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明宵  作者: 水嶋
逢魔時

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93/160

ぼんやりと

「大変素晴らしい舞台でした」


「楽しんで貰えたかな?」


「はい、初めて舞台を見ましたが圧倒されました」


「ふふ、映画やドラマと違って臨場感も有って迫力あるでしょ?」


「そうですね」


8月キララから招待された舞台を大地と観に行き、その後楽屋に挨拶とお礼に来ていた


舞台が始まる前に招待席に座って始まるのを待っていると、キララのマネージャーがやって来た


「もし良かったら終わった後楽屋に来てってキララが」


「そうですか…じゃあ伺わせて頂きます」


そう言う経緯で大地を連れて楽屋に挨拶しに来ていた


「今日は…セイヤくんって呼んで良いのかな?」


「はい」


今日は普段の学校スタイルで一応メガネも掛けていた

結月の姿で行くと目立つ頭で万が一見つかって周りに騒がれると落ち着いて舞台を観れないのと一緒に来た大地にも迷惑がかかる事や、そこから身バレの恐れもあった


あと今回の観劇は麻由には伝えて居なかったので家を出る時に追求されると面倒だと思ったのも理由だった


「そちらは…お友達?」


「はい、学校の友人で…」


「山崎大地と言います、セイヤとは小学生からの友人で同じ学校に通っています」


大地がハキハキと自己紹介をした


「そうなんだ!もしかして…芸能界で活動してる?」


「いえっ…俺は違いますが…実は父親が…」


「そうなんだ!もしかして仕事で一緒になった事とか有るのかなあ?」


うん、有るな。映画の挿入歌のMV撮影でな

とは言わなかった


やはり大地はキララから見ても一般人には見えなかったらしい

隠せぬオーラ、恐るべし

やはり大地は選ばれし人間なんだろう


「じゃあお父さんは役者さんとかかな?大地くん顔も整ってるし…」


「いえっ…あのっ…歌手です」


「へえ!そうだったんだ!」


大地がエルの事を明かさなかったので、何かを察したキララもそれ以上は追求しなかった


キララも2世で母親が有名な女優なのでその辺の苦労も良く知ってるのだろう


「あんな良い席で見させて頂いて有難うございました」


俺は話題を変えるために改めてお礼を述べた


「ふふ、興味を持って貰えたかな?」


「そうですね…舞台はやっぱり総合芸術だと」


「そうだな、セットや照明や…あと生演奏なのは驚いた」


「そうなんだよね!だからやってる方の演者だけじゃなくて裏方スタッフも皆緊張感半端ないんだから。何か一つでもタイミング狂うとガタガタになるからね」


「そうですね…」


「まあ正直言うと毎回予定通りって訳でもなくてね。多少ハプニングもあったりする訳。それをアドリブで上手く変えたりね」


「へえ…」


「何か…ジャズのセッションみたいですね」


「あはは、流石ミュージシャンの息子さんだね!例えがそうなるんだね」


「あはは…そうですね」


「どう?セイヤくん、役者になりたいとか思った?」


「うーん…それが今回の魂胆ですか?」


「あはは、バレちゃったか」


「まあ…舞台は素晴らしかったし、役者さんは凄いと思いましたが…俺は…」


「やっぱり役者にはなりたくない?」


「役者よりも…この舞台の構想と言うか…演出の方に魅力を感じましたかね」


「へえ!そうなんだ!」


そう…

やはりこの舞台、世界を作り上げた言わば創生主とも言える方に…


あの照陽がやってのけた側の方に魅力を感じた

脚本、台本を作りキャストを思うまま動かしあたかも自分の意志で動いてるかの様に演じさせ自分の理想の世界を作る側に…


しかし…

確かに舞台は素晴らしかったがあの照陽が見せた物語の時の様な背筋がゾクゾクする様な興奮する様な感動までには正直至らなかった


やはり空想世界での物語…金銭を払わせて人を楽しませるために作り上げられた対価に見合う架空のエンタメ物語と、誰かを楽しませる為でない現実世界で繰り広げられた残酷で打算の無いリアルな世界との違いか…


観た者から感動や費やした苦労や労力や他人の評価の見返りを求めないな物語との違いだろうか


果たして俺にそんな世界を作り出す事は出来るのだろうか?

