62話 トールの怒りのようです
友達が無事に帰ってきた事を喜びから来る涙を流していたミリアムはしばらく泣き続けた後、泣き疲れたのか、徐々に泣き声が小さくなっていくとそのまま寝てしまった。
その寝顔は涙と鼻水に塗れていたが寝顔はとても安らかに見える。
「あらあら~、また泣き疲れて~、寝ちゃいましたねぇ~」
「仕方ないよ。今日私達が知っているだけでチンピラに追われて、友達も攫われて、こんな小さい子供が経験しなくてもいいような事の連続だったんだから」
「それもそうねぇ~」
ソーラが再び寝てしまったミリアムの元へ行き横座りになると、そっとミリアムの頭を自分の膝の上に乗せ、涙と鼻水でグチャグチャになった顔を布で拭ってやる。
そんなソーラとミリアムの微笑ましい光景を見ていると若干空気だったマトモスが話し掛けて来た。
「ところでシーツァさん、この子供達をどうなさるんですか?」
「そうなんだよなー。こんな何時倒壊するかも分からん場所に残しとく訳にもいかんし、かといって俺達の旅に付き合わせるわけにもいかんしなぁ~。なぁマトモス、お前さんの所でこの子達を住み込みで雇ったりとかできないのか? ほらメイド見習いとか執事見習いとかで。最悪雑用とかでも雨風凌げて飯がきっちり食べられれば問題ないだろ?」
俺の提案を聞いて思案するマトモス。
その様子をみたソーラもミリアムの頭をやさしく撫でながらマトモスに頼み込む。
「私からもお願い。こんな小さい子達をこんな治安の悪すぎる場所に置いておいたらいずれ取り返しのつかないことになりかねないよ。今回は私達がいたから助かったけど、次も私達がいるとは限らないから」
「そうですね……。恩人であるシーツァさん達の頼みを断るわけにもいきません。それに、姉のローヒスや義兄であるヒドスを投獄した後、姉上達に従っていた使用人達も何らかの処分をしなければならないので人手も足りなくなるでしょうしね」
「そうか、それを聞いて安心した。それなら今回の件が解決したらしばらく屋敷に泊めてもらってもいいか?」
「ええ、それはもちろん構いませんけど……。なにかあるんですか?」
「ん? ああ、この子達に自衛ができる程度には育てようと思ってな。自分の身は自分で守れるに越したことはない」
理由を聞いて納得したマトモスがしばらくの滞在を了承してくれた時、小さな声にならない声がした気がした。
声が聞えた方に顔を向けると、誘拐犯に殴られて瀕死だった少年が目を覚ましているところだった。
「あ……あれ? 俺はさっきあいつ等に殴られて……。そうだ! みんなは!? みんなは何処だ!?」
寝惚けから一気に覚醒した少年は意識を失う前のことを思い出したのか慌てて周囲を見回す。
周囲にいつもの顔が眠っているのを見ると安堵の息を漏らした。
「よう、目が覚めたか少年」
突然自分に掛けられたであろう声に反応すると声を発した張本人の方を向き、安堵から一転、一気に警戒心を最大限にまで引き上げた。
「誰だあんた。あの男達の仲間か? どうして俺達の家にいる」
今だ眠っている仲間を庇うように位置取り腰を浮かせ何時でも飛び掛れる準備をすると訝しげに問いかけてくる。
その姿は仲間を必死で守ろうとする手負いの獣のようだった。
「そう警戒するな。俺達はミリアムに頼まれて攫われたお前達を助けただけだ。お前だって殴られた怪我治ってるだろ?」
少年は、はっとした顔で殴られた自分の頬を恐る恐る触ると怪我が無いどころか、殴られた形跡すらも無いことに驚いていた。
仲間が無事でいるのと自分の怪我を治してもらったらしいということからか少年の俺に対する警戒心がだいぶ下がったように見える
一瞬躊躇したようだったが姿勢を正し素直に頭を下げてきた。
「あ……ありがとうございます、助かりました。俺はトールです。あなたは……?」
