王子様の探し人4
エドワードが、エミさんからの当時の事情を聞かされて愕然としていた。
なんでも、エミさんが子供がいないのになんで独身の私が貴重な人生の時間を使ってよその子を見ないといけないの、私の時間の対価として正当に子育ての評価を金額にして頂戴ね、わがままな子供の子守なんてもううんざりなのといったから、両親はそれなら戻ってこなくて結構だと言い放ってやった、可哀想なエドワードは日本の生意気な女に騙されて捨てられたのだといい聞かされていたのだそうだ。
そんなわけあるかーーい!!と事情を知らない私も思わず突っ込んでしまった。自分たちが子育てできなくてエミさんに世話を丸投げしたのになんて言い分なんだ!とブチ切れてしまった。
エドワードは、両親のその話が納得できなくてずっとエミさんを探していたのだという。
そんなことをエミさんが言うはずない、何かと偉そうに言い聞かせようとする親に不信感を抱いていたと。祖父は、否定も肯定もしなかった。だから今まで真相がわからなかったけど、エミさんの話を聞いてようやく納得できる答えにたどり着いたといった。
「有難う、ナニー。失礼な物言いをした両親の代わりに謝罪を。そして、祖父があなたに会いたがっています。どうか一度うちに来ていただけませんか」
エミさんは、少し考えてからエドワードに語りかけた。
「エドワード、私はあなたに黙って傍を離れてしまった。それがあなたを傷つけて今の行動につながっているのだとしたらこちらこそ謝罪をしないといけないわ。ごめんなさい」
エミさんは、エドワードをまっすぐ見据えて謝罪した。
あまりのことに私もエドワードも言葉が出ない。
「人生の私の時間なんてたかが知れているけど、あなたのご両親、特にお母様はね、あなたと時間を共にしたかったのにそれが許されない環境にあったの。会社を経営し、社員の生活を守らなければならない責任で、あなたの人生でも貴重な、一番かわいい盛りの時を見守るという母として当たり前の幸せを諦めて他人に預けて仕事をしなければならない状況をおそらく悩んでおられたのでしょう。どうにもできない苛立ちをもちつつ仕事しなければならなかった。一番望んでいた貴方との時間を、よそからぽっと出てきた女にかっさらわれてさぞ悔しい思いをされていたかと思うのね」
エミさんは、眼を閉じて昔を思い起こしているようだった。
「だから、ご両親を悪く思うのはまだまだって事よ、エドワード」
そう、いつものエミさんの笑顔で言い切った。
その一言にエドワードはあっけにとられて何も言えずにいた。
「エドワード、本当に大きくなったわね。来てくれて嬉しかったわ」
エミさんは、エドワードに別れの挨拶をする。清々しい表情で。
「ナニー、うちに来てくれないの?」食い下がるエドワードにエミさんは、困ったような笑みで言った。
「今更あなたのもとに行っても何も手伝えることは無いわよ?それに、ウソ・大げさ・紛らわしいはダメって教えていたはずなんだけどね」
エミさんのその一言に思わず固まるエドワード。
嘘?今の話のどこに嘘の要素があった? 私はちょっと混乱した。
ちょっと待っててね、とエミさんは自分の部屋に引っ込んでいった。少ししてエミさん愛用のノートパソコンを持ってきた。
そして、何かに接続すると、流暢な英語で話し始めた。
その相手の声に、だんだん顔が青くなっていくエドワード。
そして、クルリとノートパソコンの画面をエドワードに見せると、そこには威厳のあふれた老紳士の姿が映る。
《エドワード、何故そこにいる? 私が倒れたなど、どういう事か説明してくれるかね?》
エミさんは、ビデオ通話ソフトを使ってウィリアム氏を呼び出したようだ。
《お前には失望したぞ。仕事を放り出してどこに行ったのかと思ったら日本にナニーを探しに行っていたとは。情けない。お前はいつまで幼児でいるつもりだ。跡継ぎだというのに》
言葉はよくわからないけど、落胆と怒りが伝わってくる。
「お爺様、両親は嘘をついていた。僕はそれが許せない。あなたは事情を承知していたのに、なぜ僕に真実を伝えてくれなかったのですか!大切な友が汚名を着せられているのに、なぜなにもしなかったのですか」
その真摯な怒りに老紳士ウィリアムは少し考えて口を開いた。
《私も弱かった。息子夫婦の苦悩もわかっていたし、妻を病に追いやった罪の意識にさいなまれ私は仕事に没頭した。そんな時に救いの手を差し伸べてくれたエミには感謝しかない。それなのに、息子夫婦の限界にまで達していた苦しみを軽くする為に、エミの両親の不幸をこれ幸いとエミを手放してしまった。エミのことを悪く伝える息子夫婦に肯定も否定も出来無かった。親とはこんなにも愚かになるものなのだ》
どうやら、エミさんとウィリアム氏は国は離れても連絡はとれる状態だったらしい。
「ウィリアムが昨日まで元気で通話していたのにおかしいなぁと思ったのよね」
あっけにとられたエドワードは、暫く放心状態だったけど、結局自分も責任を果たすべく、
国に戻ることにしたのだそうだ。
「ユキ、あなたのおかげで真実にたどり着けました。本当にありがとう」
そう、しっかり手を握られると、エドワードの祖国の国民性とわかっていても少し照れてしまう。
「こうして再会できたのも、あなたの亡くなったおばあさまのお導きだったのかもね。大人たちに振り回される可哀想な孫が希望通り真実を知る事が出来る様に」
エミさんはぽつりと言った。
そして、麗しい王子様はすっきりした顔で帰国していった。
「今度は、ちゃんとアポを取って会いに来ます。ユキ、待っててください」そう、付け加えて。




