歪んだ契約
「ねえ、テルヒってお菓子だと何が好きなの?」
「さあ?多分何でも食うんじゃねえか?」
「じゃあチョコとかで良いかな、確か好きだった記憶が」
「あー…確か昔…ホワイトチョコが好きだとか言ってた様な…」
昔のバレンタインの時の記憶を辿って思い出していた
確か静風がそう言っていた
そう言えば大地にはピーナッツだかピスタチオだかのチョコを渡していたか
俺への煎餅はまあ嫌いじゃないが恐らくオチに使っただけだろうがな
相手の好みをリサーチして実行出来るホスピタリティ、その辺りはさすが女子の観察眼と言うか気配りと言うか俺には真似できない芸当だった
先日俺の弁当を届けてくれたお礼にとデパートの北海道物産展に行くついでに照陽にもお礼の品を渡したいと麻由に打診されていた
その物産展会場のデパートに行くのは、近くにある書店で開かれるアニメ化直前の宣伝を兼ねた咲穂ペロリ改め今は穂咲ペリーのトークライブ&サイン会に行くついでな訳なのだが
そうして次の日麻由から託されたこの『白い愛人』と言う何かクッキーにホワイトチョコが挟んであるふざけた名前のお菓子を手に照陽の元へ尋ねに昼休みに照陽のクラスに行ってみたが、見当たらなかった
今日は2月だが、風もなく比較的温かな日だったのでまた屋上か?と一応確認に向かった
そこで屋上へ出る扉を開けてベンチの有る方を見ると…
照陽が居た、が寝転んでもなく1人では無かった
向かいに座っているのは男だった
それも良く知った奴だった
照陽は項垂れているそいつの頭を撫でていた
俺は音を立てない様に扉を閉めてその場を立ち去った
教室に戻り筆箱からマジックを取り出しお菓子の箱に
『麻由からお礼だとよ』
そう書き殴って昇降口に向かい照陽の下駄箱にそれを無造作に突っ込んだ
それから暫く俺は無性にイライラしていた
来週には卒業式だと言うのに…
大地はグズグズフラフラと何やってんだよ
そんな暇が有ったらさっさと静風に告白してそっちと撫で撫でチュッチュしてろよ…
3月の最初の金曜日は照陽は卒業生代表の挨拶をする下らないリハーサルが有るとかで恒例行事のお宅訪問は中止となっていた
静風の事は照陽にはまだ話していなかった
正直話すか迷っていた
多分照陽は全て知った所で然程取り乱したりショックを受ける事は無いと思われる
現に俺も驚きはしたがまあそう言う事なんだなと思う程度だった
俺と照陽は感情に些か乏しいと言う共通点が有ると認識している
恐らく八神の血筋が所以だとは思うが
話す事を躊躇しているのは…
静風が照陽には検査した事もハナから何も告げてない所から察して照陽には身体の事は明かしたく無いのだろうと言う配慮も有るが
恐らくは
照陽がこの事を知って静風を意識し出す事を懸念している…のかも知れないと思った
照陽は俺と同じ様に本気で好きとか愛してるだのと言う下らない感情は誰に対しても起こらないだろう
しかし同情…共感したいと言う欲求は有るように思われる
サラにそう思った様に
椎那や摩那がどう言う感情だったか知りたいと思った様に
そしてソイツらが好きで楽しいと思ってる事をソイツらを喜ばせたくて同じ事をしてあげたいと思って行動した様に
別に照陽が誰を好きになろうが誰と付き合おうが構わないと思っている
思ってはいるが…
何故か静風だけは嫌だ
そんな風に思っていた
照陽が1番の親友だと思っている静風だけは…
身体の奥で深く満たされた関係は静風とは持てないだろうが、その分違う部分で深く突いて照陽を満たして来るであろう静風には…
だから大地には何とか照陽から引き剥がし静風の気持ちを向けさせ繋ぎ止める様に頑張って貰わないと
何だか本末転倒な事を考えてるなという自覚は充分に有ったがそれが結果皆が平和に収まる事になるだろう
そして大地に目標を課した卒業式が目前と迫っている事に更にイライラしていた
そんな事を思っていると静風からラインが来た
『卒業式の日に2人で話せない?』
俺は直ぐに了承のメッセージを送った
そして直ぐに静風から時間と場所の指定のメッセージが返って来た
○○○○○○○○○○
卒業式当日、何とか参列していた韻も麻由も大人しくしていてくれて無事滞りなく終える事が出来た
