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明宵  作者: 水嶋
深更

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願いは望めば

「4月からは後期研修が始まるんだっけ?」


「うん、マコトの勤める病院でね」


3月に入り久々に櫂の元へ行き話をしていた

2年間の初期臨床研修をもうすぐ終えるので櫂も一段落したという所だろうか


後期研修はお母さんも韻くんもマコトもその病院だったらしい

宮乃も今はマコトも勤めているし頼りになるだろう


「専攻は何にしたの?」


「内科だよ。田舎で開業医としてやってくのに1番必要とされる内容だろうからね」


「成る程…将来を見据えてって事なんだね。カイが本当にやりたい専攻とかは無いの?マコトさんみたいな精神科とか云足さんやお母さんみたいな産婦人科とか宮乃さんみたいな外科とか…」


「特にこれと言った物は無いね。僕は遺伝子の浄化の研究が出来ればそれで良いからね。医師の仕事についてはこれと言った思い入れはそれ程無いかも知れないね」


「そうなんだね…」


医学部を卒業して医師免許を取得するまでかなり大変だったと思うが医者の仕事に対してどうしてもなりたいと言う様な強い思いや信念は無いみたいで、そんな程度の思いでここまでやって来れたんだとある意味感心していた


「そうそう、八神家の歴史を纏めて文字に起こしてくれて有難うね。スマホやタブレットで読めてかなり助かったよ」


「まあ…読みやすく纏めてくれたのはセイヤだけどね」


「ふふ、テルヒは人を使うのが上手いんだろうね」


「そうかな?単にセイヤが頼まれたら断れない人なだけだと思うけど」


「でもご褒美はあげてるんだろう?」


「まあ…そうなのかな?」


恐らくセックスの事を言ってるんだろうが、ご褒美と言うより私も気持ちよく幸せな気持ちになりたいので少し意味合いが違う気もするが…


「今年は受験生だね。志望校もセイヤと同じ大学らしいね?」


「まあ…たまたまね。お父さんの母校だし私も弁護士になりたいなって思ったからお父さんと同じ大学を受ける事にしたんだよ」


「へえ…」


「八神家には…八神家の事情をよく知る弁護士が必要だなって思ったんだよ。過去の記録を読んでね」


「まあそうだね。内容は…中々だったね」


櫂はそう言って笑っていた


「カイは…読んでみてどう思った?」


「まあ…そうなんだ、かな?」


「まあ、私も同じ様な感想だけど」


「しかし、使うと体がどうなるか分かってて現実逃避に薬物使用とは愚の骨頂だね。同じ医者として馬鹿げてるとしか言いようが無いね」


「そうだね」


この感じなら櫂は薬物に頼る事は無さそうだ


「死んでしまったら研究も出来ないしこの先の八神の遺伝子を持つ者がどうなって行くのかも見届けられ無いのにね?」


「その通りだと思うよ」


「まあ…1番良い形は今の所は云足さんかな。回復してる現状を偽って密かに地下に隠れて誰にも邪魔されず好きな研究だけに没頭してて…」


「カイはその事知ってるんだね」


「まあ、地下施設に顔を出してるからね。テルヒはマコトから教わったんでしょ?」


「うん、まあね」


櫂が地下施設に顔を出してるのは…


「マコトもテルヒの事は認めてるって事なのかな?八神家を僕と一緒に継ぐ者として」


「それはどうだろうね…」


単にあの時は宮乃から聞いた認知症が手術で治せるのかと言った事を話題に出しただけの言わば話の流れで…


私はマコトに似てるので云足の研究について知ってもそれを止めさせたいとか思わないし誰にも…お母さんにも明かさないのを分かってて話したに過ぎないと思えた

星夜には成り行きで言ってしまったが、まあ星夜がお母さんと話す事は無いだろうし大丈夫だろう


エナの事は…


結局聞けないでいた


エナの事と言い星夜の事と言い…

どこか匂わせる様な挑発する様な、私から何かを言わせたい様な意図を感じていた


やはり私が激しく詰め寄ったり必死で否定する姿が見たいのだろうか?

それとも落ち込む姿が見たいのだろうか?

