婚礼、そして婚礼前のひと苦労 2
『それでは失礼して』
そう言うが早いが、するりと手首を取られた。
優しく一撫でされ、手の甲に口づけを落とされる。びくっ、とアルマリアは震えた。やはり、少し怖い。けれど。
硬い手は次に頭の後ろへまわり、首筋を触るようにして固定される。一気に距離が縮まり、おとがいを掴まれた。くい、とそのまま上げられる。
目の前に、端正な顔があった。
ヴィルヘルムは奇行で忘れられがちだが、とても整った容姿を持っている。思わずくらりとくるほど。
身体が熱い。いつの間にか彼女は抱きしめられていた。
『で、でん、か……』
か細い声で王子を呼ぶ。何ですか、と優しい声が返ってきた。どくんっ、と心臓が跳ね上がる。これはなに。
おとがいを掴んでいた手が、頬を撫でる。慈しむように。
ふ、と唇が触れた。その瞬間身体中を甘い電撃が奔った。沸騰する。
ちゅ、と深く唇が合わさる。息が出来ない。どこかぎこちない動きで、口づけは交わされる。
食むようにヴィルヘルムの唇が動いた。ちぅ、と吸われる。心臓が破裂しそう。これが、口づけ?
不意に熱いものが唇をこじ開けた。その、ヴィルヘルムの舌に歯列を蹂躙される。口内を舐め回される。
『っあ、んむ……っ』
堪えきれずアルマリアは喘いだ。だが、唇は、舌は、離れない。
深く貪られ、息は浅くなる。ちゅ、ちゅぱ、と舌先が触れ合い、音が鳴る。
『んぅっ……あ、ん』
もぞりと唇が動いた。ふっと、漸くそれは離れる。はっ、はぁっ、とアルマリアは荒く息をついた。だらしなく唾液が漏れそうになる。が、目を瞑った瞬間、口を食まれた。文字通り、唇、を。
震えるアルマリアの唇をヴィルヘルムの舌先がゆっくりと、丁寧に舐めていき、唾液を食べた。
『でん、か……っ』
アルマリアは潤んだ瞳を王子に向けた。するとどこか熱を帯びた眼差しが返ってくる。
『姫……』
囁くように名を呼ばれる。
彼は再び、アルマリアに深く口づけた。ただし、今度は舌先は入ってこなかったが。
けれども、また甘い痺れに襲われ、アルマリアはふらりとへたりこんだ。
ああ。
これは何。
この心臓を壊そうとする、衝動は。