視点について、まずは基本的なことを。
で、ここからは視点と人称についての話になりますが。まずはそうですね。基本的なところから述べていきたいと思います。
まず、視点というのは誰を軸に話を書き進めていくかということです。で、人称というのは、誰の「言葉」で話を書き進めていくかということになります。
……とまあ、これは言葉で説明されても厳しいですよね。
と、いう訳で。まずは人称について、例文を上げて説明したいと思います。
それでは。まずは一人称から。
―― 一人称例文 ―――――――――――――
「行ってきまーす!」
[私は]玄関でそう叫びながら、大慌てで扉を開けて、飛び出るように家を出る。そのまま駆け出して、チラリと腕時計に視線を送る。――げっ、7:20、思ったよりもヤバい! そう焦りながらもまだぎりぎり間に合うと、手に持ったトーストを咥えて、交差点の向こうのバス停目掛けて、全速力で駆けていった。
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……えっと。実は私、ちょっと一人称らしい文章が書けなくなってしまいまして。ちょっと例文にするには微妙な文章かもしれませんが、そこはご容赦願います。あと文章の稚拙さも。
一人称小説の文章とは、まるで主人公(視点者)がリアルタイムで実体験を語っているかのように書かれた文章のことです。
主人公自身が視点者となって物語を語るために、地の文の主語が[私]のような一人称代名詞になる。そこから「一人称小説」という呼ばれ方をされているのだと思います。
……まあ、実は主人公の主語を省略した場合も「一人称小説」になるのですが。
一人称小説には、とても大きな制約が付いてまわります。具体的にいうと、まず主人公の認識できることや見聞きしたことしか書くことができません。
他人の考えていることは書けませんし、物陰に何かが潜んでいても、主人公が気付いてなければ書けません。全てが主人公の主観で書かなくてはいけないため、主人公が誰かに騙されているときは「騙されたときの主観」しか書けません。
さらに言えば、基本的に視点変更はできません。なので、多くの場合は主人公=視点者になるはずです。
まあ、「〇〇視点です」みたいな感じで注釈を入れて視点変更することも出来なくはないですし、やっていけない訳ではありませんが。
さらに言えば、注意書き無しでの視点変更も、やってやれないことはありません。私の好きな作品でそう書かれた作品もありますし、私も処女作では思いっきりやりましたからね。
但し、当たり前の話なのですが、一人称の場合、主語で誰が視点者なのかを直接判断することはできません。そして、仮に読者が視点者を誤解したまま文章を読み進めた場合、その読者はかなりの不快感を味わうことになります。
つまり、一人称で視点変更を繰り返すような作品は主語が不安定になって、ある種の気持ち悪さを招きやすい文章と言うことになります。
……まあ、これはもしかすると私だけなのかも知れませんが。
まあでも、一人称では視点変更は出来るだけ避けた方が良いこと、その結果、半ば強制的に主人公の主観を軸に話を書き進めていくことになるということは認識しておいた方が良いと思います。
で、そういった制約が無いのが三人称ですね。以下に例文を記してみます。
―― 三人称客観視点例文 ―――――――――
「行ってきまーす!」
駆美は玄関でそう叫びながら、大慌てで扉を開けて、飛び出るように家を出る。チラリと腕時計に視線を送った駆美は、7:20という表示を見て焦ったような表情を浮かべながらもまだ間に合うと判断したのだろう、手に持ったトーストを咥えながら、交差点の向こうのバス停目掛けて全速力で駆けていった。
―― 三人称一元視点例文 ―――――――――
「行ってきまーす!」
駆美は玄関でそう叫びながら、大慌てで扉を開けて、飛び出るように家を出る。チラリと腕時計に視線を送った駆美は焦ったような表情を浮かべる。――げっ、7:20、思ったよりもヤバい、と。
それでもまだぎりぎり間に合うと判断したのだろう、駆美は手に持ったトーストを咥えながら、交差点の向こうのバス停目掛けて全速力で駆けていった。
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……これまた文章の稚拙さは置いておくとして。一人称との違いは主語とモノローグ(内心の独白)の比率ですね。三人称客観視点はモノローグ無し、三人称一元視点はモノローグを少し残した書き方をしています。
三人称小説というのは、基本的に「物語上にいない誰か」の言葉で書かれた小説のことです。そうですね、舞台を見る観客の言葉で書かれた小説と言えばわかりやすいでしょうか。
上の例文(客観視点)と下の例文(一元視点)との違いは視点の違いです。客観視点は視点を「舞台を見る観客」のままで、一元視点の方は、言葉と主語はそのまま、視点だけを物語上の人物(駆美)に移しています。
どちらも文章の中に主語(文章の対象者の名前)が書かれているため、読者はその文章が誰のことについて書かれているのか容易に判断することができます。なので、一人称に比べて視点変更が容易です。
