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4:妖獣を呼びしモノ





生徒会室に運び込まれ、ようやく目を覚ました私は紗那と魅華の二人が帰ってくるまで、手紙を送ってきた『望月翔太』にメールを送ってみる事にした。

もう6時を過ぎているから、寮にいるかまだ部活のほうで活動しているかもしれない。

迷惑になるかもしれないが、一応「手紙、受け取りました」とだけ送った。


メールを送って一息付きながら、会長の買った高級ソファー(100万相当)に座る。

さすが高級なだけある。座り心地がものすごく良い。

家にある安いソファー(3000円程度)と比べると、座り心地は雲泥の差がある。

見た目も違いすぎるけど。



「はぁ………あっ」



少しため息を付いたところで、思い出した。

そういえば、扉の前に何か荷物が置いてあったような……ノートかもしれない。

鞄はここに置いたままだったから、ノートだけ回収して戻ってこよう。

ついでに二人の様子を見てみよう。


同じ部屋で読書をしている刹那先輩に、「少し部屋に戻ってきます」と言うと何故か「気をつけて行って来い」と言われた。

学園の中は妖獣を除いたら、私にとって平和そのものなのに何を気をつけることがあるんだろうか。

と、頭の上にハテナマークを出しながらも頷いて、寮のほうへ歩いていった。


寮に向かおうと上履きから革靴に替えている時、見知らぬ女子生徒から声をかけられた。

慌てた様子で、何を言いたいのかが分からなかったが、「寮」と言ったのが聞こえた。

彼女を落ち着かせて、私は寮のほうへ向かったのだけれど……。



「人だかり?何でこんな所に……」



寮の前にある広場に人だかりが出来ていたのだ。

この広場を通らないと寮に行けないのに、なかなか通り抜ける事が出来ない。



「はぁ、仕方ない……遠回りするか」



何度か挑戦して失敗したため、広場を少し遠回りして寮に戻る事にした。

広場を出て5分ほど歩き、歩いた先にあった細い道を左に曲がる。

この道は、用務員が使う運搬用の道だ。この道を使えば、寮の裏口に出る。

中等部の頃、用務員のおじさんに教えてもらった道だ。


だけど、街灯や明かりになる物が無いのが少し不安だった。

最近、夜になると周りが見えないくらい暗くなる。たとえ、満月だとしても微かに道の端が見える、という感じなのだ。

今は携帯を明かり代わりに歩いているので関係無いが、中等部3年間携帯も無く、明かりが無い状態で帰ろうとした時は………本当に怖かった。

いつもの様に歩いていると、突然何かが目の前を通り過ぎた。



「?!」



思わず差していた傘を手から落としてしまった。だが、ついさっきまで大雨だったのに突然雨が止んでいた。

不審に思い、目の前を通っていったものが行った横道に入ってみた。


道を進むたび、何かに見られているような気がしたが、気にしないようにした。

10分ほど一本道を進んだだろうか。洞窟のような場所についた。



「何でこんな物がここに…自然にできたのかな」



洞窟の奥を覗き込むように見ると、何かが飛び出してきた。

条件反射で咄嗟に横に体をそらすと、耳元でジョキッと切れるような音が聞こえた。



「何っ?!」



後ろを振り返ろうとすれば、すぐ顔の目の前に来る。今度は後ろに後ずさり、相手の動きを止めるため、携帯のカメラのフラッシュを使った。

光で一瞬動きが止まったのを確認すると、洞窟の中に飛び込んだ。


遅れるように後ろを追って来る何かから逃れるために、わざと入り組んだ道を選んで走った。

