4.エピロローグ
クリス兄妹が少年達と抱擁をかわす頃、その様子を遠くの場所から眺めている者がいた。
「あ~ぁ、私の仕事とられちゃった」
悪魔は頬づえをつきながら楽しそうに呟く。
紺色の髪に黄色の双眸。肢体に巻き付くベルトのような皮製の服は、彼女のプロポーションをさらに際立たせる。
サキュバス。それが、世間一般から呼ばれる彼女の総評だった。
黄色い瞳孔を細めながらも、その目はクリスから離さない。
「あの少年、私の好みだったのに。はぁ、クミンの小娘が入らなければ、確実に私のモノになってたはず」
バサッ。
彼女の背後で羽音がした。それでも、彼女は振り向こうとしない。
存在感のあり過ぎる重厚な空気。
彼女はこの空気の持ち主を知っていた。
それは、彼女が主人と仰ぐ絶対的忠実を誓った相手。
「探したぞ、ユーリア。まさか、人間界まで来ていたとは」
頬に紋章のある整った美貌を持つ青年が口を開いた。風で彼の服の裾が揺らいでいる。
「ラテュース様ぁ」
ユーリアは主人を仰ぎ見るとわざとらしく肩をくねらせた。
「今回は人間の魂を手にいられなかったようだな。」
「クスッ。でも、今回はいいです。アミリアという娘の中で、ラテュース様の過去も少し見れましたから」
「……悪趣味だな」
ラテュースはユーリアに突き刺すような視線を送った。
その視線を軽く流すユーリア。
彼女がアミリアで見た男女の姿は、ラテュースの過去そのものだった。ラテュースは過去に恋人を亡くしている。冷血漢なラテュースの普段なら想像できない姿は、ある意味ユーリアにとっては傑作だった。そもそも、悪魔という種族は性格的に涙を流すということがありえないのだが。
ちっ、とラティースは小さく舌打ちした。
「帰るぞ」
いつもの冷淡な表情に戻ると、ラテュースは踵を返す。それにつられ、ユーリアも立ち上がった。
「まぁ、いっか。夢を失った子供なんてたくさんしね」
一人納得した顔で、羽を広がると主人を追ってその場を後にした。