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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第二話 唸声
22/133

(17)




 フィオとシェナ、ビクターとジェドは、其々に別れて幼少期に過ごした家庭に向かった。

濡れた服は干され、穏やかな風に揺れている。




 砂と海水に塗れた体を洗っている間も、西での事や鮫の事が脳裏で繰り返し再生されていた。




「何か拾ってたよな」




ジェドが後始末を終え、火に手を当てながら小さくビクターに訊ねる。

ビクターはどっしりと椅子に凭れかかり、後ろに垂れ下がっていた。

酷く疲れたのだろう。




「こっちに座りなさい、2人とも」




 この家は幼少期に世話になったカイルの家。

カイルの妻がテーブルに白湯を置くと、向かいに立って待っている。




 ジェドは火から手を引っ込めた。

無言のビクターが背もたれから起き上がると、立って伸びをする。

その後、2人が並んで席に着いた。

何を言われるのだろうと構えながら、白湯を口にする。

向かいからじっと刺し込んでくるような視線を、コップでつい盾にしてしまった。




「落ち着いたら長老様のところへ行きなさい」




嫌だ。




「明日にすっかな」



「いい加減にしなさい」




ビクターは、冷静な声で叩かれる。




「自分達がした事を、よく考えなさい」




ジェドはテーブルに突っ伏し、ビクターは首筋を搔きながら小さく溜め息を吐いた。

彼女はそれ以上何かを言う事は無く、2人が落とした砂と海水の残りを黙々と掃除し始めた。








 フィオとシェナもまた同じように、育ててもらった家族の元にいた。

今朝獲れた魚を使ったスープが、胃を心地よく温める。




「なんで さそってくれないんだよ。

おれも いきたかった」




その家の小さな少年が羨ましがるのを、母親が止めた。




「秘密基地なんて嘘だったわね、シェナ」




彼女は口を噤み、目を逸らす。

ここは、引き止められた親子の家だった。




「でも人を助けたわ!」




フィオが明るく主張するも、母親を務める彼女は表情を変えなかった。




「それで、良かったのかしら」



「良かっ……良かった……と、思う……ん?」




シェナと、もじもじ目配せしながら黙った。




「済んだら、長老様の所へ行きなさい。

ちゃんと話して、これからの事も考えるのね」




嫌だ。




「今日は疲れちゃったわ」



「行きなさい」




鋭い発言がシェナのそれに被さり、2人は縮み上がると、小さく返事をするしかなかった。

傍で一緒に食事をしていた小さな彼は、この状況がよく分からず目を丸くさせ、見つめているだけだった。






挿絵(By みてみん)




 夜になった。

幸い、天候はずっと落ち着いている。

夜の潮風は大抵、冷たく吹きつけるのだが、凍える程ではなかった。

雲は相変わらず空を覆い尽くしているが、時々隙間から白い月が覗く。




 長老は、アリーと静かに救助された男性を見守っていた。

彼はベッドでぐったりしているが、その体には不思議な事が起きていた。




 ここに運び込まれてた時に比べ、大きく見た目が変わっている。

長老は白い髭に触れながら、じっと考えていると、ドアがそっと緩やかに開いた。

隙間風が、炎や、吊り下げている衣類や生活道具を微かに揺らす。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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