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十二章 皓緋・十

彩音と出逢ってから三ヶ月が過ぎた。

最後に逢った日から、週一でメッセージを送っている。

内容はどうでもいい様なものだ。

彩音は元気? とか、ここの景色が綺麗だったとか、このカフェのデザートが美味しかったとか。

その度に彩音はちゃんと返事をくれた。

——当たり障りのない返事を。


世間話で俺と彩音の距離が縮まるかと思っていたが、ちっとも縮まらない。

大抵の人間なら、俺がこれだけ構えば向こうから倍の勢いで喰いついてくる。

俺の外見に堕ちない人間は老若男女問わずいない。そのせいで幼少時から面倒な目に遭って来た。勿論俺は見かけ通りの子供ではないので、何も起きていないし、返り討ちにしている。

とはいえ、捌き続けるのも面倒なので爛熯らんぜんに認識阻害の応用みたいな術をかけさせた。春詠にツケて。

俺を視界から外したら俺の詳細な容姿は忘れる、印象も薄くなると。それは写真でも同じだ。但し、彩音以外。

他の奴等は俺が綺麗だということは覚えているが、どう綺麗だったのかは思い出せないし、徐々に俺の印象も薄れていく。おかげで鬱陶しい視線を感じても執拗に付き纏われる事はない。

だから彩音には俺の容姿は効いているはずだ。

態度を見ていればわかる。

それなのに、彩音は喰いつくどころか引いて行く。そんな事は絶対に赦せない。

早く前の様に抱きしめ、甘やかして可愛がり、俺なしでは息もできないぐらいに深く深く愛して——深く深く愛されたい。

だから——


「覚悟しておけよ、彩音」


お前は絶対に逃がさないし、離さないからな。

俺はリュックを肩に掛け、自室を出た。



今日は俺達三人と彩音達家族とのランチだ。

父親達の結婚式代わりの食事会会場になるレストランでの打ち合わせがあり、じゃあ彩音達とも軽く相談があるし誘ってみようとなり、家族で行けるとの返事だった。

そうと聞けば、俺が行かない訳がない。


レストランに行き、打ち合わせも終わった頃、彩音達が来た。

時間も昼時だったので店内は満席だった。

彩音達も席につき、雑談をしながら食事をするがどうにも彩音の表情がぎこちない。

俺は当たり障りの無い、軽い話題を振るがやはりはいか、いいえの返事ばかりだ。

俺は彩音の笑顔が見れずもどかしくて仕方なかったが、何とか気持ちに無理矢理折り合いをつけて耐えた。


食事を終え、話の流れで森林公園を散策する事になった。

親達と俺と彩音にわかれて公園内を歩き始めた。

彩音は俺の方は見ず、小道に植栽されている花を観ている。

花なんかどうでもいい。

何故俺を見ないのか、俺がこんなにもお前を求めているのに、お前は俺を無視するのか。

俺は今すぐ彩音を抱きしめ、俺の身の内で猛り迸る彩音への激情を、両手を強く強く握り込んで何とか抑え込む。

すっ、と息を吸い、吐く。

できるだけ平静さを保ちながら彩音に声をかける。


「彩音ちゃん」


「え、は、はいっ!?」


驚いたのか、身体全体がビクッとし、少し上擦った声を彩音はあげた。

彩音は足を止め、顔を少し上向けるが俺と視線が合う事はない。

合わせない、と言った方が正しいか。

そんなに俺の事が嫌いなのか?

俺はお前しかいないのに。

そんな事を考えていたら、知らず笑みが溢れた。

勿論嬉しくて、ではない。

不愉快過ぎても笑みは出るものだ。


「緊張してる?」


「は、はい。して、ます……」


「そっか。そんなに俺、怖いかな?」


俺は率直に訊いた。


「え、ち、違います! 怖くはないです!」


なら何故そんな態度をとるのか、じっくり聞きたい。俺は警戒を解く様に柔らかく微笑する。


「じゃあ何で緊張しているのか教えてくれる? 何か悪いとことかあったら直すからさ」


「い、いえっ、無いです無いです!」


ふうん、そうなのか。

それが本当なら酷いじゃないか。

なあ、彩音?


「じゃあどうして俺と顔を合わせて話してくれないの?」


俺は彩音の頬にそっと両手を添えた。

また俺から顔を背けない様に。

そっと優しく、でも振り解けない強さで。


「!?」


彩音は相当驚いた様で、目を見開き固まっている。可愛い。

俺が触れただけで熱をもつ程顔を赤らめるなんて。ああ、昔を思い出す。

あの時の彩音は怒って突っかかって来たな。

だけど今の彩音も可愛い。

もっともっと、色んな表情を俺に見せろ。


「駄目。俺の顔を見て話して」


「!!!!」


「視線、逸らさないで」


「っ!!」


俺を見て欲しい。

正直な気持ちを吐露したら、彩音はさらに顔を熱くし、涙目になっていた。何故だ?

俺は唐突にアイツの言葉を思い出した。


「あっ、ごめん。……怖かった、のか……?」


俺は名残惜しいが彩音から両手を離し、少し距離をとったとたん。


「あ、あのっ、先に出口に行ってますねっ!」


言い終えるとすぐに俺に背を向けて、出口に向かって物凄い勢いで走り去って行った。

走り去る彩音の後姿を俺は呆然と見送るしかなかった。

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