94話 シリルの冒険のようです その1
シリル視点での話です。
がぅ、シーツァがソーラと一緒に故郷に行った。
ソーラが少し悲しそうにしてたからきっとつらいことがあったんだと思う。
私も最近そうだ。シーツァは優しくて夜も一緒にいてくれる、それはとても良い事。
でも最近の戦闘で私がシーツァの役に立ててない気がする。
出会った当初は私もシーツァの役に立ててた。
あの人間達の町でアンデッドと戦った時は多分私が1番多く倒してたんじゃないかと思う。
まあ、敵のボスはシーツァが倒したわけなんだが……。
けど最近、特にソーラが暴走した時は、すぐに武器を凍りつかされて私は何もできなかった。
そう考えると今食べてるいつもはおいしいはずのお肉がおいしく感じられなくなる。
だから私は決めた。強くなると。
幸いここにはシーツァの新しい番のトモエや変態がいる。そいつらに聞けば何か手がかりがなる事があるはず。
アイナ? アイツは私と同じ人間の大陸出身だからこっちの事は知らないだろうからパスだ。
「チャーチ、私は強くなりたい。良い方法があったら教えてくれ」
「シリルさん? 今なんか私の名前を呼ぶ時のルビがおかしかった気がするのですが……」
「がぅ、気にするな。それより早く教えてくれ」
「そうですわね~、普通に魔物と戦うだけじゃダメですの? 魔の山辺りまで行けばかなり強力な魔物がいるはずですわよ?」
がぅ、変態にしては良い情報を聞いた。
けど魔の山ってどこにあるんだ?
「その山はどこにあるんだ?」
「そうですわね~、南に徒歩半月といったところでしょうか」
「がぅ、遠い。そんな遠くまで行けない」
やっぱり変態は役に立たない。変態に期待した私がバカだった。
こいつも始めてあった時はかなりの強さを感じたが今のこいつからは微塵も感じない。
やっぱり変態だからだろうか。
「シリルちゃん、どうして強くなりたいの?」
「がぅ? それはシーツァの役に立ちたいからだ」
こいつは何を言ってるんだろう。メスが群れのオスに尽くすのは当然だろう。
やっぱり魔王はそこらへんの考え方が私とは違うんだろうか。
「別に暁はシリルちゃんが弱くても今まで通りでいてくれるよ?」
「がぅ、そんな事は知ってる。シーツァは優しい。だけどそれとこれとは別。私の、私自身が許さない」
「そう、わかったわ。じゃあシリルちゃんに1つ依頼を出しましょうか。ここから歩いて2日の場所に魔の森って言われてるネーミングセンスゼロの森があるんだけどね? ここに狼王ヴォルガルっていう魔物がいるのよ。知能は高いくせに一向に魔王である私に従わないし近くの村や通行人を襲っては殺してるのね? そいつをシリルちゃんに殺してきてもらいたいのよ」
「がぅ、まかせろ」
「ちなみに今のシリルちゃんよりもちょっと強いから気を付けてね」
いい事を聞いた。
私と同程度じゃ強くなれない。
これで私が尻尾を出してる時に興奮して襲い掛かってくる人でなければいいんだけど……。
とにかく一刻も早く狼王ヴォルガルとか言う奴殺して強くなって、それでシーツァに褒めてもらう。そうすればお肉もおいしい。
私は即座に人化を解除して部屋を飛び出していった。
「いいのですかトモエ様。狼王ヴォルガルは今のシリルさんでは到底敵いませんわよ?」
「大丈夫よ。だって――」
部屋をでた私の背後、部屋の中からトモエとチャーチの声が聞こえるけど今は気にしないで急ぐ。早くしないとシーツァ達が帰ってくる。
荒野を狼の姿で駆け抜ける。
知能の低い魔物を通るついでに噛み殺し、途中走ってる私を見た魔族が驚いた顔をして振り向いたが気にしないで置き去りにしていく。
半日ほど走り魔の森が近くなってくると徐々に 魔物が狼型のだけになってきた。
灰色の狼や緑色、足が6本ある奴や頭が2つなんておかしな奴もいたがみんな私より弱い。
こんな弱い奴しかいない場所で狼王ヴォルガルの強さに期待が持てなくなってきた。
さっさと殺してシーツァの所に帰るとするか。
ウオォォォォオオオオーーーーーーーン!!
