63話 闇夜の襲撃者のようです
マトモスとトールの一応の和解の後、しばらくして眠っていたミリアム、キリク、アリア、ブレダ、クルルの5人が起き出してきた。
ミリアム達に事の成り行きを説明すると、皆トールが良いならということで全員ギールの屋敷に行くことが決まった。
もう日も傾きかけてきているので俺達は早速廃墟を後にし一路ギール家の屋敷を目指して歩き始めた。因みにシリルは眠ったままなので俺が背負っていたりする。
途中露店で干し肉を人数分買い、それから10分ほど歩き続けると、俺達の目の前には恐らくこの街で1番の大きさを誇るであろう屋敷が建っていた。
「へぇ~、流石この辺り一帯の領主の屋敷だな。予想以上にデカイ」
「ハハハ、僕はあまり好きじゃないんですけどね。無駄に金が掛かっていて。我が父親ながらそんな金があるなら他に回せって思います。ああそれとですね、皆さんには申し訳ないのですが、今門に立っているのが姉上の配下の兵士なのでちょっと不快な思いをさせてしまうかもしれません」
申し訳なさそうに言ってくるマトモスに続いて屋敷に近づくと、こちらに気がついた2人の兵士が手に持っていた槍を互いに交差させ門を塞ぐように構えた。
「これはこれはマトモス様。お帰りなさいませ。ところでどうなされたのですか? 冒険者風情と貧民街の汚い餓鬼共など連れて帰ってきて。ローヒス様にお叱りをうけますよ?」
ニヤニヤと笑いながらマトモスに話しかけるその姿はギール家に雇われている人間とは思えないほどに酷かった。
「いいからそこを退きなさい。彼等は私の命の恩人です。彼等を侮辱するというのならたとえ姉上の兵士であろうと処分しますよ?」
兵士達は自分が知っている今までの温和なマトモスの姿からは想像できないほどきっぱりとした発言に流石に動揺を隠せないでいた。
マトモスの雰囲気に呑まれかけてまともに反応できない兵士達を睨み続けていたマトモスが更に言葉を続けた。
「三度目はありません。そこを退きなさい。そして彼等は私の恩人であり客人です。無礼は許しません」
「はっ! 失礼いたしました!」
マトモスに完全に呑まれた兵士は体を直立させ姿勢を正し道を開けた。
彼等の顔面には大量の脂汗が浮いており、かなりの緊張状態であることが窺えた。
「さ、みなさん行きましょうか」
こちらを振り向いたマトモスの表情には先程までの兵士を呑みこんでいた雰囲気はなく、出会ってからこれまでの俺達の知るマトモスの顔だった。
玄関をくぐり屋敷の中に入るとそこは豪華絢爛様々な調度品が配置されたエントランスになっていた。
床には真っ赤な絨毯が敷かれ、周囲には高そうな壺からアクドスを模した石像、実用性皆無なまでに飾られた全身鎧、正面の階段の踊り場には巨大なアクドスの描かれた油絵が配置されており、成金趣味全開で俺達の感想は揃って『趣味が悪い』であった。
「あら、帰ってきていたのですかマトモス。なかなか帰ってこないから心配していたのですよ?」
「そうだぞマトモス。ローヒスをあまり心配させるな」
声がした方に顔を向けると階段の2階部分に2人の男女が立っているのが見える。
今のセリフから考えてほぼ間違いなく姉のローヒスと義兄のヒドスだろう。
姉のローヒスはきつめの美女といった感じでその顔を濃すぎる化粧で覆っている。ここまでいくともはや仮面にしか見えない。
ヒドスも顔立ちは整っているが、こちらもローヒスほどではないが化粧をしており、パッと見チャラ男である。
言葉の上では弟を心配している姉を装ってはいるが、滲み出る性格の悪さは2人とも隠しようが無いくらい表に出ていた。
「ご心配おかけして申し訳ありません。姉上義兄上」
「それになんですか。遅くに帰ってきたと思ったら冒険者なんかをこの屋敷に入れて。挙句の果てには小汚い下民の子供もなんて。誰かある! そこの冒険者と子供をさっさと屋敷から追い出しなさい」
ローヒスが声を上げ手を叩くとぞろぞろと門番をしていた兵士と同じ恰好の兵士が10人ほど現れ俺達を取り囲んだ。
「なんのつもりですか姉上。彼等は現当主である私の恩人であり大事な客人です。侮辱するのはやめていただこう。お前達も下がれ! これは命令だ!」
マトモスが命じると兵士達は一瞬躊躇したように見えたが、何も言わずにそのまま去って行った。
その様子を見ていたローヒスとヒドスは憎々しげに顔を歪め、クルリと踵を返すとそのまま2階の通路に消えていった。
「申し訳ありませんシーツァさん。お見苦しいところをお見せしました。ところでお食事はどうします?」
