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番外編3・家族団欒・表

爛熯らんぜんが皓緋を自分の世界に勧誘する話。

家族や友人達に見送られ、俺は七十一年の生涯を終えた。

暫くは妻の側で家族を見守ろうと思ったんだが、抗えない強い光に吸い込まれ目を開けてみると。


「お疲れ様、寿ひさし


「かあ、さん……?」


そこにはもうかなり前に亡くなった母親が、二十代後半ぐらいの姿でにこにこしながら立っていた。そしてその背後には当然父親が立っていた。父親も母親と同じく二十代後半ぐらいの姿で立っていた。


「ええ、そうよ。こっちで寿の事見てたけど、毎日幸せそうにしてたから良かったわ。ふふ」


「ああ、うん。毎日幸せだったよ。うん、ていうかなんで母さん達、そんなに若い姿なの!? 俺なんて七十過ぎのジジイなのにさあ。これじゃあどっちが親だよって感じじゃないかい?」


うん、今なら絶対俺が祖父で向こうが孫だ。おかしいだろ、それ。

「あははっ! それならあんたも若返ればいいのよ。自分が一番好きな年頃を思い浮かべればいいのよ」

母親が笑顔で言う。そんな事でいいのかよと、半信半疑ながらも母親の言葉に従う。なら二十代頃か。目を瞑って二十代頃の自分を思い出す。すると身体の中心が熱くなり始め、暫くするとその熱は下がった。

「寿、目開けて見てごらん」

母親がそう言うので目を開けると、シミと皺だらけだった手が、弾力があって若々しく、シミも皺ない二十代頃の手が視界に映る。

「おおっ!?」

俺は両手で顔を触ると、顔もハリツヤがある。頭を触ると、少し心許なかった髪の毛もふさふさとなっていた。

「おおっ……! 若返っている……!」

「うん、ちゃんと若返っているわよ。二十になったぐらいかしらね、その姿だと」

「ああ」

母親がそう言うんだから、ちゃんと若返りは成功したようだ。

「なら、一段楽ついたところであっちに行きましょう」

母親は立派な日本家屋の縁側を指差した。

「ああ、うん」

俺は返事をしたが、そもそもここどこだ? 両親もいるから、いわゆるあの世的な所なんだろうけど。


縁側に移動し、父親、母親、俺の並びで座った。

「寿。今から話す事は信じられないかもしれないけど、事実で現実だからしっかり聞いてほしいの。それでその上で決めてほしいの」

母親が真剣な表情で俺をしっかり見ながら話す。父親は黙って母親だけを見ている。……ああ、死んでもブレないな、父さん。

「あ、ああ、うん、わかった」

「ありがとう、寿。あのね、お父さん——皓緋がね、ある人にスカウトされてて。で、皓緋は私が一緒じゃないと行かないって」

「ああー、うん。よくわかった」

俺は遠い目をしながら、死んでもこのやり取りをするとは思わなかったと思った。

「でね、私は寿にも一緒に来て欲しいの。でも寿が嫌なら諦める。皓緋と一緒に行くわ。そうすると今が寿と会う最期の時になるからちゃんとお別れしたくて……」

母さんは凄く淋しそうで悲しそうな顔をしている。父さんは今にも泣きそうな母さんを抱きしめたくて仕方ないんだが、今は邪魔をしてはいけないとわかっているので、抱きしめたい心を必死に我慢している所だな……。

俺は少し考える。

というか死んでもこんな面倒に巻き込まれるとは思わなかったわ……。はあ。まあもうこうなったら両親について行くしかないんだが、スカウトした人って誰だ? そもそもなんで父さんをスカウトなんかするんだ? まあ父さんが了承してるなら安心……できる奴なんだろうが。多分。とりあえずスカウトした奴は見ておきたいよな。

「なあ母さん。返事の前に父さんをスカウトした奴ってどんな奴? 今会えるのか?」


「会えるぜえ」


知らない声が聞こえたと思ったと同時に、目の前にデカくて派手な男が現れた。

「俺がお前のオヤジをスカウトした爛熯らんぜんだ。これでいいか?」

「あ、ああ」

俺は少しのけ反りながら答えたんだが……。

何だろう、なんか、どっかで見た様な? 会った様な? いやでもこんな派手なイケメンに会ったら絶対に忘れないと思うんだよな……。

そう、父さんとは違うベクトルのイケメンだ。父さんは男らしい精悍さもあるんだが、とにかく綺麗。女顔には近い気もするが、ちゃんと男性的な顔っていうか。まあとにかく綺麗。