と思うのと同時に俺ならどんな世界を作り出せる…作りたいだろうかと言う思いも芽生えて来ていた


「じゃあ将来は役者兼監督って感じかな?そう言う監督さんも結構居るしね」


「だから俺は役者にもならないし芸能界にも行きませんから」


「ふふ、監督になったら私を使ってね!」


「通じてねえ…」


そう、やはり俺は誰かの為のエンタメ作品では無く…

俺自身が興奮する様な物を作りたい

無謀にもそんな事を考えていた事に気づいてこれではまんまとキララの策に嵌ってしまうと思い直しそれ以上の思考を停止させた




その後劇場を後にして大地と帰りながら舞台の感想などを話していた


「やっぱりセイヤは凄いな」


「ん?俺が?俺は舞台に参加してないぞ?」


「いや、あの石田綺羅々にあれだけ期待されて見込まれて…」


どのキララだ…

期待されて見込まれてるでは無く


「単に俺を揶揄ってるんだろ?頑なに芸能人にならないって言ってる厨二病反抗期少年を弄って遊んでるだけだろ」


「いやいや、そんな理由であの舞台に招待したり楽屋に呼んだりしないだろ。あの舞台のチケット取れないので有名だったぞ?」


「そうなのか?まあキララの出演もその理由かもな。テレビや映画では主演女優だしな」


「まあそれもあるかもだが…あの劇団は演劇界だけでなく一般人にも認知されてて有名だからな。TV CMもしてたぞ?」


「そうなんだな…」


やはり大地はその手の情報は詳しい様だった

確か劇中で使われた音楽もMV作るとか言ってたし、それなりに人も金も動いてる巨大エンタメなんだろう


そんなプラチナチケットでしかもかなり良い席だったのでもっとしっかりお礼を…菓子折りでも持って行くべきだったか


下調べをぬかったなと少々後悔していた


「ダイチはどうなんだ?やっぱり影響されたか?」


「そうだな…テレビや映画とは違って…生で見てやっぱり役者って凄いなって感動したぞ」


「そうかそうか」


「今回誘って貰って本当に良かったと思ってるよ。有難うな」


「いえいえ、以前エルからライブに誘われたお礼は出来たかな」


「お釣りが出るほどな!」


これを機に大地も芸能人を目指すキッカケになるかも知れないな


そうなれば静風とは益々距離が出来てしまうかも知れんな…


そうなる前に…


「今回役者の仕事を間近で見た訳だし。お前も見習わないとな」


「見習う?」


「そうだぞ。見習ってへタレダイチを封印して俺様ダイチを演じろ」


「俺様…」


「卒業式までにな」


「あっ…うん…そうだな、演じる…だな」


「そうだぞ?グイグイな」


「グイグイ…出来るかな…」


「出来る出来る。お前は役者だ!」


「いや、学生だし…演技の勉強なんてした事ないし…」


「ならこの機会にやってみろ」


「うん…そうだな…今回舞台見て…勉強してみたいって…少し思った」


「まあそれは告白した後にな」


静風と付き合ってから役者になれ

そうでないと周りの遊び慣れた手練れの綺麗なお姉さんに誘惑されてピュアなお前が騙されて食われてしまいそうだ


「なんかお前言ってる事が色々チグハグでおかしいぞ…」


「うん、自分でもそう思う」





色々刺激も受けつつ何となくこの先やりたい事と言うか興味を持った事をぼんやりと自覚したり


何か知らんが言われるがまま撮影の仕事もこなし大量に出された宿題も片付けて中学最後の夏休みを終えた


今回は星夜にとっても大地にとっても色々自覚するキッカケになった様ですね


まあとりあえず大地は目先の目標に向かって頑張れ

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