「飯は食べたいが今の状況じゃ何を盛られるか分からんからな。俺達は平気だけど、お前さんや子供たちじゃ下手すれば命に関わる。子供達にはここに来る途中で買った干し肉で我慢してもらおう。それで部屋別けだけど、マトモスは悪いが俺とトールとキリクの4人部屋でいいか? ソーラはミリアムとアリア、アイナはブレダ、シリルはクルルと同じ部屋で休んでくれ。あのローヒスとヒドスのいなくなる寸前のあの顔、多分今晩寝込みを襲いに刺客を放つはずだ。俺達はそれからマトモスや子供達を護る。ついでに襲撃犯も捕まえちまえばローヒスとヒドスを処罰する絶好のチャンスにもなる」
「わかった。それならこの2人は私が責任をもって護る」
「それじゃ~、ブレダちゃんは~、おねぇ~さんと一緒に~、寝ましょうねぇ~」
「がぅ、ちゃんと護るから安心しろ」
3人の心強い返事の後、俺達はそれぞれ用意された部屋に向かい休息をとった。
豪華な部屋にベッドは大きい物が1つだけだったのでマトモスとトール、キリクに使わせ、俺はソファーで寝ることにした。
マトモスはベッドで寝るように促してきたものの、流石にベッドではすぐに動けないのと、男と同衾する趣味はないので遠慮させてもらった。
そして皆が寝静まった深夜、寝る前から常時展開していた【気配察知】に複数の反応を感知し目を覚まさした。
数は全部屋合計で16人、各部屋4人での襲撃らしい。
今のところ扉の外で中の人間が寝静まっているのを確認している最中らしく、未だ突入はして来ない。
すぐに【霊体化】と念の為【気配遮断】を発動し、襲撃者の様子を窺っているとゆっくりと音を極力立てないように扉を開け部屋の中に滑り込んできた。
4人の襲撃者は全員が黒い装束を身に纏っており、見た目が典型的な暗殺者のそれであった。
一番長身の人間が忍び足でベッドに近づき腰元から刃物らしきものを抜くと躊躇なくマトモス目がけて振り下ろした。
「させねーよ。【闇の束縛】」
襲撃者達の足元から夜の闇よりもさらに深い闇の色をした無数の腕が伸びその体に絡みつき拘束していく。
3人は即座に闇の腕に絡め捕られたが、マトモスに向けて刃物を振り下ろしていた襲撃者は咄嗟に飛び退って腕を躱すと形勢不利を悟ったのか仲間を見捨てて入ってきた扉から逃走を図った。
「逃がさねーよ。【引力】」
【物理魔法】を使い、逃げようとした襲撃者をこちらに引き寄せる。
突如として自分に襲い掛かった感覚に抵抗できずあっさりと引き寄せられた襲撃者は、俺の目の前でなんとか地面に足を着くとそれを起点に体を反転させ手に持っている刃物で斬り掛かってきた。
顔の横から襲い掛かる刃物を寸でのところで避けると、襲撃者の腹部に拳をめり込ませた。もちろん【強痺撃】付きで。
部屋に転がる4人の襲撃者を【蜘蛛糸】で全身を縛り蓑虫状態にして部屋に転がすと、ソーラ達の部屋を確認しに行く。
結果としてソーラの部屋を襲った襲撃者は、全員床でピクピクしていた。
ソーラ曰く、【道具作成】で作り出した麻痺毒を相手にぶちまけたらしい。ついでに【道具作成Lv10】に上がり、【道具作成・改】にスキルが進化したそうだ。
こちらも俺の部屋を襲ってきた襲撃者同様【蜘蛛糸】でグルグル巻きにして床に転がした。
アイナの部屋を襲った襲撃者もソーラの部屋と同じように床に転がりピクピクしていた。
体のどこか致命傷にならない部分に小さい矢傷があったことから麻痺付きの矢で射抜かれたのだろう。
こちらも【蜘蛛糸】でグルグル巻きにして床に転がす。
最後にシリルの部屋だが、ここが一番酷かった。
襲撃者達は腕や足が本来人間には曲がらない方向に曲がっており、全員が重傷を負っていた。
【蜘蛛糸】でグルグル巻きにした後、念の為【強痺撃】を使い、それから【回帰魔法】で折れた手足を元に戻してやる。
全員の処置が終わると俺は部屋に戻り再びソファーで眠りについた。
因みにソーラとアイナの部屋で寝ていたミリアム、アリア、ブレダの3人は襲撃時の音で目を覚ましていたが、シリルの部屋で寝たいたクルルは目を覚ますことなくスヤスヤ眠っていた。
恐らくシリルの部屋が一番うるさかったはずなのだがそれでも目を覚まさなかったクルルは将来大物になるんじゃないかと1人思った。
姉のローヒスと義兄のヒドスは分かり易いくらいに典型的な貴族で悪役ですね。
今回はマトモスの以外にもしっかりとした一面が見れたと思います。
因みにシーツァの部屋で寝ていたマトモス、トール、キリクの3人は眠ったままです。
すぐにケリが付いてしまったので起きる暇が無かったんだと思います。
クルルはきっと将来大物になる事でしょう。肝が据わり過ぎです。
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