目の前のこいつはチャラい雰囲気を纏ってるし、系統的に言えば派手な顔立ちなんだが妖艶な感じがするんだよなあ。まあやっぱり簡潔に言えば綺麗なんだが。

「ん、どーした小僧。俺様に見惚れてんのか? ははっ!」

男がにゅっ、と顔を近くまで近づけて来たので俺はさらにのけ反った。

「ん、あ、いや、なんかどっかで見た様な気がしただけで! でもあんたみたいヤツ見たら忘れないしなとか思ってただけ!」

「ほう?」

俺の言葉に三人の空気がちょっと変わった。

チャラい男は俺から離れ、母さんと父さんは顔を見合わせていた。

「ふうむ。どーするよお前ら。思い出させてもいいが……どうする?」

チャラい男が両親を見ながらそう言った。

「彩音」

父さんは母さんをそっと抱き寄せた。すげえ満足そうなら顔してるよ。死んでもこれかよ。もういいけどさ。

母さんは動かずじっとしてた。考えこんでる様だ。暫くして母さんが、チャラい男の方を向いた。

「戻して欲しい。私は……私は、戻せるなら、もう一度姉弟として側にいて欲しい。自分勝手なのはわかってる。短いけどちゃんとお別れもした。でも、でもっ……! それでもやっぱり、諦めきれ、ないっ。もっと……もっと……姉弟としてっ、一緒、に、過ごしたかっ、た。あんな、あんなっ、あんな、別れ方っ、はっ、したくなかっ、た、よう……」

母さんはぼろぼろと涙を流しながらチャラい男に言い、父さんはそんな母さんをぎゅっと抱きしめた。母さんは泣きながら父さんに抱きついた。ていうか、死んでまで何で両親のいちゃつきを目の前で見せつけられなければいけないのか……。いや、シリアスな内容らしいけど、しかも俺の事? っぽいけど?

「爛熯、彩音の言う通りにしろ。さっさとやれ」

「いやまあ、提案したのは俺だし、やるのは構わねえんだが。それでも、こいつの意思は尊重しなけりゃダメだ。だから、こいつが戻りたくない、嫌だっつったら俺は記憶を封印もしくは完全抹消する。いいな、嬢ちゃん」

チャラい男は俺にチラリと視線を向けて、母さんに言った。

母さんは涙でぐずぐずの顔をチャラい男に向け、わかったと言った。

「よし、なら始めよう。嬢ちゃん、お前がコイツの名前を呼びな。強く、強く。そうすりゃ記憶が戻る」

「ん……」

母さんは頷いた。そして、泣いてぐずぐずの顔を俺に向けた。……母さんがこんなに泣いた顔を見たのは初めてだ。初めてなのに、もう二度と見たくないという思いが湧き上がるのは何故だろう。

「寿」

母さんは俺の両頬を涙で濡れた手でそっと挟んだ。

「母さんね、どうしても会いたい人がいるの。その人は母さんのとっても大事な人なの」

俺は母さんの背後にいる父さんをチラリと見た。うん、やっぱりもの凄く不満どころか、その相手を見た瞬間、殺しそうな勢いをビリビリと感じる。今なら俺か……それ。

「でもね、母さん、寿の事も愛してる。かけがえのないたった一人の子供だもの。それだけは信じて」

俺は父さんから母さんに意識を戻した。

「母さん。母さんが俺に何をしたいのかはよくわからないけど、母さんが俺を愛してくれたのはちゃんとわかってるよ。信じないわけ無いよ」

苦笑しながら俺は答えた。あんなに愛して育ててくれた母さんの姿や思いを疑うなんてこと、俺にはできない。疑う方が難しい。

「ありがとう、寿」

母さんは両手を両頬から背中に回して抱きついて来た。……父さんの殺気を感じるけど無視だ無視。

「……祥護。私はもう一度あんたに会いたい。だから戻って来て、祥護。会いたい、会いたいのよっ、祥護ー!!」


『祥護』


その名を聞いたとたん、俺の頭の中がぐらりとした。

ぐらぐらぐらぐらぐらぐらと。噴火直前の火山? それとも戻す寸前のあの嫌な感じ? それとも栓が飛ぶ直前のシャンパン? とにかくその名前を聞いた瞬間から、俺の中から何かが噴き出しそうだった。