行き止まりになる可能性もあったが、そんな事考える暇は無かった。

徐々に距離を詰めてくる何かから逃げるのに、必死だった。


走り続けていると、いつの間にか行き止まりに来てしまっていた。

戻ろうとしたが、すでに後ろから音が響いてきた。



「くっ、どうにかしないと……」



壁に背を向けながら後ずさると、壁があると思ったのに体が通り抜け、頭を勢い良く地面に打った。



「!!痛っ……」



少々涙目になりながら頭を上げると、何かが黄色く光っているのが見えた。

不思議に思い、近寄ってみるとそれは巨大な卵のようなものだった。

触れてみると、ほのかに温かい。生きているかのようだった。

だけど、中に浮かんでいるものはありえないモノだった。



「人間…?それも、赤ちゃんだ」



生後3ヶ月ぐらいの赤ん坊が、卵の中で小さく丸くなって浮かんでいたのである。

金髪の髪から、光が漏れている。

その姿の神々しさから、見とれていると後ろからペタッという音が聞こえて、後ろを振り返る。

ようやく、自分を追いかけてきていたモノの正体が分かった。


ソレは、犬のような体に蛇のような頭、両手が蟹の鋏を持っている、妖獣だった。

だが、こんな時間に妖獣は現れないはず……。




妖獣が姿を現すのは、決まって0時以降からなのだ。

雨の日以外は出現する妖獣。今の時刻を携帯で確認してみると、まだ8時になる5分前だった。



「何故こんな早い時刻に現れる」



だが、そんな事より今はこの卵を守る事を優先した。

敵は私だけを見ているようだから、この場から離れれば大丈夫なはずだ。

ゆっくり卵から距離を開いていく。が、妖獣の顔はこちらに向かずただまっすぐ顔を向けていた。



「?」



全く動こうとしない妖獣を見て、警戒するのを止め、目の前に立ってみるが、ピクリとも動かない。

触る事はしなかったが、全く動かないため不思議に思っていると、後ろから見られているような気がした。

後ろを振り返っても卵がある以外は、何も無い。

もう一度卵の中を覗いてみると、瞳を閉じていたはずの赤ん坊が目を開いていた。

しかも、じっと私を見ながら手を動かしている。


そっと、赤ん坊の手に重ねる様に卵に触れると、赤ん坊は嬉しそうに無垢な笑顔を浮かべた。

今にも、かわいらしく笑う声が聞こえてくるかのようだ。



「君は、誰?」



そう赤ん坊に言ってみる。けれど、赤ん坊は首を傾げるだけで何も分からない。

何故、こんな所にいるんだろう。どうして、卵の中にいるのか。不思議だった。


じっと、赤ん坊の顔を眺めながら頭の中で考えを廻らせていると、いつの間にか妖獣が横に来ていた。

驚いて、後ろに下がると妖獣は一度私を見て、今度は赤ん坊を見上げていた。

そして、卵に体を摺り寄せた。



「えっ」



思わず、声が出るほどに驚いた。

まるで親に甘えるかの様に、妖獣が体全体を使って卵に擦り寄っていたのだ。

こんな行動、今まで見たことが無い。

さらに驚いたのは、赤ん坊が妖獣を見て笑っていることだった。楽しそうに、そして嬉しそうに笑う姿は、歪に見えてしまった。

後ずさりながら、その場から離れようとすると、足に何かが引っ掛かった。



「うわッ」



体勢を崩し、勢い良く後ろに尻餅を付いてしまった。

だけど、痛みは無く、反対に柔らかい感触がした。


下を恐る恐る見てみると、この前倒したはずの『きのこゼリー』の小さい奴がいた。

あの、ゼリーに蝙蝠の羽ときのこを生やしている奴だ。

その体の上に、私が座り込んでいる状態になっていた。よく見ると、私を取り囲んで大量に姿を現している。

(気持ち悪っ…!!)