しばらくして私が森に入ると奥から強烈な遠吠えが聞こえてきた。
どうやら私が縄張りに入ったのに気が付いたらしい。
その遠吠えを合図に木の上や影、背の高い草の中から複数の狼型の魔物が襲い掛かっていた。
森の外で襲ってきた雑魚とは違って中々強い。頭が3つある奴もいる。
外の奴等はバラバラに襲ってくるだけだったけどこいつらは違うみたいでうまく連携して私に反撃させないつもりらしい。
1体1体は私よりも弱いがそれが複数同時、しかも連携までとってくると一気にやりづらくなる。
「がぅ、めんどくさい……。!?」
ぼやく私の頭上から降ってくる殺気に意識を割いた瞬間、不意に下からも殺気を感じた私は咄嗟に飛び退く。
私が飛び退いた後もなぜか残ってる影から真っ黒な狼が飛び出して来た。
不意打ちを避けられたのが悔しいのか私を見て唸り声をあげているが知った事か。
だけど咄嗟だったから大きく飛び退いてしまい、3つ頭が狙ってたと言わんばかりに炎を噴いてきた。
「がぅ、避けれない」
さっきからずっとこっちを見ている奴がいるから使いたくなかったけど仕方ない。
強い奴ならともかくこんな雑魚の攻撃でシーツァが綺麗だって言ってくれた体に火傷なんてしたくない。
空中で足場もなく避けれないと思っているのか炎を噴いている3つ頭の内何もしていない2つが笑っている。
あの笑い顔は嫌いだ。ムカムカする。
炎が私の姿を3つ頭から隠した瞬間足に力を込めて空中を足場に一気に跳躍し炎を噴いていたムカムカする奴の頭上に跳ぶ。
炎が通過した後にいるはずの私がいない事に驚いた3つ頭はそれぞれの頭でキョロキョロと周囲を見渡す。
「ガァウァ!!」
他の狼が叫ぶように3つ頭に私の居場所を教えるがもう遅い。
「がぅ、死ね」
3つ頭の頭部の2つを私の両の爪が砕き、残る頭を噛み砕いた。
ムカムカする3つ頭はすぐに動かなくなり、連携の歯車が欠けた他の狼達は仲間が殺された動揺も相まってそれぞれの動きに精細さを欠き連携もグダグダになっている。
そうなれば1体1体の能力が低いこいつらは相手にならない。個別に襲い掛かってくる奴を私は爪で引き裂き、顎で噛み砕く。
それを繰り返しているといつの間にか私の周囲には狼の死体――中には体の一部を無くした――が転がっていた。
辺りに漂う強烈な血の臭いに私のお腹がきゅぅ~と情けない声をあげる。
「がぅ、お腹も減った……、お肉持ってくれば良かった……」
いくらお腹が減っているといってもおいしいお肉の味を知ってしまった今、辺りに散らばっている狼を食べる気にはなれなかった。
だって臭いし筋張ってるし。
空腹を訴えるお腹を抑えながらため息を吐いていると何かがこっちに向かって走ってくるのに気付いた。
いや、誰かじゃない。
「がぅ、狼王ヴォルガル」
私がその名を口にすると目の前に奴が現れた。
私よりも二回りは大きいその体、金色に輝く体毛は薄暗い森の中でなお輝いていた。軽く開かれた口からは鋭い牙が顔をのぞかせている。鋭い爪も恐らく周囲に生えている木々をいとも簡単に切断できると思えるほど。
そんな強烈な存在感を放つ狼、狼王ヴォルガルがその巨体からくる視線の高さから私を睨みつけていた。
怒涛の波のように襲い掛かる殺気の中、私は笑っていた。
「がぅ、期待以上。これなら私は強くなれる」
その言葉を皮切りに私と狼王ヴォルガルとの戦いの幕が切って落とされた。
シリルが下すチャーチへの評価が酷いです。まあ、あれだけドMっぷりを発揮していればそうなるのも仕方ないかもしれません。
次回狼王ヴォルガルとの決戦になります。はたしてシリルは勝つことが出来るのでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
初めてシリル視点で書いたため私も手探りというか、いつも以上に拙くなってしまったと思います。
わかってんなら投稿すんなよとおっしゃる方もおられるとは思いますが、そこは生暖かい目で見守っていただければと。
次回でシリル視点は終わり、96話からまたいつも通りに戻ります。