そんな風に考察していたがやはり私にはその様な感情が湧かないので出来なかった


大地が習ってる演技のレッスンを私もした方が良いのだろうか…


こう言う、話していて色々考えを巡らせて疲れる様な、捻くれた所は星夜に似てるなとも思えた

案外お互いに話してみると櫂と星夜は気が合うのかも知れない

そんな事を言うとまた星夜に怒られそうだけど…


櫂と話しながらぼんやりとそんな事を考えていた



「まあ病院の改装工事も始めるし、もうじき色々目処が立ちそうだね」


「じゃあ…あと3年…だっけ?」


「そうだね、その頃はテルヒも二十歳だし…丁度良いかもね」


「丁度良い?」


「弁護士が側に居てくれると僕も心強いね。僕とテルヒが夫婦になればまるでアンちゃんとトモハルさんみたいな関係だね」


櫂は星夜と同じ様な事を言っていた


「まだ私はその頃は学生だよ?」


「先ず籍を入れるだけでもね。卒業して…資格を取るなら大学院も行かなきゃかな?その後来れば良いだろう?どうせ子供も産まなきゃだしその後の子育ても静かな田舎の方が良いんじゃない?子供は僕が取り上げてあげるよ」


「そっか…」


子供は…

どうするんだろう

やはりお母さんに頼んで人工授精なんだろうか


「やっぱりセイヤの側を離れるのは嫌?」


櫂は揶揄う様に笑っていた


「そう言う訳じゃ…でも…」


私がもし櫂の元へ行くとしたら…


「でも?」


「そうなったら…エナはどうするの?」


まるで誘導される様にエナの事を聞いた


「勿論、エナは連れて行くよ?」


櫂は隠す事も無くエナの名前を出した


私がエナの存在を知っている事は折り込み済みだろうし、元々櫂が私にエナとの関係を教える為の様にあの映像を秘密基地に置いていたのだろう


「それじゃあ…おばあちゃんや周りの人にエナの事どう説明するの?」


「まあ…おばあちゃんはエナの事はテルヒだと思ってるし?外に出すつもりもないから大丈夫だよ?元々戸籍もないしね」


「でも…どうやって隠すの?おばあちゃんの家は地下室は倉庫にしてる位の小さな物だし、以前有ったみたいな守生の部屋みたいな物も無いよ?」


「改装工事をしてる病院に地下施設も作る予定だから大丈夫だよ?エナはそこに住まわせるし元々地下施設に住んでるから慣れてるだろう?」


「それは…まあ…」


「どの道アッチで八神家の使命を遂行して行くなら地下施設が必要になるだろう?」


「そっか…」


「まあ改装と言うより建て直し…になるかもね。地下施設を作るとなると。3年有れば何とか間に合うかな」


「そうだね…」


「きっと楽しいよ?3人で生活…行く行くは増えていくだろうけどね。これでテルヒも寂しく無いね」


「まあ…私はそうだけど…」


そうなるとエナはどう思うんだろう

それはエナが望む姿なのだろうか?


「まあこれは僕の一案だから。テルヒは自分がしたい様にして良いんだよ?」


私が微妙な顔をしていたからか櫂がそう言った


「カイはさ…」


「?」


「それで良いの?」


「と言うと?」


「エナと…好きな人と誰にも邪魔されずに2人だけで過ごしたいとかは思わないの?」


「でも…それは無理だろう?」


「どうして?」


「エナはこの世界に存在してない事になってる子だから…ね」


「成る程…」



そう言う事かと腑に落ちた



櫂の望む理想の世界にエナを細工無しに置いて置けない…


そもそも今のお人形の状態のエナで良いのだろうか?

自分の意志も無く自分の思うがまま言う事を聞く、理想の姿にさせているエナと分かり合う事が出来るのだろうか?


星夜が言う様に


『理解出来ない事を認める…』


しか無いのだろうか?


「カイは…自分に無い感情を知りたいって思う?一生みたいに…」


「そうだね…読んでいて…一生が1番僕に近い考え方をするのかなって思ったね。まあ僕はあんな酷い事をする気はないけどね」


でも私に対してそこそこ酷い事をしてると思うけど…

話が脱線しそうなので指摘はしないでおいた


「じゃあさ、カイは…人と…好きな人と分かり合いたいって思わないの?」


「…」


「私は…人の事を理解したいと思うし分かり合いたいって思うよ?」


「…」


櫂は口を閉ざしてしまった


恐らく櫂の本心は…望む事は…


そこなのかも知れない


「大丈夫…望めば…」




私は櫂を抱きしめて頭に顔を埋めて口付けた


櫂、お久しぶりです


元気そうですが相変わらず人を弄ぶ様な所も有りつつですが…


櫂と対等にやり合う様になった照陽も大人になってる…かな?

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