また、どちらも自分自身の表情のような、主観では知ることのできない情報も書くことができます。
上の例文(客観視点)と下の例文(一元視点)との文章の違いは実のところ、モノローグの有無だけなのですが。これだけで、ずいぶんと色々なことが違ってするのです。
まず客観視点の方は、主語を自由に選べます。焦点を当てたい人がいるのならその人を主語にして書けば良い。上手く書けば、一段落毎に主語を変更することも可能です。
但し、モノローグ(内心の独白)を入れることはできません。なので、心理描写をする際は、「必ず」何か表情や仕草等を絡めて書かなくてはいけません。――もっとも、「焦る」を「焦ったような表情を浮かべる」と書く程度の話なのですが。
一元視点の方は逆に、主語は視点者に固定されます。そのシーンが終わるまでは、基本的に視点を変更することができません。そのかわり、モノローグ(内心の独白)を使って心理描写をすることが可能です。
なお、仮に三人称一元視点を使いながら、シーンの途中で視点変更をした場合、読者に不快感を与えることになります。もっとも、その不快感も一人称よりは軽くなるとは思いますが。
一人称より制約が少ないのなら三人称の方が良い気もしますが、そうとも言い切れません。例えば主人公の主観を利用したトリックを使う物語の場合は一人称の方が相性がいいかと思います。三人称でもできなくはないですが、自然にやるのは難易度が高いです。
また、視点変更や説明文が入れやすいと言っても、限度は当然ありますし。
それでもまあ、一人称より三人称の方が制約は少ない、色々なことが書ける書き方なのは間違いないと思います。
◇
実のところ、一人称と三人称とで共通して当てはまる「コツ」みたいなのは、確かにあります。三人称でも一元視点を上手く利用すれば一人称小説にかなり近づけることもできますし、先に書いたように、一人称で視点変更を多用する書き方だってあります。
そう言った意味では、必要以上に人称に拘らなくても良いと、言えなくもありません。どちらでも表現できるような物語なら得意な方を選んでしまっても構いませんし、少しくらいなら融通だって効きます。
――ただ、作者に相性や好みがあるように、読者にも、「大多数に共通する」相性や好みがあるのは忘れてはいけません。
もちろん様々な好みもあると思いますが、基本的に「同じことが書かれているのであれば、読みやすい方が良い」という方が多数派になるはずです。そしてこの読みやすさは、「読みなれている」という要素がとても大きいのも事実なのです。
だから、あまりに変なことをすれば、それだけで多くの読者にとっては「読みにくい文章」になってしまいます。
……まあ「読みやすさが正義」というのが常に成り立つかと言われれば、少し微妙ですが。
流し読みしにくいけど集中して読むとすごい勢いで情報が入ってくるような文章というのも、世の中にはあります。空行でこまめに文章を区切ると流し読みはしやすくなりますが、少ない方が一気に読みやすいみたいなこともある。その辺りを意識して、あえて行を詰めるのも一つの選択でしょう。
ただ、読むのを中断したくなるような、強い違和感を感じさせる文章だけは書かない方が良い。そしてこの「強い違和感」は、文章の上手い下手よりもむしろ、微妙な視点変更をしたときや視点がブレたときに感じるものです。
だから、人称や視点というのは大切に扱うべきだし、意味も無く冒険するようなことは避けた方が良い。
もちろん、そのリスクを認識した上で色々と冒険するのは自由です。だけど、読者にだってそういう作品を読まない自由はありますし、そうと指摘する自由だってあることは忘れてはいけません。
少なくとも、人称や視点のおかしさは誤字脱字以上に致命的で、だからこそ感想欄等で指摘もされやすいのです。
今の「一人称は(基本的に)視点変更ができない」等の話は、それなりの根拠があってそう言われるようになったと、そう認識しておいた方がいいと思います。
◇
一人称の方が書きやすい人もいれば三人称の方が書きやすい人もいる。相性や好みの問題でもある以上、どちらが良いと言うことはできません。
また、そう言った好みとは別の話として、一人称の方が「書く側も」主人公になりきりやすいし、制限が厳しい分、あまりよろしくない書き方を多用せずに済むという利点もあるのかな。私としては、初心者には、まずは一人称をお薦めすることになると思います。……まあそれも、無理そうなら次は三人称で書いてみよう位の軽い話ですが。
でもまあ、まずは知らないと選びようも無いですしね。そんなつもりで、基本的なことをまずは書いてみました。
詳しい話はこれ以降に、少しずつ書いていきたいなと、そんな風に思います。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
とりあえず、ストックした分をこれで吐き出しました。
申し訳ありませんが、テーマ的に書くのが大変になりそうなので、続きはいつぐらいになるかちょっと不明です。
気長にお待ちいただけたらと思います。