(16)
ジェドは、ハンドルを限界まで捻り切った。
浅瀬に乗り上げ、ザリザリとした振動が足元から伝わると、そのまま乗せていた男性と共に勢いよく転げた。
繋げていたロープが腹を締めつけ、痛みに声が出たが、数発の銃声で掻き消されていく。
恐ろしい発砲音に、小さな子ども達の泣き声が聞こえてきた。
初めての光景に、ジェドも痛みを忘れて目を剥いている。
浅瀬にまで這い上がろうとする鮫の群は、島の者達とビクターによってやむを得ず殺処分した。
死骸に気付いた残りの群は、みるみる引いていく。
張り詰めた空気に、戦った者達の息が上がっているのが聞こえてきた。
赤黒い鮫の血と死骸は暫くの間、波打っている。
「集めて燃やせ…」
低い声でマージェスが指示すると、その場の者達は流れるように動き始める。
不気味なそれらは、明らかに西に生息していると見て取れる。
妙な斑点を持つ肌、飛び出した目玉に歯。
そしてまだ微かに鰓が動いている鮫に、ビクターが怯むや否や、グレンが槍で留めを殺した。
「こりゃお説教だな、少年」
彼の言葉は別に、鋭くも厳しくもなかった。
淡々としており、ビクターにはまだ読み取り難い態度だった。
ジェドは砂だらけの体を少し起こすと、周囲が静まったのを見届けてから、ナイフを抜いた。
男性と繋いでいたロープを切り、身を起こそうとした真横に杖と足が現れる。
見上げると長老が、血に染まった波を睨んでいた。
「ご苦労……」
目が合わないまま、低く緩やかに漏れる声は、背筋を凍らせる。
何も言葉が出ないまま、ジェドは救出した彼を見た。
衝撃で気絶したのか、最悪の事態に陥ったのか。
一切動きをみせなくなっている。
カイルとマージェスが駆け寄ると、そのままそっと、言われた場所まで彼を運んでいく。
長老はゆっくりと踵を返し、民家が集まる奥へ姿を消していった。
「ん」
伸びてきたビクターの手を掴むと同時に、ジェドが立ち上がると、フィオとシェナもそこに駆けつけた。
「死んじゃった?」
シェナの問いはふわりと風に消え、4人は去り行く大人達の背中を、ただ呆然と眺めた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




