6:文化祭準備期間その2
予定より大幅に遅れての更新になってしまいました(・ω・;)
さらにシナリオの予定も変更しました。
いきなり急展開ですが、この後の話に繋げるためには内容を大幅に変えないといけなかったので、ご了承ください。
それでは、どぞ。
翔太達はすぐに教室に来た。
後ろにいる要や彼と同じクラスの男子一人を連れて、教室の前で手を振っていた。
それに気付いて扉を開いて、彼らを招き入れる。
今、教室には私達以外誰もいない。当然とは思うが、少しだけ寂しい。
教室に入ってきた翔太達は、軽く頭を下げて魅華達から少し離れた席に座る。
私はその向かい側に座って、寮から持ってきた弁当を要の目の前へ差し出す。
「ありがとう、姉さん」
「今日は要の好きな甘い出汁巻き卵を入れてるから。ちゃんと全部食べなさい」
「うん。全部食べる」
そう言って黙々と食べ始めた要を見て、私達も食べ始める。
魅華と涼は、事前に食堂で買ってきたパン。私は要の弁当のおかずの余りを詰めた物。
翔太ともう一人は、自分の家の専属シェフに作らせた弁当。
中身を比べてみると自分の弁当が一番安上がりだな、と思う。
材料は要が買ってくるし、余り物を詰めただけだから要の物より手間は掛かっていない。
でも、見比べてみるとずいぶん質素だなと思う。
無駄に豪華な物よりは親しみがあって食べやすいから、良しとしておく。
今日の自信作のミートボールを食べながら、翔太達や魅華と他愛も無い話をする。
朝の練習は疲れた、とか今年の学園祭はどうなるんだろうと皆で意見を交わす。
普通の会話なのに、何故か違うものに感じてしまう。
「そういえば、今年もアレやるんですかね」
「あぁ、やるぞ。今年は男達も似たような事するからな……めんどくせぇ」
「涼は、いいじゃない。私、何も選ばれなかった……暇」
「魅華はそれでいいんだよ。他の男に狙われたら俺が困る」
そんな事を平気で言う涼に、場をわきまえろという意味で足を踏みつける。
「いっ、てぇっ!何するんだよ、響!」
「早く食べないと時間、間に合わないんじゃなかったっけ?」
「ぬぁあっ、忘れてたっ!課題昼までに出さないといけないんだった。うわ、間に合うか」
「間に合っても間に合わなくても、私達には関係ない」
睨んでくる涼を無視して、黙々と自分の弁当を食べ終えるとズボンからスカートに着替えて教室を出ようとする。
その前に魅華に呼び止められた。
「今日も早く、帰っちゃうの?まだ、午後練習、あるよ?」
「ごめん、今日も用事があるんだ。それじゃ、今晩また」
「あっ……」
本当はそんなに急ぐ用事ではないのだが、早く行きたいと気持ちが急くのだ。
魅華達には悪いと思っているが、こちらを優先させて欲しい。
心の中でもう一度謝罪の言葉を思い浮かべながら、鞄を持って教室を出る。
人の波を掻き分けながら進み、靴箱でローファーに履き替えて寮の方へと向かう。
そして裏道を通って、あの洞窟の入り口まで早歩き。
入り口まで来るといつもの出迎えが一匹いた。
体長15cmほどの黒い蛇なのだが、人の言葉がわかる様で私の挨拶に頭を下げた。
そして蛇の誘導で、あの子に会いに行く。
「今日も来たよ」
『ひびきっ』
舌足らずの言葉で、赤ん坊から少年に成長した子供が私の名前を呼ぶ。
この子に初めて会ってから3日後に、またこの場所に訪れたのだが、その時にはすでにこの姿までに成長していた。
蛇は彼の護衛兼、案内役みたいなものだと私は思っている。
実際は何なのか分からないが、私が来るたびに蛇は洞窟の入り口の前で寝ている事が多い。
そっと『卵』に触れて少年に「こんにちわ」と言えば、彼も同じように「こんにちわ」と笑顔で返してくれた。
最初は生まれたての姿だったのだが、今は白いマントの様な物を羽織っている。
金色の光を帯びた髪をなびかせながら、彼は私の手と重なるように自分の手を重ねた。
「お腹空いてない?ご飯は食べた?」
『ごはん、たべた。でも、おなかすいた』
「それならよかった。サンドイッチがあるんだけど…食べる?」
『たべるっ!!』
元気に返事をする少年に、鞄の中からサンドイッチを取り出して手渡す。
『卵』の中から白い手だけが出てきて、サンドイッチを受け取って、少年は満面の笑みを浮かべた。
毎回何か食べ物を持ってくるたびに、手だけが『卵』から出てきて少し気持ち悪いと思ってしまうのだが、この笑顔を見るとそんな気持ちなんて霧散する。
口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら『卵』の中で浮遊している少年を見ながら、『卵』に寄りかかるようにして座る。
最近、妖獣を討伐するたびに罪悪感が心の中を満たしている。
原因はこの少年だと自分でもわかる。日常と非日常は区別しないといけないとわかっている。
