を見た。すると母が「大丈夫」とでもいうように微笑んだので答えた。
「は…い。そうですね。」
「なぜだ?」
「なぜ?なぜ、ですか?……特に魔力が必要ではないと言いますか…」
「必要ではない。だから使ったことがないのか?」
「あ、もちろん使ったら処刑されますし。それなら使わないで良いかと…」
「…………………」
殿下は黙り込んでしまった。
え?私なにか間違った?やらかした?というか
「マモンって何?」
隣の母に聞いた。
「強い魔力を受けたあと、身体に痣が出ることがあるの。それが魔紋。魔紋は魔力の血筋によって違う、家紋と同じね。
あなたは恐らく先日第一王子に魔力を使ってしまったの。
そして第一王子の身体に我がレオデオール家の紋が表れた」
「魔力?ネフェリアーナが?第一王子殿下に?」
今さらながら父が真っ青になった。
「待って、どうして?私は何もしていないわ!」
「そうね。恐らくあなたはとても怒ったのではないかしら?強い怒りは魔力を暴発させるわ。あなたは自分で気づかないうちに魔力で攻撃してしまったのね。」
魔力で攻撃?
「そういえば……あの時…「離れなさい!」と叫んだ瞬間、第一王子が吹っ飛んでたかも…」
「第一王子が吹っ飛んだ…」
父がこの世の終わりのような声を出した。
「ぶっ!」
ラミエル様が吹き出した。
「失礼、申し訳ない。天使が悪魔を吹っ飛ばした光景が浮かんで…いや、ネフェリアーナ様、あなたは間違ったことはしておりません、あなたは正しい行いをされたと思います。」
ラミエル様はそう言ってくれたが、その隣の殿下は相変わらず難しい顔をしていた。
「レオデオール家は数百年前に途絶えた魔系と言われているようですが」
「そうですね。途絶えてはいません。この子が現在最後の末裔になりますね」
「なぜ途絶えていると…」
「それでいいのです。我らがそれを望んだからです。」
「途絶えていると思われることを…」
「そうです。
魔力は人を惑わせます。魔力を持つというだけで狙われ利用され迫害されることもあります。
私達はそこから逃げたのです。
人としてただ普通に穏やかに暮らしたい。
そのために我々は魔力を使うことをやめ、魔系であることを隠したのです。」
「私も逃げたいものだ」
殿下の呟きに全員殿下の顔を見た。
「あ、いや、失礼。」
「いいえ、それが普通かと。」
母がとても優しく言った。
「お立場を守られるだけでも大変でございましょうに、魔力も守らねばならない。その苦労はいかばかりでしたでしょう。
どれだけの方が思いを寄せ綿々と繋がれてきて今があるのかと…考えるだけでも畏敬の念しかございません」
「そのとおりです、殿下。恐れながら、王族方には遠く及ばない国民であれど、皆その思いがあるからこそ、陛下や殿下をよりお慕いするのだと思います。」
父が言葉を添えた。
「私は王位継承者としては不出来なのかもしれません。魔力を持つ子を生むことが責務とわかっていながら覚悟が出来ず。結婚相手も決めないままにここまできてしまいました。
そして今も私は王子というより、私個人の気持ちを優先した結果、ここに座っているのです。」
「それは…どういう意味でしょうか?」
私達3人の疑問を父が代表して質問してくれた。
殿下がまっすぐに私の目を見つめ言った。
「本日、私はお嬢様、ネフェリアーナ嬢との結婚を申し込みたく参りました。」
ーー殿下、ご乱心?