「ああ、俺はシーツァ。ただのしがない旅人だ。そっちでミリアムに膝枕してるのがソーラで、こっちの背の高いのがアイナ、んでこっちで俺の太ももを枕にして寝てるのがシリルだ。因みに全員俺の嫁だから手、出すなよ?」
「だ、ださねーよ! あ、いや、出しませんよ」
俺の一言に顔を赤くして否定するが、突然の事だった為かつい地の言葉遣いが出てしまった事に気が付きすぐに修正する。
つい地の言葉遣いになってしまうのはやはりまだ子供だからなのであろう。
「いいよ別に。無理して俺に敬語なんか使う必要は無い。それでお前達の今後なんだが、このままこの廃墟に居続けるのか? 今ならこの兄ちゃんがお前達の寝床とかいろいろ世話してくれるってよ。どうする?」
そんな少年の姿を見ながら先程マトモスに頼んだ案件をトールに提案してみた。
俺の指差した先にいるマトモスを見たトールは再び警戒心を強くする。
「シーツァさん、こいつは誰なんですか?」
「敬語は必要ないといったんだが……、まあいいか。こいつはマトモス・ギール。この街の領主の三男で現当主だ」
俺の言葉を聞いた途端トールのマトモスに対する警戒心が一気に殺意や憎悪といった凄まじいまでの負の感情に変わった。
次の瞬間トールが俺でも一瞬見逃すほどの速度でマトモスに躍り掛かる。
「やばっ!? 【引力】!!」
咄嗟に【物理魔法】でトールの拳を俺の手の平に引き寄せ何とかマトモスへ殴りかかるのを防ぐ。
マトモスに向けて放たれた拳が突然自分の意思とは関係なくシーツァの方へ向かった為、トールの表情が憤怒から驚愕へと変わった。
しかし急に拳を止めることが出来ずにそのままシーツァの手の平にトールの拳が叩きつけられる。
いってー、何だこの威力。とてもじゃないが普通の子供にこんな威力はだせんだろう。どうなってんだ?
名前 トール ♂
種族 人族:ヒューム
状態 健康
Lv 2
HP 16/16
MP 8/ 8
攻撃力 9
防御力 6
魔力 3
魔抵抗 2
速度 5
運 2
特殊スキル
【感情論】
【感情論】:感情の変化によってステータスが超強化される。
これかっ! この【感情論】ってスキルがマトモスに向けられた殺意やらなんやらの感情によってステータスを強化したのか。しかも超強化って……。だから受け止めた俺の手の平も痛い訳ね……。
「なんで止めるんだシーツァさん!! こいつの親父がこの街で何したか知らないのかっ! あのクソ領主の所為で俺の父さんや母さんが死んだんだ!」
「だからってこいつが何かした訳じゃないだろう」
「関係ない! ミリアムだってキリク、アリア、ブレダ、クルル。みんなギール家の人間の所為で酷い目にあってるんだ! 許せる訳ないだろうが!」
マトモスを視線だけで殺さんばかりに睨みつけながら俺に掴まれた手を何とか振りほどこうとしているが、放した瞬間マトモスに殴り掛かるのは目に見えているため手を離すことはせず、トールをどう宥めるべきか思案する。
「申し訳なかった!!」
廃墟にマトモスの大きな声が響き渡り、思案を中断した俺が声の方を見ると、そこには地に頭を擦りつけんばかりの勢いで伏しているマトモスの姿があった。所謂DOGEZAである。
貴族であるマトモスが平民の、それも孤児に向かって土下座している姿にトールはつい先ほどまでの怒り等の負の感情を忘れ、ポカンとした表情をしていたがすぐに怒りの感情を取り戻しマトモスに食って掛かる。
「何してんだよ! お前が頭下げたぐらいで何が変わるってんだよ! お前達のしてきたことは変わんねぇし、死んだ人間は帰って来ねぇんだ!」
「それでもだ! 今の私に出来るのはこうやって頭を下げ続ける事ぐらいしかできない。それに私はこの街を変えると約束する! 今は私が領主だ! 確かに父上や兄上姉上達がしてきた事は消えないし死んだ民も帰ってこない! だがっ! もうそんな事はさせない! だから頼む! 君達の力を私に貸してくれ!」