だけど、妖獣の姿を見るたびこの少年を思い出して、たびたびミスを犯してしまう。
その所為で昨日は久しぶりに大怪我を負ってしまった。
他の生徒会メンバーには秘密にしているが、軽く肋骨が2本ほど折れてしまっている。
病院には行っていない。行ったら病院から学園長に伝わり、会長達に伝わってしまうからだ。
「はぁ……」
『どうしたの?ひびき、げんきない』
「そんなに元気に見えない?」
『うん。かお、とってもあおい』
「……ちょっと怪我しちゃってね。まだ痛いんだ」
『きのうの……もしかして、あれはひびきだったの?』
「へ?」
驚きながら少年の方へ顔を向けると、少年が潤んだ瞳で私を見ていた。
今にでも泣きそうなほど、口元が震えている。
「え、ど、どうして泣きそうになってるの?」
『だって……ひびきに、けが、させちゃった…ひぅ』
少年を慰めてあげたいが、撫でることが出来ない事にもどかしさを感じながら、『卵』の表面を撫でる。
彼は体を縮ませたまま、『卵』の端で本格的に泣き始めた。
「あぁ、泣かないでっ。君の所為じゃないんだから、ね?」
『ぼくのせいだよぉ…ぼくが、おねがいしてるからぁ…』
「お願い?何のお願いをしてるの」
『おそとがみたいって…ひとめでいいから、おそとがみたいって…』
「……え」
妖獣はこの子に懐いていた。もし妖獣がこの子の願いを叶えるために外に出ようとしていたのなら……。
この子の願いを叶えれば、妖獣はもう現れなくなるかもしれない。
「それなら、一緒に外を見に行かない?」
『ぼく……ここからでられない…でたいけど、こわい』
「大丈夫、私が傍にいてあげる」
『でも……ぼく、まだちいさいからよるだけしかうごけないよ?』
そう言われるときついかもしれない。
寮は原則、夜9時以降は生徒は外出禁止。さらに深夜に妖獣討伐のため、睡眠時間確保と訓練に武器の整備に宿題。
さらに文化祭の練習もある。夜は本当に時間が無い。
頭を抱え込んで必死に時間計算をしてみるが、会長たちと時間が被らないようにすると10分程度しかない。
「う~ん……」
『あ、あのね、ひびき。ひとつだけほうほうがあるよ…』
「その方法って?」
『ぼくがもっとおおきくなればいいの。たぶん、ひびきとおなじぐらいなれば、おひるもうごけるよ』
「どうすれば大きくなるの?」
私の質問には答えず、ただ少年は曖昧に微笑んで入り口を指差した。
突然の事に驚きながら、もう一度問いかけるが、彼はまた微笑むだけで何も分からなかった。
私は、渋々寮へ帰ることにした。
ただ、帰る直前に彼が言った言葉が頭の中にいつまでも残っていた。
『ひびき、ごめんね。ぼく、はやくおおきくなるから、はやくひびきとおなじせかいでいきたいから。……ごめんね』
あの悲しそうな声が頭の中で流れ続けて、私はそれを消すように鍛錬をして、今日の夜に備えて眠ることにした。
次の日の夜から、私は一人で妖獣を狩る事にした。
他のメンバーと交流が少なくなって、次第にあの空気になじめなくなったのだ。
前までは普通のことだったのに、何故か今はそれを拒否してしまう。昼も、私は一人で食べるようになった。
私は、これ以上メンバーに迷惑を掛けないよう、単独行動を取ることにした。
携帯電話も電源を落とし、一切連絡がこない様にしていた。
魅華が一緒に行こうと何度も言ってきたが、それも断った。
断った瞬間の魅華の泣きそうな顔に、私は罪悪感に襲われ、そこから逃げるように街の中を走った。
後ろから涼や先輩達の止める声が聞こえてきたが、それも無視をして。
「……ははは…馬鹿みたいだ…」
一人なんて、平気だったはずなのに。
自分から離れる様な行動を取ったのに、今にでも私は泣きそうだった。
自分を罵りながら、私は寝静まった街の街灯に寄りかかって、泣いた。
誰にも聞こえないように声を押し殺しながら、私は長年付き合ってきた友人や親友、先輩達
を想いながら、泣いた。
私が泣いている光景を、いつの間にか周りに集まっていた妖獣達が見ていた。
「…ごめん。今、情緒不安定なんだ。加減できないからな」
そう言ったが、妖獣達はその場から動かず、ただ私の姿を見ているだけだった。
私は、泣きながら妖獣達を狩っていった。薙刀をふるたびに、あの子の顔が浮かんでは消えていった。
その場にいる妖獣全てを倒し終え、私は薙刀を投げ捨てて地面に座り込んだ。
「ははっ……もう、嫌だ。もう……」
ふらりと立ち上がりながら、捨てた薙刀を拾って、私は寮に帰った。
寮の自分の部屋に戻り、生活に必要な程度の荷物をまとめて、私は静かに寮から出た。
翌朝、高宮 響の存在は、行方不明者として学園中へと広がっていった。
まさかの、行方不明。
どうなって響がこんな行動をとったのかは、後々分かってくると思います。
次の話は、生徒会メンバー視点になるかな?




