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第3話 ドラゴンさまとスグル

「竜の腕……?」

「おっ、よくわかったね。そうそう。

 いやはや、実は私はアビスドラゴンって奴でね。おなかすいたから普通の人間の姿に化けて街の中に入ったんだけど……。

 いやー、常識ないとダメだね。片手落ちって奴?」


 彼女は笑いながら鉄格子を細切れにしていく。自分が出る事が出来るほどになれば、次は俺がいる方の牢に。

 細切れにされた鉄格子が床に落ちる音がそれなりに響いているが、誰かが来る気配はない。それを聞くと。


「魔法だよ、消音のね」


 魔法超便利。

 そんな事を話しながら、原形をとどめなくなった鉄格子に満足したのか、彼女は一歩引くとその姿を変貌させて行く。

 左も右腕と同じように変貌し、頭からは爪と同じ色の巨大なツノが生えていく。

 背中からは大きな翼が生え、さらに甲殻が背中から脇腹を包む。

 この時点で着ていた服は消え去っていた。破れた訳では無く幻か何かの類だったのか?

 それでも大事な部分は辛うじて甲殻で隠れて見えていなかった。

 そして変身は上半身だけでとどまらない。

 腰の辺りは甲殻にこそ包まれているがそれほど人間と変わった感じは無い。

 しかし太腿から先が巨大なトカゲの脚へと変わっていた。黒と赤の甲殻と爪が禍々しさを醸し出す。

 バチン! といつの間にか生えていた太い尻尾を床にたたきつけ、変貌は終了した。


「はー、窮屈だった窮屈だった。

 どうだい、驚かせたな。これが私の真の姿だ勇者よ! なんて」


 俺の胸くらいまでしかなかった身長が、大体同じ目線になっている。

 もっとも顔や身体、腰のパーツは人間とさほど変わっておらず、その身長増加は大きな脚のせいであるが。


「……おぉ」


 カッコカワイイ。

 一言でそう思った。最初は完全にドラゴンな姿に変貌するのかと思ったが、どうやら半竜半人の姿が真の姿なようだった。

 可愛らしい人間の部分と、異形のドラゴン部分のアンバランスさがとてつもなく良いアクセントになっている。


「取り乱したりしないんだね。

 別に怖がって欲しいわけじゃないんだけど、意外……かな?」


 一瞬、何かを期待するかのような表情を浮かべ、すぐに薄く笑みを浮かべる。


「え、可愛くてかっこいいぜ」


 思った事を口にすると、ちょっとだけ戸惑った表情になるが、その後いままで見たことが無いほど嬉しそうに破顔する。

 しかしこう言うのって怖がらないのを残念がったりしそうだが、そうでもないんだな。


「仲良くしたい相手に怖がられたくないに決まってるじゃないか」


 至極当然の理由だった。でも、仲良くしたいか。

 リュクスの件もあって裏を疑わない訳じゃないが、現状何もできない俺には彼女にすがるしかない。

 リュクスが目を覚ませばあるいは何とかなるのかもしれないが、その前に処刑されては何の意味もない。

 未だ目を覚めないと言うのは単純な気絶と言うわけでも無さそうだし。


「ここに来る前、小さな村で姿を見せた時は大騒ぎだったから。

 それに懲りてニンゲンの姿にする魔法を作ったんだ」


 必要に応じてすぐ魔法を作るとか高スペックすぎるんじゃないですか。この世界の魔法の事何も知らないけれど。


「でもこの世界のドラゴンて半人って感じなんだな」


 テンプレートな異世界である。ドラゴンと言えば普通にでっかいトカゲを想像するが、こんなモンスター娘風だとは。

 そういう所はどこまでも俺得の世界だな。


「え?

 あ、いやあれ。そうか、いや、それはね」


 虚をつかれたように一瞬呆けるグラツ。

 しかしすぐに何か思い当ったようで、それを……。


「ぎゃあ!? かっ、怪物がいるぞおおっ!?

 衛兵、えいへーいっ!?」


 突如叫び声が石造りの牢獄に響く。

 声のした方を向けば、少し離れた場所に収監されていた男が、大騒ぎしていた。


「あー。

 まぁ音がしなくても見られたら駄目だなー」


 盲点だったというより存外適当な娘だった。

 消音の範囲は狭いのか、悠長に話をしている間に効果が切れたのか。

 がっしゃがっしゃと大きな音を立てながら誰かの足音が再び近づいてきた。


「ええい! 今度はなんの騒ぎだぁっ!」


 さっきのおっさんの声や。


「これ以上建物壊すのも悪いから、相手に気を使いつつ正面突破かな?」

「そういう事気にするんだ」

「積極的に敵対したいわけじゃないし、私にも一応非はあるからねえ」


 相手に気を使いつつ正面突破できる自信はあるんだな。

 アビスドラゴンと言っていたか。やはり彼女はタダモノではないようだ。

 彼女はふふん、と鼻息を吹くと出口がある方へと向き……。


 ぺちん。


「あ」


 翼と尻尾が通路を叩く。

 通路に対して横を向いていたし、背後には牢屋があったので丁度良かったが、彼女の体ではこの通路は狭すぎたようだ。

 恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女もかわいい。


「いったい何ご……うわああなんじゃこれは!?」


 出口の戸を開け勢いよく飛び込んできたおっさんが、目を見開いて後ずさる。

 しかしすぐに剣を構えると、後続の兵士たちに何やら指示を飛ばしていた。

 うーん、こうしてみると俺の反応はやっぱおかしいのかな?


