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第2章10話〜メズ〜


「お、来たな。待ってたぞ。」


 20時になると、アバンダンドにユカちゃんとレンタロウが同時にログインしてきた。俺は、彼女らに手を振って挨拶すると、2人からも「こんばんはー。」と挨拶が返ってくる。


 今日は、昨日彼女達と約束した通り、ヴォルトシェル観光と次の拠点への移動をしなければならない。学生である彼女達のプレイ時間は有限だ。時間を無駄にしないように、昨日、彼女達がログアウトした五層玄関口で待ち構えていた格好になる。


「おっさん。わざわざ迎えにきてくれるなんて、気合い入ってんな。そんなに俺と姉ちゃんとの冒険が楽しいのか?」と笑いながら、レンタロウが茶化してくる。


 ...こう言われると確かに普段の自分じゃ、しないような行動をしているような気もするな。案外ラビッツフットとはまた別の居心地の良さを感じてしまっているのかもしれない。


「ああ。楽しくさせてもらってるよ。」と答えると、レンタロウは驚いた顔を見せる。その横でユカちゃんは、待ちきれないといった様子で、1人で嬉しそうにあちこち見て回っている。


 真夜中のヴォルトシェルは、魔法でライトアップされており、光り輝く幻想的な空間になっている。やはり、田舎町であるダンデリオンとはモノが違う。


 普段、それほど大きくはしゃぐ事のないユカちゃんが、「すごい!すごい!」と感嘆の声をあげている。いつもは敬語を崩さない彼女の姿は大人びて見えるが、こうやってはしゃいでる姿を見ると、やはりとても若い子だと感じる。


「んじゃ、とりあえずヴォルトシェル観光の前に、次の拠点に行く船の時間だけ確認しに行こう。」


 俺の言葉にレンタロウは頷くと、自身の姉であるユカちゃんへと顔を向ける。


「それがいいな。ほら姉ちゃん行くぞ!」


 レンタロウは、スクショを撮りまくって、一向にその場から動こうとしないユカちゃんに痺れを切らし、姉の元へと行くと、「もう少しだけ!」と言ってゴネているユカちゃんの手を引いていた。


 港に行き、出航時間を時刻表で確認すると、次回の出航時間は20:25。その次の出航時間は21:55となっていた。


 22:30くらいの船があれば、ベストだったんだけどな。それなら、ヴォルトシェル観光も十分しながら、23時までに次の拠点に着く事も出来たろうが、21:55の船で行くとなると、既に出航まで2時間を切っている。これでは、落ち着いた観光は難しい。


「どうする?今日は、ヴォルトシェルで時間潰しても良いぞ。」


 俺の提案に、「んー。」とユカちゃんは考えている。


「軽く見るくらいであれば、2時間でも全体を見て回る事って出来ますか?」


「まぁ、流し見でいいなら、充分だとは思う。」


 1層から5層までみっちり見るとなったら、2時間では足りないだろうが、そこまで細かく見る必要はないだろう。それに、彼女はまだ1層の蒼穹回廊に入る条件を済ませてはいない。2〜5層のメインとなる場所を見るだけなら、十分余裕がある。


「じゃあ、22時頃の船に乗りましょう!」


「良いのか。別に焦んなくてもいいぞ。今日一日くらいヴォルトシェルにとどまっても良いんだぞ?」


「はい。早く次の町にも行きたいんです。それに船にも乗ってみたいですし。」


「分かった。それなら、21時50の船に乗ろう。」


 そうと決まれば、俺達は来た道を引き返し、商業地区の大通りを歩く。蒼穹回廊を除けば、この五層がヴォルトシェルの1番の観光スポットとも言える為、ここを見る時間を一番多く取る事にした。


 ユカちゃんは物珍しそうに周りをキョロキョロと見渡している。商業地区の大通りは、石で敷き詰められた道になっており、道の端には大勢のプレイヤーが露天を開いて、商売をしている。ユカちゃんは露店を見つけるたびに足を止め、何が売られているのかと見入っている。


「これは、まだ装備出来ませんね。こちらはお金がかりすぎますね。」


 ユカちゃんは、自分のジョブ、レベル、所持金を確認しながら、一つ一つの品物を食い入るように見つめている。どれか欲しいものがあるのだろうか。


 先ほど俺は、冒険者の家からある程度金を持ち出してきた。これで、もうモノーキーでプレイしても金に困る事はない。


 リンドウの件では、ユカちゃんとレンタロウには迷惑をかけた自覚はある。だから、彼女達にお詫びに何かと思う気持ちもある。しかし、高レベルの時の俺が稼いだゴールドで贈り物をする事を彼女は嫌がるだろう。


