46話 パニックホラーのようです
今回は残酷な描写があります。苦手な方はお気を付けください。
街は大変なことになっていた。
街中に魔方陣が展開され、次々とアンデッドが出現し街の人間に襲い掛かる。唯一の救いは奴等に建物の中に入るという行為を行うだけの知能が無い事だろう。
それでも逃げ惑う人々を徐々に追い詰めその強靭な顎で噛みつき生きたまま肉を喰らっていく。
痛みや恐怖で発狂した人間はまだ幸福だっただろう。正気を保ったまま、腐敗した体を持っているとはいえ元は自分と同じ人間だったものに喰われ地獄のような苦しみの中死んでいく。
俺は【気配察知】と【気配遮断】を使いアンデッドが蔓延る地獄と化した街を家の屋根伝いに駆け抜けていく。
途中、アンデッドに襲われそうになっている街の人間や劣勢になっている冒険者を目につく限り魔法でアンデッドを倒し助けていく。
そんな中ふと死んでいるはずの人間が動いたような気がした。
ヤラシスを追いかける事も忘れ、立ち止まりそれを見ていると死んだはずの人間が起き上がり、アンデッドの仲間と化して生きている人間を襲うために再び彷徨い始めたのである。
うへぇ、某パニックホラーなゲームじゃないんだからやめてもらいたいわー。見た感じ噛まれただけじゃアンデッド化しないみたいなのが唯一の救いか。恐らくアンデッドに殺された人間がアンデッド化するんだろうな……。とりあえず調べておくか……。
名前 無し ♂
種族 屍人族:屍鬼
状態 健康
Lv 12
HP 107/107
MP 0/ 0
攻撃力 110
防御力 0
魔力 0
魔抵抗 0
速度 50
運 0
スキル
【感染】
【感染】 自身の濁った魔力を相手に浸透させる。相手が死亡した場合、スキル【感染】を保持した屍鬼に変異する。
やっぱり死んだ時のみ発動するのか……。屍鬼自体は防御力も魔抵抗もないただの雑魚だけど、数が多すぎるな……。ったく、どこのバイオなハザードだっての……。
げんなりしながらも再び走り出しヤラシス一行を追いかける。
少しすると前方に6人の騎士に囲まれた安全な位置で地獄のような街を悠々と歩いているヤラシスを発見した。
襲い掛かってくるアンデッドをそれぞれの手に持った武器を振るい、一撃で倒していく。
【気配遮断】を維持したまま速度を上げ、屋根の上からではあるがヤラシス達の真横に並びしばらく観察することにした。
するとヤラシス達一行の前に屍鬼に追われた1人の女性が助けを求めて駆け寄ってきた。
「た……! 助けて下さい!!」
全力でここまで逃げてきたためかその呼吸は荒く、恐怖からか顔色は青白くなっている。
そんな女性を見たヤラシスは不意に女性の髪を掴み顔を上げさせた。
女性が不意の痛みに小さく悲鳴を上げたが、気にすることなくその顔を厭らしさを隠すことなく見つめる。
「ふむ、貴様下民にしてはなかなかまともな顔をしているではないか。よし! いいだろう助けてやる! その代り貴様はこれから私の性欲の捌け口となってもらおう!」
その言葉を聞いた女性は先程よりもさらに顔色を悪くし逃げ出そうともがいたが、不意に騎士の1人が女性の首の後ろに手刀を入れると糸の切れたマリオネットのように力が抜け気絶した。
別の騎士が女性を小脇に抱え再び歩き出すと今度は40代前後の男性が助けを求めて縋ってきた。
「貴族様! どうか助けて下さい! もう逃げ場がどこにもないのです!」
「ええい! 下民風情が私の通り道を塞ぐとは何事だ! 貴様のような下民なぞ助ける価値はないわ! さっさとそこの下民を放り出せ!」
男性を蹴り飛ばし、放り出すように騎士達に命令を出す。
すぐに2人の騎士が男性の両腕をつかみ無理矢理立たせると屍鬼の方へ全力で投げ捨てた。
男性は屍鬼達目がけて投げ飛ばされ、囲まれる位置で仰向けの状態で地面に落ちる。
背中の痛みで一瞬呻いたが目の前の光景に背中の痛みなど一瞬の内に消え去った。
「ひっ! や、やめっ、やめてください! 来るな! 来ないでくれ! お願いします! おねが――ぎぃやぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁあぁ!!」