「祥護、祥護、帰って来て、戻って来てよぅ、祥護。私、私っ、まだ祥護のお姉ちゃんでいたいよっ……、祥護!!」


「っっつ!!」


ぽんっ、と頭の中? 身体? どっちか、それとも両方か。何かを塞いでいた蓋の様なものが弾け飛んだ感触があった。それと同時に溢れ出した。


そう——『香月こうづき祥護しょうご』として生きていた記憶が蘇った。


ああ、ああ、そうだ。俺はかつて香月祥護として生きていた。母さん——彩音の双子の弟として。だけど俺は死んだ。いや、元々生まれる前に死んだはずだったけど、氷月という女のおかげで生き永らえた。だが、偽りの生は終わりを迎え、正しく死んだ。

そしてコイツ、チャラい男の商人によって俺は彩音の子供として新しい生命を得て生き、死んだんだ。

彩音の子供として、そんでもって皓緋の息子だなんてどんな冗談だよと今さらながらだけど思うわ。

だけど。——俺も彩音の弟として、祥護としてもっと生きたかった。それを許されるというなら俺は祥護として生きたい。俺が彩音を守る必要はもうないけれど、でも、祥護として、弟して生きていきたい。

だから戻るよ、側に行くよ。

彩音、姉ちゃん——。


俺は深呼吸した。


「彩音はいつになったら弟離れするんだろうな」


彩音がばっと俺から離れ、じっと顔を見ている。


「祥、護……?」


その顔はさらに涙が流れて、ますます顔が酷い事になっていく。

「ああ。俺だよ、祥護だ。全く、手のかかる姉だよなー。だから、弟としてはこんな姉を放ってはおけないんで一緒に行くよ。まあ、父さん——じゃなかった、皓緋からしたら邪魔だろうけど」