「ふざけんな! そんな――」
「トール、それくらいにしとけ」
再び罵声を浴びせようとするトールを俺の一言が遮った。
未だに感情を吐き出したりないトールが俺を睨みつけるがそれを気にすることなく言葉を続ける。
「それ以上は戻れなくなる。確かにお前達の両親は悲惨な死に方をしたんだろう。お前の気持ちは俺達にも良く分かる。だがな、復讐は何も生まん。お前達の両親と直接会ったことはないから一般論になってしまうが、お前達の両親はきっと復讐なんか望んでない。親が子に望むのは幸せになる事だけだ」
「だけど! だけど!」
「それにお前が感情をぶつけるべき相手はもうこの世に存在していない」
俺の言葉に驚いたトールの動きが止まる。
必死で何かを言いたそうにしていたがうまく言葉が出て来ずにいた。
「なんでそんな事知ってるのかって顔してるな。まあマトモスが父と兄達が亡くなったって言ってたのもあるが、俺はそいつらが死んだところを見てるからな」
「……そうなんですか? シーツァさん」
「ああ、ワルスは生きたまま土狼の群れに喰われてたし、ヤラシスとアクドスはこれまたやっぱり生きたまま屍鬼に喰われてたな」
俺の語る仇の無残な死に様にトールは何とか吐き出すようにやり場のない感情をぶちまけた。
「じゃあどうしろってんだよ! クソ領主達は死んで、そこのギール家の奴を殺そうとすればシーツァさんが止める! 俺はどうすればいいんだよ!」
「だから、しばらくマトモスの世話になればいいんだよ。お前達がこいつを助けてやって、悪に堕ちそうになったら諌めてやればいい。それが出来なきゃ最悪殺せばいいだろ。まあ、結局の所お前達で見定めてやれってことだ。マトモスもいいだろ?」
「はい、元々は父上達が仕出かしたことですしね。トール君、是非私の所で働いてくれませんか? それでもし私が父上達の様な外道に堕ちそうになったら私を殺してくれて構いません」
真っ直ぐ、そして真摯な態度で自分を見つめてくるマトモスにいろんな感情がごちゃ混ぜになっていたトールも流石に黙り込んでしまう。
そして再び頭を下げるマトモスの姿にトールは困惑を深めていた。
「トール、今すぐ気持ちの整理をつけてマトモスを許せなんて言わない。今は我慢してマトモスの所にやっかいになれ。それでもいやだってんならミリアム達にまともな生活をさせてやる為だと割り切ってしまえ」
「……わかりました……。シーツァさんがそこまで言うのでしたら従います。マトモス様、さっきはすみませんでした! 是非俺達をマトモス様の所で働かせてください!」
ミリアム達の名前を出されて根負けしたのかトールがついに折れた。
トールの言葉と勢いよく頭を下げる姿に土下座をしていたマトモスが頭を上げ、顔に喜びの表情を浮かべる。
立ち上がったマトモスが少し足の痺れを気にしていたがすぐに気を取り直してトールの前に行くと、頭を下げるトールの手を取り顔をあげたトールの目を見つめながら言った。
「こちらからお願いしたいです。これから宜しくお願いしますね」
満面の笑みを浮かべるマトモスと割り切ったと思ったがやっぱり複雑な顔をしているトール、2人の握手はしばらく続き、俺達はその光景を黙って見守り続けた。
本当は今回でギール家の屋敷に行く予定だったのですがまだ廃墟にいます。
トール君のスキルですが、正直シーツァのスキルよりも主人公っぽいスキルになってしまいました。
このスキルがあってどうして負けたのでしょうか……。
それにしてもシーツァ君……、復讐は何も生まないって言ってますが、村を襲った人間を怒りにまかせて殺しているのに何言ってるんだって感じですよね。書いている私自身がそう思いました。
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