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メスガキのバカな大人観察日記  作者: ニドホグ
少女文学

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ぐるぐるぐる

 大雨の日の夜、浅野先輩が意識不明だって聞いて綾加はすぐにメッセージを送った。

『せんぱい、はやく元気になってください! あやか信じて待ってます!!』

 既読は付かなかった。


 先輩はゼッタイ目覚めるって信じて、綾加はまたメッセージを送った。

『起きたら連絡ください!! 綾加は大丈夫です!!』

 やっぱり既読は付かなかった。


 それでも信じて毎日メッセージを送ってたら、ついに既読がついた!

 でも返事は無かった。


 ……たぶん転校とか引っ越しとか、色々忙しいんだと思う。

 綾加はとにかく心配だった。

 ただ、先輩と話したかった。

 それで、できたら告白の返事ももらって、彼女として先輩のこと支えられたらっ、て……


 ニュースを見たのは、そんなある日の朝だった。


『11月28日、記録的豪雨による土砂災害が発生。その際、大人2人、高校生2人、小学生1人が川に飛び込み流される事故が発生しました。警察によりますと、小学生1名が軽症、高校生1名が意識不明、高校生と大人の2名が行方不明。大人1名が死亡したとのことです』


 ——川に飛び込み


「ぁ、え?」


 いや、でも、だってあのときは小学生とお姉さんを助けることに必死で……

 だから浅野先輩が意識不明になった理由とか考える余裕なんてなくて……

 名倉先輩が浅野先輩を連れて走り去った後、どこに行ったのかなんて想像もしてなくて……

 ていうか、じゃあ、行方不明っていうのは、川に流されてそのまま見つかってないって意味だ……


 バカな綾加でもさすがに分かった。


 綾加のせいだ。


「ち、ちが……違うっ」


 綾加のせいで、名倉先輩は死んだのだ。


 名倉先輩が走って行ってしまう前、川に飛び込む直前に、綾加が言った。

 浅野先輩を解放して欲しいって。名倉先輩は浅野先輩を傷つけてるって。

 自分なら、浅野先輩を幸せにできるって……

 名倉先輩の気持ちも考えないまま、自分が正しいんだってバカみたいに。


 だから名倉先輩は、川に飛び込んじゃったんだ。

 浅野先輩と、一緒に。


 綾加のせいだ。


「う、ぅう……」


 お母さんが作ってくれた朝ごはん、全部もどしちゃった。

 その間もずっと、ニュースが流れていたことを覚えている。


 謝りたくて、許して欲しくて、助けて欲しくて、浅野先輩にメッセージを送った。

 何度も、何度も、何度も送って……返信は、来なくて。


 綾加は悪い子です。


 正しくて、強くて、間違えない人になりたかったはずなのに。

 自分が人を傷つけて追い詰めていたことにすら気が付けなかった。綾加はバカな悪人だ。

 ……人殺し。


『せんぱい、返事ください』

『せんぱい』

『たすけて』


 見てるはずなのに、やっぱり今日も返事は来ない。

 涙が滲んだ。何も考えられなくなる。

 許してもらえない、許されない、許されたい。


 平川先輩が家に来てくれたとき、綾加はどうしても平川先輩と会いたくなかった。

 その時に分かった。綾加って本当に間違ってて、全部ダメなんだ。


 それから全部全部イヤになって、つい送っちゃった。


『せんぱいも悪いんですよ』


 そしたら止まらなくなった。


『あやか、悪くないです』


 浅野先輩。


『せんぱいが悪い』

『せんぱいのせいです』

『あやか、人殺しじゃない』

『なんで返事くれないんですか?』

『見てますよね』

『せんぱい』

『せんぱいのせい』

『無視しないで』

『せんぱいのせい』

『たすけて』


 やっぱり、返事は今日も来ない。


『人殺し』


+++++


 学校にも行かないで、綾加はずっとプリキュアを見ていた。

 でも、あんなに好きだったはずなのに、見れば見るほど苦しくなった。


 綾加って、悪い子だから。

 悪いこと、悪い人、正しくない、正しくない、間違っている自分。

 人に迷惑を掛けたらから倒される敵。

 反省したら許してもらえる?

