93話 墓参りのようです その3
少し短いかもです。
3人組の冒険者の最後の1人、剣士のケニーが絶望の叫びと共に闇に呑み込まれてからしばらく周囲には風と木の葉の擦れる音だけが響いていた。
呆然と立ち尽くしているソーラの姿に先日の暴走状態を重ねたのかシーツァは心配そうな表情を浮かべソーラへと歩み寄る。
「ソーラ、お疲れ様。大丈夫か?」
「うん。私は大丈夫だよシーツァ。この前みたいに我を失ってはいないよ」
そう言ってシーツァに振り返るソーラは疲労の色を滲ませながら悲しそうに笑っていた。
以前も盗賊のアジトをシーツァ達が壊滅させた時も魔法で中の盗賊達を殺した事のあるソーラではあったが、今回のように怒りに任せてとはいえ心が折れて戦えなくなった人間を無慈悲なまでに殺し尽くした事は流石に心にきた様である。
そんなソーラをシーツァが落ち着かせようと抱きしめていると背後からゴブリン達がおずおずといった具合に近づいてきた。
「アノ……、助カリマシタ。貴方達ガイナケレバ我々ハ皆殺シニサレテイタデショウ」
「ああ、気にするな。俺達も仲間の墓を壊されてたからな。ソーラが先に行ったから手出ししなかったが、出なければ俺があいつ等を殺していた」
シーツァに抱きしめられていたソーラが顔を上げると木製の大剣が刺さっていた所へ悲しそうな視線を向ける。視線の先には冒険者に破壊された為大剣の姿は無く、代わりに何かの焼け焦げたような後が残っているのみであった。
「早いとこ墓標も直してやらないとな」
そう言ってやんわりとソーラを剥がすと大剣の刺さっていた跡へとソーラと共に歩いていく。
「そういえばお前達はこれからどうするんだ?」
「我々ノ力デハ他所ニ移動スル事モ儘ナラナイデショウ。次ニ人間達ガ攻メテ来ルマデ精一杯生キル事シカデキマセン」
ゴブリンの言葉を聞きながらも歩みを止めず、焼け跡へと辿り着いたシーツァは自らの両手に莫大な魔力を集め始める。
先程の戦闘を全てソーラがやってしまったため有り余っていた魔力が擬似的な風となって周囲の木々を揺らす。
「そうか、それなら俺達の所に来い。丁度今俺は自分の軍団を作っていてな、お前達ゴブリンを中心に作ろうと思ってるんだよ」
「我々ナンカデヨロシイノデスカ? 最弱ノゴブリンデスヨ?」
「ゴブリンが最弱だって言うんなら俺が強くしてやる。言っただろ? 俺もソーラも元はゴブリンだ。だから来い。俺にはお前達が必要だ」
魔力を集めたまま振り返り魔力の漲っている右手をゴブリン達に差し出しながら力強い言葉を向ける。
圧倒的な魔力溢れるシーツァの姿にゴブリン達は絶対的な安心感と憧憬の眼差しを向けると一斉に跪づくいた。
「ハ、我等一同何処マデモ貴方様ニ従イマス。我等ガ王ヨ」
「ああ、これからよろしくな。この墓標を直したら出発するからお前達はここにいない仲間達を集めて引越しの準備をしてくれ」
「仰セノママニ。お前達、急ギ避難シテイタ者達ヲ呼ビ戻スノダ」
年老いたゴブリンが他のゴブリンに指示を出していく中再びシーツァは焼け跡に向き直ると集め続けていた魔力で【特殊武具作成】を使用し新たに木製の大剣を作り出す。
今まで刺さっていた大剣よりも一回り大きいその姿は不思議な存在感を放ちながら、木製とは思えない輝きを纏っていた。
「なんだか心が安らぐような、不思議な気持ちにさせてくれるんだねその剣」
「ああ、こいつはただの木製の剣じゃない。ありったけの魔力で作った世界樹の大剣だ。しかも【不壊】と【魔力放出】、【魔力固定】を付与してある」
生み出したばかりの大剣を再び墓標の変わりに地面に突き刺す。
「ソーラ、こいつに魔力を込めてくれ。遠慮しなくていいぞ」
「うん。任せて」
そう言ってソーラが魔力を世界樹の大剣に込め始めると、【魔力感知】により入ってきた情報に感嘆の声を上げる。
ソーラの様子に満足そうな笑みを浮かべたシーツァも【魔力感知】を最大限に使い地中の様子を窺う。
そこには流し込まれたソーラの魔力が大剣の能力によって地中に放出され、それが根のように張り巡らされて固定されており、その深さはソーラの流し込んだ魔力のあまりの多さに地中奥深くに到達し、シーツァの【魔力感知】では届かない所まで及んでいた。
「凄いねこの剣。これなら」
「ああ、これなら引き抜かれる事もないし壊されることもないだろ」
「もう眠りを邪魔される事もないよね」
【物理魔法】で視界の隅に咲いている花を1輪摘み墓標の前に逸れると2人で手を合わせる。
魔力を使いすぎたのか若干疲れが窺えるもそれ以上に嬉しそうな表情を浮かべるソーラ。
そんな彼女の頭を優しく撫でていると背後から年老いたゴブリンが準備完了の報告をしてきた。
「さてそれじゃ行こうか」
踵を返しゴブリン達の元へと歩みだしたシーツァ達の頬を一陣の風が撫で付ける。
不意にシーツァが振り返ると墓標のそばに懐かしい姿を発見した。
シーツァとソーラを見て微笑んでいる様にも見えるその姿は、風によって舞い上げられた落ち葉がシーツァの視界を塞いだ一瞬で消えてしまう。
「どうしたのシーツァ?」
「いや、なんでもないよ」
立ち止まり大剣のある場所を見つめているシーツァにソーラが声を掛ける。
再びゴブリン達の元へ歩き出したシーツァの口元には笑みが浮かんでいた。
「また来るよ。親父」
そう言葉を残してシーツァはゴブリン達を連れて【転移】を使い魔族大陸へと消えていく。
その様子を地面に突き刺さった大剣と微笑んでいる半透明のゴブリンだけが見守っていた。
シーツァの仲間に新しいゴブリンが加わった!
最近FGOを始めました。今更ですねホントに。
ガチャは盛大に爆死してばっかりで心がポッキリと折れそうです。
嫁セイバーなんていなかったんや……。
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