必死の懇願も空しく屍鬼共に集られ、生きたまま喰われる絶望と苦痛によって上げられた断末魔の叫び声が辺りに響いたがすぐにその叫びは屍鬼によって喉を食い破られ掠れた呼吸音に変わり、辺りに響くのはグチャグチャと肉を咀嚼する音であった。
その後も助けを求めてくる男を屍鬼に対する肉の壁代わりにし、地獄の街を闊歩していく。
すると路地から大声で泣きながら歩いてくる幼い少女がいた。
奇跡的にも襲われておらず、地獄の街を1人で彷徨っていた少女はヤラシス達一行を見つけると助けを求めて駆け寄ってきた。
「おがあざんが! おがあざんが食べられぢゃっだ!! おじざん! おがあざんをだずげで!!」
顔面を涙と鼻水でグチャグチャにしながらヤラシスのズボンを握り締めた。
「ええい! 貴様如き下民の餓鬼が貴族たる私の服に気安く触るな! 汚れるであろうが! どうせもう貴様の母親など屍鬼共に食われて死んでおるわ! っと、そうだな。私はとても優しい貴族様だ。すぐに母親に会わせてやろう」
「ほんど! おがあざんに会えるの!?」
ヤラシスの言葉に幼い少女は希望を抱いた。母親が少女を逃がすために屍鬼の群れに飛び込み時間を稼いでいる間に少女は逃げ出した。母親を助けてくれる人を探して。
しかし次の瞬間少女の希望は絶望に変わった。
「ああ、会わせてやるさ! あの世でな!」
まだ幼く体重も軽い少女は鍛えていないヤラシスでも簡単に持ち上げることができ、ヤラシスは持ち上げた少女をその大きな泣き声に釣られたかのようにやってきた屍鬼の群れに投げ込んだ。
「フハハハハ! 貴様が連れてきた屍鬼だ! 貴様が責任をもって贄になるのだな! なぁに、母親にもすぐにあの世で会えるさ」
ふざけるな! あんな幼い子供まで自分の為に見捨てるのか! いや、見捨てるならまだいい。アレはただの悪意しかない! 予定変更だ。 奴の屋敷の目の前で仕掛けるつもりだったがもう我慢の限界だ!!
少女が屍鬼の群れに激突する寸前、突如強い風が吹き荒れた。
あまりの風の強さにヤラシス達が咄嗟に眼をつぶり身構える。
そしてすぐに風が止み、ヤラシス達が目を開けるとそこには屍鬼に食べられている少女の姿は無く、代わりにこちらを見ている屍鬼の群れがあった。
「なんだ! 何が起こったというのだ!」
驚愕に顔を歪めながら自分の周囲をキョロキョロと見回すヤラシス。不意にその頭上から声が落ちてきた。
「テメェ、いい加減にしろよ? こんな小さい子供まで自分が助かるための駒にしようとするとか、もう人間の所業じゃねぇよ。鬼畜の所業だ」
「何を好きに言わせておけば! そのような餓鬼なぞ私の為の囮になれる事をないて喜ぶのが道理であろう! 貴様等下民なぞいくら死のうが世界には全く支障は無いが私のような選ばれし人間の死は世界の損失であるのだ! 分かったら貴様も私が逃げるための時間を稼ぐために屍鬼にその身を差し出し時間を稼ぐがいい!」
自分の行動は全て正しいと信じきっている典型的な傲慢貴族の自分勝手な言葉は我慢の限界を既に突破しているシーツァの怒りのボルテージを上げるだけだった。
助け出した時には既に気絶していた少女をそっと屋根の上に寝かせるとヤラシス達へ向けて右手を突き出した。
「【引力】」
騎士の脇に抱えられている女性を対象とし、自分の右手との間に引力を発生させる。
突然の力に驚いた騎士は女性を放してしまい、騎士の腕という拘束から放たれた女性は一直線に俺の所へ飛んできた。
突然の光景に驚いたヤラシスだが、すぐに我に返りギャーギャー喚き散らす。
女性をキャッチすると少女の隣にこちらも同じようにそっと屋根に横たえた。
よし、これであの場に残っているのは屍鬼達とヤラシス達だけだな。それじゃ早速――。
「【風の槌】【重力】」
再び右手を突き出し、ヤラシス一行の膝の裏を風で作り出した槌で叩き、所謂膝かっくんしてから重力で地面に押し付ける。
全員が仰向けに倒れ、自分に掛かる重力で起き上がることも出来ずにもがいている。
さてと次は……。屍鬼達じゃあの騎士達の鎧は壊せないだろうなー。どうするか……。そうだ! あの鎧は金属で出来てるはずだからアレでいけるんじゃないか?