 でも綾加、バカだから反省も上手にできなくて、許してもらう方法も分からない。


『会って話したい』


 そのメッセージが浅野先輩から突然送られてきたとき、口の中が渇いた。

 嬉しかったのに、それを塗りつぶすみたいに悪い気持ちが沢山湧いてきてしまって……


 綾加は、ごめんなさいとか、たすけてとか、何で今?とか、本当は……とか、色々な文字を書いては消した。

 でも送ったのは『放課後、文芸部の部室でおねがいします』って、それだけ。


 久しぶりの制服に袖を通して、何だかちょっと怖くなった。

 その恐怖は学校に近づくにつれてどんどん大きくなって、行かなきゃって分かってるのに綾加は部室の前を素通りした。


 もう、家に帰りたかった。

 前から嫌だった学校が、怖い場所に変わってた。

 全員、綾加の罪を知ってる気がした。

 みんなが自分と全く違う生き物みたいな、あの感覚がする。世界に綾加の味方は居なくって、綾加は歩き方さえ間違えてるみたいな……


 屋上に行こうと思った。

 飛び降りようとするくらい辛いなら、浅野先輩との会う約束を破っても許してもらえる気がしたから。

 だから綾加は何かに追われてるみたいに、急いで屋上のフェンスに登った。


 前は綾加が浅野先輩を止めようとしたんだっけ?

 結局、綾加は何の役にも立たなかったけど。


 先輩にとって、綾加ってどうでも良いのかな?


 ふと見下ろした地面が遠い。

 コンクリートの駐車場は硬そうで、見てるだけで飛び降りてるみたいな気持ちになってくる。

 怖い。


 怖い、怖い、怖い。全部、怖い。

 手が冷たかった。肩が寒かった。震えて歯が鳴った。独りだった。

 綾加、悪い子だから、全部綾加が悪いから、だから……悪くない全部が怖かった。


『今から家に行く』

 スマホの通知音と一緒に、そんなメッセージが表示された。


 綾加が部室に行ってないの、バレたんだ……

 じゃあ今、先輩がこの学校に来てるってこと?

 会える?

 会いたい……のか、良く分かんない。

 会いたくない。


 とにかく返事しなきゃって思って、でもどれだけ文字を打っても嘘みたいになっちゃった。

 結局、書いてた文章全部消して、そっと屋上から見下ろすように写真を撮った。

 今から飛び降りますって、これくらい悩んでますって、そんな写真を先輩に送った。

 たぶん、綾加は心配して欲しかったんだと思う。


 なんだかどんどん怖くなってくる。

 先輩が来る前に、もう飛び降りちゃおうかな?


『せんぱいも悪いんですよ』

 それは綾加が一番最初に送ったひどい言葉。


 本心じゃないって言いたいけど、ちょっとだけ本心でそう思っていた。

 ふと、激しい足音が聞こえてきた。

 風が吹いた。

 綾加はフェンスの上で足をブラブラさせながら、息を荒げた先輩を見下ろす。


「っ……!」


 こっちを見て、先輩は息を呑んだ。

 なんだか綾加の方は変に頭が冷たくって「久しぶりっすね、先輩」なんて呟いていた。


 じっと真っすぐに見つめてくる瞳。

 大好きだったはずの目が、他人事みたいに怖かった。


「……綾加君、久しぶり。長いこと連絡を返さなくて済まなかったね」


「……」


 黙ったまま、見つめ合う。

 先輩はどこか辛そうな顔をしていて、反射的に「大丈夫かな?」なんて思ってから、綾加が原因なんだって気が付いた。


 綾加の背後から照らす夕日が、先輩には少し眩しそう。

 綾加が飛び降りるときは、ちゃんと最後まで見ていて欲しいな。


「綾加君、話を……聞かせてくれないかな?」


 その一言で……なんでか、ちょっと泣きそうになった。

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