 俺はあえて何も買うことはせずに、露天を1人で回っているの彼女の姿をただ黙って後方で眺めている。


 レンタロウも俺の隣でいつまでも買い物に夢中な姉をため息をつきながら見ている。多分リアルでもこんな感じで待たされているのだろうことが想像できて少し面白い。


 それからユカちゃんは、何か気に入ったものがあったようで、買い物を済ませると、俺たちの元へ走ってきた。


「お待たせしました!すみません、たくさん見てしまって。」


「姉ちゃん、長すぎるって...。」


 ため息を吐きながら、愚痴をこぼしているレンタロウをよそに、俺はユカちゃんに尋ねる。


「初めてヴォルトシェルに来たならしょうがない。ユカちゃん。何か買えたか?」


「ええ、良いものが買えました。」


 ユカちゃんは屈託のない笑顔をしながら言う。


 そりゃ良かった。


「はい、モノーキーさん、これプレゼントです。」


 ユカちゃんはそう言って、俺の前に購入したアイテムを差し出してきたので、俺は驚きながらもそれを受け取る。


「フォトフレームです。」


 ユカちゃんから渡されたのは写真立てだった。飾れりゃなんでもいいやと、テキトーに買った俺の無骨な作りの写真立てとは違い、ユカちゃんから渡された写真縦は細やかな装飾が施され、アジアンテイストなデザインとなっている。


「はい。こっちはタロちゃんの。」


「俺のもあんのかよ。」


「勿論。」


 ユカちゃんはレンタロウにもフォトフレームを渡し、俺に向き直る。


「モノーキーさんは、たくさん高価な装備とか持ってますし、多分装備とか渡しても使わないかなって思いまして。その...。昨日皆で写真撮りましたし、フォトフレームとかどうかなって。」


「ああ。気に入ったよ。昨日の写真入れて飾らせてもらう。」


は俺がそう言うとユカちゃんは、照れ臭そうに頬を赤く染めながらポリポリと頬をかいている。


「なーにいちゃついてんのよ。アルゴ。」


 いきなり俺の背後から声が飛んできた。


 俺が後ろを振り向くと見知らぬ白髪の女性のエルフが仁王立ちをしている。頭上に表示されているプレイヤーネームはMirfa と書かれている。一切見た事のないプレイヤーネームだ。読み方はミルファだろうか?


 この女エルフの表情は、ニコニコとしてとても可愛らしく、声も人を惹きつけるような可愛らしい声だ。しかし、どこか胡散臭さ感じる。


 ...このキャラクターに会うのは初めてだが、俺はこの胡散臭い笑顔と声を知っている。


「メズか?」


「へぇ、アンタにしてはよく当てたわね。褒めたげるわ。」


 ミルファもといメズは、一瞬目を見開き、驚いたような表情をするが、直ぐに満足そうなにんまりとした笑みへと変化する。


「そりゃあな。」


 少なくともラビッツフットを作る前は、メズと同じギルドに一年以上所属していた。短い付き合いじゃないんだ。分からないわけがない。


 俺とメズのやりとりを見て、ユカちゃんは「アルゴ?ですか?」と聞き慣れない名前で俺が呼ばれた事に対して戸惑っていた。


「あら、アルゴ。この子達にまだ名前教えてなかったの?えっと、読み方は、ユカユカちゃんで良いのかしら。アルゴってのは、この男のメインアカウントの名前よ。」


 メズは、ユカちゃんのプレイヤーネームを確認するように読み上げながら、俺のメインアカウントの名前をユカちゃんに勝手に教えている。


 クソ、メズめ。余計な事を...。


「...そのうち教えるつもりではいたんだよ。」


 ...ユカちゃんから、何で教えてくれなかったと言わんばかりの鋭い視線が飛んでくる。


「私はメズ。アルゴの知り合いよ。よろしくね。ちょっと訳あって、こっちの倉庫キャラ使ってるけど、メインキャラもエルフよ。」


「ユカユカです。メズさん。すっごい可愛いです!エルフ族なんですね!」


「ありがとう。あなた良い子ねぇ。こう言って褒めてくれる子。私は好きよ。」


 メズは微笑みながら、ユカちゃんにお礼を言う。


 この笑顔にみんな騙されるんだよなぁ。本性は割とロクでもない女なのに。


「エルフのメズさん...。」


 レンタロウは何か思い出したようで、1人でぶつぶつメズの名前を呟いている。


「あら。どうかしたかしら。ドワーフさん私に見惚れちゃった?」 


 メズは気取ったような、おすまし顔でレンタロウに言うも、当のレンタロウは、「...えーと」と言葉に詰まったように呟いている。どうやらなんて言ったら良いかで困っているようだ。


 仕方ない。


 俺はレンタロウに助け舟を出す為に、メズの肩をポンと叩く。


「いや、多分そうじゃない。こいつらには、エルフ使う奴はリアルだと不細工だって言っておいたからな。俺の知り合いのお前がエルフだったんで、そっちで気まずくなったんだろ。」


「アンタほんとぶっ●すわよ!」


 メズが俺に激昂しながら詰め寄ると、不適切な音声が確認されたのでリアルタイムフィルター処理を行いました。とログに流れた。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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