表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニトさん  作者: 膝小僧
10/10

ニトさんがおこした至上の奇跡

「──という経緯で、謎が解けたんです!」

 さも自分の手柄であるかのように、優香が胸を張った。

「……うーん、気を失っていた身としては、瞬殺された気分だなあ」

 ベッドで片足を吊った状態の、ニトさんに向かって。

 病室で初めて対面することになったニトさんは、麻酔の効果もあって元気そうだった。骨折があるからしばらく入院が必要だが、四月になるころには退院できるという。

「ま、高三の黎明期は松葉杖暮らしだそうだけど」

 キャー不良っぽい、と一昔前の漫画のキャラのようなことを口走るニトさんの前で、あたしたちは改めて安堵の気持ちで胸がいっぱいになった。

「あの、面白かったですよ、『シネマリバイ』。ちゃんとミステリになってました」

 あたしが言うと、「えーっ、本当? 書いててさ、これ小説じゃないじゃん! 新聞記事じゃん! って愕然としたんだけど」

「そこは既に突っ込み済みです!」言い切る優香にはチョップ。

「だって、私なんかじゃ真相に至れませんでしたよ~」

 雪風が頬を膨らませると、ニトさんは、そうか、書いてよかったよ、と笑顔を見せた。

「……まあ、アレだ。ミステリ知らない人間が書いたにしては、良かったと思う」

 ぼそりと相川先輩もこぼす。何か言い返すのかと思いきや、

「えへへ……」

 と照れだすものだから、気持ち悪いなオイ、と先輩は青ざめていた。

「でも、ページの順序が間違って渡されていたからややこしくなったって、なんかごめんね」

 ニトさんが謝る。確かに、あれのせいで問題が非常に複雑になったのだ。一次関数でよかったところが、四次関数になったような進化だ。数学は本当に苦手だから、喩えただけで嫌になる。もっとも、それをいとも容易く解いてしまう人もいたが。

「ホントですよね」優香が笑った。「間違って番号振るなんて、おっちょこちょいだなあ」

「え?」

 急に、ニトさんが真剣な顔つきになった。

「私、番号なんて振ってないよ? たった五枚だし……」

 そんな馬鹿な。だったらあれは、誰が?

「……ああ! やっぱり私、振ってた!」

 ……なんだ、びっくりさせる先輩だなあ。

 と思っていたら、次の瞬間、ニトさんの口から思いもよらない言葉が飛び出した。

「私、あれ、()()()()()()()()()()()()んだ!」

「なんだって?」

 さしもの相川先輩までもが驚きの表情を見せる。レアだ。いや、それどころではない。

「ど、どういうことですか、ニトさん!」

 あたしが叫ぶと、外にいた三上先生が飛んできて、何事かときょろきょろした。それにも構わずニトさんは頭を抱えて、絞り出すように言った。

「えっと……車にはねられた、って思ったときには、頭に衝撃が来てて……でも、車が去っていくのは分かったんだ……で、ひき逃げかよ、って思って、でも、ナンバーは見えたから、何かに書いておかなきゃ、とも思って、それで丁度歩きながら読んでいた、私の原稿が、扇状に広がっているのが目について……書いたの。『()()()()()()()()

 1・3・2・4・5、ではなくて、逆さから「ち」の4・2・3・1だって?

 確かに原稿を見てみると、5の部分は「ち」にも見える。つまり、これ……

「番号の振り間違いじゃなくって、()()()()()()()()()()だったんですね!」

 いや、死んでないけどさ優香ちゃん、とニトさんは言ったが、一拍置いてから、でも確かにそうだねえと肯定した。

「ちょ、これ警察に言うべきことじゃないですか!」

 にわかに病室が騒然としはじめる。しかし相川先輩も言っていたが、なんという奇跡だろうか。書きつけた車のナンバーが、ページ番号のように見えた、とは。しかもそれがうまいことページをシャッフルして、かつ読める状態のまま残される、だなんて。あまりのことに、ここが病院だということを忘れて爆笑してしまいたくなる。いや、いっそ笑っちゃおうか。

 そんな風に脱力してしまったからか、突如あたしのお腹がぐうと鳴った。

「……あっ」

 一転、羞恥心が脳内勢力を増す。ただ、それがイジられることはなかった。どうやらみんなも空腹を感じていたらしい。

「そういえば、お昼まだだったな。細川、今何時だ?」

 相川先輩が訊き、雪風は手にしたデジタル時計を見る。そしてぷっと噴き出して、

「五秒だけ待って下さいねー」と告げて、きっかり五秒後に宣言した。

「十三時二十四分です!」

 1・3・2・4。なるほどね。

 ……って、どこまで絡んでくるのよ、この数字は!

 あはは、とやわらかい笑い声が病室を包む。

 なんだかよく分からないけれど、来年の数学の単位は安泰なような気がした。



"Two and three" ends happily!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