立ち上がろうとすると、ゼリーを踏み潰しそうになって、恐ろしくて立ち上がることが出来なかった。

そのままの状態で座っていると、突然下にいたゼリーが動き出し、体が揺れた。



「えっ、えっえええええええええ!?!?」



奇声を上げながら、ゼリーの上で何も出来ず必死に体のバランスを取っていると、また卵の前に戻ってきていた。

卵の中にいる赤ん坊を見ると、大きく口を開いたまま泣いていた。

母性本能がくすぐられ、赤ん坊に触れるように卵の表面を撫でた。泣き止んで欲しい、そう心の中で思いながら、卵を撫でる。

すると、赤ん坊は泣き止んでまた笑顔を見せた。



「君は、とても不思議な子だね。まるで、妖獣の主みたい」



そういうと、赤ん坊は私の言った事がわかったようで、少し困ったような顔を見せた。

まだ赤ん坊なのに、感情豊かだなぁと感心していると、胸ポケットに入れていた携帯のブザーが鳴った。

携帯を取り出してみると、魅華から電話がきていた。

ボタンを押して、耳に当てると大きな声で叫ばれた。



「響ちゃん!!」


「―――――ッ、聞こえてるよ。どうしたの」


「どうしたの、?じゃないよ!!今、どこに、いるの?」


「どこって………」



そういえば、ここはどこなんだろう。

あの道を歩いてきて、横道に逸れたら洞窟がありました。その中にいるなんて、わかるだろうか。

それより、ここの場所を知らせても大丈夫なのだろうか。

もし、会長にばれたらこの赤ん坊が殺されてしまうかもしれない。あの人は、化け物だと思ったらすぐに消去しようとする人だ。

とっさに、嘘をついた。



「あっ、ちょっと街に買い物に行ってるんだ。少し必要な物があって」


「だから、街の、どこ?すぐに、行くから」


「門のすぐ近くにある、コンビニの前。そこが一番近い」


「分かった、すぐ、迎えに行くから」



そう言って魅華はすぐに電話を切った。

これは、急がないとまずいかもしれない。間に合うか。



「また、来てもいい?」



卵の中にいる赤ん坊にそう言うと、笑顔で頷いた。

そして、手を振ってくれた。バイバイ、と言ってくれているんだろう。

私も手を振り返すと、赤ん坊はどこから出てきたのか分からない、巨大な蛙を指差した。

巨大な羽の生えた蛙が、私を一度見て「背中に乗れ」と言ったように首を曲げた。


赤ん坊と蛙を交互に見て、信用しても大丈夫なのか、と思いながらも急がないと魅華が来てしまうため、いちかばちかで蛙の背中に乗った。

私が乗ると、蛙はすぐに走り出し、蛙とは思えない速さで洞窟を抜けた。

必死に蛙の体にしがみついていると、今度は浮遊感に襲われた。

顔だけ蛙から離すと、下に学園が見えた。



「はっ?」



蛙は空を飛んでいた。

羽を大きく広げ、羽ばたきながら学園の上を飛んでいた。

驚いたのもつかの間、蛙は急降下を始めた。



「!!」



慌てて蛙にしがみ付き、風の音を聞きながら怖さから目を閉じた。

すぐに浮遊感は無くなり、恐る恐る目を開けると、すでに学園の入り口の前に下りていた。

周りに人影は無く、ホッと息をついて蛙からおりた。



「ありがとう、助かった」



そう言って蛙の頭を撫でると、蛙は「ゲコッ」と一鳴きしてすぐまた空に浮かび上がって、飛んでいってしまった。

蛙の姿が消えたのを確認してから、私はコンビニに走った。







コンビニの前で少し待っていると、魅華が走ってきて抱きついてきた。

後ろから会長達も走ってきて、お説教をされてしまった。

だけど、私は不思議と後悔はしていなかった。


あの赤ん坊の姿をずっと心の中に思ったまま、私は寮へと戻って、自分の部屋の悲惨な姿に直面して、いつの間にか会長の鳩尾に拳を入れていた。





その後、会長は一週間ほど学園に顔を出さなかった。

原因は、私。だけど、私は心の中で(ザマァみろ)と笑った。






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