「まーこうなるかぁ。

 仕方ない、前言撤回だね。スグル、ちょっと硬いかもしれないけど、背中にしがみつくんだ」


 言われるがまま、彼女の背後に回り、腕を首から胸に回しおぶさるようにしがみつく。

 女の子に抱き付いて比喩では無く「かたい」と思う時が来るなんて思いもしなかった。

 硬いって言うかトゲトゲがちょっと痛い。


「あの娘……。まさか、魔族だったのか? 間者どころの騒ぎではないな。

 おい、お前ら、そこを動くなっ!!」


 そう言ってにじり寄ってくるおっさん。実際実力差はどうなのだろうか?


「うーん、ちょっと加減が分からなかもしれない……。

 ま、この先は誰も居なさそうだから全力でぶっぱなそうか!」


 そう言ってやや斜め上を見上げるグラツ。

 どうするのか、いや、ドラゴンならばあれだろう。期待に目を輝かせ、おお、と声が漏れる。

 その声に気分が良くなったのか、グラツの笑みがこぼれる。アビスドラゴンなんて物騒な名前の種族? とは思えないね。


「あ、とりあえず離れて」

「ぬわあああああああっ!?」


 翼を一振り。狭い通路にびゅおう、と突風が駆け抜け、おっさんとまだ遠くに居た兵士たちをなぎ倒す。

 近くまで来ていたおっさんは哀れ、ごろごろと出口まで転がっていく羽目になった。


「んじゃいくよっ!」


 そういうとグラツは大きく息を吸い込む。

 期待通りの事をやってくれそうだ。わくわくとしながらその様子を見守っていると……。


「はっ」


 吸い込んだ息をまとめて吐きだすような動作。

 そして、彼女の口許に黒い光が一瞬、収束するのが見えた。


 びぎいっ!


 黒板を固いもので引っ掻くような、そんな不快感のある音を何倍も強くしたような音。

 手を回していたので耳を塞げなかったのが痛い。

 しばらく響いたその音が消えた時、彼女の向いて居た方向の壁も天井も大きく円状に消え去り、赤みのかかたった空が見えていた。

 これ以上建物を壊すのは悪いとは一体なんだったのか。


「飛ぶから、しっかりと捕まっててね!」


 そう言うと、彼女は地面をひと蹴り。

 ひゅう、と風を切る音がしたかと思うと、グラツと俺は城の上空に居た。


「は、はやい!?」


 しかしその割には風圧を受けたり慣性で引っ張られたりはしなかったな。


「これも」

「魔法か」


 その通り、と笑うグラツ。

 眼下を見下ろすと、ぞろぞろと兵士が集まって来ている。城壁や塔には弓を持つ者も居た。

 案外対応は早いものだ。


「だけどまぁ、無意味だねえ」


 そうして俺たちはその場を後にしたのだった。



しがみつきながら気が付いたが、彼女の翼は殆どはばたいていなかった。かといってもちろん、航空機としての役割とも違うよう。姿勢を制御するのには使っているようだったが。


「えーと、どこまで話したかな?」

「中断が多くて何を話していたか微妙だな……」


 彼女にしがみついたまま空を飛ぶ姿は、傍から見てどのように写るのだろうか。

 もっとも、下からは彼女の身体に隠れて見えないであろうが。


「スグルの話からもう一度聞いていいか?

 勇者詐称ってどういう事?」


 この期に及んで言いよどんでも仕方がないので俺は事のあらましを彼女に打ち明けた。

 NGワードもあったが、おおむね理解してもらえたようだ。

 そしてリュクスに抱き付いた話には大うけしていた。


「それは災難だったねぇ。

 彼女自身が転移と再構成に巻き込まれておかしなことになったのは間違いないだろうねぇ」


 心底気遣っている様子で、苦笑しながらそう言ってくれるグラツ。

 怒涛の展開で荒みかけていた心を癒してくれる、本当に太陽だ、天使だ。アビスドラゴンだが。

 思わず抱き付きの加減を強くしてしまう。

 しかし彼女は嫌がるでもなく、ちょっとうれしそうだった。こう言ったスキンシップが好きなのかな?


「はぁ、それにしてもこれからどうしよう。ひ弱なこの体でモンスターやら魔法やらある世界で無事に生きていける自信が無い……」

「もー、男の子だろう? しっかりとしなよ。しばらくは私が守ってあげてもいいからさ。

 レベル上げもサポートするよ?」


 いたれりつくせりだが、なぜグラツはそこまでしてくれるのだろう。

 女の子に優しくされるようなスキルなんて当然ない! まぁ、どちらかと言うと逆に魅了されているような気はしないでもないけど。

 でも俺の好みのタイプである事には間違いが無い、なので何も問題は無い。

 とは言え小さい女の子に守ってもらうと言うのも中々にアレな話ではあるが、この様子だとグラツも見た目通りの年齢という訳ではないんだろう。

 こんな容姿、喋り方だが年上のにおいがプンプンする。

 既婚者で子どもが居たらどうしよう。犯罪の匂い……違うか。


「ん、私も無関係じゃないからな」


 さっきもそれを言っていたような気がする。

 正直、なんとなーく嫌な予感もあるのだが、今は少し目をそらしていたい。


「そういえばリュクスはどうしよう……」

「放置でいいんじゃない? ---としての力が残っていればすぐに帰るだろうし、そうでなければ向こうからこっちを探すと思うよ。少なくとも、勇者の力は持っているようだしね?」


 ---というのは管理者か。彼女をしてもNGワードの呪縛からは逃れられないようだ。


「向こうからこっちを探すというのは……やっぱり」

「まぁ、予想はつくよね。

 そ、私が魔族側に召喚された勇者……魔王さまであるぞ!」

「あたって欲しくなかった!」


 勇者として召喚されて、最初の仲間?が魔王ってどういう事なんだよ!

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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