(17)
フィオとシェナ、ビクターとジェドは、其々に別れて幼少期に過ごした家庭に向かった。
濡れた服は干され、穏やかな風に揺れている。
砂と海水に塗れた体を洗っている間も、西での事や鮫の事が脳裏で繰り返し再生されていた。
「何か拾ってたよな」
ジェドが後始末を終え、火に手を当てながら小さくビクターに訊ねる。
ビクターはどっしりと椅子に凭れかかり、後ろに垂れ下がっていた。
酷く疲れたのだろう。
「こっちに座りなさい、2人とも」
この家は幼少期に世話になったカイルの家。
カイルの妻がテーブルに白湯を置くと、向かいに立って待っている。
ジェドは火から手を引っ込めた。
無言のビクターが背もたれから起き上がると、立って伸びをする。
その後、2人が並んで席に着いた。
何を言われるのだろうと構えながら、白湯を口にする。
向かいからじっと刺し込んでくるような視線を、コップでつい盾にしてしまった。
「落ち着いたら長老様のところへ行きなさい」
嫌だ。
「明日にすっかな」
「いい加減にしなさい」
ビクターは、冷静な声で叩かれる。
「自分達がした事を、よく考えなさい」
ジェドはテーブルに突っ伏し、ビクターは首筋を搔きながら小さく溜め息を吐いた。
彼女はそれ以上何かを言う事は無く、2人が落とした砂と海水の残りを黙々と掃除し始めた。
フィオとシェナもまた同じように、育ててもらった家族の元にいた。
今朝獲れた魚を使ったスープが、胃を心地よく温める。
「なんで さそってくれないんだよ。
おれも いきたかった」
その家の小さな少年が羨ましがるのを、母親が止めた。
「秘密基地なんて嘘だったわね、シェナ」
彼女は口を噤み、目を逸らす。
ここは、引き止められた親子の家だった。
「でも人を助けたわ!」
フィオが明るく主張するも、母親を務める彼女は表情を変えなかった。
「それで、良かったのかしら」
「良かっ……良かった……と、思う……ん?」
シェナと、もじもじ目配せしながら黙った。
「済んだら、長老様の所へ行きなさい。
ちゃんと話して、これからの事も考えるのね」
嫌だ。
「今日は疲れちゃったわ」
「行きなさい」
鋭い発言がシェナのそれに被さり、2人は縮み上がると、小さく返事をするしかなかった。
傍で一緒に食事をしていた小さな彼は、この状況がよく分からず目を丸くさせ、見つめているだけだった。
夜になった。
幸い、天候はずっと落ち着いている。
夜の潮風は大抵、冷たく吹きつけるのだが、凍える程ではなかった。
雲は相変わらず空を覆い尽くしているが、時々隙間から白い月が覗く。
長老は、アリーと静かに救助された男性を見守っていた。
彼はベッドでぐったりしているが、その体には不思議な事が起きていた。
ここに運び込まれてた時に比べ、大きく見た目が変わっている。
長老は白い髭に触れながら、じっと考えていると、ドアがそっと緩やかに開いた。
隙間風が、炎や、吊り下げている衣類や生活道具を微かに揺らす。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




