おまけ 七日目、外
先生方に夜中に呼ばれ、急遽車を出すことになって、とにかく全速力でブッ飛ばして、たどり着いた場所は後から聞けば傭兵さんがいっぱいいる会社とかなんとかで。
で、車の外からめっちゃ銃口向けられて、今、相田はここTD社にいる。
「あ、あのぅ」
おっかなびっくり、外の兵隊さんに声をかける。金髪のイケメンだ。
「ん? 何だ」
「えっと、ここに車置きっぱなしだと邪魔だと思うんで、駐車場に移動してもいいっスかね……?」
金髪イケメンの左右に展開している人達の顔が険しくなったが、当のイケメンさんは「お、そりゃそうだな」と呟いて納得してくれた。
「じゃ、移動しますね。ええと、駐車場ってどっち……」
「はい、ドア開けて」
「へ?」
「俺が隣に乗るから。一応、監視ってことで。ね?」
金髪さんの銃口もしっかりこちらを向いていて、思わず「うへぇ」なんて声が出た。
隣に乗ってきた金髪さんは、アレックスと名乗った。なんと言うか、中川路先生と同じたぐいの気配がするイケメンさんだ。
「このまま直進してもらって、すぐ右手にあるから。適当なとこに停めちゃっていいよ」
「はぁい」
こんな時はとにかく従うのが一番。銃火器相手なんて出来るわけがないのだから。
言われるまま進んでみれば、確かに駐車場はあった。訳が分からないくらい広ぉいやつが。こいつぁ停め放題だぜぇ、みたいなのが。流石にこの時間だ、手前の方が空いていたのでそこに停める。これだけ広けりゃ頭から突っ込んでも問題ないのだろうが、ついケツから突っ込んで停めるのは何というか、癖なのだ。
その間、黙って見つめていたアレックスさんがボソリとこんなことを言ってきた。
「後ろ向き駐車、上手いねえ。俺さー、なんか苦手で。苦手っていうか面倒くさいっていうか、よく分かんないっつうか」
確かに、そう感じる人は多い。よく聞く話だ。
「ええと、車の大きさを把握するとやりやすいですよ」
「大きさ、ねえ」
「大きさって言うか、タイヤの位置なんですけど。自分の右足、足首から爪先にかけての、要はアクセルとかブレーキとか踏む、ここ。コレに対して、右前のタイヤの位置はこの辺」
大体の位置を指差してやれば、アレックスさんは「ウン」と頷く。
「この位置を把握する。ここの真後ろが右後ろのタイヤ。この真横、左側が左前のタイヤ。で、その後ろが左後部。右前のタイヤが足に対してどれくらいの位置か、それさえ把握できればなんとなく全体が分かりますよ。で、曲がるにしろバックで駐車するにしろ、その『足に対するタイヤの位置』を意識する。あー、この辺が動くのねーくらいの感じで」
「ああ、なるほど。幅と同時に支点と動点も把握する訳か」
「そうですそうです。かなりこれで考え方が楽になると思いますよ」
目からウロコが落ちた、みたいな顔でアレックスさんがこくこく頷いている。
「この車で良ければ、練習しますか?」
「えっ、いいの? あー、だったら自分の車がいいなぁ」
「じゃ、車の方まで移動しますね」
「よろしくー!」
結局、中川路達が撤収してくるまで、この二名は教習所よろしく後ろ向き駐車の練習を続けたのであった。
医師達だけでなく、アレックスの部下にも総ツッコミを喰らったのは言うまでもない。