言って、皓緋の方に視線を向けるとばっちり視線が合った。

相変わらず彩音に触れる俺に対してむっとした表情はしているが「別に」とぼそっと言った。

その言葉を聞いた俺と彩音は驚きのあまり


「「は!?」」


と、声を合わせてしまった。

「なんだその反応は」

皓緋が心外だと言わんばかりの苦々しい表情で俺達を見る。

「いやだってさあ、今までの父さ……じゃなくて皓緋を見てたら誰だってそう思う。むしろ思わない方がおかしいだろ」

「うん、私もそう思ってた。最終的には頷くけど、結構渋るかなとは思ってた」

「彩音にまでそう思われていたとはさらに心外だ」

「え、むしろ私だからこそと思うんだけど……ねえ?」

「うん」

彩音が同意を求めてきたので俺は即答した。元息子としても元母親に全面同意の一択だ。

「っははっ! お前家族の信頼まるっでねえのな! あっははははっ!」

さっきから商人は大笑いだ。まあ、ここにいる全員がそういう認識してたっていう事だ、皓緋よ。

「……俺だって子供、元息子で義弟とはそれなりに接して面倒をみた。家族、に対して俺はそこまで狭量ではない」

「「は?」」

またしても彩音と俺の声が重なる。

「うっそだろ……。ガキの頃、俺と母さんが手を繋いでたらめっちゃ嫌がって母さんから俺を取り上げ、父さんが抱っこして歩くぐらいなのに」

「そうよ。私が赤ちゃんの寿の世話をするのを嫌がって、自分でオムツやミルクまであげちゃう様な人が」

「「狭量じゃない」」

「って、何言ってんだって話」

呆れながら俺は言う。

「本当に。まあでも結果的には私、随分楽させてもらったわね」

彩音がしみじみと言う。

「確かに。母さんがなんかしようとすると、父さんがやるって言ってやるもんな。あと父さんは母さんが絡まない限りは基本放任だったな」

「ははっ! 本当にお前変わったなあ、おい皓緋!」

商人は笑いながら皓緋を見る。

「ふん。俺とて赤ん坊から世話をすれば多少は情の様なものは湧く。だから、異論は無い」

「そう。ありがとう皓緋」

彩音は俺から離れ皓緋に抱きついた。

「ああ」

皓緋は幸せな笑顔を彩音に向けて抱きしめた。まあ、これ、母さんのご機嫌取りなんだけどな。俺達が仲良すぎると皓緋が拗ねるからな。

「よっしゃ! これで話は決まりだ。小僧、最後に訊くが皓緋達と一緒に、お前自身の意思で行くんだよな」

商人がパンと場をしめるように手を叩き、俺に問う。

「ああ、勿論俺自身の意思だ。それに……母さん父さん、姉ちゃん義兄ちゃんと離れるのは淋しいしな。まあいい歳まで生きたジジイが何言ってんだって話だけど。うん、なんつーか、俺は俺の家族、妻や娘よりも母さん父さんの方が好きだ。好き、っていうか俺により近いっていうかな。なんてーか」

「それは魂の有り様だ、小僧。そもそもだ、お前と嬢ちゃんは同じ腹ん中で一緒に育ってるんだ。何よりも自分に近い存在なのは当たり前、根っこの所はお前ら同じなんだよ。だから一緒にいたいのは当たり前だ」

「ああ……そっか。そういうことか……」

俺は商人の言葉がストンと頭に、身体に落ちた。だからいつも頭のどっかで母さんを——彩音を探してたんだな。一番の理解者、一番居心地の良い場所として。

俺は彩音の方を見た。

彩音はすでにわかってた様で、にっこりと笑顔を返した。ああ、だから俺も一緒に来て欲しいって言ったんだな。

あ、そうだ、これはちゃんと言っとかないとな。

「でもだからって茉菜まな結友ゆうを愛して無いわけじゃないから。ちゃんと大事だったから」

「あははっ! ちゃんとわかってるわよ。寿が茉菜ちゃんや結友を愛して可愛がってたのは誰が見てもわかるし、本人達もちゃんとしってるわよ。ねえ皓緋」

「ああ」

「ならいいんだ」

マザコンとか思われるのはちょっとアレだからな。ちゃんと意思表示しないと。……でもよく考えるとマザコンじゃなくてシスコンになる、のか……? いや、もうこれ考えるのやめよう。

「よし。話も纏まった所で俺は行くぜ。お前らをこっちに転生させる準備があるからな。それまではここで適当にしてろ。じゃあな」

言うだけ言って、商人は目の前でぱっと消えた。

「適当にしてろって言われてもなあ……」

俺は元両親、現姉と義兄の方を見る。

「私達は適当に過ごしてるよ。池の鯉に餌やったり、本読んだり寝てたり。あと現世の様子はそこの池で見れるよ。見たい人の事を念じて池見てると姿が現れるから」

「へえ」

あとで試してみよう。

「そういやさ、なんで父さ……じゃなくて皓緋はあの商人にスカウトされたんだよ」

俺は疑問に思った事を訊く。

「ここにいる間は父さんでいい」

「悪いけどそうさせてもらう。父さんって呼んでた年月が長いからさ」

正確には義兄だとわかっても、父親として存在してたのは事実なので今はその方が有難い。

「でだ、あいつが一方的にしつこいんだ。死んだらここに連れてこられ、うんと言うまでは出さねえとか言いやがった。前から一方的ではあったが……」

「ふーん、そんなに父さんに執着するなんかがあるって事か」

あれ、でも……。俺はふと思い出した。

「でも死んだの、母さんが先じゃん。もしかして」

「そう。祥護の想像通り。私、死んだら爛熯が迎えに来てここに連れてこられたの。で、皓緋が来るまでここで待ってろって。所謂人質よね」

彩音は肩を軽く竦めた。彩音を人質にすれば父さんは絶対に言う事をきくしかない。それに商人はこっちに来る前から父さん達に関わってるんだから言う事をきかざるを得ない方向に持ってくのも簡単だろうしな。となると俺達ができる事は一つだけ。