その後解散となり静風に指定された場所に向かった
そこは校舎の裏側で人目につかない場所だった
俺の方が先に来ていて静風がその後直ぐに来た
「何か用事でも有った?お別れの言葉は必要ないぞ。どうせ4月からまた顔あわせるんだからな」
そう、卒業式と言っても校舎が変わるだけで生徒も大して変わらない
引き続き中学生活の延長の様なもので正直卒業式も何の感慨もなく偉い人が挨拶に来てるちょっと豪華な全校集会位に思っていた
そして大地は告白出来たのか不明だったのでさっさと切り上げてもし逃げ腰になってる様ならこの際首根っこひっ捕まえて…
「セイヤは…テルヒと…」
「テルヒと?何?」
「キス以上の事…してるよね?」
いや…そんな事はしては…
「だったら?」
頭では否定の言葉を言っていたのに何故か口では真逆の言葉が吐き出されていた
必殺質問返しならぬ挑発に挑発返しだろうか
まんまと挑発に乗りカウンターパンチを喰らわせていた
まあベロチューしてる現場を見られたならそれだけで終わってると言うのも説得力は皆無だろう
「そっか…それも頼まれた練習?」
「まあ…」
「あはは…やっぱりズルいなあ…男ってだけで」
「そりゃどうも」
そんな負け惜しみを吐いている静風に多少憐れみの目は向けてやっていた
そう、やはり照陽を道具を使わず体ひとつで気持ちよく出来るのは俺の方だろう
こればっかりは丸腰の静風には無理だ
「私は…そんな風に…出来ないしこの先誰とも…男の人とも付き合えないんだろうなあ」
「それはお前の気持ち次第じゃねえか?お前の事を好きな奴だっているだろう?」
大地とか山崎とかダイチが
「セイヤはさ…お願いしたら好きとか無くても付き合うの?」
「まあ…」
照陽の練習も正にそのお願いされてからの身体の付き合いだ
「テルヒに対してもそうなんだ」
「まあ…そうだな、お願いされて付き合ってるな」
「じゃあ…私と付き合って!」
「えっ!?俺!?」
「うん。色々…理由はあるけど」
「それは…」
もしかして…
シズカも俺と同じ考えなのかも知れない
照陽から俺を遠ざけたいと言う事が
そう考えると何故か愉快な気持ちになって来ていた
「それは…俺に告白してるって事?」
「まあ限りなく契約に近い…告白?」
「へえ…契約?」
「私と付き合って。それでテルヒとの練習は終わりにして」
成る程、静風は俺か照陽のどちらかが誰かと付き合ったら練習は終了させる約束をしてる事を知ってる様だ
「ああ、分かった、いいぜ?」
そう言って静風を抱き寄せた
「確か…お前の理想とやらは…」
抱き寄せて頭を撫でてやった
「からのキスだったか?まあファーストじゃねえだろうが」
そう耳元で囁いてキスをした
唇を付けるだけで舌は入れなかった
「これがテルヒがキスしてる唇なんだね」
口を離して静風は俺の唇に人差し指でなぞってそう言った
静風は恐らく俺を通して照陽とキスをしたのだろう
まるで櫂が照陽に杏を重ねている様に
そう思うと更に愉快な気分になっていた
それは理想や願望してる事が叶う事は決して無い状況の人間の姿に…
思う通りに行かず諦めて歪んでいる人間の姿に、自分の境遇と重ねて自分だけじゃないと安心しているだけなのかも知れない
そして今は大地との友情が破綻する心配よりも静風から照陽に向ける目を逸らせられた事に満足していた
まあ追々大地とは何とかくっつけさせて見せよう
静風の思惑通り照陽の身代わりの傀儡となって静風とセックスしてやる気も更々無い
それは大地に任せよう
さてこの先どうするか…
静風のお願い通り練習はこれで終了させてやる
練習はな
卒業式までには大地とくっつける予定だったが予想外の展開になってしまった事には甚だ遺憾ではあるが
しかしその気持ちに反して俺の口元は何故か笑っていた
それは歪んだ笑みだっただろう
卒業式と言うラストにふさわしくも無い何だか大変な事態になってしまった様です
まあお互いの利害の一致した打算しかないお付き合い開始の様ですが
まあ照陽と練習し出した経緯も理由も然程変わらないかもですが
しかし星夜…
一途なピュアボーイ大地との友情はどうするのさ




