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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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98/160

98話

「……ウ! リュウッ!」

「っ!」


 首護隊の面子に腕や胴体を拘束され、リュウは正気を取り戻した。


「……俺は」

「覚えてないのか。自分の有り様を」

「あ……?」


 周りをようやく認識する。敵の導士は、地に伏せていた。他の兵たちも、見渡す限り、全員死んでいた。


「……っ、これを俺が?」

「そうだ。導士が倒れ、撤退を始めた後もお前は攻撃を止めなかった。戦意のない相手に、やり過ぎだ……恨まれるぞ」

「……今更だ」

「それは別にしても、戦闘中、意識がなかったのは大問題よ。陛下に進言する」

「……好きにしろよ」


 守護隊がそこを去っても、リュウは動けなかった。一人、散っていった兵たちの無残な姿を呆けたように見渡した。年若いのが多い。冷静さを取り戻すにつれ、少しずつ記憶が蘇ってくる。


 背を向けて逃げ行く人間を、無慈悲に魔術で貫いた。理性はどこにもなかった。任務のことも完全に頭から抜けていた。人を無感情に殺す自分の姿を、一歩後ろから、まるで他人ごとのように思い返す。ただただ、人を追いかけ襲う姿は、理性のない化物のようだった。


(俺は、何を……)


 夥しい血が、地面に混ざってどす黒くなっていた。リュウの握り下ろされた拳は、怯えるように震えていた。




「暫く任務から外れて療養だ」

「……はい」

「お、素直だね」


 リュウにそれを言い渡したのは、九垓だった。父王、慧燿の首護隊に入ってからはあまり関わることもなく、久しぶりの会話だったが、九垓はそのブランクを微塵も感じさせずに、記憶のままの姿、口調でリュウに語りかけた。


「報告だと、痣が発光して、その後理性がなくなった……、ということだな」

「はい」

「見せてみな」


 リュウの腕を見て、九垓は顔を顰めた。


「……これは」

「何かご存知なんですか」

「……この痣、昔はなかったと思ったが、いつから出た」

「気づいたのは首護隊に入って、間もなくでした」

「そうか……。はっきりと断定はできないが、これは(まがい)の印、と呼ばれるものの可能性が高い」

「まがい?」

「多くは伝わっていない……。が、過去にも、この痣が現れたものがいたという。優れた魔術の使い手で、印はその強い魔力に呼応して現れ、更に強力な魔力の引き出しを助けたという」

 

(魔力を強化する痣……)

 

「けど、発光したという記録は見たことがない。詳しくは、国外の書物を探した方がいいか……。スラジならあるいは……」


 九垓はぶつぶつと独り言をこぼした後、「とにかく」と仕切り直した。


「暫く魔術は使わないことだな」

「……はい」

「暇なら鉛兒(えんじ)の手伝いでもして、大人しくしてな。雑務に手伝いが欲しいと前から零してた」


 言いつけ通り、前線から外れ、九垓の補佐を努める文官、鉛兒の傍ら、雑務をこなした。周りは左遷だとか、何をやらかしたのだと騒いでいたが、それに言い返す気にもならない。リュウは未だ、自身の暴走に怯えていた。


 


 数カ月経った、ある夜。休んでいたリュウは、気配を殺して、寝床から起き上がった。魔石を手に取り、音を立てずに外へ出る。外門から官吏たちの寮室へ繋がる通路に、見知らぬ男たちが十人超、群がっていた。武具の形から、正体はすぐに分かった。


「タルカン兵か」


 侵入者たちは、リュウを見て一瞬狼狽えるも、すぐに襲いかかってきた。大人しくしてろと九垓に言われたのは新しいが、助けを呼ぶことは選ばなかった。それは、人に頼らず生きてきた、リュウの弱みに他ならなかった。


 魔力を放出すると、肩がズキズキと痛みを訴える。


(力を抑えてやるしかない)


 この前の二の舞は避けるべく、出力を下げて敵と対峙するも、十対一では流石に厳しい。長くなるほど、痣は痛くなっていく。それと比例して、脳に白く靄がかかるような感覚が増していく。にも関わらず、体は敵の攻撃を的確に感知し、躱している。


(っ……駄目だ、意識が……)


 一度、撤退すべきだと魔力を切ろうとしても、もう体は、リュウのコントロール下にはなかった。





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