「ならもう、あいつが来るまで適当に過ごすしかないって事か」

「ああ」

「そういうこと」

「だよな」

家族の意見は一致した。

「じゃあ、久しぶりの家族団欒でもしましょうか」

彩音がそう言って俺達を見る。

「ああ」

「そうだな」

父さんと俺は同意した。

「じゃあ中に入ろうぜ。縁側でもいいけど……あ、縁側にしようぜ縁側」

俺はある事を思い出して試してみる事にした。

先程とは違う並び、父さん、俺、母さん。父さんの不満顔はスルーで。んで俺はガキの頃——浴衣を着た五、六歳ぐらいを想像して、仕上げはこれだ。

辺りは真っ暗になり、大きな音と共に空には華やかな花火が上がった。

「祥——寿、これは?」

彩音——母さんは祥護と言いかけたが、今の俺は寿だと理解してくれた様だ。

「ああ。ここにいる間は親子がいいなって思ってさ。あの時できなかったあれこれをやってみたいなって。なので、まずは花火だ。花火っていつも自宅マンションから観るだけだったし。親子で外に行って観るなんて中々できなかったからさあ」

「ああ、そうよねぇ。皓緋がいるとどうしても親子水いらずで観るなんてできなかったもんねぇ」

俺と母さんはじっとりと父さんに視線を向ける。

「それは俺のせいじゃない。俺に過度な関心を向ける方が悪いんだ」

しれっと悪びれず父さんは言い返す。

「そう。確かにそれは正論だけど、皓緋みたいなイケメン見て大人しくできるわけないのよ、普通はっ!」

「そうそう。父さん見たいなイケメンの定義を超えるイケメンは困るんだよ、なあ、母さん」

「ねー、寿」

俺達は結託して父さんを可愛らしい態度で非難する。

「そんなのは知らん。俺は俺だからな。それに対策しているからアレで済んでるんだ。対策してなかったらお前達とは一緒に歩けなかっただろうな」

「え? なんか対策してたの父さん」

「一応ね。皓緋、眼鏡掛けてたでしょ。あれね、爛熯に認識阻害もどきをかけてもらってたのよ」

「え。マジで。初耳。しかもなにその漫画みたいな設定」

まさかそんな漫画設定的なアイテムが俺のすぐ近くにあったとはっ……!

「私もそれ知ったのはここに来てからだったけどね」

成程。ん、あれそれじゃあ母さんの記憶も封印されてたのか?

「あれ、じゃあ母さんの異世界行った記憶って封印されてたのか?」

「ああ、それね……。後でゆっくり話すわ」

母さんは曖昧な笑顔で答える。父さんの方は無表情だが……まあ後でゆっくり聞こう。

「わかった。今は花火、楽しもうぜ」

俺は本来の目的の方に話を戻した。

「そうね。それじゃあ私も」

母さんはそう言うと、浴衣姿になり俺の小さな左手にあったかくて優しい右手を重ねた。

すると右手には大きくてしっかりとした父さんの手が重ねられた。勿論父さんも浴衣姿だ。

「今は家族で花火を観るんだろう?」

「ああ!」

俺は嬉しくて嬉しくて、心からの笑顔で両親に答えた。俺の大好きな母さんと父さんが側にいる。誰にも邪魔されないで、家族三人で、花火を観たい場所でちゃんと観れる。なんて幸せなんだろう! 本当に嬉しい。

茉菜や結友、俺が、俺の家族と観た時も勿論幸せだった。でもその幸せとはまた違う。

俺が主役でちゃんと愛されている幸せってやつだ。子供の頃の父さんはまだ母さんの方への愛の比重が重くて、いや今もそうだけど。ただ、子供の頃は大人の複雑な気持ちを理解するなんて無理じゃん。父さんが俺の世話をしてくれてても、それは母さんのためにが前提だからな。俺が可愛くてとかじゃないからっていうのはわかるし。そうなると子供心にも俺は父さんにあんまり愛されてないなって思うよな。だから、ちょっとだけ傷ついた子供心を今癒しておこうかとね、思ったんだよ。

その過去の俺への罪滅ぼしとして、今の父さんには色々してもらわないとだな。

それにこの先、どんな人生送るのかわからないんだから、心残りは今全部解消しないとな。

……だけど、この家族と一緒ならなにがあっても絶対に乗り越えていけると俺は思ってる。

それだけ家族の時間を沢山積み重ねてきたしな。

俺はこの優しい想い、愛しい想い、湧き上がる全ての愛情を胸に新しい人生を迎えたいと思った。

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