6人の騎士達の鎧を【火魔法】で瞬間的に熱し、それを【水魔法】と【氷魔法】で一気に冷やす。
【火魔法】による高熱で鎧の中の人がやけどを負ったのか悲鳴が聞えてくるが無視し、2,3回くり返すと騎士達の鎧にはいたるところに罅が走っていた。
ヤラシスは騎士達の中心地点で急激に熱されて赤くなった鎧が急激に冷やされているという自分には理解できない光景にも拘らずガタガタ震えている。
「頼む! 騎士達の命は好きにしてもらって構わないから何とか私だけは助けてくれ! 私はこんな所で死んでいい人間ではないのだ!」
突然のヤラシスの言葉に抗議の声をあげようとする騎士達だが、火傷の痛みでうまく声が出せずにいた。
「ホントに最低だな……。いいだろう今は助けてやるよ。今はな……」
ヤラシスを囲むようにドーム状の【斥力障壁】を作り上げる。
今だに自分を地面に押し付ける重力が解除されていないことに気が付かず、自分を今の所守るように展開している障壁に安堵の息を漏らした。
ヤラシスが安堵の息を漏らした瞬間ドームの外では地獄の光景が広がっていた。
騎士達は自分達の鎧が屍鬼程度に破壊されるとは露にも思っておらず、噛み付かれた腕を覆う鎧が焼き菓子のようにいとも容易く砕かれたことに驚愕の眼差しを向ける。
次の瞬間には全身の鎧が屍鬼によって破壊され、破壊された所から次々と肉を貪られていく。
生きたまま食われるという生物として最大の恐怖と痛みにこの世のものとは思えないほどの絶叫をあげ、次第にあるものはただただ屍鬼に命乞いをし、ある物は気が触れたのかただただ嗤い続け、そしてある物は痛みと絶望に悲鳴を上げ続けた。
そして騎士達を食べ終わった屍鬼達は次の標的としてヤラシスを選んだ。
しかし、ドーム状に張られている【斥力障壁】に遮られ近づくことが出来ず、障壁をひたすら叩き続けていた。
「おい下民。そろそろ私を引き上げてもいいぞ。そして早く私を屋敷まで連れて行くのだ」
「…………」
「おい聞いているのか下民! 早く私を引き上げろ!」
自分の命令を無視し、ジッとただ見つめているだけのシーツァに怒鳴り声を上げるヤラシス。
徐々に障壁を叩く屍鬼の数が増えると次第に焦り始めてきたのか声が上ずっている。
「そ、そうだ報酬を支払おう! 貴様は冒険者だったな! なら依頼だ! 私をここから引き上げ屋敷へ連れて行け! 報酬は金貨100枚出そうじゃないか! どうだ? 悪くないだろう? 早く私を助けるのだ!」
「おっようやく起き上がってきたか。早くしないと復讐できないところだったぞ?」
「は? 貴様何を言って――ヒッ!」
俺の言葉に疑問を感じたヤラシスはふと障壁の外を見る。見てしまった。
そこには先ほど屍鬼に食べられていた騎士達が屍鬼へと変貌して起き上がり、障壁を叩き始めた光景だった。
「おい! 早く助けろ! 私が食われてしまう! 私はこんな所で死んでいい人間ではないのだ! 次期ギール家当主だぞ! 早く助けろ! いや助けてください! 報酬は望みのまま支払いますからどうか!」
「お前もワルスみたいに今までの報いを受けろ。よかったな? 兄と同じ死に方が出来て。お前の兄は土狼達に生きたまま貪り食われてた。だからお前は生きたまま屍鬼に貪り食われろ。見てみろよ、お前に見捨てられたせいで屍鬼に喰われて屍鬼になったお前の護衛の騎士達の成れの果てを。屍鬼になっても自分達を見捨てたお前が憎いんだろうな。他の屍鬼とは障壁の叩き方が違う」
「お願いします! 何でも言うことを聞きます! 貴方様の下僕にでもなんにでもなりますからどうか! どうか!」
「お前みたいなクズは要らねぇよ。どうせすぐに裏切るのがオチだ。因果応報、お前も兄みたく自分の罪に喰われて死ね」
【斥力障壁】を解除するとヤラシスへ向けて屍鬼達が雪崩れ込んでくる。もちろん先陣を切って襲い掛かったのは元騎士の屍鬼だった。
「嫌だ! 死にたくない! やめろ貴様等! 私が誰だか分かっているのか! 貴様等の雇い主だぞ! やめろ! やめろ! 嫌だ! 来るな! 来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
重力が解除されたことにより動くようになった腕を振り回し必死に逃げようとするが四方八方屍鬼で埋め尽くされていて逃げ場などなく、手や足などに次々と噛みつかれ肉を喰われていく。
ヤラシスの姿はすぐに屍鬼達によって見えなくなり、後に響くのは次第に小さくなっていくヤラシスの断末魔の叫びと屍鬼達の肉を咀嚼する音だった。
「あ~あ、あの喰われ方じゃ骨も残りそうに無いな。自分の護衛の騎士達にすら怨まれてたんだな」
ヤラシスの死亡回でした。
本当は護衛の騎士に見捨てられて1人取り残されてから屍鬼に喰われる予定でしたが、急遽騎士も屍鬼化してみんなでヤラシスを食べる方向にチェンジしました。
表現力が低いせいで残酷描写が低い気がしますが、残酷描写なんです。
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや評価が大変励みになります。誤字脱字やご指摘なんかも遠慮なくおっしゃっていただければ幸いです。




